それではその13、どうぞ
「…まあ、そうもいかないけど、俺たちが出来ることは少ないんじゃないか?」
「そうなんだけどさぁ…」
将臣がうーんと悩む。因みに今は朝武さんの負担は軽く出来ないかと話し合っているところだ。けど現実問題無理だろうなぁ…2人ともただの一般人だし、特殊な力を持ってる訳じゃないし。
「でも黙って見てろっていうのもなんかな…叢雨丸もあるし」
将臣は普通じゃなかったな。将臣が持ってる特別な刀”叢雨丸”かつて妖怪を本当に倒したという刀で穢れを祓える唯一の刀。
「けどあれを正面切って祓えると思うか?」
「正直無理…だな」
あんな怪物みたいなのと戦うんだ、生半可な技量じゃまったく太刀打ちできないだろうし、最悪こっちが命を落とす。今は朝武さんの言う通り、任せるしかないな。
「あの…」
「あ、常陸さん」
いつの間にか常陸さんが来ていた。
「何を話されてたんですか?」
「将臣の相談に乗っててね」
「有地様の?何なんですか?」
「さっきのことなんだけど…」
「さっき…なるほど」
察しが良い。何のことかすぐ分かったみたいだ。
「何か出来ることはないかなぁ…って思ってたんだけど」
「ただ嫌いで突き放してるわけではありませんし」
それはなんとなくわかる。優しさゆえに俺たちを巻き込まないようにしてると思う。
「それに有地様と神谷様が危険にあったら、そっちの方が嫌ですから」
「そっか。あのさ…」
「どうなさいましたか?」
将臣の疑問に常陸さんはきょとんとした顔をしている。
「その”様”っていうのは止めてもらえないかな?なんか変な感じがしてさ」
それは分かる。俺にも付いてるしな。
「もう少しフランクでいいよ」
「ですが有地様は芳乃様の婚約者ですから」
「それ言ったら、俺ただの一般人だよ?こんな奴に様って付いてたら何事かって思わるかもしれないし」
それで俺だけじゃなくて常陸さんにも変な噂が立ったら嫌だしね。
「俺も婚約の話は決定じゃないし、公表もしてないから。普通にお願いできないかな?」
「…分かりました。では有地さん、神谷さんとお呼びしますね」
「うん、よろしく」
やっぱりさん付けの方がむず痒さはないね。そっちの方がいい。
「あ、あと…」
「なんでしょう?」
「いや、何でもないです…」
やっぱり気にしてるんだな。でも一般人である俺たちには何も出来ない。俺は特別な力は持っていないし、将臣はおそらく命を賭ける戦いなんて経験したことがないだろう。命を賭ける戦いは普通はないんだけどな…ともかくこの件は一時的に預けておくしかない。
「有地さん、神谷さん突然ですが私とお出かけでもしませんか?」
「はい?」
本当に突然だな。全く予期していなかったようで将臣はかなり驚いている。
「いいんじゃない?良い気分転換になるだろうし」
「…そうだな。たまにはいいか」
「じゃあ決まりですね。少し待っていてください」
そう言うと常陸さんは家の方まで戻り、少ししたら鞄を持って出てきた。
「お待たせしました。行きましょうか」
そう言い歩き出した瞬間。俺のポケットに入っていたスマホがピリリッと音を立てて震えた。
「あ、ごめん。電話だ」
スマホを取り出すと画面には大矢俊樹と書かれ、電話を取るか、拒否するかのボタンがある。俺は応答する方のボタンを押した。
「もしもし」
『もしもし、大矢だ』
「どうしました?」
『前言ってた調査が終わったから、その連絡にね』
調査というのは以前回線強度を上げるため店や施設ごとの優先度を調べるという調査だ。
「どうなりました?」
『それの報告もしたいから、今から会えないかな?』
「あー…分かりました。すぐ行きます」
そこで電話を切り、常陸さんと将臣の方に向き直る。
「ごめん。急に仕事が入っちゃったから、一緒に行けないわ」
「あら、大変ですね」
「俺はまた今度で」
そう言い、家に戻り部屋からパソコンを持ってくる。
「じゃ、2人はデートを楽しんで」
「デ、デート!?」
将臣驚きすぎだろ。
「神谷さん、行ってらっしゃいませ」
「うん。行ってきます」
そう言い、2人よりも先に境内から出て行った。
「こんにちは~」
指定された以前最初に顔合わせをした事務所に入る。もうすでに大矢さんがいた。
「お、来たね諒君。急に大丈夫だったかい?」
「平気ですよ。それでまとめたのはどれですか?」
俺がそう聞くと、大矢さんは鞄の中から1つのUSBメモリを取り出した。
「これに入ってるよ。パソコン持ってきてる?」
「持ってきてますけど」
「じゃあこれ挿し込んで見て」
大矢さんに渡され、まずパソコンを起動させる。起動し終わったら、メモリをポートに挿しフォルダを開く。開かれたフォルダの中にはいくつか資料が入っている。
「どれを開けばいいですか?」
「一番上のを開いてくれ」
言われた通り一番上にある資料をダブルクリックし資料を開く。
「それの一番最初には、各お店の来客人数とかを何年か平均させたものだよ」
資料には業種ごとに細かく表分けされ、今年、去年、一昨年の平均が載っている。その他にも色んなデータが載せられているが、今は割愛する。
「これに合わせて、やっていく感じですか」
「そうだね。やっぱり来客人数の多いところが優先だと思う」
となると各表の上の方に来てるやつか。規模的にも大きなところがやっぱり多いな。
「地道に各お店を回るしかないですか」
「まあそうやって確認していくしかないね。ネットワーク経由だとお店ごとの強度とか規格によって変わってきちゃうかもしれないし」
「確かにそうですね」
規格が新しいのと古いのが混同してるとセキュリティとかがめんどくさいからなぁ…
「それで各項目のそうだね…上から三番目くらいまでを次にやろうと思うんだけど」
「上から三番目…」
資料を見ると何個か表があって、穂織の役所や案内所、神社。飲食店系だと田心屋っていう甘味処が結構人が多いみたいだな。
「神社に関しては俺が調整したんで多分大丈夫だと思いますよ」
正確に言うと家のほうだけど、後で確認したら神社の境内と本殿までなら減衰なしで届いてたから問題ないと思う。他の部分は少し減衰してるけど使えなくはなかったから大丈夫。
「そうかい?ならそれ以外のところだね」
「それはいつやります?」
「明日でもいいかな?」
スマホのカレンダーを確認する。予定は入っていない。
「大丈夫です「よし。じゃあ明日から本格的に始めよう」
「分かりました」
そして集合場所と集合時間を共有し別れる。やっと本格的に開始か、忙しくなるぞ。
プルルッ
「ん?」
事務所からの帰り。歩いていたらスマホが鳴った。
「今日はよく電話が来るな」
そう思いながらポケットからスマホを取り出す。画面には川井教授と書かれている。
「もしもし」
『神谷君。久しぶり』
「お久しぶりです!川井教授!」
声の主は川井教授。本名は川井彩佳。俺が前通っていた学校のゼミのてーまえお題とか仕事とかをやるとき色々アドバイスをもらったりしてお世話になっていた。
「どうしたんですか?突然電話してきて」
『なに、どうしているかなと思ってね。体調崩したりはしていないかい?』
「あー…」
体調崩す以上のことには2回もなったけど。
「まあ大丈夫です」
『本当かね?少し怪しいが…』
バレてる気がする。ほんとなんか無駄にこの人鋭いんだよなー…
『まあいいか。大丈夫ならいいわ。それでそっちの生活にはなれたかい?』
「そうですね。他の人にもよくしてもらって、色々助けてもらってます」
『そうか。それはよかった。あ、そうそう君が作ってたプライベートVRのことなんだけど』
「え?学校変わったので課題提出しなくてもいいんじゃないんですか?」
プライベートVRは学校で川井教授のゼミに参加してると課題として出される。各講義ごとのテーマに沿って自由にカスタマイズするという課題だ。
『課題ってことじゃなくて、VRに携わる1人の人間として君が作っているものに興味があるんだ』
「俺の作ったやつに…ですか?」
俺のには特殊なのを組んだり、入れたりしてはいないのに、なんでだ?
『君のプログラムの組み方は無駄がないし、よく効率化されている。それは私も見習いたいんだ。天才プログラマーさん?』
「その呼び方はやめてくださいよ。俺はただの一般学生なんですから」
天才という呼び方は俺は嫌いだ。俺は人より多くの時間をかけ、人より多くの知識を持っているだけ。そうした努力に裏付けされているんだ。
「まあそういうことならいいですよ。テーマは何にしますか?」
『テーマはそうだね…自由でいこっか』
「自由?」
一番困るテーマだ。自由だと範囲が広すぎて、決める段階で悩むんだよなぁ…
『それの方が確認しやすいでしょ?』
「作り手の苦労は考えないんですか…」
少し項垂れた声で言うと、川井教授は、はははと笑った。
『明日に見せてくれって言ってる訳じゃないんだよ』
それならいいけど。
「ならいつですか?」
『一週間もあれば大丈夫そう?』
「多分大丈夫です。早く終わればその段階で見せればいいですか?」
『うん。構わないよ。それじゃあよろしく』
そして電話が切れる。自由に組んでみろか、なかなか難しいな。今は俺のVRは自然をテーマにしたものになっている。それを一度フォーマットして新しく始めるか。テーマは、そうだな…”和”でいくか。じゃあ今日の夜早速…あ、そういえば今日の夜にあれをやるんだった。
ヒロインに関してはもっと進んでから正式に考えていこうかなと思っています。
次回もよければご覧ください