潰えた守り人   作:スタビ

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それではその14、どうぞ


その14 今と過去

時間は進み今は夜。祟り神の祓いに行くため、朝武さんと常陸さんが普段の格好から着替えていた。

 

「…凄い格好だね、それ」

「そうですか?忍び装束で、ワタシの正装なんですよ」

 

そういう常陸さんは忍びというには少し派手な気のする格好をしており、紺と白で全体的に肌の露出が多い。首元には黒と裏地が赤いスカーフのようなものを巻いており、ゲームの衣装のようにも見える。これ忍べんのかなあ?

 

「これは逆に目立ちそうな気がするんだけど…」

「でもこれ先祖から伝わる由緒正しき服装なんですよ、途中で新しく作り直したりはしてますが」

 

先祖が何年かよく知らないけど、服の持ちは綺麗に使ってもよくて10年だと言われている。それが忍び装束に当てはまるかは知らないけど、何回も修繕されているんだろう。

 

「儀礼的意味もあったりするのか?」

「はい。清められているので霊的な加護があるんです」

「なるほど…」

 

それによって呪詛からの影響は最小限に留められているっていうことなのだろうか、朝武さんも巫女服着てるし。

 

「では、行ってきます」

「行ってらっしゃい。気を付けて」

「それでは行ってまいります」

「うん。芳乃のことを頼むね」

 

そうして2人は出ていく。特に気負った様子もなく、いつも通りという感じで外に行った。

 

「2人にとっては自然なことなのか…」

 

あの塊を退治か…思い出しただけで頭が痛くなりそうだ。

 

「本当なら、2人に任せきりにせず、僕がなんとかするべきなんだろうけどね」

「え?」

「以前普段の舞は芳乃が、祟り神の退治は僕がとも思ったことがあったんだ。でもその力は僕には無かった

 

安晴さんは親の役目を果たしたかったのだろう。凄く辛そうな顔をしている。

 

「失敗どころか無茶をして、全治二か月の大怪我。あのときは本当に心配をかけてしまった」

「…あの、一緒に行った常陸さんはそういう妖に対抗する力はあるんですか?」

「芳乃よりは弱いらしいけど、あるそうだ」

 

だから2人だけしか無理なわけか…辛いな、これは。

 

「…」

 

将臣が何かを考え込んでいる。ここまでの話の流れと将臣が昼間言っていたこと、それを合わせると…

 

「自分が婚約者にされたのは、叢雨丸を使って穢れを祓う手伝いをしてほしいのではないか?とか考えてるんじゃないのか、将臣」

「え…?」

 

将臣は戸惑った顔をしているが、俺の推測が正しかったようでうんと頷いた。

 

「…確かにそう思われても仕方がないね。僕はそういうつもりで将臣君に結婚のお願いをしたわけじゃないんだ」

 

…ここからは将臣の方が重要な話だな。俺は退散するか。そうして俺は立ち上がる。

 

「諒どこ行くんだ?」

「ん?これからの話は将臣の方が重要だし、俺はあんまり関係ないしな。2人だけの方が何かといいだろ」

 

そして俺は自分の部屋に戻った。

 

 

 

 

「さてと…やるか」

 

パソコンを起動し、ブラウザを開く。今俺が何をしようかというと夕方くらいに電話で喋っていたVRの構築だ。テーマは”和”。穂織に来て、それを基にしたのを作ってみたくなったのだ。

 

「保存してあるところから持ってこないと」

 

俺はプライベートVRをサーバーに保存してある。USBメモリで保存して持ち運ぶのもいいけど、サーバーから取り出す方が楽だし、不慮の事故の時に対応がしやすい。取り出したVRを専用ソフトで読み込ませ、書き換え可能にする。

 

「とりあえずフォーマットかけて…」

 

今あるものを全部消し、まっさらの状態にする。

 

「まずどういうものにするかだな…」

 

自分が実際に動き、戦ったりするゲーム形式にするか、それとも景色を楽しんだりするのとかにするか…

 

「今回は観光みたいな感じでやるか。そうしよう」

 

とりあえずまずは軽く基礎プログラムを組む。ザ・シードが流通しているおかげでVR系は以前に比べ格段に作りやすくなった。大部分のプログラムが元から組まれているので、後は必要なプログラムを適宜組み込んだりすればいい。

 

「まずは地面と空をやんないと…」

 

それから俺は地面を草、空は青空に設定。ホームとして瓦屋根の建物を設定。そしてオブジェクトとして桜を追加したところで、アイデアが出てこず、まったく進まなくなった。

 

「あー…ダメだ。進まん」

 

いつもよりも進みが全然悪い。…気にしてんのかな、俺も。確かに俺も手助けをしたい。女の子2人に任せきりになり、男である俺が何も出来ないのは辛い。けど…俺に何が出来る?将臣みたいに祟り神に対抗する術も力も持たないただの人間に。それに俺はあの世界で逃げたんだ、もう戦えない。

 

「ダメだ、ダメだ…」

 

頭を振り思考を切り替える。最近どうしてもこういうふうになることが多い。

 

「なんか飲み物持ってくるか…」

 

そう思い立ち上がり、リビングに向かった。

 

 

 

 

「ん?」

 

リビングに向かう途中、玄関に人影があるのを見つける。その方に行くと

 

「あ、諒」

 

将臣だった。それにムラサメもいる。そして将臣の手には刀が握られている。

 

「どこ行くんだ?」

「…2人のところに行ってくる」

 

そういう将臣の顔は真剣で、決して中途半端な気持ちで言っているわけではない。

 

「戦えるのか?」

「分からない…けど、何もしないのも我慢できない。俺自身の意思で行きたいんだ」

 

自分の意思…か。強いな将臣は。それなら大丈夫だろう。

 

「…死ぬなよ」

「分かってる」

 

将臣と拳を合わせる。

 

「諒は?」

「俺?行くわけないだろ。武器も持ってないし」

「…そうだよな。変なこと聞いた」

 

そして将臣は外に行き、ムラサメもそれに続き出ていくが俺は一旦呼び止める。

 

「ムラサメ」

「どうした?」

「将臣を頼む」

「うむ、承知した」

 

俺の頼みに頷き、将臣の後をついていった。凄く心配だ…だけど俺には祈るくらいしかできない。

 

「俺はもう命を介した戦いは出来ない…無事に帰って来いよ」

 

俺の呟きは誰にも聞かれず消えていった。

 

 

 

 

「ふぅー…」

 

お茶を飲み、息を吐く。今は将臣が行ってから5分くらいだろうか。山が見える縁側に座り、山を見ている。

 

「大丈夫かな…」

 

なんとかうまくいってるといいけど…凄く心配だ。

 

「はぁ…」

「諒君」

 

誰かに声を掛けられる。その方を向くと安晴さんが立っていた。

 

「どうしました?」

「どこを見ているのかと思ってね」

「ああ、山を見てたんですよ」

「やっぱり心配かい?」

 

優しい表情と声で語りかけてくる。

 

「そりゃ心配ですよ。祟り神の脅威は自分が身を持って体感しています」

 

あの威圧感、見た目に似合わない素早さ、どこから飛んでくるか分からない攻撃。それらはとてつもなく危険だ。

 

「朝武さんと常陸さんはともかく、初めて行った将臣は動けるかどうかすら怪しいですよ」

「そうかもね。けどなんとかなるんじゃないかな。叢雨丸の使い手に選ばれたわけだし」

 

思ったより楽観的なんだな。

 

「そういえば将臣は俺が言った通りのことを聞きましたか?」

「そうだね…概ねその通りだったよ」

 

やっぱりか…

 

「やっぱりそういう意図はあったんですか?」

「それは絶対にないよ。祟り神の危険性は僕もよく知っている」

「ならなんでですか?」

 

そう俺が聞くと安晴さんは真剣な顔で理由を語り始めた。

 

「今のまま祟り神が穂織に留まってるという保証はない。万が一外に出てしまったとき、誰も事情を知らず、誰も祓えないでは被害が大きくなる」

 

それはそうか。今祟り神を祓えるのは、朝武さん、常陸さん、将臣の3人くらいだろう。3人だけじゃ数が少なすぎる。

 

「でもそれは結婚とは何も関係ないじゃないですか」

「…芳乃に必要なのは同年代の友人とのふれあいだと思うんだ。芳乃が今の仕事を継いだのは母が亡くなった幼い時。仕事を引き継いでからは余裕がなくなったんだ。それが何か変わればと思ってね」

「だったら結婚っていう関係じゃない方が良かったのでは?結婚を押し付けて2人の間に壁を作った。結局はエゴですよ」

「やっぱりそうだよね…」

 

肩を落とす。安晴さんは朝武さんを心配してそう言っているのだろうが、子からすればそんなのは親切とは言えない。朝武さんを見ればそれはよく分かるだろう。

 

「でもまぁ、急激な変化も必要なことも時にはありますから」

「そう言ってくれると助かるよ」

 

手に持っているお茶を飲む。安晴さんと話していたら少し頭が整理されてきた。今なら少しは進められるかな。

 

「そういえば諒君に聞いてみたいことがあったんだ」

「俺にですか?」

 

何だろう、仕事のことか?

 

「君の過去に何があったんだい?」

「…どういうことですか?」

「あの風呂場で茉子君と遭遇した時、普通の人なら気絶なんてしないと思うんだ」

 

そりゃそうだ。どっちかって言うと普通の男なら逆に喜びそうな気がする。

 

「何が君をそうならしてしまったんだい?」

 

俺にか…言うか、黙っているか、頭の中で葛藤する。言ってしまえば自分の心は少しは軽くなるのかもしれない。けど、余計な心配は掛けたくない、ただでさえ自分の娘が逃れられない戦いに身を投じ、苦心しているというのに。それに俺の過去を言うということは少なくとも、あのことを思い出さなくてはいけないということ、俺には辛すぎる…

 

「…もし君が言いたくないのなら無理しても言わなくていい。けど僕個人としては聞きたい。この家に住んでいるんだ子供に寄り添いたいんだ、親としては」

 

安晴さんの言葉に揺れ動く。そして俺はゆっくり口を開いた。

 

「……俺はどこにでもあるような普通の家庭に生まれました。毎日友達と遊んで、家族とどこか出かけたり、ゲームをしたり毎日を楽しく過ごしてました。あの悪夢のゲームに出会うまでは」

「悪夢…?」

「安晴さんはSAO(ソードアート・オンライン)を知っていますか?」

 

俺の問いに安晴さんはかぶりを振る。

 

「いや、知らないね」

「じゃあそれの説明からしますか」

 

当時の記憶を思い出しながら、語りだす。

 

「今から数年前、茅場晶彦という男がナーヴギアと呼ばれるフルダイブ型VRマシンを開発しました。五感を電子へと変え、現実とは異なる別世界、仮想空間へと飛ばす、それにより人間は完全なるバーチャルリアリティを完成させました。ナーヴギアの開発の少しあと、次にそのデバイスの持つ性能を最大限引き出し、ゲームを可能にしたSAO(ソードアート・オンライン)が発売されました。そのSAOの謳い文句は”これはゲームであっても遊びではない”。当時の俺はかっこいいなというようにしか認識してなかったんです。けどそれの本当の意味をその後身を持って知ることになりました」

 

口が渇く。どんどん当時のことが鮮明になっていくにつれ、言い知れぬ感情が湧いてくる。

 

「それをなんとか手に入れて、意気揚々とある言葉を唱え、その世界に入りました。最初はモンスター相手にある人のレクチャーを受けながら色々試してたんです。そこまではまだゲームで楽しかったんです。けどそこで仲間の内の1人があることに気づいたんです。”ログアウトボタンがない”と」

「ログアウトボタン?」

「SAOから出るために存在するボタンです。本来はメニューに合ってそれを押すことでそのゲームを終わらせることが出来るんです」

「でもそれがなかったら…!?」

 

安晴さんは気づいたようで驚愕の表情をしている。本来あったはずのログアウトがない。それが意味するのは

 

「自発的な脱出は不可能ということです。その後ある場所に強制転移され、赤ローブの男がこう言い放ったんです。”ログアウトが出来ないのはSAO本来の仕様であり、不具合ではない。この世界から脱出する唯一の方法は第100層まで登りそこにいるラスボスを倒すことのみ”と」

 

その後は現実を受け止められず呆然とするもの、泣き叫ぶもの、怒号を浴びせるもの、まさに地獄絵図だった。一瞬にして日常が崩壊したのだから。

 

「それが悪夢のゲームと呼ばれる所以…かい?」

「いえ、実際はまだ続きがあったんです。あともう一つ、それがSAOがデスゲームと呼ばれる訳を作りました」

 

深く息を吸い込み、ぐしゃぐしゃしてきた気持ちを整える。

 

「SAOでHP(ヒットポイント)っていういわゆる命の残量を可視化したものがあるんですが、それを全損すれば、SAOのアバターは死に、合わせて現実の自分も死に至るということです」

 

それが、ゲームであっても遊びではないという茅場の言葉の本当の意味だった。

 

「でもそれは本当に可能なのかい?ただのゲームが普通は出来ないはずじゃ」

「俺もそう思いたかったんです。けど出来てしまった。ナーヴギアは高出力の電磁パルスを発生させ着用者の脳を破壊するということをやるために作られたものでもありますから」

 

そういう意味ではもしかしたらゲームをするという意味では作られていなかったのかもしれない。ただ死に至らしめる殺戮道具として作られていたのかもしれない。

 

「それがSAO事件と呼ばれるものの始まりです。俺は攻略組と呼ばれる最前線で戦っていました」

 

第一層でキリトと出会い、そこからはコンビを組んでアインクラッドを登って行った。

 

「ただ最後まで攻略組に居たわけじゃなくて、紆余曲折あって途中で離脱したんです」

 

辛く、苦いあの記憶。それも1つではなく複数。俺は最後までキリトの隣には立ち続けてられなかった、途中で折れてしまった。

 

「それを話すことは?」

「……申し訳ないですけど、出来ません」

 

俺の中に残り続けている後悔と自責、そして恐怖。それらは今まで吐き出してこなかった。俺自身が潰れてしまいそうで、許せなくて、そして怖くて。俺のそんな雰囲気を感じ取ってくれたのか安晴さんはそれ以上は追求してこなかった。

 

「…辛かっただろうね」

 

その一言が心に凄く沁みる。

 

「それでも安心してほしい。いや安心してなんて言っちゃいけないのかもしれないけど、諒君を祟り神と戦わせるなんて言う命を賭けさせることは絶対にさせない。恐怖と不安で押しつぶさせることは絶対にしない。それは約束する」

「…ありがとうございます」

 

少し心が休まった気がする。とはいっても心にあるしこりはずっと残り続けている。これの解消は当分は無理だろう。

 

「それじゃ自分は明日仕事があるので今日はもう寝ますね」

「うん。些細なことでも何かあったら相談してくれていいから」

「ありがとうございます。あ、あとこのことは誰にも言わないでください」

「分かった」

 

そうしてその場から立ち上がり、自分の部屋に戻る。敷いておいた布団の上に横になる。ここに来てから初めてSAO事件を濃く思い出した。俺の人生の転機になったともいえるものだ。それまでの俺の夢や価値観とかが一気に変わったし、俺の仲間も変わってしまった。それは性格的な意味ではなく…

 

「はぁ…」

 

スマホの写真フォルダを開く。そこから一枚のある写真を表示させる。

 

「みんな…」

 

それには俺と3人の男女が笑いあっている写真が映し出されている。俺の友達”だったんだ”

 

「くそっ…」

 

俺はSAOで3人全員を失った。SAOから守れなかった。失ってしまった人はもう2度と戻ってこない。そんな当たり前をあの時は痛いほど痛感し、とめどない後悔が溢れた。行動1つ変わっていればもしかしたら失わずに済んだかもしれない。

 

「あ…ああ…」

 

涙が止まらない。もう戻ってこないという当たり前すぎる常識を再認識した途端、箍が外れたように、ダムが決壊したように、涙が溢れる。止まれと思っても、俺の意思に関係なく、流れていく。それは俺にはどうしようも無かったのだ。

 




文字数が普段よりも多めになりました。主人公の過去が出てきましたが、まだ若干ぼやかしておきます。
次回もよければご覧ください
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