死途の徒   作:三羽世継

27 / 31
二十七灯

 あるいは。

 たとえば私に、何か、目標のようなものがあったら。何か夢だとか、行きたい場所だとか、造りたい物だとかがあったのなら、もう少し情熱的になれたのかもしれない。

 行動力は有る方なのだろう。先輩にも白にもそう言われた。自覚もある。どこかに行って話をして、どこかに行って調べ物をする。そういうのを行動力と言うのなら、それはある方だと思う。

 けれど情熱が無い。

 けれど熱がない。

 これもまた先輩に言われた事だけど、自覚していないだけで情熱を持っている方、らしい。でもそれではダメなのだ。一番、最も重要な部分が、自覚なのだ。

 私は私に情熱が無いと思ってしまっていて、情熱を向ける……湧き上がるモノの見つけ方を知らない。

 だから、判断が速いのかもしれない。判断基準が存在しないから、悩まない。芯のある情熱が無いから、葛藤しない。ある意味で強い強い信念を持っている先輩と対極の位置にいて、けれど行動が似ている。おかしな話で、面白い話だと思う。

 

「佚依ちゃんに情熱が無い? それは勘違いだね? もしくは、情熱というものを知らないかのどっちかかな?」

「ヨツギにはわかるの?」

「干渉は出来ずとも、生者の夢を見るのは夢の神の特権かな?」

「プライバシーって言葉知ってる?」

「神が生者の法に縛られると思うの?」

「……確かに」

 

 夢。夢だ。夢で、ヨツギと向き合って、対話をしている。

 器の生成に成功した以上、私がここ以外でやる事は無い。どうせ誰にも見えないのだから。なれば、ここに入り浸る以外の選択肢を取る必要が無いと言えるだろう。

 夢を語る。熱を語る。私に必要な物を、あるいは、必要とした方がいいものを。

 

「じゃあ情熱って何」

「何かを遂行し、完結させたいと思う心だね?」

「……ホシミとアカツキの幸せを願って、動いている時点で、ってこと?」

「そうだね? ……あぁ、けれど、なるほどね? 佚依ちゃんには変動の実感がないんだね?」

「多分。生きていない者となった今でもこうなんだから、生者である時はもっとなんじゃないかな」

「わかったよ。佚依ちゃんに足りないのは、焦りだね?」

 

 焦り。

 あぁ、なるほど。それか。

 平静なんだ。心が落ち着いている。内側の水面に、一切の波紋が立っていない。

 心が動かないわけじゃない。驚けばちゃんと揺らぐし、嫌な事があれば泡立ちはする。

 けれど、こと、目標に対して。目指すべきものに対して、やりたいことについて。心の内側が荒れ狂う事が無い。少なくとも今まで、起きていない。

 先輩を振りに行ったときも、白に連れられ朱歹神社へ行き、アカツキと身体を交換した時も。

 一切、変わらない。

 私の心はずっと冷静だ。

 

「失敗した時のための準備をいくつもしてあるせいで、成功させたいものを一点に信じる事が出来ていないね? 保険が沢山あるから、焦らない。焦る必要が無いから、慌てない。慌てないから、一生懸命にならない。傍から見て"行動力があり"、"一生懸命にやっている"事柄であっても、佚依ちゃんにとっては用意した選択肢の中で一番効率の良かったもの、というだけであって、それしかないわけじゃない」

「カウンセリングが得意なんだ?」

「一応、この土地にいる神の中では一番の古株だからね?」

「神様も歳とか関係あるんだ」

「というよりは、一番生者を……人間を見てきたから、だね? ホシミのように慕われながら、けれど興味をあまり持っていないだとか。アカツキのように生者を悍ましく思い、長らく関りを断っていただとか。私はそういう神じゃないね?」

「あぁ、泉に入水を図った人間から、人間に興味を持ったんだっけ」

「よく覚えていたね?」

「今生きていない者だから、記憶力がいいのかも」

 

 生者に、人間に興味を持った。

 その切っ掛けが死であれ流血であれ、確かに私の知る四柱の中では一番、人間に歩み寄っている神と言えるだろう。勿論、祟り神として……水害として、であるけれど。

 

「生者に関わったら、変動しちゃうんじゃないの?」

「水も、夢も、変わりやすいと思われがちだけどね? 水こそ、古来より不変の物質だよ。夢こそ、あらゆる生者が見るものだよ。私は、私達は、夢の神であるが故に、多様。ちょっとやそっとじゃ変わらないね?」

「じゃあ愛し合おうよ」

「嫌だよ?」

 

 話が違う。

 変わりたくないから愛を覚えたくない、という話だった。

 ちょっとやそっとじゃ変わらないなら、いいじゃないか。

 

「だから、愛を覚えるということは、ちょっとやそっとじゃない、という事だね?」

「じゃあまず友達になろう。ホシミとは簡単に友達になったんだから、いいでしょ」

「……」

「何」

「私は君の記憶を知っているね? なら、その詰め方が、酷似している事くらいには気が付けるね?」

「別に先輩に倣ったわけじゃないよ。ホシミに倣ったのは事実だけど。いいじゃん、友。どうせ友達はホシミとアカツキだけなんでしょ?」

「いらないね?」

「そこまで拒絶する理由を知りたいかな」

「私は佚依ちゃんが嫌いだからね? 嫌いな相手とは愛し合いたくないし、友にもなりたくないね?」

「別に好きにならなくていいよ。愛してくれたら」

「意味が分からないね?」

 

 そう、だろうか。

 愛とは二つの霊魂の繋がりであると、(はく)が言っていた。それが本当なら、好きでなくとも、友でなくとも、愛し合えるはず。

 

「随分と(はく)に入れ込んでいるね?」

「一番身近だし」

「なら、(びゃく)に言われた愛はどうかな? たとえば今、私と別れて。今後一切会えないとして。寂しいかな? 悲しいかな?」

「……」

「ちなみに私は悲しくないし、寂しくないよ。一切ね?」

「私も」

「ね?」

 

 成程。(はく)の愛の形には該当するけれど、(びゃく)の愛の形には当てはまらない。三柱から生まれた狛犬。男女の違いはあれど、ほとんど同じらしい二匹。夫婦ですらある彼女らの愛が、違うのか。

 

「それに、アカツキとが無理な理由として、アカツキの愛は育むものだから、って言っていたよね? 私との愛が育まれていると思う?」

「思わない」

「ホシミは運命の合致が愛だと言っていたね? 一目惚れはあるんだ、って。私と佚依ちゃんは、運命が合致していると思うかな?」

「全く」

「ね?」

 

 ううん。凄く、凄く、丸め込まれていっている気がする。

 ね? じゃないんだ、ね? じゃ。

 こっちはどうにかこうにかヨツギと愛を交わせないかと頑張っているのに。まぁこれはヨルツキちゃんのための保険だから、失敗しても問題なくなる可能性はあるんだけど。ヨツギが無理でも、頑張って一日でヨルツキちゃんと愛し合えばいいかもしれないし。身体を戻してから、アカツキと一緒に過ごせばいいかもしれないし。

 

「四ツ木とヨルツキを救いたい。ホシミとアカツキに幸せになってほしい。狛犬二匹の願いも叶えたい。結構なことだね? けれど、それで私を巻き込むのはおかしくないかな?」

「そう?」

「そうだよ? 私には関係ない話だよね?」

「じゃあ、なんで、話しかけてきたの?」

 

 ──また、少し。視界が白む。

 夢の世界で視界も何も無い気がするけれど。

 

「……」

「私にフィルターになれ、みたいなさ。ホシミは私を欲しがっているんだ、みたいなさ。そういう話を持ち掛けてきたのはヨツギだよ。あのタイミングで、あの時の私に。それはやっぱり、ホシミやアカツキを思っての事でしょ。あんな、悲劇的な別れと、感動的な再会の約束を見せつけてさ。ただの記憶じゃない、夢の世界にある蓮柄神社を舞台に、記憶の再現なんてものをやってのけてさ。それで関係ない、なんて無理があるでしょ」

「佚依ちゃんは酷く不均衡だね?」

「いきなり悪口言うじゃん」

 

 不均衡なんて悪口初めて聞いたけど。

 なんだ不均衡って。アンバランスってこと?

 

「詰め寄り方は勢いがある。隙を見つけた時の行動力は目を見張るものがある。けれど、自身に来る刃に対しては、避けようとすらしないね? 何を言われても傷付かない自信があるのかな? それとも、佚依ちゃんにとって、世界とはその程度の些事なのかな?」

「主語が大きいね。別に世界がどうとか考えてないけど」

「私はさっきから、佚依ちゃんの世界観を揺らがすような問いかけを投げかけているつもりだけどね? 生きていない者となった佚依ちゃんは、すぐにでも影響を受けるはずなのに、一切の動揺が無い。あるいは自らの変調すら些事なのかな?」

「ああ、そういう」

 

 神になってから感じていた、時たま起こっていた視界の不調。

 これが変動なのか。なるほど、世界観が揺らぐ。世界が変わる。知能存在にとっての世界なんて、認識したものが全てだ。視界が変われば、世界も変わるか。

 でも、それなら。

 

「変わらないよ。少なくとも他者の言葉じゃ、私は変わらない」

「ホシミからの告白で随分変わったんじゃ無かったかな?」

「言われた直後は変わって無いよ。言われて、飲み込んで、自分で変わった。だからもし、今の今まで。ヨツギが吐いていた言葉が全て、私を揺らがせるためだけのものだったとしたなら」

 

 手を差し出す。

 差し伸べる。

 

「それ、無駄だから。やっても意味ないから、本音で話し合おうよ。本心で、愛を交わそう」

「嫌だよ?」

 

 そのまま。

 そのまま──ヨツギの胸元の布を掴む。

 

「え?」

「夢の世界だけど、掴むものは掴めるんだ。良かった」

「え?」

「さっき、ホシミから倣った事はあれど、先輩から倣った事は無いといったけど」

 

 あれ、嘘。

 だから。

 

 布をぐい、と引っ張って、ヨツギをぐい、と近づけて。

 反対の手で、彼女の顎に手を添えて──くい、とやる。

 

「私に愛を注ぎなよ、ヨツギ」

「い、嫌だよ?」

 

 よし。

 手応えアリ。

 

 

 

 ○

 

 

 

「……」

 

 神となってから、どうにも時間感覚が薄い。ヨツギの夢世界に入り浸っているせいもあるのだろうけれど、生者の頃より時間経過に疎くなっているきらいがあるように思う。

 一分の一瞬さが、一時間で感じる。

 一時間を待つ感覚で、半日が過ぎる。

 たしかにこれなら、何もしていなければ、変動は薄いのだろう。あるいは何百年でさえ苦ではないのかもしれない。

 だけど一応、ちゃんと、タイムリミットのある身としてはそうもいかなわけで。

 といってもヨツギとの対話以外、やる事が無い。やる事が無いけれど。ヨツギとずっと喋っているのは*1ヨツギ側が疲れてしまうらしく、こうしてたまに、現実世界を覗いている。

 

 アカツキのように朱歹神社にずっと、ではなく。

 今日は学校に来てみた。

 

「……」

「ずっと思ってたけど、手芸部って私と部長以外のメンバーいないのかな」

「我は見た事がないな」

「私も」

 

 学校。それも、手芸部の部室。

 なるほど、神となって更に分かりやすい。この部屋に溢れる部長の作品が、非常に心惹かれるナニカを纏っている事が。なんていうのかな、マイナスイオン的な。癒しが出ている。

 

「この女子(おなご)、いっそう腕を上げたな」

「そうなんだ」

「前から腕の良い裁縫士ではあったが……見えているわけでもないのだろうに、末恐ろしい才だ」

「あ、部長は触れ得る人だよ。部長の家、動物霊の巣みたいになってるし」

「ほう。一時代に、同じ土地の同じ施設の、同じ集団に二人か。奇跡にしては出来の悪い冗談だな」

「含みがあるね」

 

 まぁ、確かに、とは思う。

 千年に一人の逸材だと言われた。二つを持ち得る者は。そうでなくとも、生きていない者の川に干渉できる生者は一握りであると。それが、二人。合わせたら三つを持ち得る者となれる干渉者が、同じ学校の同じ部活にいる、なんて。

 確かに嘘みたいな奇跡だ。

 

「この女子(おなご)の名は?」

「え?」

「なんだ、知らぬわけがあるまい。あれだけ仲睦まじくいたのだ」

「……あれ?」

 

 いや、いや。

 うん?

 その通りなんだけど。部員が部長の名前知らないとかありえない……事は無いにしても、人数のいる部活じゃない、二人っきりになる事の多い部活で、名前を知らない事なんてありえない。いや、そう。クラスの子から部長の噂を聞くことも多かったから、忘れているだけなはず。

 生きていない者は物忘れをしないから、生者である内に忘れてた、のかな?

 

「そういえば、(なれ)(なれ)の名はなんだ」

「え、佚依だけど」

「あぁ、聞き方が悪かった。姓はなんだと聞いている」

「──」

 

 まただ。

 視界が白む。私は今、何が変わった?

 

「ダァーッ!!!」

「うわ」

「む」

 

 突然、眼下……何かを真剣に作っていた部長が奇声を上げる。

 そのまま両腕をガッツポーズにして、上下に振って、同時に頭も振って。

 

 ……うん。

 

「佚依、一応聞くが」

「大丈夫、部長は良い人だよ。頭はおかしいけど」

「うむ……おかしいな、これは」

「うん」

「ぬぅうぅううううう! ぬん! ぬん! ぬぅぅうぅん!!」

「おかしいな、これは」

「うん」

 

 部長の奇声と奇行は止まらない。

 腕を沢山振って、身体を滅茶苦茶に動かして。

 そして。

 

「重──っい! 重い重い重い!! ちょっと、流石に学校でまではやめてくれないかな! ちゃんと、帰ったら構ってあげるから! ぬぅうううう、く~、早く元気になっておくれ佚依ちゃん……私じゃどんなものに、どこに纏わりつかれているのかわかんないんだよ~~~~!」

 

 両者、疑問符を浮かべた。

 だって部長には、何も纏わりついていない。確かに彼女の家においては、彼女の周りにあらゆる動物がいた。リスやネコなどの小動物に始まり、大きな蛇や、鳥、コウモリ、大きいものだとワニまで。

 でも今、部長はフリーだ。

 

「……我らが見ているから、やもしれんな」

「触ってないよ?」

「触れ得る者の中には、干渉を圧として受け取る者もいる。認識される、という事自体が干渉となるため、それを煩わしく感じてしまうのだ」

「へぇ。じゃあ、お暇しよっか」

「それが良いだろう」

 

 ご迷惑をおかけしました、と。

 心の中で謝っておく。

 

「ぬぅっぅぅううううっ! う? お? お? 肩が軽くなった……もしかして佚依ちゃんの名前出したから!? 佚依ちゃんパワー!? 佚依ちゃん佚依ちゃん佚依ちゃん佚依ちゃん! おお、肩がどんどん軽くなっている気がする! カムバック佚依ちゃん! 私の、唯一慕ってくれる後輩!! ほぼ幽霊部員な手芸部を部活として成り立たせてくれてる神様!! 佚依ちゃー!!」

 

 そんな、煩い声を背後に聞きながら。

 私達は学校を立ち去った。

 

 いやうるさいよ、ホント。あの人。

 

 

 

 ○

 

 

 

「あの、触らないでくれるかな?」

「案外背小さいんだね、ヨツギって。いつも浮いてるし、ダボっとした服着てるからわかんなかったけど」

「ヨルツキよりは大きいね?」

「でもアカツキよりは小さい。ホシミよりも小さいかな?」

「アカツキの身長は高すぎるだけだね? あの、頭に勝手に触れないでくれるかな?」

「んー」

 

 見ているだけで干渉になってしまう。

 ならやっぱり、生者にはかかわらず、こうして夢の世界でヨツギとの距離を縮めていた方がいいか。

 

「佚依ちゃんは、あの小さいのに私を入れるつもりなんだよね?」

「あ、うん。入ってくれる気になった?」

「なってないよ? でも、もし。もし、本当に入るとしても、もう少し大きくしてほしいかな? 前に言ったような窮屈さは無いけれど、大きい方が自由に動ける範囲も広いからね?」

「へぇ、そういうものなんだ」

「あと出来れば、この姿に近い方がいいね?」

「そこまで注文するって事は、入ってくれる予定はあるんだね」

「無いね? 最悪の場合の話をしているだけだね?」

「でもその前に愛し合ってもらわないと困る」

「嫌だって」

 

 あ、とうとう疑問符がなくなった。

 これは相当に嫌がっている。あと一押し。

 

「じゃあ聞くけどさ」

「何かな?」

「そうやって、耳を傾けてくれるのはなんでなの?」

「……初めに言ったね? 納得させたければ、説伏してみろ、って」

「協力してあげてもいいけど、理由が必要、だっけ」

「そうだね?」

「じゃあヨツギの行動基準を教えてよ。何があったら動こうと思うの?」

「ふむ?」

 

 本当に嫌がっているわけではない、というのがミソだ。キモかもしれない。

 違うかな。嫌なのは愛し合う事や代に入る事ではない、って感じか。どこを嫌がっているのかがわかれば、すぐにでも詰められそう。

 

「質問に質問で返すけど、佚依ちゃんは、自分が今私に向けてきている愛を、他の誰かに向けたとして、それが受け入れられると思うのかな?」

「え、うん」

「そこだね? 貴女がそうでも、他者はそうじゃないね?」

「……愛されたら、嬉しいと思うのが普通じゃない? 勿論何かしがらみがあったら……それこそ先輩と私みたいに、告白してきた側に何か違う意図が見えたら、嫌かもしれないけどさ」

「今答えを言ったね?」

 

 ううん。

 これ、私が間違ってるのかなぁ。

 

 普通生きてて、私のモノになってくれ、とか。愛しているとか、好きです、とか。言われないから。

 だから言われたら嬉しいし、言われたら興味を持つし、言われたら、何かを返そうと思う。それが同等量の拒絶でも構わないし、同等量の好意でも良い。何か貰ったのだから、何かを返す。

 普通じゃない?

 

「貴女は私を、目的のために愛そうとしているね? 愛するために何かをするのではなく、何かをするために愛を捧ごうとしている。それって佚依ちゃんの記憶にあるホシミの行動と、佚依ちゃんが思い込んでいたホシミの行動と、何か違うかな?」

「でも私、ヨツギのこと愛してるよ。それまでは結構嫌いだったし苦手だったけど、愛せる要素が一つあったから、愛してる」

「……やっぱり、不均等だね。それに少し、恐ろしい」

 

 愛、というものの形容が上手く出来ているかはまだわからない。

 でも好きになれる要素が一つあった。だから愛していると言える。好きになれる要素が一つもない相手にそんなことは言えない。ヨツギの言う通り、思い込みだったことを前提として、かつての先輩だとか。あの嘘で塗り固められた……と思っていた先輩には、好きになる要素が一つもなかった。その奥の、本音の先輩なら躊躇いもなく好きになれただろう。変な先入観と偏見が、それを阻害していた。

 今回も少し似ている。ファーストコンタクトが、ファーストインプレッションが少々アレだったから、印象は悪かった。周囲から聞くヨツギの行動や噂が、心象を悪くした。けどそれだけだ。

 

 あの時。友が欲しかった、なんて言葉を聞いて。

 ただそれだけで私は、この神に愛着が湧いた。

 

「少し、少しばかり、心配になってきたね? 佚依ちゃん。あるいは今、不安定極まりないホシミとアカツキや、四ツ木とヨルツキよりも、余程。貴女の方が──ずっと危ない」

「それって好きってこと?」

「違うね?」

 

 ううん。

 ちょっと結論を急きすぎたかな。

 でも、なんだか興味を持ってくれている事は確かなようで。それなら、本当に、あと一押しなのかなって。

 

「キスはまだ早いかな」

「ホシミともした事が無い癖に、良く言うよね?」

「ファーストキスとか、あんまり価値を見出してないから」

「理想が高い癖に夢の無い子なんだね……」

 

 確かに。

 それは結構、私らしさかも。発見だ。

 

「また来るね、ヨツギ」

「また呼び込むよ、佚依ちゃん」

 

 また。

 

 

 

*1
正確にはヨツギが私を夢の世界に引き込み続けているのは

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。