楓は俺と相性がどんどん合っていった。その割に、それ以外からの信頼は失い始めていた。なぜだろう。確かに、楓に信頼されていればいい。ただ、少し気に食わない。
「秋人、先行く」
「いってらっしゃい」
楓が先に出ていった。俺はリビングに取り残された。
「秋人、なんか背中が悲しいわよ」
「そうか?」
「楓ちゃんがいないから?」
そうなのか……?もう、よく分からない。
「分からない」
「そう。ゆっくりでいいんじゃない?考えるのは」
ゆっくりでいい、か。何でも早とちりに考えすぎてたか。
「そうだな。ちょっと部屋で考えてみるよ」
俺は部屋に戻った。俺に足りない物は何か。それを考えたかった。
見捨てられていた時期、俺には足らないものだらけだった。生きる意味、必要な人、そして、心の一欠片。
心の一欠片だけは、見捨てられなくなってから、また1つ無くなった気がした。しかし、楓に出会ってから、必要な人、心の欠片は見つかった。
それでも見つかっていない、生きる意味が足らないのだろうか。そんなことはない。気がする。理由を問われても答えられない気がするが。
結局、何も分からないまま学校に行っていた。何が足りないんだろうなぁ。
「おっと、秋人。なんか考え事?」
美山だ。美山は空いてる車内にも関わらず、わざとぶつかってきて言った。それに、俺は冷静に言った。
「そんなとこ」
「ほへぇ、秋人が悩むことあるんだねぇ」
「そりゃああるだろ。ロボットじゃないし」
「じゃあ何で悩んでたの?」
俺は美山に正直に全て言った。
そして、美山は共感するように言った。
「そうだよねぇ。秋人、確かに物足りないところはあるもんね。けど、私も何かは分からないんだよね」
「なんかあるだろ。美山が分かるんだったら見えるものなんだから」
美山は悩みに悩んで言った。
「スポーツできて、スタイルよくて、頭よくて、冷静で、生徒会長。もう悪いとこ無くない?」
「そうなんかなぁ、気のせいか?」
「そうかもしれないよ。だって、秋人感情あるじゃん」
それは関係あるのか?
「関係あるのか」
「あるよ。だって、秋人、私にはすごいフリーに接するじゃん」
言われてみれば確かに。それ以外にフリーに接する女子は楓くらいかもしれない。
「そう、だな」
「うん。秋人、これからもよろしくね」
美山は笑って言った。
俺たちは学校に着くと、違うクラスのため別々に行動した。いつも通り女子の視線を集め、視線を痛く感じながら席に座る。
「秋人、おはよ」
「あ、おはよ。今日も痛いな」
「視線」
「そう。お前はいいよ。優しい視線で」
俺がそんなことを言うと、先生が入ってきて言った。
「ほーら、始めるぞー」
俺は前を向き、楓は自分の席に戻った。
無事部活まで来ることができた。唯一と言っていってもいいほど、居心地がいいのがこの吹奏楽部。キリキリと痛い視線じゃなく、ふわりと優しい視線。
「黒山先輩、この11小節目なんですけど」
自分のパート、ユーフォニアムの後輩、七瀬もも。
「おう。バビロンのここはユーフォが出していいとこだぞ」
「ここ、スラーかけた方が良いですか?なめらかな感じで」
「ここはタンギングを使って力強く表現しよう。ただ、3拍目からあんまり音量を出しすぎないでね」
ももは俺のかわいい後輩だ。2年生の後輩で、1年生はこの子の妹、七瀬ゆみ。名前をひらがなにする癖でもあったんだろうか、この子たちの親は。かわいいからいいけど。
「あと、73小節目、先輩どうするんですか?」
本当はバリトンが吹くんだが、この吹奏楽部には居ないからユーフォが吹くことになっている。
「そうだな……俺が吹くよ。あと、ゆみに言っといてほしいんだけど、2小節目から5小節目まで俺だけ、そこから10小節目までは俺ともも、11から73まで3人、74から76が俺だけ、74から98まで俺ともも、99から115まで2人、116と117がももとゆみ、118からCODA行って最後まで3人。いい?」
ももはメモ帳にメモしたものを読み上げた。
「2から5は先輩だけ、6から10まで私と先輩、11から73まで3人、74から76が先輩だけ、77から115まで私と先輩、116と117は私とゆみ、118からCODA行って最後まで私と先輩。いいですか?」
「完璧。それでお願いね」
俺はもも肩を2回優しくたたいてそこから歩いて行った。いろんなところに調整しに行きたいからだ。
「楓」
楓は、今回のコンクールメンバーから外れてしまった。
「なに」
「この曲のCのとこ、練習してくれないか?今度やるときに楓から教わりたい」
「うん」
楓にショックを与えないように、俺たちに役立つことをさせている。
結局、足りないものって何だろう。
休止から明けまして、不定期投稿になります。これから休止するものが多くなると思いますが、気長に待っていてくださいね。
次回は一週間後くらい。お楽しみに!