部活も引退して、本当の暇人になった。大学進学はなしで、成績も上の下。何もしなくたっていい。
さて、今日は待ちに待ったデートの日。楓との待ち合わせで駅を選んでいた。俺はすぐに立ち上がり、駅に向かった。
駅に着くと、駅前広場の木で楓が待っていた。楓の服はいつも見ている制服とは全く違う私服だった。肩が出ていて、水色がかった服で、かわいい。
「待った?」
「待った」
普通は「今来たところ」と言うだろうけど、楓と俺の場合は正直なことが多い。お世辞もなく、かわいくなかったら「それかわいくない」、かわいかったら「それかわいい」とハッキリ言う。楓だってそうだ。
「ごめん」
「楽しめたら許す」
楓は俺の手を握って言った。
「つれてって」
「あぁ」
俺は近くのバス停に向かった。
遊園地まで行くバスで、今の時間帯は20分に1本来る。
「次は……」
「10:40」
楓が教えてくれた。
「じゃああと5分くらいか」
「秋人、後ろ、結構並んでる」
たしかに、後ろに結構並んでいた。俺たちは仕方なく1番後ろに並んだ。
「秋人、手」
楓は俺の手を握る。
「あぁ、そうだったな」
楓が少し笑っていたような気がした。
遊園地では、いかにもカップルのような振る舞いをした。手をつなぎ、アトラクションに乗ったりして。あ、俺はアトラクションが得意でも苦手でもない。それに対して楓は……
「キャーッ」
「ヒャーッ」
……
怖がっていた。ジェットコースターどころか、まずアトラクション全体が苦手らしい。
「ふぅ……」
「楓、大丈夫かよ」
「無理……」
楓は近くのベンチに座った。そんなにダメなんなら乗らなければいいのに。とも思ったが、よく考えたら1人では流石にいないか。俺が乗った時点で乗らないといけない使命感にあるんだろう。
「じゃあ、お化け屋敷行くか?得意とか言ってたよな」
楓は頷いた。お化け屋敷は得意なのかよ……
「行くよ」
「待って、1人にしないで」
楓はトコトコとついてきた。
お化け屋敷は怖くない感じで楓は進んでいた。しかし、上から降ってくる仕掛けで、楓は珍しく叫んだ。
「キャーッ!!」
楓は俺に後ろから抱きついた。
「楓、もう大丈夫だぞ」
「嫌っ、まだいるもん」
もう怖くなっちゃったか。たしかにここまで来ると怖いけど。
「じゃあ、ゆっくり歩くぞ?」
「私はこのままでいるから」
「はいはい」
俺はゆっくり歩き始めた。
「ひゅっ!」
変な声が出た。楓か。
「やめてーっ!何も出ないからーっ!」
楓じゃない。誰だろう、怖がってるのは。
「美山さん」
「美山?」
そこにはうずくまった美山がいた。
「何してんだ、美山」
「秋人!?」
美山は少し顔を上げて言った。
「1人で挑戦してたら、怖かったのっ」
美山は前から抱きついた。
「ちょっ、胸、当たってる」
「いいじゃん!」
よくない。と思いながら、俺は仕方なくお化け屋敷から出た。
「秋人、離れたくない」
「なんで?」
「だって、いいんだもん」
楓は俺に抱きついたままでいた。
「楓ちゃん、随分と好きそうだね」
「そうだな。好きだし」
「じゃあ私は違うの乗ってくる。じゃね」
「じゃあな」
美山は違うアトラクションに乗りに行った。
「秋人、観覧車」
「乗るか」
「うん」
俺と楓は観覧車に向かった。
観覧車は空いていて、すぐに入ることができた。俺は楓の横に座って、楓をじっと見つめていた。
「外は」
「興味ない」
「何に興味あるの」
「楓」
「感想は」
「綺麗」
「それ以外」
「好き」
短い会話がずっと続いてくる。
「感想じゃない」
「知らない」
「知ってるでしょ」
「知らない」
「綺麗以外は」
「好き」
楓はやっと諦めたようで、俺の肩に寄りかかってきた。
「私も」
「知ってる」
「それは知ってるの」
「これだけは知ってた」
楓は俺に甘えた。すると、たまにしか出さない性格をしてきた。
「秋人、大好きっ」
2人きりで、機嫌がよく、安心してる時じゃないとこんな性格にはならない。
「俺も」
「知ってるっ」
楓は甘えたままだった。どっちも景色なんて見ていなかった。