やはり俺の武偵ラブコメは間違っている。   作:みにぃ

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21/5/19 冒頭部分の文章に修正を加えました。ご指摘コメントくれた方、ありがとうございました。


第九話

件のバスジャック事件から、もう既に三日経過した。まだ、という言葉を使うにしてはどうにも、未だ鮮明な記憶は現実味を帯びておらず、遠い昔、あるいは夢だったのではないかとさえ感じられる。それほど、あれ以降の出来事にはリアリティがなかったのだ。

まずバスの中で神崎に聞かされた案だ。その内容は、狙撃科のSランク、レキという人に車体下の爆弾を撃ち抜いてもらう、というものだった。しかもヘリの上から。

またこいつは無茶苦茶なこと言い出したぞ。そんなゴ〇ゴ13みたいな人間はいない。

と、最初は思っていたんだけどなぁ…。そんなゴ〇ゴ13みたいな人間が実在していたのだ。

この部分が、バスジャックの記憶の中で最も現実味を失わせている部分なのだが、当然デューク〇郷さん本人が実在したわけではない。だが、その狙撃の精度は、それこそ漫画でしか見たことがないようなレベルだった。

弾丸を車体下にくぐらせるだけで十分神業の領域だろうに、それをヘリに乗って、爆弾を爆発させずに撃ち抜けとか、本当に漫画の世界。ほんとに意味わからん。あのスナイパーさんが実は犯人で、撃ち抜いたわけではなく、爆弾が自動ではがれるように設定してあったとかの方がよっぽど現実味がある。

まあ、こうして、漫画の世界から出てきたと思われるとんでもスナイパーさんに助けられ、ようやくバスジャックを退けることに成功した。

その後、武偵殺しの銃付きの無人兵器に襲われることもなく、俺たちは無事バスを降りることに成功した。結果的には、被害らしい被害はバスの運転手が怪我をした程度。その運転手も、命に別状はなかったらしい。

これでこの事件の幕は引かれ、皆笑ってハッピーエンドの大団円。

…と、なるはずだったのだが、この事件で、唯一命の危機に瀕している人間がいた。俺である。

武偵殺しの無人兵器について、俺は完全に他にもある前提で動いていたせいで、あいつら二人にめっちゃドヤ顔で「他は見つけられてない。」とか言ってしまっていたのだ。その想定で判断の択を狭めたという事実もそうだが、何よりも自分自身だけが気付いているかのような態度で二人に警戒を促し、その結果何も襲ってこないという、教科書に載るレベルの一人相撲。恥ずかしすぎる…。

いっそのこと10台くらい無人兵器に来ていただいて、ハチの巣にされた方が良かったような気さえする。ある意味、この事件で最も死に近かった人間と言っても過言ではないかもしれない。もうほんとに今超死にたい。

不覚にも思い出してしまい、俺はベットの上で悶え、うーうー唸る。もうヤダ死にたい学校行きたくない部屋から出たくない。

 

「比企谷、うるせえ…。」

 

どうやらそのどたばたで遠山を起こしてしまったらしく、遠山が、眠そうながらにこちらにめちゃくちゃうざったそうな表情を向けてくる。

 

「すまん。今日朝飯適当に食って。」

 

未だに精神的ダメージから抜け出せていない俺は、枕に顔を押し付けたままそれだけ答える。相当もごもごしていたので、聞き取れたのかは定かではないが、遠山はベッドから起き上がり、大きく伸びをする。

 

「今日、一緒に登校しようぜ。」

 

 

「そういや比企谷、アリアが今度の土曜に話があるって言ってたぞ。」

 

通学途中、バスの中で遠山がそんなことを告げてくる。

 

「…俺土曜はちょっとあれだから。行けないって言っといてくれ。」

 

「行けるらしいぞっと。」

 

いつの間にかケータイを取り出していた遠山が、画面を指でシャッシャッと操作する。恐らくはメールだと思うが、どうにもおかしい。今遠山の発した言葉の通りに文章が送られていたとしたら、俺がまるで土曜日に時間が空いているかのように聞こえる。

 

「いやいや、ちょっと待て。俺土曜日はあれがあるんだよ。ほらあれ。バイトとか、そういう系の…。」

 

「お前働くの好きじゃないだろ。いつだかの進路希望アンケートに専業主夫って書いて出してたって、白雪から聞いたことあるぞ。」

 

「なんでそんなもんチェックしてあんだよ…。クラス違うじゃん…。」

 

「白雪が生徒会長だからだよ。お前含め、何人かアンケートにふざけたこと書いてたやつがいたらしくてな。生徒会の議題に挙がったことがあるそうだ。」

 

なるほど。すごい納得してしまった。確かに俺も先生だったら進路希望アンケートにそんな解答してくる奴の相手はまっぴらごめんだ。絶対面倒くさい。生徒会に仕事を投げて、適当に処理させるというのは賢い判断だ。俺もいつか部下ができたら使おう。

ハッ!?自分自身の思考回路が自動的に働く未来を見据えていた…。日本の教育の中で、もう既に思想が立派な社畜へと改造されつつあるのかもしれない。

そんなことを考えていると、遠山がおもむろにケータイを取り出し、先ほどのように画面をなぞる。

 

「今度の土曜十二時、新宿駅集合。だそうだ。」

 

「え?何急に?」

 

「アリアからのメールだよ。なんでわざわざ新宿なんだろうな。」

 

「いや俺に聞かれても…。」

 

てか新宿駅って一言に言っても集まるのムリだろ。新宿駅は日本が作り出した迷宮のひとつだぞ。東口西口南口までは良いとして、中央東口と中央西口、東南口とか、もはや何がどう違うのかわかったもんじゃない。一度行ったことがあるが、迷いに迷い、駅構内で一時間近く歩く羽目になった。その日の帰りには、文字通りもう二度と行きたくないと思ったものだ。

 

「神崎に集合場所だけ変えるよう言っといてくれ。新宿駅待ち合わせとか自殺行為だ。新宿駅だけで一時間近く彷徨うことになるぞ。」

 

「了解だ。伝えとくよ。」

 

遠山はそういうとまたもメールを打ち始める。

 

「そういえば。」

 

メールを打ち終わったらしく、遠山はケータイを閉じ、ケータイから、俺の方へと視線を移す。

 

「比企谷はアリアと連絡先交換してないのか?」

 

「してないな。っていうか逆に、お前が神崎の連絡先知ってたことに驚いたんですけど。」

 

「あー、ちょっと前に一緒にゲーセンに行く機会があってな。そこで交換したんだ。」

 

「あいつゲーセンとか行くのか。意外だな…。」

 

「俺についてきただけだけどな。クレーンゲームとかめっちゃやってたぞ。一個も取れてなかったけどな。」

 

あー。なるほど。そう言われると、特に意外にも感じない。むしろ似合っているようにすら思う。多分金大量にスったんだろうなぁ…。一個も取れずに地団太を踏む神崎の姿は想像に難くない。

 

「にしても、俺からすれば比企谷が連絡先知らなかった方が驚きだ。同じ強襲科なんだから、話す機会だって多いだろ。」

 

「いや全然話さねえよ。強襲科でも、クラス分けされてるの知ってるだろ。」

 

「ああ、そういやそうだったな…。」

 

強襲科では、実力に応じたクラス分けがなされている。強襲科生徒の成績順に、上から半分は強襲科担任の蘭豹先生、そしてそこからあぶれた組は、副担任の平塚先生のクラスになる。当然俺は平塚先生のクラスに分類されているわけで、神崎と授業で話す機会なんてものは一切と言って良いほどないのだ。

 

「でも、あいつ俺が探偵科のクエストを受けたときには付いてきたんだよな…。」

 

「まあ、あいつの中で俺は本気出してない判定受けてるからな…。授業見に来たところで意味がないとでも判断されたんじゃねーの。」

 

あとは単純に興味の差という可能性もある。なんならそっちの方が可能性として大きい気もする。あんなに情熱的に誘ってくれたのに!あたしとは遊びだったっていうのね!

情熱的に奴隷に誘われるとか詐欺でも聞いたことないんだよなぁ…。

 

「まあ、そんなもんか。」

 

俺がハリウッド級の名演技を脳内で繰り広げていると、遠山は座席から腰を上げる。見やれば、どうやら学校に到着したらしく、バス通学の生徒達は流れるように出口へ向かう。

…その光景は、最近とも、昔ともとれない、ほんの一年ほど前の景色と重なり、既視感を覚えさせる。

一年足らずだ。たったそれだけだったのに、いやに慣れ親しんでしまった。

 

「何ニヤニヤしてんだお前…。ちょっとキモいぞ。」

 

「…残念だったな遠山。ニヤつかなくても俺のキモさは変わらない。」

 

…ああ、全くだ。自分で自分が気持ち悪い。こんなもの、嫌う側の人間だったはずなのに。

本当に、気持ち悪くて、心地良い。

 

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