やはり俺の武偵ラブコメは間違っている。   作:みにぃ

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お久しぶりです。みにぃです。
月一更新とか言ってた割に全然遅刻いたしました。申し訳ない…。
言い訳をさせていただくと、今回の話、キリ良く終わるタイミングがなかなか見つからず、普段より相当長くなってしまいました。そのせいで思いのほか時間を取られてしまったのです…。
短くして一度更新してしまおうかとも考えたのですが、どうにも短くまとめきれず、最終的に短いよりは長い方がまだ良いだろうと言うことで何とかキリの良いところまで書ききりました。そのため今回は一話が普段より長めになっております。許してください。
なんだか前置きも長くなってしまいましたが、大部分が遅れた言い訳なのであまり気にしないでください。
今後とも本作品をよろしくお願いいたします。


第十五話

 遠山に言われ、羽田空港の第二ターミナルへとやってきた。

 着いて早々に目に入ったのは、ターミナルを武偵徽章で突破している遠山の姿だった。

 俺もそれに習い、ターミナルを突破し、遠山の後を追い、飛び込むようにして機内へ入る。

 駆け込み乗車はよく注意の対象とされているが、この場合はCAさんとかに怒られるのだろうか…。

 機内は俺が想像していたよりも落ち着いた様相で、電話で聞いていた遠山の声といまいち結びつかない。

 騒ぎが起こっているようには見えないがなぁ…、と辺りを見回していると、遠山を見つける。

 膝に手をつき、肩で息をしている。どこから来たのかは分からんが、その様子から見て相当焦って来たのだろう。

 そんな遠山の様子に、こちらも気が引き締まる。

 

「おい、遠山。」

 

「比企谷!来てくれたか!」

 

「状況説明頼む。何が起こった?」

 

「一から説明してる時間はない。要点だけ話すぞ。まず、この飛行機にはアリアが乗ってる。ロンドンへ帰るためだ。そして、この飛行機は恐らく武偵殺しによってジャックされる。アリアが狙われてるんだ。俺たちはアリアを守らなきゃいけない。」

 

 息を切らせながら遠山はそう説明する。

 うん。まあね?時間がないのも仕方ないことだし、だから要点だけ説明するのも全くもっておかしいとは思わないけどね?

 流石にちょっと意味わからないんだよなぁ…。

 

「いやすまん、流石に…」

 

 いくつか質問させてくれと言いかけた所でバランスを崩しそうになる。

 別に急いで来て疲れたとかではない。飛行機が離陸へ向けて動き始めたためだ。

 直後、2階から降りてきたアテンダントがめちゃくちゃビビりながら遠山に声をかける。

 

「あ、あの…だ、ダメでしたぁ。き、規則で、このフェーズでは管制官からの命令でしか離陸を止めることは出来ないって、機長が…。」

 

 どうやら遠山が先んじて離陸中止を促していたらしい。話を聞くに、失敗に終わってしまったらしいが。

 

「遠山、今から止めるのは逆に危険だ。もう滑走路まで行っちまってるし、かなり速度も出てる。」

 

「クソッ!仕方ねえ。一度合流するべきだな…。」

 

 アテンダントを落ち着かせ、この飛行機に乗っているらしい神崎の個室まで案内させる。

 階段を上り、そして二階の中央通路を進んでいく。

 中央通路の左右には、かなり間隔の広い扉が十二室分。

 見たら分かる。高いやつやん。

 これ確かテレビで見たことあるな…。空飛ぶリゾートみたいに言われてた、超が着くほどの高級旅客機だ。しかもこれ確か新型だった気がする。

 遠山の言葉を信じていなかったわけではないが、少なくとも神崎がこの飛行機に乗っている。というのは間違いではないだろう。

 あの子、とりあえず高い物選んどけば間違いないみたいに考えてるとこあるから…。

 まあことこの飛行機に関しては値段分の価値があるし、とりあえずで選んだとは言いきれんが。

 扉を開けると、座席に座っていた神崎がこちらに目を向け、次いでその目を丸く見開かせる。

 

「あ、アンタたち、なんでいるのよ!」

 

「…流石はリアル貴族様だな。これ、チケット片道二十万くらいするんだろ?」

 

 遠山は神崎の質問には答えずに、全く関係のない話を始める。

 この様子からするに、神崎が狙われてるって話を、その本人は知らないようだ。

 

「断りもなく部屋に押しかけてくるなんて失礼よ!」

 

「お前にそのセリフを言う権利は無いだろ。」

 

 いやもう本当にそう。お前が言わなかったら俺が言ってた。

 こいつ押しかけるどころかデカいトランク持ってきてそのまま住み着いたからな。俺らの方がマシまである。

 

「…なんで来たのよ。」

 

 神崎はチラリと俺を一瞥すると、遠山へ向き直ってもう一度質問をする。

 

「太陽はなんで昇る?月はなぜ輝く?」

 

 しかし遠山は答えない。むしろ挑発するようにいつだか神崎に言われたことを繰り返す。

 

「うるさい!答えないと風穴あけるわよ!」

 

 そんなことをすれば煽り耐性0の神崎さんが怒髪天つきまくりになることは想像に難くない。もしこいつがサイヤ人であれば、かの悟空さよりも早くスーパーサイヤ人になれていたのかもしれない。威嚇しながら息をするようにスカートの裾へと手を伸ばす。何度も見た、銃を太もものホルスターから取り出そうとする動きだ。

 …こんな飛行機乗る時にも帯銃してんのかよ。全くもって筋金入りの武装探偵さんである。

 

「武偵憲章2条、依頼人との契約は絶対守れ。」

 

 遠山が呟くように告げる。

 

「……?」

 

 神崎は意味がよく分からないらしく、怪訝そうな顔をしている。ちなみに俺も今同じ気持ちである。

 

「俺はこう約束した。強襲科に戻ってから最初に起きた事件を、一件だけ、お前と一緒に解決してやる。武偵殺しの一件は、まだ解決してないだろ。」

 

「………。」

 

 神崎は不服そうにしながらも、黙っている。表情的に、確かにこいつの言ってることは筋が通ってる…。でもなんか言いくるめられてるみたいで気に入らない!何か言い返したい!ぷんすこぷんすこ!

 と言った所でしょうか。神崎嬢。

 

「な、なら、なんでそれにハチマンを呼んだのよ。関係…、ないはずだわ。」

 

 神崎は俺をチラと見やり、そう言った。

 

「すぐ来れる、かつ使える戦力と判断した。だから呼んだ。これ以上の理由はないだろ。それとも、使える戦力が現場にあるのに使うなってか?」

 

 その遠山の言い回しに、神崎は眉をひそめる。

 

「ちょっと待ちなさい。戦力?現場?アンタの言い方、まるで事件が起きてるみたい。」

 

「…起こるんだよ。これから、お前を狙ってな。」

 

「それってどういう…。」

 

 神崎が質問するのを遮るように飛行機が大きく揺れる。

 

「…すまん比企谷、ここ任せる。今からでもどこかに着陸出来ないか、機長に直接掛け合ってくる。」

 

「あ、おい!」

 

 声をかける間もなく、遠山は走り去っていく。

 使える戦力が、現場に、か。

 あまり信用されても困る。俺は確かに授業で手を抜いている。だが、本気を出せば最強なんて、そんな都合の良いことはありえない。むしろ、授業で手を抜いている分、もう本気でやっても追いつけないほどに周りとの差が開いているのではないかと感じる。

 …ただそれでも、まだ武偵だ。

 神崎のことから、事件のことへと頭を切り替える。今は神崎と揉めるべきじゃない。先に事件を解決するべきだ。

 だからこそ、神崎には今言わなければいけないことがある。

 

「神崎、この事件を終わらせたら、お前に話すことがある。お前のパートナーについてだ。」

 

「なによそんなの!今更もう…!」

 

「話すのは終わった後だ。ここは事件の現場で、俺たちは武偵だ。…なら、先にやらなきゃいけないこと、あるだろ。」

 

 うまく伝えられたのだろうか。俺もあいつもひねくれ者なせいで、互いに誤解を提示して、それを互いに曲解し、理解したつもりになっている。こんな些事一つでさえ、こいつに伝えるとなると自信が無い。

 だが、だからこそ、今度こそはちゃんと話す。そうしろと、ルームメイトに言われたのだ。

 

「…分かったわ。ならさっさとこの事件を解決する。それでママを、安心させるんだ。」

 

「ああ。すまん、頼む。」

 

 

 遠山が走り去ってから数分くらいだろうか。

 今回の起こるらしい事件について、俺が遠山に聞いた分だけではあるが説明していると、台風によって発生した乱気流に伴う進路変更と、それにより遅れる到着への謝罪アナウンスが流れた。

 飛行機はゆらゆらと、とはいってもそこまでではない。ここのベッドに寝転がれば、風に揺れるハンモックと大して変わらない程度だ。ハンモックとか使ったことないからよく知らんが。

 まあその程度だったのだが、どうやら進路上に雷雲が被っていたらしく、先程からせっかくの空飛ぶリゾートだというのに、部屋には雷鳴が鳴り響いている。

で、それと共鳴するように鳴り響いている物がもう一つ。

 

 ガガン!ガガーン!

 ガタッ!ガタガタッ!

 

「…何お前、雷怖いの?」

 

 先程から雷が光ったり鳴ったりするたびに神崎の座っている椅子の方でガタガタと物音が聞こえるのである。なんならさっきはキャッとかいう悲鳴まで聞こえた。

 

「こ、怖くない!こんなのへっちゃら。」

 

 ええ~?ほんとにござるか~?

 まあ、確かに先程から座席はそっぽを向いており、その表情を伺い知ることは出来ない。が、その強がるようで少し震えた、声色から今の神崎の心境はありありと見て取れる。

 めんどくせぇなこいつ、とつくづく思う。俺も大概面倒な人種だという自覚はあるが、こいつとはまたベクトルが違う。何というか、こいつは分かりやすく面倒臭い。

一言で言うならば我儘とか強情とかだろうか。自分勝手に物事を進め、それに逆らえばすぐに機嫌が悪くなる。反抗期の中学生かよ、お前。もっと素直になる練習しとかないとそのうち俺みたいになるぞ。

 と、そんなことを考えながら手元にあったリモコンで機内のテレビをつける。

 

「ならいいけどな…。」

 

 急に俺がテレビをつけたことを訝しんだのか、視界の隅では座席から振り返ってこちらを見ている。俺はお前が俺を見てるのを見たぞ!

 適当にチャンネルを回していると、ふと一つの番組が目に付く。時代劇、中でもひときわ有名な遠山の金さんだ。前々から語感が遠山に似てるなぁ…、なんか関係あんのかなぁ…。と思いつつ忘れていた。せっかくだしこれでも見ようかしら…。

そう思いつつ、本来の目的のためにどんどんと音量を上げていく。それはもうこの部屋の外にまでこの名奉行を届けんと言わんばかりにどんどんと、である。

 最大設定の八割ほどで、流石に神崎が声をかけてくる。

 

「ちょ、ちょっと!音おっきすぎよ!何考えてんの!」

 

「え?何?テレビの音で聞こえん。」

 

 俺がそういうと、神崎はついに座席から立ち上がり、俺の耳元で叫ぶ。

 

「テレビが!うるさいって!言ってんのよ!!」

 

 いやマジそれな。ここまで音でかいと流石の俺もちょっとイラっとするレベルの音量。ちょっとした衣擦れ音とかならまだ良いが、チャンバラの音とかは耳に刺さるような感覚だ。そんな拷問の上に、更に神崎に耳元で叫ばれたとあっては、かしこいかわいいハチーチカな俺も、思わずおうちかえる!とか言い出したくなる。

 とはいえここまでやったのだから、最後までやらせてもらおう。私、負けない!と本気モード全開でここからどういう行動を取れば神崎が大人しく言うことを聞いてくれるかを考える。でも流石にここまで音がでかいと耐え難くなってきたのでつぎの一撃で決めたい…。

 

「俺はこれくらいの音量で観るのが好きなんだよ。嫌ならベッドにでもくるまって音聞こえないようにしてろ。」

 

 そんな俺の言葉を聞いて、話にならないと判断したのか神崎は俺の手からリモコンをひったくってテレビを消す。

 眦をつり上げ、犬歯をむいている。あたしの部屋で好き勝手して、もう風穴程度では済まさないわよ!というような表情である。

が、テレビの音が消えた部屋にも、まだ響き渡る音は残っていた。

 

ガガーン!ガガーン!

 

 鳴り響く雷鳴に、先の表情はどこへやら、神崎は首をすくめて今にも泣きそうな顔でリモコンを取り落とす。

 おっ!落ちてんじゃーん。落としたんだよなぁ…。

 そんなことを考えつつリモコンをゲットした俺は、勝手にもう一度テレビをつける。

 部屋にはもう一度爆音でチャンバラ劇が流れ始める。しかし先程の様にそれを止める手はなく、ふと見やれば神崎は大人しくベッドにくるまりながらテレビを見ていた。

 

「…それでもうるさかったら言え。多少下げる。」

 

 神崎は俺の言う通りに動いてしまったことが癪なのか、不服そうな顔で睨みつけてはくるものの、特に何も言ってくることはなかった。

 そんなことをしている間に俺の耳も多少はこの音量に慣れ、床に座り込みながら俺も時代劇を楽しんでいた。

 二人何を話すわけでもないこの時間は、武偵という普通からかけ離れた日々と比べあまりに日常的すぎて、あるいは夢でも見ているのではないかとすら思える。もしも俺も彼女も武偵の道に進んでいなかったら、それでどこかで出会っていたら、こんな時間もあったのだろうか。そんなありえない世界を想像し、ふと神崎を見やれば、もう既に雷のことは忘れたのか、夢中でテレビに見入っていた。

 …いやなんか緊張してきたな。そんなつもりはなかったのだが、想像してしまうとなんだかここが彼女の私室ではないと分かっていても意識してしまう。落ち着け俺、俺はかしこいかわいいハチーチカ。初ライブでの緊張に比べればこの程度造作もないはず…。でも俺スクールアイドルじゃないから普通に緊張しちゃう!汗とかかいてないかしら。…うーん、手汗以外は多分セーフ。でも勝手に意識しまくって手汗かいてる時点でキモさ的には十二分にアウトなので見つかったら風穴必至!これから私、どうなっちゃうの~!?

 自らのキモさを再確認していると、ボフッという音と共になにやら後頭部に柔らかな衝撃を感じる。

 後ろを見ると、どうやら枕を投げたらしい神崎が、毛布にくるまってカオナシみたいになったまま先ほどまで自分が座っていた座席を指さしていた。

神崎の仏頂面から察するに、「あんたが押し掛けてきたんだから別にあんたをお客さんとして扱う義理はないけど、それでもずっと床に座らせておくのは貴族のすることじゃないから、本当に渋々嫌々苦渋の選択として誠に遺憾ながらあんたが座席に座ることを許可してあげなくもないわ!さっさと座りなさい!」ということのようだった。

 …いやなにこれテレパシー?あいつの考えてること鮮明に伝わってきたんだけど今。いやしかし便利であるこの機能。これからは神崎の機嫌が悪い時にいち早く気付き、すぐにその場から離脱できるかもしれない。まあ離脱しようとするともっと機嫌悪くなるんだけどね。エンカウントした時点でゲームオーバーとか、それなんてクソゲ?

 俺が首を横に振り、床で良いですとアピールすると、神崎は全く同じ動きをして座りなさいと目で告げてくる。そんなことを何回か繰り返す。爆音で時代劇を流しながら、某有名映画の木霊の様に二人して首を振っている様は、はたから見れば狂気以外の何物でもなかっただろう。

 そんな二人の言葉のないやりとりは、テレビと雷の音の隙間を縫うように響いた、二つの銃声によって中断される。

 俺はテレビもそのままに、すぐさま部屋を出た。

 部屋を出ると、通路は大混乱となっていた。個室などの関係で人が少なかったのが幸いだが、それでも十二の個室の乗客全員に数人のアテンダントが皆一様にここに集まれば、こんな騒動も起きるだろう。

 銃声は機体の前方から聞こえた。人の隙間を抜け、一人機体前方へと向かう。

 機体前方では、コックピットの扉から先程のビビり散らかしていたアテンダントが出てくるところだった。それだけならまあ見逃しても問題はないのだが、そのアテンダントは恐らく機長と副操縦士だろうか、ぐったりとした様子の男二人をズルズルと引きずっている。

 俺はすぐさま能力を発動し、接近する。

 だが近付くよりも前に、そのアテンダントは確かにこちらを見据え、嘲笑するように告げる。

 

「Attention please.で、やがります。」

 

 直後アテンダントは胸元から取り出した缶をこちらの足元に投げつける。ガス缶…!?

 

「全員近くの部屋に入りドアを閉めろ!決して開けるな!」

 

 すぐさま能力を解除、先程の通路に屯っている乗客たちにすぐさま部屋に戻るよう叫びながら、全員入ったのを確認し、俺自身も素早く部屋に戻る。

 

「ッハァ!ハァ…、ハァ…。」

 

 ドアを閉め、それにもたれかかるように座り込む。

 部屋に戻るくらいもっと素早くやってくれよ。俺が死ぬだろ。冗談じゃないんだよなぁ…。

 部屋に戻った直後、飛行機は大きくグラリと揺れる。バチンと音を立てて照明は消え、代わりにぼんやりと赤い非常灯が点される。

 

「ハチマン!大丈夫!?」

 

 そんな様子をぼーっと眺めていると、神崎に声をかけられる。

 どうやらこの部屋は神崎の部屋だったらしい。知らない人の部屋だったらめっちゃ説明求められそうでやだなぁ…、とか考えていたが、どうやら杞憂に終わったらしい。

 神崎に言われ、身体の調子を確かめる。

 酸欠で多少頭がクラクラするが、それ以外は特に異常はないように思う。

 

「…ああ、多分、今んとこ、知らんけど。」

 

 俺のその適当な返しに、神崎は安堵の表情を浮かべ、そしてすぐさま腰に手をあて、プンスコと怒り始める。

 

「なにやってんのよアンタ!あの空間に最後まで残るなんて…、もしガスが強力な物だったら即死だったのよ!?」

 

「…ガスを投げてたやつが機長と副操縦士をどっかに連れてくのを見たんだよ。大量虐殺が目的ならあんな面倒なことはしない。何か他に目的があるはずだ。それなら、初手で即死級のガスは投げないだろ。」

 

 実際俺の身体にはなんの障害も発生していない。となると、恐らくあのガスはブラフだったのだろう。…完全にしてやられた。

 この狡猾さ、あの特徴的な言い回し、間違いないと言っていいだろう。あれは…

 

「武偵殺しだ。」

 

 俺の突拍子もない呟きに、神崎は目を見開く。

 

「武偵殺し…!?どういうこと?」

 

「俺も遠山から全部知らされてるわけじゃないから分からん。ていうか武偵殺しが出るから来いとしか聞いてねえ。」

 

 キンジくんさぁ…。情報伝達くらいちゃんとしようよ。給料貰う権利あると思ってるの?

 まああいつには今度ラーメンでも奢らせるとして、今最優先するべきは神崎の警護だろう。

 武偵殺しがここに来た目的は、恐らくは神崎の殺害。俺たちが乗り込まなければ本来この飛行機に乗っている武偵は一人しかいなかったのだから、これは確実と言っていい。また、武偵殺しは今までと同じくこの飛行機をジャックしている。となると、その気になれば飛行機を墜落させてでも目的は達成出来る。それをしないのは単に武偵殺しとしてのポリシーか何かか、それとも神崎の殺害の他にも目的があるのか…。

まあなんにしても武偵殺しの目的も不明瞭な現状では大した策を講じることは出来ない。ていうか遠山くんがここにいればこんな難しい状況にはなってなかったんですけどね!

 あいつを探しに行くべきか…、しかし神崎を放置して行くのは危険だな…。どうにか神崎を安全な状況下に置けないものか…。

 

「なにぼーっとしてるの?分からないならさっさと行くわよ。」

 

 俺がどうするべきかと頭を悩ませていると、後ろから声をかけられる。見れば、神崎は既に銃を抜き、臨戦態勢に入っていた。

 

「いや行くって…、どこに。」

 

「決まってるでしょ。まずはキンジと合流、そしたら武偵殺しを捕まえるの。武偵殺しのやつ…、絶対にママの裁判で証言台に立ってもらうんだから…!」

 

 そう言うと神崎は部屋の扉を開け、さっさと進んでいく。

 考えてみれば、俺よりこいつの方が強いんだから警護とかそういう話じゃない気もしてきた。むしろ俺が警護される側まである。

 

「…頼もしいことで。」

 

 俺は小さくそう呟き、神崎の後を追った。


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