「今日の体育倉庫当番だれだ?」
体育の授業が終わり、俺は手を挙げて体育倉庫に向かった。バスケが終わった後だからか籠ごと持って行くことになった。
「かいちょっ」
「あ、美山。体育の当番か」
「うん。会長、バスケうまいね」
なんか呼び方が慣れない……けど、しょうがないんだろうけど。
「秋人」
「え、あ」
「こっちの方がいいでしょ」
心読まれてた?なんかそういう気がするんだけど。
「秋人、今日って部活なしで帰る?」
「無いからね。そのまま帰るかな」
「そっか。明日、放課後生徒会あるからね」
「おっけ」
俺は体育倉庫にバスケットボールの入った籠を入れて体育倉庫から出た。
俺は帰り、楓と一緒に家に帰ることにした。
「楓、最近調子どう?」
「秋人と会う回数少なくなって寂しかった」
ありゃ、大変なことになってるな。
「もっと会いたい?」
楓は頷いた。そうか。じゃあ、なんか定期的に会いに行こうかな。
「今度いつ空いてる?」
「土曜日。それが何」
「デートしない?」
「デート……っ」
楓は少し俺から離れた。
「え、嫌だった?」
「嫌じゃ、ない」
変なところで区切る。なんか話し方に違和感感じるな。
「そう?ほら、電車来たよ」
「空いてる」
「夕方のラッシュ前だしね」
やってきた電車の中は涼しくて、かつ空いていた。
今更にはなるが、当然北高と南高は制服通学。この時期は衣替え後だから、半袖での登校になっている。北高ではジェンダー平等のため、男女の服装は制限していない。女子でもズボンの着用は可能だ。
一方南高では、ジェンダー平等の取り組みは始まっておらず、白い半袖のYシャツに、女子はスカート、男子はズボンになっている。女子はスカートの下に着用するのは夏だけ禁止らしく、それに習って楓もスカートの下はパンツらしい。見せてはくれないけど。
今まで汗だくでいたが、電車の中で汗は引き始めた。
しかし、今日は不幸なものだ。暑さのせいだろうか。電車の電気を送る変電所がショートし、駅の間で電車が止まってしまった。電車によっては非常電源を搭載している電車もいるらしいが、この電車は古い分類のため、非常電源は搭載していない。
さらに、前の駅から定員人数くらいの人が乗ってきたため、今の車内はまぁまぁ混雑している。
停電のため、冷房は切れ、乗客は扇子や手持ちの扇風機、手で仰いだりして暑さをしのいでいた。
だが、それも限界がある。電車は2時間しても動かない。車内への避難もまだ進まない。放送によると、暑さによるショートで無線が通じないようだった。それで許可が出ないんだろう。
楓は白いYシャツがだんだん透けてきた。その透けたところを見ると、乳首が丸見えだった。
「え、おい、楓。下着は」
「水泳で暑くて着てない。って……」
ようやく気づいたらしく、楓は前を隠した。しかし、暑すぎる。窓を開けているが、風もない。
気温は一向に上がっていく。今は43度。限界だ。
「暑い……透けてる……」
「楓、とりあえず生きよう」
俺がそう言うと、ようやく外への避難が開始された。俺は最後の方に降りて、4時間ぶりに外に出た。
「楓、大丈夫か?」
「死にそう……気持ち悪い……」
ここから俺の家まで何分くらいだろう。風呂を貸してあげたい。汗をかいて気持ち悪いんだと思うから。
「10分か」
「どうしたの」
「あ、いや。なんでもない」
俺は家に向かって歩き始めた。うげぇ、Yシャツが肌にくっついて気持ちわりい。
「バスねぇかな」
「混んでる」
その発言通り、通り過ぎたバスは身動きがとれないほどの大混雑。
「歩くか」
俺は再び歩き出す。
家に着くと、俺は先に母さんの許可をもらいに行った。
「楓は少し待ってて」
俺は母さんのところに走る。
「母さん、彼女を風呂に入れたい。いいか」
「あら、また優男復活かしら?いいわよ。そうねぇ、もう彼女ができる年だものね」
「そうだな」
「反抗期が無くて、お母さん安心だわ」
「母さんは俺を産んでくれた人だ。大切にする」
俺は楓のことを呼びに行く。すると、周りの不良に絡まれていた。
「かわいいね、嬢ちゃん。遊んでいかね?」
「あのさ、この近くにカラオケあんだけどよ、一緒に行こうぜ」
ああ、楓が1番苦手なタイプだ。
「楓、ごめん。行こうか」
「おい待てやコラァ」
「話してる途中だろうがよ、やんのかオラァ」
昭和のヤンキーかよ。やってもいいけど、俺の場合、「やる」じゃなくて「殺る」になるぜ。
「悪いがだる絡みしてる時間はないんだ」
「だる絡みとはいい度胸じゃねぇか」
もういいや。3mくらい飛ばしとこ。俺は蹴飛ばした。
「うおっ」
「さいなら。あんまり家に迷惑かけると父さんが怒るぜ」
俺は家の中に入る。一応父さんはまだ若い。まだ40代だし。
「母さん、風呂って沸いてるか?」
「えぇ。入ってきていいわ」
俺は一回脱衣所に向かおうとしたが、楓にどういう順番で入るかを聞いた。
「楓、先に入る?」
「うん」
楓は脱衣所に歩いて行った。俺が先に行ってたから分かったんだろう。
「秋人?」
「ん?なんだ」
「一緒に入る。だから先」
うお、マジすか。一緒に入るってもうそんな関係まで行ってたんか。
「え、もうそういう関係?」
楓は頷く。おぉ、俺はいつの間に成長してたんだ。
「あ、そうか」
変態じゃないし、裸でグヘヘなんて言わない。俺が心配しているのはその後の噂。あんまり嫌な噂が広がらないといいが。
「秋人、元気ない」
「え、あ、元気がないわけじゃないんだ。あの、な」
楓は不思議そうにして浴室の中に入った。ああ、ばれないといいなぁ。週刊誌やパパラッチがいるわけではないが、不安だ。
「秋人、背中洗って」
「おけ」
俺は楓の背中を洗う。思ったよりちっちゃい。
「かわいい」
「なんか違和感」
なんだ?
「絶対背中小さいからで言った」
「うげ、そ、そんなんじゃ……」
「汗かいてるから早く洗って」
なんか少し怒ってる?ごめん、楓。
「楓、怒ってる?」
「口より手動かして」
やっぱり怒ってる気がする。俺のせいだけどさ
「楓──」
楓は振り払って風呂に潜る。きっと弱いところをつかんじゃったんだろう。
「……楓は俺のこと嫌ったか」
「んん」
そう言いながら頷く。そうか、そうか。嫌っちゃったか。確かにそんな人嫌だもんな。
「本当か」
楓はうなずく。もう決まりだ。嫌われる行動をしてしまったんだ。俺は。知らず知らず悪口を。本当に悪かった。
「どうにか、機嫌直してくれないか」
「秋人がずっと一緒にいてくれるんだったら」
俺は楓に抱きついた。
「許す」
「よかった」
俺は短い会話で済ませた。
一緒に風呂に入り、俺たちの会話は学校の活動についての話になった。
「そっちの生徒会長って誰なの?」
「私」
「へぇ、そうか……」
ん?待てよ、私って、楓が!?
「楓が!?」
「そ」
マジかよ……風呂あがったら南高との会議俺に交代してもらおう。
「北高は」
「楓が知ってる人だよ」
遠回しに言うが、俺のことだ。
「そうなんだ」
「そ」
楓は笑った。久しぶりに笑った顔を見た。楓は普段、無感情。感情を表すことはそんなにない。いや、ほとんどない。
「秋人が生徒会長だったらいいな」
「そうか?ま、楽しみにしとけ」
俺は楓に近づいた。風呂は2人はいるともう窮屈だが、俺と楓にとってはくっつけてちょうどよかった。
「秋人、肌白い」
「そうかな」
楓は俺の頬を触る。
「うん、白い」
「関係あるか?触ったりして」
「分かんない」
「わかんないんかい」
俺は風呂に少し深く入った。
「あがる」
普通に考えて「あがる!」という意味に聞こえるだろうが、楓の場合は「あがる?」になる。あがるときは勝手にあがるだろうから。
「あがろっか」
俺は浴室のドアを開けた。籠の上側に楓の着替え、下側に俺の着替えがあった。
「楓、明日って生徒会の仕事あるか?」
「ないけど、朝練ある」
朝練かぁ。ってことはバスケ部とか、運動系?
「部活何入ってるんだ?」
「吹奏楽」
ありゃ、同じか。関係性ありすぎじゃないか?
「楽器は」
「ユーフォニアム」
おっ、一緒!
「俺もなんだ。吹奏楽」
「ユーフォニアム」
「そう。今、コンクール曲やってるのか?」
「うん。難しい」
コンクール曲っていうと、「バビロン川のほとりで」とかかな。北高はこの曲だ。
「バビロン川のほとりでって曲。北高と同じ」
「そうだな。今度、そっち行ったとき教えるよ」
俺は着替え終わると、脱衣所から出た。楓もすぐ後ろをついてくる。
「母さん、上がった──」
「秋人!これ見て!」
母さんが慌てて俺にスマホを見せる。
そこには、北高の男子生徒が北高の女子生徒と乱交している姿があった。ニュースに取り上げられ、明日の学校は休みらしい。
「何だよ、これ……」
俺はその場に固まってしまった。