死途の徒   作:三羽世継

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六灯

 膠着状態、とはこの事だろう。

 いつものこと、と言った様子でじゃれ合う二人を余所に、私と、そして数多の動物は睨み合いを続けている。いや別に私は睨んでなんかいないんだけど。

 神様が白に"肝心な時にうんぬんかんぬん"と言っていたけれど、まさにその気持ちである。白、多分偉いんだろうからこの動物どっかにやってくれませんか。

 

「それで、ホシミ。お姉さんはどうして固まってるの?」

「いや、私にも……。本当にどうしたんだい、佚依。体調が悪いのかい?」

「体調は悪くないですよここから先に行きたくないだけで」

「?」

 

 というか普通、こういうのって本殿の方を守るものじゃないのかな。なんで職員用の宿舎なんかを守っているんだ。いやまぁ神主さん達を大事に思ってるって事なら理解出来なくもないんだけど、にしても多すぎじゃないかな。

 それとも、御社殿の方にはもっと怖いのがいる、とか。

 

「然り。あちらは我が居座る故、問題が無いのだ」

 

 側頭。

 顔の、横。

 赤色の炎を纏って、それは現れた。

 

(はく)……?」

「吐きそうなのかい?」

(びゃく)という。ふむ、珍しい気配に誘われて出てきてみれば、成程成程。アカツキと白のお気に入り。ヨルツキも興奮していたぞ。弓の歌が聞こえる人間に初めて出会った、とな」

「いえ、大丈夫ですから」

「さぁ、お前達。散れ散れ。客人を睨むでない」

 

 その言葉に、一斉に。

 というか、「はぁーい」という感じで、動物たちが去っていく。猿なんかはこちらに手を振って、ああうん、可愛い可愛い。

 いや怖いよ。君達。

 

「あ、もう大丈夫です」

「無理はしないでいいからね?」

「ご心配をおかけしました。ヨル……四ツ木ちゃんも、ありがとう」

「いえいえー。と言いたい所だけど、とりあえずウチでお茶でもどう? ぶっちゃけ境内で倒れられると面倒くさいから上がりやがれください?」

「凄く口が悪いね。ありがとう、ご厚意に甘えさせてもらうよ」

「ん。じゃあ私パパ呼んでくるから、ホシミ。案内よろー」

「はいはい。全く、此方が望んでいることとはいえ、いつも強引だね君は」

 

 ちらりと横に座る(びゃく)を見る。

 いないし。

 

「じゃあ行こうか、佚依」

「はい」

 

 動物の嫌い度が2上がった。

 

 

 

 ○

 

 

 

 やはりというべきか、中は普通のアパートだった。特に畳々しいだとか、木目びっしりだとか、そういうことはない。フローリングのリビングに、カーペットに、キッチンにと。なんなら和風らしさの欠片も無い部屋。若者風や現代風を嫌う神主さんというのはどこへ行ったのか。

 

「ああ、佚依。そうじゃないんだ。この一室が全て四ツ木の部屋みたいなものだから、こういう感じでね」

「ブルジョワジーだった」

 

 えぇ。子供部屋がアパートの一室丸々一つってこと? すごすぎないですかそれは。

 部屋が余ってるから、とかなのかな。大家が実家であればこそ、って感じか。お金持ち怖い。そういえば先輩の実家もお金持ちなんだっけ。だからおかしなことだと気が付けないんだ……。

 

「パパが来るまでもうちょっとかかりそう」

「やっぱり忙しいんじゃないですか。日を改めた方がいいんじゃ」

「ああ大丈夫大丈夫。単純に着替えてるだけだから。それよりさ、佚依お姉さん」

「はい」

「ホシミの彼女ってマジなの? キスとかした?」

 

 星命先輩に肘鉄を入れる。

 

「私は先輩の彼女じゃないです」

「彼女じゃなくても良いからさ、キスとかした?」

「してないです」

「えー。じゃあなんか、えっちなこととかした?」

「イヤー&アイランド」

「別に普通だよ、これくらい。学校でみんな話してるよ?」

「中学生ってこんなに穢れてましたっけ」

 

 最悪U15でしょ君。R15にも、R18にも遠いよ、まだ。

 

「そもそも星命先輩と私はそういう関係じゃないので」

「なーんだ。じゃあホシミがいつも話してる事、大体嘘なんだ」

「先輩は嘘吐きですからね」

「いやいや佚依。私が佚依に嘘吐いた事なんかあったかな?」

「はい、毎日」

 

 好きだよ、なんて。

 ずっと嘘を吐いている。

 

「君に嘘なんか吐かないのになぁ。すべて本心さ」

「別に気にしませんよ。先輩が嘘吐いていたって。そういう人だって知ってますから」

「評価低いなぁ私」

「あは、ちなみに私からもホシミの評価低いよー」

「それは知ってる」

 

 まぁ、仲が良いんだろうな、とは。

 ひしひしと感じられる。私が異物なんだろうな、とも。

 

「そういえばさ、お姉さんさっき、私の事ヨルツキって呼んだじゃない?」

「あ、うん」

「いやぁ~、このご時世にそこまで調べてくれる人がいるとちょっと鼻が高いよね、神社の娘としては」

「四ツ木、君は神社の娘であることをいたく嫌がっていた記憶があるんだけど」

「私が嫌がる分にはいいけど、他人には好いていてほしいの。わかんない? この気持ち。わかんないか、ホシミだもんね」

「ぬぅ、わからないな」

 

 考える。どうやら先輩はヨルツキちゃんの容姿は知らないらしい、というのが一点。四ツ木ちゃんはヨルツキちゃんのことを知っているらしい、というのが一点。神社関係者以外がヨルツキちゃんの事を知っていると誇らしそう、というのが一点。

 これらを加味すると。

 

「ヨルツキちゃんは、ここの神様なんだ」

「ウチの神様をちゃん付けで呼んだのはお姉さんが初めてだけどねー」

「謝っておいた方がいい?」

「気にしないんじゃないかな、多分」

 

 それは良かった。

 まぁ、本人にも許されていたっぽいから、わかってはいたけれど。

 

「水跳夜月。品場神社のアイドルにして神様!」

「アイドル?」

「うん。グッズが出てるよ」

「収入源?」

「まぁ、勿論それだけじゃないけどね」

 

 赤裸々だなぁ。

 

「もしかしてモデルが四ツ木ちゃんだったりする?」

「えへへ~」

 

 嬉しいらしい。

 私なら、神社で自分のグッズが売られているの、すごく嫌だけど。

 最近の子は進んでいるなぁ。

 

「どれほど伝統伝承と口垂れても、時代の荒波には逆らえんよ」

「あ、パパ」

 

 十分ちょい、くらいだろうか。

 四ツ木ちゃんと話し込んでいると、後ろからそんな声が聞こえてきた。

 厳格そうな声──だけど、どこかで聞いたことのあるような声。

 

「宮司の品場嘉白(かばく)という。先ほどぶりだな、とは言っておこうか?」

「うわ」

 

 うわぁ。

 ええ、そういうことなんだ。

 

「い、佚依。うわ、は流石に失礼が過ぎるぞ」

「あ、すみません。ええと」

「ふふ、話には聞いているさ。ホシミの彼女、であろう?」

「うわぁ」

 

 この人、どれだけ流布してるんだソレ。

 割と本気で縁切った方がいいんじゃないだろうか。部長クラスに人間性が劣悪だ。

 

 にしても、そういうことか。

 ヨルツキちゃん。その母親が、(はく)。四ツ木ちゃんの父親が、(びゃく)。となれば、図式はもう大体完成だ。

 四ツ木ちゃんに自覚が無いのが気になる所ではある。あるいはわかっているけど、私や星命先輩の前だから隠している、とかなのかな。確かにそれだったらグッズにあれだけ誇らしげだったのも頷ける、かも?

 

「パパ、知ってる? そういうの世間ではセクハラっていうんだよ」

「悪いのはホシミだろう。我々が何度惚気話を聞かされたことか」

「それはそう」

 

 さて、そうなると当然の疑問が浮上する。

 (はく)は何故朱月神社に入り浸っているのか、という問題だ。この場に現れない事も気になる。ここで私が"四ツ木ちゃんのお母さんは?"とか聞いて、もしいない、と返ってきた場合の空気が大変だ。死滅する。私自身空気を読まない方ではあるけれど、いたたまれない空気に自ら突っ込もうとは思わない。

 ううん。

 流れに身を任せるのが一番と見た。私は自ら話題提供をしないことにしよう。

 

「それで、ホシミ? 今日はどんな用向きだ」

「ああ、佚依が聞きたい事があるっていうんだ」

 

 ううん。

 そうだった。私は話題を出すためにここに来たんだった。

 

「そんな大それたこと、ではないんですけど」

「ああ、聞こう」

「この街を挟んで、正反対。真反対。そこにある神社について、何か知りませんか、という」

 

 聞く。

 聞くと、きょとん、とした顔になる。二名。

 嘉白と星命先輩だ。

 

「え、そんなことを聞きたかったのかい?」

「ふむ、それならホシミの方が詳しいのではないか?」

「……」

 

 いや。

 それは。

 

「ええと、あの神社の名前の、読み方とか」

「あかつき神社だよ。あれ、会った時に言わなかったかい?」

「その、あそこで祀られている神様の名前とか」

「アカツキだよ。神社の名前がそのまま、神の名さ」

「ええと」

 

 ええと。

 あの、その。

 

「申し訳ありませんでした」

 

 頭を下げる。ちゃんと下げる。無駄な時間を取らせてしまった。

 いや、先輩にあの神社の事を話すのは忌避感があったというか。話題に出すのが嫌だったというか。

 だけど、確かにそうだ。あの神社に足繫く通って、誰よりも詳しいだろう人が横にいるんだから、ソッチに聞けばいい、と。いや、はや。そう。その通りだ。

 

「まぁホシミは頼りないからねー、すぐ嘘吐くし。適当言われるって思ったんじゃない?」

「さっきから酷いなぁ」

「しかし……朱月神社か。長らく行っていないが、これを機に掃除でもしにいくべきかな」

「ああ、それなら私が毎日のようにしているよ。絶やす事は無いさ」

「……そうか」

 

 ちょっと含みがあった。

 (びゃく)は知っている、ということかな。先輩が、神様を好いている事。

 その上で私を彼女扱いしたというのなら、酷い話だ。あるいは、何かが変わっている事を期待した、という可能性も無きにしも非ず、だけど。

 

「本当にそれだけなのか、聞きたい事というのは」

「……ええと、じゃあ、もう一つ」

「ああ、なんでも聞いてくれ」

 

 ちら、と。

 四ツ木ちゃんの腕を見る。そこには銀色のバングルが。

 

「稀有な巡り合わせ、ってなんですか。私が、選んですらいないそれに、何を見たんですか」

 

 頭ヤっちゃってる人でなく、彼が本当に(びゃく)であるというのなら。

 聞きたい。知りたい。これは本当に、純粋な疑問。好奇心だ。

 

「ふむ」

 

 嘉白は顎に手を当て、唸る。

 そして、星命先輩と四ツ木ちゃんに向けて──シッシッと、手を振った。

 

「ええー」

「ちょっと出ていなさい、四ツ木。ホシミも。これは非常にパーソナルな話題だ」

「横文字苦手だったんじゃ」

「いいから。ついでにホシミ、四ツ木の勉強をみてやってほしい。最近テストでまた赤点すれすれだったらしいからな」

「げえー」

「はいはい。じゃ、行くよ四ツ木。あ、一応言っておくけど神主。佚依に手を出したら、全力で通報するからね」

「出すワケがなかろうが」

 

 言って、わちゃわちゃして。

 二人が部屋を出て行く。いや、ここが四ツ木ちゃんの部屋なんだから、私達が外に出るべきだったのでは? 勉強道具とかここにあるのでは? とか思わないでもない。思わないでもないだけ。

 

 二人の足音が完全に遠ざかったのを確認してから──ふぅ、と息を吐いた。

 嘉白が。

 

「さて、どこから話したものか」

 

 

 

 ○

 

 

 

「佚依。お前は自身が特異である、という事は理解しているな?」

「まぁね。家族や友達には誰一人として、見えている子はいなかったし」

「ああ。お前は見えないものが見え、聞こえないものが聞こえる。どちらか片方、というのは稀ではあるもののそれなりに数がいるが、両方揃えているのは珍しい。月並みではあるが、千年に一人、という逸材である自覚を持て」

「嫌な自覚だけど、うん」

 

 あぐらをかいて座る嘉白。その背後に、(びゃく)が現れる。

 本体というか、過ごしやすいのはそっちの身体なのかな。

 

「そう嫌がるものではない。その体質を欲してやまないものも少なくはないからな。まぁ、それは良い。それで、稀有な巡り合わせ、についてだったか」

「うん。四ツ木ちゃんの運命が散り散りになる事を防いでくれる、だっけ」

「分かっているかとは思うが、四ツ木はヨルツキだ。ただ、本人に自覚は無い。加え、満月の夜でしか、四ツ木はヨルツキになれぬ」

「そうなんだ」

「そして察しているだろうが、我が妻たる(はく)は、すでに息絶えている。人間としてはな。初めから短命である予定だったが故何も問題のある話ではないのだが、四ツ木には寂しい思いをさせてしまった。それだけは後悔しているよ」

「そうなんだ。聞いてないけど」

「聞きたがっている雰囲気が出ていたからな」

 

 良かった、あの時話題に出さなくて。 

 セーフ。

 

「……運命、というものが存在する」

「いきなりだね」

「ああ。運命というものを信じるか? という問より、断言である方が信じられるだろう」

「うん。まぁ、あるんだろうな、って」

「これは、俗説にあるような、全てが定められた道筋、というものではない。川の流れのようなものだ。源流と海こそ定まっているが、そこに至るまでは多様。故にそこまで気にする必要のあるものではない」

「私には関係ない話っぽいけど、すぐに終わる?」

「お前には堪え性というものがないのか?」

 

 だって。

 そんな難しい話、いきなり述べられましても。温度差温度差。

 

「難しい話など一切していないだろう」

「続けてくださいごめんなさい」

「……。まぁ、良い。して、運命だ。先ほどお前は、私には関係のない話、と言ったが……大いに関係がある」

「はあ」

「この世にはな、大きく分けて二つの川がある。生者の流る川と、生きていない者の流る川。それらは決して交わることなく、源流から海までを進んでいく」

「死者の川、じゃないんだ」

「死んではおらんからな。これら二つの川が交わらん理由は、単純に見えぬからだ。生者は生きていない者を見ることが叶わぬ。見えぬし、聞こえぬ。干渉の出来ない二つは決して交わらん」

「ああ、それで私と」

「そうだ。我や四ツ木のように、二つの川を跨ぐ者も、いつかはどちらかを選ばなくてはならなくなる。生者を選べば、生きていない者は見えなくなる。生きていない者を選べば、生者に干渉する事は出来なくなる。しかし、お前は違う」

 

 話が長い。

 要約すると、私が見えるし聞こえるから、その二つの川とやらの橋渡しになれるよ、ってことでしょ。

 

「お前が見て、お前が聞いてくれるのなら、生者は生きていない者の意思がわかる。それがどれだけ稀有な事か、わからぬということはあるまい」

「じゃあ、やっぱり。星命先輩が私を求めるのは、そういうことだよね」

「……」

「あの神様の言葉が聞けて、あの神様の笛が聞けて、あの神様の歌が聞こえる。あの神様の喜ぶ顔も、あの神様の憂う顔も、全部全部見える私が──欲しいんだ、星命先輩は」

「否定はせん」

 

 じゃあ、やっぱり。

 そんなの絶対、好きじゃない。お前が欲しい、なんてのは確かに告白の言葉にあるけれど、意味が全く違う。本当に欲しいだけだ。そこに愛情なんか、欠片も無い。

 

「気分を害したか」

「いいよ。知ってたし」

「……実を言えばな。我もお前が欲しい。我が川を選ばなくてはならぬ時はすぐそこだ。しかし、四ツ木はまだ幼い。一人には出来ぬ」

「生者を選べばいいのに」

「最愛の妻と、永遠に引き裂かれることになる。妻と娘。二者択一は、はは、この歳になって尚、重い」

(はく)みたいにずっと生きているわけじゃないの?」

「生きていない者を選べば、この感情も忘れるだろうな。本来の……我の、(びゃく)の性質に戻る。娘を想う気持ちはあくまで嘉白のものだ。無論、四ツ木にヨルツキであることを選んでもらえたら、それが一番だが……同時に、あの子が選ばないだろうことも祈っている。人間のまま、幸せになってほしいとも」

「面倒くさいね」

「お前、人の心がないのか?」

 

 そっちももうすぐ失くすくせに。

 

「結局、フィルター程度の求められ方なんだ。別に私だけを見てほしい、なんて言わないけどね。でも、それなら最初から、好きだとか付き合ってほしいとか言わないで欲しかったや」

「……ホシミの過去も知る身としては、何も言えぬ」

「いいよ。そういうのは、先輩から直接聞くから」

 

 ただ、ちょっと。

 飽いちゃったな、程度の。

 

「四ツ木ちゃんは」

「む」

「散り散りになっちゃう、んだっけ。あのバングルがないと」

「ああ、あれはお前が、誕生日プレゼントに、と思って選んだものだろう」

「選んでないけどね」

「思いが少しでも込められた。それだけで、あれはある種の呪いを持つ」

「物騒な」

「まじない、でもいいぞ。あれは、身に着けているだけで生きたいと……生者でいたいと思い得る、そんなまじないがかかっている。散り散りになる、などとは半ば脅し文句だ。あの子には神でなく、人間である道を選んでもらいたいという、嘉白という男の親心だよ」

「回りくどいね」

「さてはお前、本格的に人の心がないな」

 

 結局神様にしたくないんじゃん。

 じゃあ神様にならないで、って言えばいいのに。あ、自分が神様だって知らないんだっけ。

 

 でも。

 

「この前、ヨルツキちゃんと会ったけどさ」

「ああ、満月の夜のことか」

「凄く楽しそうだったよ。表情は変わんなかったけど、胡弓だっけ? 綺麗な音を奏でててさ」

「……」

「生者であることを選んだら、ヨルツキちゃんはどうなるの?」

「……消える。どちらもそうだ。ヨルツキである事を選べば、四ツ木は消える」

「自分の娘に残酷な運命を強いたものだね。あるいは、敷いたのかな」

「こればかりはな。我にも、どうにもできぬ事柄だった」

 

 本当に面倒くさいな。なんかしがらみでもあるんだろうか。

 (はく)を見習った方がいい。あいつ、学校のどこにいても、誰と話してても、何をやっててもいきなり現れては話しかけてくる。自由が過ぎる。あと邪魔。

 

「嫌だよ。別に、友人であるのはいいし、そっちが見えるのも聞こえるのも気にしないけど、ただそれだけの目的で使われるのは──愛情だとか、そういう言葉で覆い隠されるのは」

「ああ、それでいい。本来交わらざる川だ。稀有な巡り合わせだが、稀有が常になっては価値も薄れようよ。お前は好きに生きろ。これは、我らの問題ゆえな」

「聞くと悩むから聞かせないで欲しかった」

「ふ、お前が聞いてきたのだろう」

 

 そうだけど。

 ……そうだった。

 

「さて、話は終わりだ。我も仕事に戻る」

「一応聞いてあげるけど、(はく)に伝える事とかある?」

「別に、今の状態であればあ奴とも会話は出来るぞ」

「へえ」

「だからこんなにも憔悴しているのだ」

 

 ああ、今出来るから。

 出来なくなることが、怖いのか。

 

 

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