やはり俺の武偵ラブコメは間違っている。   作:みにぃ

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第五話

「いや買いすぎでしょ…。」

 

コンビニへ向かった帰り、俺は神崎の持っているビニール袋を見て、思わずそう呟いた。

単に飯の量が多いというわけではない。量も多いが、そのビニール袋のすべてがももまんで満たされているのだ。

 

「つーかなんで『ももまん』限定なわけ?宗教上の理由?」

 

「美味しいからに決まってるじゃない。」

 

「いや、いくら美味いっつってもお前…。」

 

美味いものは脂肪と糖でできている。とはよく言ったもので、世の中うまい事だけで生きていける訳ではないのだ。逆説的に、口に苦い良薬ばかり噛みしめてきた俺は、とんでもなく健康的な人間ということになる。脂肪と糖摂れてないけど。

 

「ていうか、そんなに好きならあんまんも買ったらよかったんじゃないの?」

 

「分かってないわね。あんまんは可愛くないじゃない。」

 

ほ~ん、こいつ意外とかわいいとか気にするんだな。もっとわがままキリングマシーンみたいなやつだと思っていたが。

 

「あと量。買いすぎな。何日分だよそれ。」

 

俺がビニール袋を指さしてそう言うと、少し恥ずかしくなったのか、神崎は少し顔を赤くする。

 

「きょ、今日一日くらい良いじゃない!腹が減っては戦は出来ぬとも言うし、武偵たるもの常に戦える状態を保っておくべきよ!」

 

「戦える状態っていうならもっと栄養面のこと考えるべきだと思いますけどね…。」

 

俺がそう言うと、神崎はうるさいうるさいと駄々をこね始めてしまう。今度こういう機会があったらちゃんとした弁当を買わせよう…。

 

「そ、そういえばハチマン。」

 

一通り駄々をこね終わった神崎は、場を仕切りなおすように咳ばらいをする。

 

「キンジの力について、何か知ってる?」

 

話を変えるため、咄嗟に出てきた話題かと思っていたが、どうやら元から聞く予定だった話がまだ残っていたらしい。

 

「いや、何も。」

 

特に語れることもないので端的にそう告げると、神崎はこちらに向き直り、話を続ける。

 

「じゃああいつについて教えて。趣味とか、友人関係とか、なんでもいいわ。」

 

「つってもな…。」

 

確かに俺と遠山は去年から同じ寮で暮らしており、他人よりは一緒にいる時間が長いかもしれない。だが、互いに他人と大きく関わるタイプではなかったため、身の上話のようなものは全くと言っていいほどしたことがない。相手は入試S評価、しかも入試担当の先生を倒す、とかいう出鱈目な伝説を作った男だ。興味がないといえば嘘にはなるが、まあ、それまでだ。

他人に踏み込んでほしくない領域というのは誰にだって存在する。俺はその領域に踏み込むほど無遠慮な人間ではない。あいつは自分自身についての話はほぼしない。なら、俺が聞くべき理由もない。

 

「お前が聞きたいような話は俺も聞いてねえよ。聞くなら自分で聞いてくれ。」

 

「本当に何でもいいのよ。どんなところにヒントが隠されているのかは分からないわ。」

 

「…大体、俺があいつのことを勝手に話すってのも無責任すぎる話だ。何か知ってても話してるかはわかんねーよ。それが重要なことならなおさらな。」

 

「…あんたたち仲良いのね。」

 

「仲良いならもっとお互い知り合ってるだろ。」

 

「わたしはそうは思わないわ。…ほら、鍵開けなさいよ。」

 

俺は言われたままに寮の部屋の鍵を開ける。それを後ろに立って眺める神崎は、何か遠いものを見ているような目で、こちらを見つめていた。

 

家に入ると、遠山は先に帰っており、パソコンでメールのチェックなどをしていた。

 

「たでーま。」

 

「おけーり。」

 

こいつたまに意味わからん位鈍い時あるから少し心配だったが、どうやら白雪との一件は滞りなく解決したらしい。

 

「お前が何食いたいか聞いてなかったから適当に二つ買ってきた。好きな方選べ。お前が選ばなかった方食うわ。」

 

そう言って俺はテーブルにハンバーグ弁当とかつ丼を置く。夕食にしては多少遅めであったせいか、コンビニに残されてた弁当自体がこの二つしかなかった。神崎がももまんオンリーとかいう狂気の食卓を選んでいなかったら俺の夕食がももまんじゃないにしても、ピザまんとかになっていたのかもしれない。もしや神崎は気を使って今日の夕食をももまんオンリーで済ませようとしているのでは…。

そう思い神崎に目を向けると、既にテーブルについてビニール袋から取り出したももまんを頬張っているところだった。ふにゅうー、などと息を漏らしながら、頬に手を当ててうっとりしている。

…どうやら気を使われたとかは気にしなくて良さそうですね。あれは完全に好みでやっている。間違いない。

 

「…そういえばアリア、ドレイってなんなんだよ。どういう意味だ。」

 

一足遅く食卓についた遠山が、神崎に質問を投げかける。

 

「奴隷ってのは人でありながら他人に所有物とされる人間のことだな。」

 

「言葉の意味を聞いたんじゃねぇ!」

 

まあ、ですよね。知ってた。にしてもよく考えてみると女の子の奴隷か…、そういう言い方をするとなんだかエロくなるな。実際は微塵もエロさなんてないが。

 

「強襲科であたしのパーティに入りなさい。そこで一緒に武偵活動をするの。」

 

「俺は無理だ。俺は強襲科が嫌で、探偵科に転科したんだ。それに、来年には武偵自体やめて、別の学校に行こうと思ってる。なのにまた強襲科に戻るとか、冗談じゃない。」

 

遠山はそういうと、お前は?と目で聞いてくる。俺はそれに対して首を横に振ることで答える。

 

「そ、じゃあまあ、今のところはハチマンだけね。」

 

「おい、俺は条件付きだろ。入るの確定みたいに言うのやめろ。」

 

俺の言葉は無視し、神崎はそれと、と付け加える。

 

「私には嫌いな言葉が三つあるわ。『ムリ』、『疲れた』、『面倒くさい』この三つは人間の持つ無限の可能性を自ら押しとどめる良くない言葉。二人とも今後はあたしの前で使わない事。いいわね。」

 

何故お前の好き嫌いに俺たちが付き合わにゃいかんのだ。と思うが、口には出さない。神崎が傷つくことを危惧してね?俺は紳士であるがゆえに、女の子を傷つけるような言動は出来ないのだ。決して怖くて言えないとかじゃない。断じて。

 

「二人のポジションは…、少なくともキンジはあたしと一緒にフロントね。八幡は…。」

 

「フロントね。じゃない!そうまでして俺たちをパーティに入れたいのはなんでなんだよ!」

 

遠山は、神崎の横暴な態度にうんざりしているのか、少し口調を荒くする。しかしそんな遠山の様子に、神崎はあきれたようにため息をつく。

 

「太陽はなんで昇る?月はなぜ輝く?」

 

またなんかよく分からん話が始まったぞ。話の関係性が全く見出せん。

 

「ハチマンもだけど、キンジは特に質問ばかり。子供みたい。仮にも武偵なら、自分で情報を集めて推理しなさい。」

 

「どっちが子供だ…。」

 

俺が小声でそう言った瞬間、

 

バァン!バァン!

 

部屋の天井に穴が開いた。

パラパラと天井の破片が落ちた先。神崎は怒りでぷるぷるとふるえながら叫ぶ。

 

「あたしは高2だ!!!」

 

次は当てると目が言っている…。即座に俺は膝を折り、額を床につける。

 

「申し訳ありません。」

 

これ以上の被害を受けないためにも俺は即謝った。もはや謝罪というよりは命乞いに近いが、それでも神崎の怒りを鎮めるには十分だったらしく。

 

「ふん!」

 

銃をホルスターに収める音が聞こえる。どうやらお許しいただけたようだ。

そんな俺だけが命がけの漫才を横で見ていた遠山が口を開く。

 

「話を戻すが、俺たちをパーティに入れるような利点は全くない。わかったら帰ってくれ。一人になりたい。」

 

「まあ、そのうちね。」

 

え?そのうちって何?こいつ何考えてんの…?

と、ここで思い当たってしまう。こいつこの部屋にしばらく泊まるつもりで来ているのでは…。神崎が持ってきた妙にでかいトランク、あれが宿泊の荷物だとしたら全て合点がいってしまう。

自らの考えが杞憂であってくれと祈っていると、どうやらまだ気付いていない様子の遠山がさらに質問を続ける。

 

「そのうちっていつだよ。」

 

「キンジがあたしのパーティに入るって言うまで。」

 

そこで遠山だけを指名するのは、俺はもうパーティに入らなくても良いということを暗に示しているのだろうか。いやほんとに諦めてくんないかな…。

 

「でももう夜だぞ?今日はもう帰った方が良いだろ。」

 

「やっぱり気付いてないのね。あたし、あんたがイエスというまでここに泊まってく。」

 

やっぱりかあ~…。できれば当たってほしくなかった予感が的中してしまった。トランクを指さしているあたり、どうやら本当にあれらは全て宿泊グッズだったらしい。

神崎の言葉を聞いた遠山は混乱している様子で声を荒げる。

 

「ちょっ!…ちょっと待て!何言ってんだ!絶対だめだ!帰ってくれ!」

 

「うるさい!あんたたちがパーティに入るまでは泊まっていく!これは絶対に揺るがないわ!」

 

いやていうか男子寮に女子が泊まるのまずいだろ、と俺が正論攻撃を仕掛けようとしていると、

 

「出てけ!」

 

と、神崎が俺たちに言ってくる。いや逆じゃない?と口をはさむ間もなく、神崎は言葉を続ける。

 

「あんたたち二人とも頭冷やしてきなさい!しばらく戻ってこないこと!いいわね!」

 

そういうと神崎は銃を取り出して俺たちを脅してくる。取り付く島もないとはまさにこのことだ。

とはいえ、天下の神崎様に逆らうなど市民の俺たちでは出来るはずもなく。結局俺たちは寒空の下に放り出されてしまうのであった。

…俺、頭冷やす必要あったか?

 

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