やはり俺の武偵ラブコメは間違っている。   作:みにぃ

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前回のアンケートへのご協力、ありがとうございました!
二週間経過した段階で確認させていただいたのですが、十一話のような文章の方が読みやすい、という方が多かったため、今後はこのような文体で書かせていただきます。
十話以前のほうが読みやすかったという方はご期待に沿えず、申し訳ありません。
今後もこの作品をよろしくお願いいたします!


第十二話

「理子と付き合おうよ!ハチくん!」

 

 放課後、日はまだまだ落ち切ることはなく、季節の移ろいが感じられる。

 そんな斜陽の差し込む無人の教室で、俺は一人の女子に告白を受けていた。

 目の前に立つ少女は、見覚えがある。

 フリフリに魔改造された制服、その主張の激しい制服に負けず劣らず派手な、しかしどこか高貴な印象を受ける綺麗な金髪。

 この武偵校随一の魔性の女(俺調べ)と噂の峰理子さんである。

 その見た目に違わず、普段は結構頭の緩そうな言動を繰り返しているが、こいつのそれは間違いなく狙ってやっていることでも有名(俺調べ)である。いわゆるぶりっ子というやつだ。

 とはいえ、彼女自身の交友関係は基本的に女子が多い。男子と話していることもあるが、多くの時間は女子と関わっている時間の方が多いように思う。

 それらの交友関係から察するに、男子に好かれたくて可愛い自分を演じているというよりは可愛い自分が好きなタイプなのだろう。

 しかしまあ、男子から見ればそんな違いは些細なものだ。特に、モテない男子からすれば、可愛い女子が話しかけてくれた。という事実だけを受け取り、その可愛さが自分に向けられたものだと勘違いする。そしてその結果告白とかしちゃって、次の日の話題を独り占め。教室中が俺のフラれた話で持ち切りだったりするのだ。

 少し話が逸れたが、まあ要するに、可愛い女子からの告白は信じるな。ということである。

 大体にして大して話したこともない女子が告白してくるとか罰ゲームでしかありえないだろ。そのいたずらで何人の俺が犠牲になったかわかってんのかよ。ちなみに正解は三人。

 そんなめちゃくちゃ個人的な怒りも込めつつ、この罰ゲームを台無しにしてやろうという意思の元、考えうる限りつまらない回答を心がける。

 

「あー、すみません。ちょっとそういうの無理なんで…。」

 

 言外に罰ゲームであることはわかっているぞという意味を含ませながら、俺は峰にそう告げる。

こう言えば大体の場合はあー、やっぱそうだよねー。ごめんねー。と言ってどこかへ去っていく。この際に校舎の角に入って行き、きゃいきゃいと話し始めれば完全に罰ゲームは終了。

このシチュエーションであれば、彼女がこの屋上へと続く扉をくぐれば俺の仕事も終了と考えてよいだろう。全く、罰ゲームも楽じゃないぜ。遊ばれる側だけど。

 

「あー!今ハチくん理子が嘘で告白してると思ってるでしょ!」

 

 しかし意外にも峰は引き下がることなく、むしろ少し怒ったような顔でこちらに近づいてくる。

 なにこれ面倒臭い…。こいつ俺に何を求めてるんだよ。叩いても黒歴史くらいしか出てこないぞ。

 

「いや、思ってないんで、ほんともう、いいっすか?自分忙しいんで…。」

 

「ダーメー!」

 

 彼女はそう叫ぶと、俺の腕に抱きついてくる。

 

「理子本気だもん!本気でハチくんのこと好きなんだもん!」

 

 そんな事を言いながら、峰はぐりぐりと腕を自らの胸に押し付ける。

 この所作一つ一つが全て自らの可愛いの演出だと考えると恐ろしいことこの上ないな。並の男子だったら三回は堕ちてる。

 それにしてもなんなのこいつ…。邪魔だし鬱陶しいし意外と柔らかいし…。

 俺が黙ったままでいると、本気で嫌がっていることを察知したのか、先ほどとは一転して不安そうな顔でこちらを見つめてくる。

 

「もしかして…、ハチくん、理子のこと嫌い…?」

 

「普通に苦手だし嫌い。」

 

「ガーン!理子ショック!」

 

 峰は俺から離れると、急激に先ほどまでの元気をなくし、そのまましゃがみ込むと、指で屋上の床をいじいじし始めた。

 いやそういうオーバーリアクションな感じのところがね?相手してて疲れるというか普通に面倒臭いというか…。いやマジで面倒臭いな。黙って帰っちゃおうかな…。

 しかしそんな悲壮感たっぷりの様相は長くは続かず、峰は何かを閃いたようにこちらに向き直る。

 

「でもでも、じゃあ理子が今からハチくんのことメロメロにしちゃえばハチくんは理子と付き合ってくれるんだよね!」

 

 何言ってんのこいつ。ここまではっきり言われてまだ付き合うという結果に向けた行動をとれるってどんなメンタルしてんだよ。

 

「あのな、確かに理論上はそうかもしれんが、そう簡単に変えられるもんじゃないだろ。人の心とか、ひん曲がった性根とか、腐った目とか。そういう本質的な部分で俺はお前に苦手意識を持ってんだよ。」

 

「大丈夫!理子、合わせられるタイプだから!」

 

 峰は両手の人差し指と親指を合わせて丸を作ると、それを目に当てて眼鏡のようにする。もはやそれ何を表してるんだよ。

 

「いや、だから合わせられるとかじゃなくてね…。」

 

 というか、もう既に俺の好みには合ってないんだよなぁ…。

 こいつに俺の言いたいことを伝えるためにはどれくらい偏差値を下げたものか…。

 俺がそんなことを考えている間にも彼女は勝手に話を進めていく。

 

「ハチくんは今はアリアのこと好きかもしれないけど、そのうち理子の魅力にメロメロに…。」

 

 唐突に出てきた神崎の名前に、この前の土曜日に感じた気持ち悪さが胸から這い上がってくる。

 

「…別にそういう関係じゃねーよ。」

 

 ただその一言だけ絞り出す。

 そういう関係とは、どういう関係なのだろうか。どういう関係だったのだろうかと、思考の波にのまれかけていると、目の前で目を輝かせている峰に気付く。

 

「じゃあハチくんの心は今フリーってこと?」

 

 フリーといえばフリーだな。というか人間関係の全てがしがらみだと考えるのであれば俺はこの学校では誰よりもフリーダム。独身貴族という言葉があるが、もはやここまで人間関係薄いと貴族超えて王族まであるので、フリーダムってよりもはやキングダムかもしれない。境があるから敵ができるんだ…。

 というかこいつ、さては適当に流してても帰ってくれないな?

 こうなれば比企谷八幡108の特技の一つ、人との会話を終わらせる。を使うしかない。

 作戦は簡単だ。この場合、相手が全く知らない架空の彼女がいるということにする。そうすることでこの不毛な問答もろとも全て「いや、でも俺彼女いるから…。」という一言だけで乗り切れるのだ。

 フハハ、残念だったな峰。この地獄のような罰ゲームもこれまでだ!

 

「フリーじゃない。俺には中多紗江という彼女がいる。」

 

「紗江ちゃん派か~。理子は逢ちゃんのが好きだな~。」

 

 なん…、だと…?

 え、嘘だろお前、ア〇ガミとかやるのかよ。そんな方向性で見抜かれるとは思ってなかったわ。

 陽キャの女子ってバイトとショッピングと男漁りしかしてないんじゃないの?

 

「いや待て、ていうかまずなんでそんなに俺に執着するんだよ。何が目的だ。」

 

「もちろん最終的には理子のスキエンドを見てほしいってゆーのが目標!」

 

 胡散臭ぇ…。絶対なんか企んでんじゃんこいつ。正直怖いからこれ以上話したくないんだけど…。

 そんな思いが顔に出ていたのか、峰は不満げにぷくーっと頬を膨らませる。

 

「付き合ってくれてもいーじゃーん!理子、ハチくんのネタとかも六割くらいは打ち返せる自信あるよ!」

 

 何その妙にリアルな数字…。しかも六割って普通に返ってこないことも多いだろ。あんまり人と話したことないから知らんけど。

 しかしまあ、本人が半分以上は伝わると豪語しているのだ。少しこいつを試してみよう。

 

「じゃあ分かった。じゃあお前が火鼠の皮衣を持ってきたら考えてやろう。」

 

「理子それ知ってる!犬〇叉が着てたやつだ!」

 

 うーん、ちょっとずれてますね!

 伝わってれば実質的なノーセンキューの言葉として認識してくれていたかもしれなかったのだが…。

 …いや、むしろそうなることを予見していたのかもしれない。犬〇叉のネタだと解釈し、先んじて言うことでノーセンキューというメッセージである可能性をゼロに変えた。

 おいおいマジかよ。こいつめちゃくちゃ取引上手いじゃん。

流石の俺も今の一瞬でそんなに深く考えて動かれちゃ勝てる気しない。

思考力でボッチが後れを取るとは…。これも陽キャ間のコミュニケーション能力の一種なのだろうか。

 陽キャの洗練された会話操作の能力に勝手に戦慄していると、峰はおもむろにケータイを取り出してポチポチし始める。

 つかなんつーとこにケータイ入れてんだよ。今胸からケータイ出しただろ。

 一応華の女子高生だろうに…。下着見られるかもとか考えないのかよ。

 ちなみに黄色のフリルっぽいやつだった。何がとは言わないが。

 そんなことを考えていると、ケータイを見ていた峰が申し訳なさそうな顔をする。

 

「ごめんねハチくん。理子、ちょっとご用事できちゃった…。」

 

 マジ?用事ができたってことはつまりそっちに行かなきゃいけないってこと?

 良かったー…。こいつマジで何考えてるのかわかんなくて怖かったよー…。

 次こいつが話しかけてきたら話しかけないでください、あなたのことが嫌いです。とか言って断ろう。どこのカタツムリ小学生だよ。

 

「じゃあハチくん、また今度お話しようね!」

 

 そういうと、俺の返事も待たずに屋上を後にする。

 一人になって、先ほど無理やり飲み込んだ気持ち悪さが、もう一度這い上がって来る。

 峰が去っていく後ろ姿を、ふと土曜日の神崎と重ねてしまっていた。

 …また今度、お話か。

 俺も彼女も、会話は苦手だ。

 俺は言葉を、相手を信じることができない。言葉にすれば自分の思いが100%伝わるなんてのは、100%在り得ない。

 間違えて、失ってしまった。

 なればこそ、これでそのまま失ってしまうのならそれまでだと、そう思う。

 だが、そう思っても行動しなければいけないのだ。

 失うことを許容することは、小町を失うことを許容するということに他ならない。

 それは、過去の俺も、今の俺も唯一変わらずに持っている、ちっぽけな、家族として、兄としての矜持だ。

 話がまとまらずとも、うまく伝えられぬとも、行動しないことは、過去の自分への裏切りだ。

 だからきっと、近い未来に俺はあいつとお話とやらをするのだろう。

 

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