Heart.1とは、第1話のこと
高校に進学したら、何か特別なことがあるんだろう。そう思っていた。
俺は、市の北側に位置する、幸総北高校に入学した。偏差値もそれなりに高く、学校内の治安も良かった。
しかし、唯一の弱点があった。それは……
俺がちやほやされることだった。
こんな高校だったら、平凡に過ごせるだろうと思った。しかし、こうなるんだったら中学と同じだ。
中学でも、俺は女子にキャーキャー言われていた。何故か?知らん、そんなこと。ただ、かっこいいとか言うのは聞いたことがある。鏡を見てみても、そこまでイケメンじゃない。いや、ブサイクだろ。かっこよくない。
それなのに、高校でもこうだなんて……嫌でしょうがない。なんでこうなるんだよ……
結局、部活は文化系、吹奏楽部にした。中学のソロコンクールで金賞を取るほどの実力。入っても困ることはなかった。
一瞬で先輩を追い越し、いつの間にかアドバイスするようになった。この高校だって、数年前に銅賞や銀賞を取ってるのに。なんで今はこんなことになっている。
暇になり、コンクールでは賞すらなかった。だが、その後にあったソロコンクールでは、圧倒的な差をつけ、金賞を取った。
みんな何を言っているんだ。自分は成績優秀、運動抜群。そんなわけない。何か劣るものはある。中学の成績は
国語4
数学5
英語4
理科5
社会5
音楽5
美術3
家庭科3
技術5
保体4
まぁ、得意教科だけいい感じ。絵心ないから美術は3。料理できないから家庭科も3。保体は微妙。何で4取ったんだっけ。
そんな考えてる暇はない。
冬になり、雪が降り始めた。雪は嫌いだ。滑るし、寒いし、冷たいし。大嫌いだ。
春は大好き。暖かく、ちょうどいい気温だ。嫌いな虫もいないし(というか元々虫は嫌いじゃない)、桜が綺麗だ。
おっと、春ってことは新入生。ちやほやされてるさ。俺は。自転車通学もあるんだろう。ちなみに、片道1時間半。遠すぎる。
というわけで、春から電車通学にした。
電車通学にしても憂鬱だった。毎日潰され、クタクタになって学校に着く。
そして今に至る訳だが、もう死にたい。死んだ方がいっそ楽なんじゃないか?こんなちやほやされないし、憂鬱なこともなくなるわけだ。死にたい、楽に。
そのまま家から俺は登校した。電車は、ラッシュ時間帯なのにも関わらず、1番長い15両ではなく、短い方である6両だ。なんでこんな時間に6両が走ってるんだ。
「いつもと違う号車にしよう」
俺はいつもの4号車ではなく、3号車に移動した。車内は4号車ほど混んでいなかった。
「あっ…!」
俺はドアにもたれ掛かっていた女子生徒を押し潰すような形になってしまった。
「ごめん……」
「……」
女子生徒はうなずくだけ。コミュニケーションが苦手なんだ。俺と同じじゃないか。
制服をよく見ると、女子生徒の胸元に「SOUTH」と書かれていた。ということは、南高校の生徒か。ちなみに、俺の制服には、胸元に「NORTH」と書かれている。
「南高校……」
「北高校……」
俺と女子生徒が同時に言った。
「……どうも」
「……」
またコクりとうなずくだけ。それが1番いいかもしれない。
「苦しく……ない、か」
片言の日本語。日本人だけどさ。
「……」
またうなずく。
「よかった……」
「……」
女子生徒は俺の顔をまじまじと見る。なんだ、なんか付いてるか?
「…北高の…イケメン…」
「……あ、うん……」
この子も同じか。
「……どうでも、いい…」
女子生徒は目をそらす。そして、俺と同時に降りていく時に、紙を渡された。
その紙には、こう書かれていた。
「あした、7:30発判田行き3号車1番ドア」
乗ってろってことだろうか。7:30に3号車か。
俺は今日、帰りが遅くなった。吹奏楽部員は比較的、広報委員会や風紀委員会、そして、生徒会に入っていることが多い。ちなみに、俺は生徒会長。2年生が生徒会長をやるのだ。後期なのも影響しているかもしれない。
生徒会長、副会長、書記の2年生は全て吹奏楽部員が占めている。結構やりやすいが、なんか、気まずい。
さらに、生徒会がある場合、吹奏楽部員が一気に3人いなくなることになる。顧問からしてもそれは困るだろう。ただ、しょうがないことではある。
翌日、朝に昨日言われた電車にのった。1番ドアに女子生徒はいた。俺は昨日とは違う体勢で立った。
「君、なんで今日俺と一緒に」
「……痴漢……襲われない」
護衛ってことだよな。なんだ、俺ってそういう役目するんだな。
「あと……会いたかった」
「へ?」
俺は疑問だった。なんて?会いたかった?俺に?
「俺に?」
「……」
女子生徒はうなずく。話す回数はなるべく少なくか。
「今日、17:00に幸総駅」
「え、怒られる?」
女子生徒は首を横に振る。
「怒りはしない」
「分かった。17:00だな」
「……」
女子生徒はまた頷いた。