推し変したらヤンデレに 作:555
果林ちゃんが彼を無理やり襲った次の日、お昼頃に学校で見たキミはどこか悲しげで元気が無くて、パセティックな感情が私に湧いた。
果林ちゃんに酷い事されたから……
「ねぇー」
私は近くまで言って呼びかけた。
ビクッと大きく身体をはね上げ恐る恐るといった様子でこちらに顔を向けた。
「ごめんなさい」
そう小さく呟いて彼は走っていった。
でも途中で転んでしまって、そんな彼を私はとても愛おしく思った。
こういう所も可愛い。
だから私は、彼の方に歩いていって擦りむいてしまった膝に絆創膏を貼ってあげた。
そして、つい後ろから抱きついてしまって
「大丈夫だよ」
私はそう言った。彼は顔を赤くした。
果林ちゃんの匂いが染み付いてしまっている彼。少しでも私が上書きしておきたいと思った。流石に学校じゃ襲えないけどねぇ。
私の中のいる彼は身体が少し震えているように感じた。
優しく頭を子供をあやす様に撫でると少し顔を綻ばせた。
このまま離したく無いと思った。
彼と私だけの世界であれば良かったのに。
私だけが彼を知っていれば良かったのに。
そんな独占欲がより一層の彼を抱きしめたからか、ふつふつと胸の中に湧いてくる。
彼が欲しい。その気持ちだけが私の心を支配する。
つい力強く彼を抱きしめてしまった。
「彼方さん、痛いですよ……」
「彼方ちゃんは心配してたんだぞ~? いきなり君がどこか行っちゃうしなんか彼方ちゃんを避けてるような感じがしたし」
彼が彼方ちゃんを避けた理由は知っているけれど、他に果林ちゃんに何か言われてないかを確認する必要があった。
すると案の定彼は目をそらした。
私はずっと彼から目を離さずに見つめた。彼は具合が悪そうに頬をポリポリと掻いた。
「ごめんなさい……」
そして目を伏せて彼は小さくつぶやいた。
その姿は母親に叱られた子供のようで。なんともかわいらしい。
「仲直りのハグ~」
そしてもう一度私は彼の存在を確かめるようにゆっくりと抱きしめた。
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今の僕の心は世界のあらゆる混沌を集めて煮込んだ様にぐちゃぐちゃであった。
その心が僕を支配していて、世界まで歪んで見えていた。
朝、起きると一糸纏わぬ姿の果林さんと僕の姿があって、そばには汗やら体液やら衣服やら避妊具が散らばっていた。僕は混乱した。
「どうしたのだろう」
と僕は口に出して言ってみた。
けれど何も現実が変わる訳ではなく、逆にその頭の中だけだった事実が身体に染み込んでいく様でより一層混乱した。
だからゆっくりと蜘蛛の糸を辿るように記憶を遡って言った。
最後に記憶があるのは果林さんと僕の家に来て、押し倒された様な記憶。
そして、テーブルにはティーカップ。入れた記憶はないけれど少しばかり紅茶が残っていたから僕はそれを飲み干した。
水分のおかげか幾分かは頭が働くようになった気がする。
すると、彼女が起き上がってきた。
そして、寝転んだまま片肘を付いて僕を見つめる。
「昨日はとても良かったわ」
僕の頬へと手を伸ばしゆっくりと細くしなやかな指で僕の輪郭をなぞる。
ふわりと頭がくらくらして人を惑わすような甘い匂いが漂ってくる。
まるで昆虫を騙す食虫植物の様に。
段々と頭のネジが緩められている様な感覚だった。
僕は果林さんに対して恐怖を覚えていた。昨日の記憶は殆ど無いけれど、今の周りの状況を見る限り推測は出来る。
「昨日は、何をしたんですか」
「きっとあなたの予想通りだと思うけれど? 私も貴方も服を何も着ていない。最大のヒントね」
やっぱり。と僕が言うと、果林さんはにっこりと微笑んで足を僕に蔓のように絡ませる。
「帰ってくれませんか」
僕がそう言うと、彼女は「刺激が強かったみたいね?」と蠱惑的に微笑んで、床に散らばっている下着や服を着て、最後に頬にキスをして帰って行った。
僕は激しい後悔の念に襲われる。
彼方さんと出会って、推し変をしてから随分僕の周りの環境は変わってしまった。
何も知らない僕だけど唯一知っている事は果林さんと彼方さんの激しいなにかに巻き込まれている事だけ。そしてその原因が僕という事。
だから、もう手遅れかもしれないけれど、ぐしゃぐしゃに絡まってしまった糸を解くためには僕は彼女達から離れるしかない、そもそもファンとアイドルの距離を間違えてはならないのだ。
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放課後、僕は外をただ歩いた。
魂を癒す宗教行事みたいに。
特に別に何もなかったけれど今の僕には何も無いことが嬉しかった。
きっと今頃は昨日までだったら彼方さんと一緒に出掛けてたりしている時だろう。
何となく僕は最近は、あまりライブに足を運ばなくなってしまった。どこか果林さんと彼方さんのお互いの態度を見ていて、いたたまれなくなってしまった。
僕は、明日虹ヶ咲学園で行われるらしいライブのチラシを片手に
何となく入ったファミレスでコーヒーを飲みながら眺めていた。
朝、歩いていた時にたまたまスクールアイドル部のマネージャーらしきツインテールの人からもらったチラシ。
前の僕ならきっと喜んで行ったのだろう。
紙の上の彼方さんも果林さんもとても素敵な笑みを浮かべている。
「あ、見つけた〜、やっぱりここにいたんだね〜」
クシャクシャにして捨ててしまおうと考えていた時に、後ろから聞きなれた声がして、そして直ぐに後ろから甘い香りと共に人肌の温かさを感じた。
そして、僕の隣にピタリと肌が当たるくらいに座った。
「最近、ライブ来てくれてないじゃん? 彼方ちゃん悲しいよ〜」
しくしく、と泣いた振りをしてみせる彼方さん。
僕は今日のお昼の時の独占欲やら憎悪が満ちていた目を思い出した。
今は、その気配はない。
「ええ、色々あって。それでどうしたんですか?」
「明日のライブは是非見て欲しくてね、チケットを渡しに来たんだ。果林ちゃんじゃなくて彼方ちゃんだけを見ててね〜」
そうして、チケットを一枚、僕の目の前に出した。
それを手に取って見てみると、どうやら席は1番前のいい席。ファンの皆がきっと喉から手が出るくらい欲しい席。
「もし、来なかったら果林ちゃんと君が悪〜い事してた事、皆に言っちゃうかもな〜、彼方ちゃん、眠いと口軽いし〜」
何故、知ってるんですか。と僕が言う前に彼女は鞄を手にして席を立ってファミレスを出ていた。
そして、そのテーブルに残ったチケットを僕は暫く眺めてから鞄にしまった。
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そして、当日のライブ。
僕は、ライブが始まるまでコーラを飲みながら待っていた。
彼方さんが何をしようとしているのか知らないけれど、僕にはただ待つしか出来ない。
久しぶりにライブに来たけれど、周りを見渡せば前より観客が増えている様な気もする。
ライブが始まると段々前の熱を思い出してきて思う存分楽しむ事が出来た。
最近入ったという栞子さんとランジュさんとミアさんを初めて見たけれどとても良かったので、また見に来るのもいいかもしれない。
きっと彼方さんは、最近来ない僕に頑張った自分を見て欲しかったのだと思った。
そして、ライブが終わって、MCが始まると彼方さんがマイクを取った。
「実は私には付き合ってる人がいるのです」
周りがザワつくのが分かった。高校生とは言えど、最近人気のスクールアイドルに恋人が居る。なんてちょっとしたスキャンダルだ。僕はこの場から逃げ出したかったけれど人が多いから阻まれて思うように動けなかった。果林さんは強く彼方さんを睨んでいるのが分かった。
「今日はその為にたくさん頑張ったからいっぱい褒めて欲しいな〜、ねぇー? キミ?」
僕にスポットライトが当たった。
「君が彼方ちゃんをこんな風にしたんだよ? あなたのせいなの」
「キミが彼方ちゃんを推しちゃった以上、もう絶対誰に
そう彼女の目が物語っていた。
ただ、沢山いるファンの中の1人である僕が推し変をしただけでこんな風になってしまったのか、果林さんと彼方さんがあんな風に仲良くなくなってしまって、僕は激しく後悔した。
ちなみに、彼方ちゃんがチケット渡す時にファミレスじゃなくて主人公が校庭にいたら前回の侑ちゃん√に入る。かもしれない。っていう遊び。
推し変したらそのアイドルがヤンデレになるのいいよね!ってお話でした。みんなは推し変は慎重に。だぞ?(?)
ちなみに私の推しは、せつ菜→愛→しずく→果林→せつ菜、栞子、侑に変移してます。