やはり俺の武偵ラブコメは間違っている。   作:みにぃ

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前日譚

『学生時代から武偵として活動できるというのはいささか国の危機管理能力に欠けると言いますか…、』

 

テレビでやっているどうでも良い議論を左から右に聞き流しながら、夕食を食べる。比企谷家は、両親が共働きであるため、基本的にこの時間帯に家で夕食を食べるのは俺と、妹の小町だけなのだ。

しかし、今日ばかりはそんな両親に感謝せざるを得ないだろう。今日の比企谷家のメニューはから揚げ。うちの母ちゃんが作り置きしてくれたものを温めただけだが、これがめちゃくちゃ美味いのである。カレーとから揚げは自分の母ちゃんが作ってくれたものが一番美味い。マジでいつも母ちゃんありがとう。

まあ俺も小町も大好物であるこのから揚げを、俺たち兄妹だけで独占できるというのはかなり良い気分である。超幸せ。テンションも上がるし、目の前がきらきらするような気もする。ここまで行くとこの唐揚げに中毒性のあるヤバい粉とか入ってそうで逆に不安になるまである。

 

「あー!お兄ちゃんそれ小町のから揚げだよ!」

 

いつの間にか最後の一個となってしまっていたから揚げに箸を伸ばすと、正面から小町ストップがかかる。一瞬俺のコレステロール値を気にして言っているのかとも思ったが、別に俺が太っているわけでもなく、なんならコレステロール値なんて測ったこともないので、その線はないだろう。ははーん?さてはこいつもこの唐揚げ中毒に陥った身だな?

 

「えー…、俺も食いてぇのに…。」

 

俺も食べたくはあるが、母ちゃんの唐揚げ中毒の苦しみはよく知っている。あれは本当に苦しい。どれくらい苦しいかと言うと俺が小町に素直に渡すのを躊躇うレベル。俺が長男だから我慢できたが、次男だったら恐らく我慢できなかっただろう。俺が長男で良かったな小町…。

そんなことを考えながら、俺は小町に最後の一個を譲る。

 

「わーい!お兄ちゃん大好き!愛してる!」

 

「打算的すぎるだろその愛。お前が好きなの俺じゃなくて唐揚げじゃねぇか。」

 

「お兄ちゃんもそこそこ好きなのは本当だよ?あ、今の小町的にポイント高い!」

 

「愛情を唐揚げ基準で考えられてる時点でポイント低いんだよなぁ…。しかもそこそこって俺唐揚げに負けてない?大丈夫?」

 

「当たり前じゃん。この唐揚げにお兄ちゃんが勝っちゃったらおしまいだよ。」

 

しゃくしゃくもぐもぐと唐揚げを咀嚼しながら、さらっとひどいことを言われる。しかしそうまで断言されてしまうと、俺がこの唐揚げを上回ってしまうことがとんでもない禁忌であるような気さえしてくる。しかし小町よ、この唐揚げも俺もどっちも母ちゃんに作られているのだから、価値としては同等。それゆえに敗北することはないのだ。残念だったな…。

 

「ごちそーさん。」

 

食事を終え、カチャカチャと食器をまとめていると、テレビを見ている小町が、どことなく暗い顔をしていることに気付く。

 

「…どした。」

 

俺がそう聞くと、小町はすぐにいつもの表情に戻り、こちらに向き直る。

 

「どしたって何が?」

 

「なんか一瞬俺みたいな顔になってたぞ。そんなに星〇源の結婚が悲しかったのか?」

 

俺がテレビを見ながら冗談めかしてそう言うと、小町はぽかんとした顔でこちらを見つめる。

…え、何?ほんとにこいつ源ちゃんガチ恋勢だったの?特に追ってる印象無かったけどな。え、いやまさかガッキーの方じゃないよね。

 

「あー、うん。小町、結構源ちゃん好きだったから、結婚するとなんか不思議な感じだなーって思ってさ。」

 

小町は誤魔化すように笑うと、それでちょっと見入っちゃってたよ、とつけ加える。

…まあ、俺に話しづらい事もあるか。家族だからと、なんでも話さなきゃいけないわけじゃない。むしろ、家族だからこそ話せないことだって多いはずだ。

それに、小町は俺とは違って友達をちゃんと作り、相談できる関係性を持っているはずだ。なら、これ以上俺が踏み込むべきではないだろう。

 

「そか。」

 

俺はそれ以上何も言わず、部屋に戻る。まあ、小町ももう来年から中学生だしな。もう子供じゃないのだ。何でもかんでも手を焼くのが正しいとは限らないしな。

 

「まあ、なんかどうしようもないことあったら言ってみろ。兄ちゃん小町の為なら人攫いくらいまでなら出来るから。」

 

「うわぁ~。その発言にはシスコン的な意味でも倫理観的な意味でもドン引きだよ。どんだけ小町のこと好きなの。キモすぎだよ。ほんとにキモい超キモい。」

 

「キモい言いすぎじゃない?トカゲポケモンさんだってそんなには言ってなかったよ?」

 

「これは鳴き声じゃなくて小町の本心だよ。安心してお兄ちゃん。」

 

「何も安心できねぇ…。」

 

妹に本気でキモがられているという事実に本気でへこみ、リビングでゴロゴロ転がっていると、小町が俺の肩に手を置いてくる。ああ、女神小町様、私のような愚兄に手を差し伸べてくださるのですか…。

 

「んじゃ、小町お風呂入って寝るから、そこどいて。」

 

全然救いの手じゃなかった。なんなら邪魔者扱いだった。どうやら俺はのたうち回っているうちに、廊下に出るドアの前でゴロゴロしていたらしく、小町は肩に乗せた手をぐいぐいやって俺をリビングの真ん中ぐらいまで転がす。

 

「じゃ、おやすみお兄ちゃん。」

 

「…おう、おやすみ。」

 

いずれ小町にも反抗期というやつが来るのだろうか…。今ですらこの凹みよう、小町が反抗期になったら俺生きていられないんじゃないの?

 

 

「…お兄ちゃん、今日何時位に帰ってくるの?」

 

朝、俺と小町が朝食を食べていると、急に小町がそんなことを聞いてくる。

 

「さぁ…。帰りにゲーセンとか寄ろうかと思ってるから、気分次第って感じだな。」

 

「…ゲーセンって一人で遊んでて楽しいの?」

 

「バッカお前、一人じゃないかもしれないだろ。俺にだって友達の…、春原ってやつがいてだな。」

 

「それお兄ちゃんがこの前見たって言ってたアニメのキャラじゃん…。」

 

小町はやれやれと言った様子でため息をつく。嘘がばれたことにより、俺の惨めさが余計に際立ってしまった。今度からは小町に話していないキャラにしておこう…。

 

「…まあ、そんな感じだ。何?今日なんかあるの?」

 

「別に、小町が気になったから聞いただけ。」

 

そういうと小町は、この話はここで終わり、とでも言うように無言で朝飯を食べ始める。

まあ、小町が何でもないというなら、聞く必要もないだろう。

 

二人とも朝食を食べ終え、小町は先に小学校へ向かう準備を始める。小町の小学校は、俺の中学校よりも距離が遠い。俺が中学校へあがった春、最初の一週間の登校では俺が小町を送り迎えしたのだが、その次の週に回覧板で小学生を誘拐しようとする不審者への注意喚起がなされていた時は泣きそうになった。ていうか泣いた。

まあそんなことがあったせいで、小町は俺のことを気遣ってか、一人で家を出るようになった。そのことを小町に聞いたら、お兄ちゃんといるときの世間の目に耐えられない、とのことだったが、小町なりの照れ隠しなのだろう。まさか本心で言っているなんてことはありえるまい。もし仮に万が一本心だったときはもう死のう。そうしよう。

 

 

異変を感じたのは、俺が帰ってきてからだった。いつも通りゲーセンやら本屋やらで適当に時間を潰し、帰宅したのだが、小町がまだ帰ってきていなかったのだ。いつも小町は先に帰ってきていたはずだが、どうしたのだろうかと、小町の部屋に向かう。

 

「小町ー。帰ってるかー。」

 

返事はない。寝ているのだろうか。俺は心配になり、ドアを開ける。

そこに小町の姿はない。時計を見ると、今はもう六時過ぎ。小学生が帰っていないとなれば電話の一つでも飛んできそうな時間だ。

心臓に冷水を垂らされているような感覚がする。不安と心配と恐怖と焦り、多くの感情が混ざり合い、とても気持ち悪い。吐き気がする。

 

俺は制服のままで小町が行きそうな場所を徹底的に探した。近所の公園、デパート、小町の小学校、俺の中学校。思い当たる場所を全て探し終えても、小町が見つかることはない。

誘拐だろうか、いや、そんな可能性は考えるな。ちょっと遠出をしたら迷子になっただけだ。

 

「どこ行ってんだよ…!」

 

息を切らしながら、思わず一人で声を荒げる。その時だった。

 

―ピロリ

 

ケータイが鳴る。小町からの連絡であることを願いながら、慣れていないケータイをカチカチと操作してメールを開く。

差出人は…、比企谷小町。件名はなし。

そのメールを開くと、ただ一言。

 

家出します。

 

と、メッセージが表示される。

家出する?何故?いや、まず今どこに?

多くの疑問が頭をよぎる。しかしその解は小町以外には知る由もない。

俺は両親にメールを送り、小町を探し続けた。小町には、何本もメールをし、電話だってした。しかし帰ってくるのは常に無機質な留守電対応のみ。メールにも返信はなく、届いているのかすら分からない。

その日から何日、何週間、何か月と経とうとも、小町が帰ってくることはなかった。

 

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