会話とは、読んで字のごとく会って話すというその行為を指す言葉だ。
この行為は、個よりも全を優先する人間社会では必須となってくるコミュニケーション手段の一つであるのだが、当然それらが苦手な人間もまたその社会には存在するのだ。
例えば、授業直前まで教室に入ってこず、授業が始まればこれでもかと机の端に教科書や筆箱を重ねてウォール・マリアならぬウォール・アリアを形成し、昼休みになったとたん脱兎のごとく教室を飛び出してゆく赤髪赤目のちっちゃい高校生とかである。
いやほんとに勘弁してほしい。俺も大概話しかけるの苦手なんだから、その上さらに話したい相手に逃げられちゃ八幡君諦めちゃうぞ?もぅまぢムリ…帰宅しょ…。
…まあ、こと最近に関しては会話を阻害しているものが他にもあるのだが。
*
「そういやお前、最近理子と仲いいんだな。」
寮に帰り、ソファでグダグダしていると、帰ってきた遠山が急にそんな話をし始める。
「いやいや全然全く仲良くないけど、なんだよ急に。」
「そうなのか?最近教室でよく話してるじゃねーか。それが意外だと思ってな。」
そう、俺が神崎との会話に踏み出せない理由の一つとして、峰の存在がある。
ここ最近のあいつは、休み時間になったら飛び出していく神崎の席に座り、なんやかんやと話しかけてくるのだ。
マジで本当に怖い。一日だけとかならまだしも、その後もずっと続けて絡んでくるというのは、明らかに何か計画的な犯行に関わらされている。
「…まあ確かに意外だな。つっても、あれは仲良く話してるって感じじゃない。あの女何か企んでる絶対に。だからまあ、俺はその片棒を担がされてるって感じだな。」
「あの理子が何かを企めるとは思えねーよ。意外と普通に気に入られてるんじゃないのか?」
「それだけは絶対にないな。企んでないとしても、気に入られるわけがない。」
あんまり話したことのない女子が自分を気に入ってくれるなんてのは漫画やアニメの世界だけだ。実際は、話したことのない奴はそれ以上でもそれ以下でもなく、ただただ興味のない人種という、ただそれだけの話だ。だからもう勘違いして告白するのはもうやめような、俺。
「お前がそう言うんだったら別にいいけどな。実際気に入られてた時は誰も幸せにならないぞ。」
「幸せなんてのはあくまで付加価値だろ。誰も不幸にならない、損失が生まれなければそれで十分だ。」
「分かった分かった。もう言わねーよ。」
遠山は超面倒臭そうに声を上げる。ごめんね面倒くさくて。
ジャケットを脱いで楽な装いとなった遠山は、俺の隣のソファに腰掛ける。
「あ、そういえば。」
飲み物でも入れてやろうかねと考えていると、遠山が何か思い出したかのように声を上げる。
「アリアとなんかあったのか?」
気付いてたのか…。いや普通気付くか。ワンチャンあまりに鈍感すぎて気付かない可能性にかけていたのだが。
さて、どう答えたものか…。正直にすべてを話せれば楽なんだが、それではわざわざ遠山を先に帰した神崎の気遣いもなにもあったもんじゃない。
「…これから何もなかったことにする予定。」
悩んだ末に、とりあえず何があったかという点には触れずに、これからやることについて話す。面接とかでよく使う手段だ。
「バイトの経験はありますか?」と聞かれ、「ありませんが、今後様々な仕事をしていくうえで、その多くを学んでいければよいなと考えています。」と答えるみたいな。ちなみにそのバイトは落ちた。
「なんじゃそりゃ。」
「俺にも分からん…。」
いつ何をどうするか、5W1H何一つとして判然としていないが、何もなかったことにするというその結果だけは妙にはっきりと見えている気がする。
まあ要するに、全く持って根拠はない。
「どうにかなりそうなのか?」
「多分。知らんけど。」
「ならまあ、多分大丈夫だな。」
「そんな簡単に信じられても…。」
そんな簡単に人を信じてると後悔するぞ。オレオレとか、そうじゃなくても詐欺とかめちゃくちゃ多いしな。
ちなみに俺くらいになるとオレオレどころか名前を言われても金を貸せるレベルの友人知人がいないので絶対に引っかからない。
「お前がちゃんと仲直りしてくれないとあいつがまた俺にドレイになれとか言ってくるからな。ちゃんとやれよ。」
「…俺はあいつのドレイにはお前の方が適任だと思ってるけどな。」
心底そう思う。こいつの入学試験は、今でも鮮明に思い出せるほどに鮮烈だった。
抜き打ちで隠れていたプロの武偵もろとも、受験生とまとめて捕縛した。あの瞬間に、俺は絶対的な力というものを感じた。
その俺の住んでいる世界とは隔絶された、戦場を見ているような感覚は、未だに胸に焼き付いている。
格好良く言ったが、実際にはマジで何されてるか分からんかった。本当に意味不明。分からん殺しを現実でやられるとは思わなかった。
しかし、そんな俺の思いもつゆ知らず、遠山は全くその差を意識していないかのように話を続ける。
「俺たちは落ちこぼれ二人組だろ?どっちも大して実力が変わらないなら、現状あいつに気に入られてる奴がなる方が必然だ。」
皮肉かよ、入試Sランク武偵さんよ。
とはいえ、一年の頃から、より正確に言うなら入学してからこいつは一度としてその力を使ったことがない。
事情があるのか、それともいつだか言っていた力を出す条件によるものなのか。
どちらにしても、俺と似たようなものと言えばそうだ。
そう言った意味合いで言えば、落ちこぼれ二人組というグループで分けられるのも納得できる。まあ、本気の時の能力には天と地ほどの差があるが。
「ならお前だな。俺は今ちょうど気に入られてない。」
「あれは気に入られてるだろ。俺でも分かるぞ。」
いや、お前女子の気持ち全くと言っていいほど分からんだろ。俺も分からんけど。
「…あいつさ、お前のこと調べてる時も俺に声かけてきてはいたんだよ。ドレイになれってな。」
「なんだよ急に。」
「まあいいから聞けよ。…だが調べていって、お前の事情に見当がついてからは、一切言われなくなった。その時はなんでか分からなかったけどな。でも、この前の土曜に、アリアが俺を先に帰らせただろ?それは多分、アリアが自分のパートナーを探すだけじゃなく、個人として比企谷八幡の力になりたいと思ったからなんじゃないかと、俺は思う。」
「…都合よすぎるだろ。信じられねえよ。第一、お前女子の心情とかめちゃくちゃ苦手じゃねーか。」
「まあな。女子は分からん。」
ただ、と遠山は続ける。
「お前のルームメイトなもんでな。お前を助けたい奴の気持ちはなんとなく想像できる。」
…お前、格好良すぎんだろ。
普段は昼行燈とか言われちゃいるが、意外と周りを見ているもんだ。見事に言いくるめられてしまった。
「…まあ、元々どうにかしようとは考えてる。多分、また前みたいに戻るだろ。」
「お前俺の話聞いてたか?」
「え?いやだから、さっさと仲直りしとけよって話でそ?」
俺の言葉を聞いて、遠山はハァ~とアホみたいに大きなため息をつく。
え、何?バカにしてる?さすがの温厚なで有名な八幡さんでもそれはキレちゃうよ?
全校生徒にプロ武偵合わせても勝てないんだよなぁ…。一発不意打ちで殴るくらいはできないだろうか。
「俺が言いたいのは、多分アリアは別に前みたいな関係に戻りたいわけじゃないってことだ。」
「つってもな…、俺はあいつのパートナーにはなれない。」
「まあ、そう言うと思ったよ。ふさわしくないとか考えてんだろ?」
いやまあ、ふさわしくないというか相対的に俺より優秀な人間が世の中にはいっぱいいるわけだし…。うん…。超面倒臭いな俺。
俺が沈黙していると、その沈黙を肯定ととらえたらしく、遠山は話を続ける。
「お前のことだから、俺が何言っても、パートナーにはならないだろうな…。」
「いや、まあ、うん。そうね…。」
いや正解なんだけどね。自分のことをこうも分かられているっていうのはなんかちょっとこう、怖いというか気持ち悪いというか。…どうにもむず痒い。
「だけどな、パートナーじゃなくても、手を貸すぐらいはするだろ。ここは武偵校だ。もしも同じ事件に巻き込まれちまったら協力して解決する。それがどんな関係だろうとな。」
「…結局何が言いたいんだよ。」
「話す内容くらいは決まったか?ってことだ。何も決まってなかったんだろ?」
全く、全部見透かされてんのかよ。本当にお手上げだ。
「なんつうか、悪かったな。余計な気使わせて。」
「気にしてねえよ。むしろ、お前は普段が気使わなせすぎなんだよ。」
そういうと遠山はソファから立ち上がり、自室へと戻っていく。
「…ありがとな。助かった。」
自分の口から出た言葉は、ともすればつぶやき程度の声量だったが、遠山には聞こえていたようで。
「…いやお前にお礼言われるって、なんか気持ち悪いな。」
「そいつは悪うござんしたね…。」
…やはり一回殴った方が良かったかもしれない。
お久しぶりです。みにぃです。
まずは投稿にずいぶん間が開いてしまったことへのお詫びをば。誠に申し訳ない…。
最近実生活の方が少々多忙でして、なかなか執筆の時間が取れていないのです…。
今後しばらくこのような状況が続くと思いますので、早くて月一くらいのペースになってしまうと思われます。
読んでいただいている方には誠に申し訳ないのですが、この作品をどうか忘れずに、引き続き読んでいただければと願っております。
これからもどうか本作品をよろしくお願いいたします。