それではその19、どうぞ
「みんなから凄く信頼されてるんですね」
保健室に向かう廊下を歩いている時、駒川さんに率直な感想を言った。
「ん?ああ、昔からの付き合いだからね。それに医者っていう役目上、地域の人との信頼関係は重要だから」
地域の人から信頼されてなきゃ、ちゃんと診させてはくれないからかな。
「あの、昔からって?」
「私の家は代々医者で、その昔は朝武家のお抱えだったそうだ。今でもウチから最低でも1人は医者になるよう言われてるんだ。それでこの街と芳乃様の主治医になってる」
朝武さん専属…やっぱり
「穢れや祟り神とかの問題ですか?」
「それは勿論。穢れや祟り神、その周辺の知識や資料は、先祖代々ずっと受け継がれてるんだ」
へえ…先祖代々。そりゃ長そうだ。
「先祖代々ってことは、駒川さんも穂織でずっと過ごしてきたんですよね?」
「そうだけど…何か気になることがあるのかい?」
「いや、そんな大層なことじゃないんですけど、服が他の人よりも全然普通だなと思って」
駒川さんは穂織に住んでいる人のような少し派手目の和服じゃなくて、穂織の外で着ているような和服の上に白衣を着ている。それは外からくる観光客が着ている服と同じだ。まあ白衣を着てるのは少し特殊だろうけど、それは職業上のことだろう。
「そういえば、中条先生もどちらかというと外寄りの服装でしたね」
「中条先生は外から来た人だからね」
「外から…ですか?」
何でわざわざイヌツキなんて呼ばれ忌み嫌われてしまっているところに来るんだ?俺のように誰かに依頼されたから、とかか?
「まあイヌツキなんて呼ばれてるのを知らないところからだからね。流石に外から人を入れないと、なかなか町の中だけで、全てを完結させるのは難しいんだ」
そりゃそうだ。人数が少ないところでは1人の負担が自然と増えてしまうし、必ず穴が出来てしまう。それを補おうとすれば更に人がいる。そうして悪循環になってしまう。世知辛い問題だ。
「多少不便でも遠くを頼れば、君や中条先生のように力を貸してくれる人もいるってことさ」
「それもそうですね」
けどイヌツキなんて呼ばれてしまっているからそれもなかなかに難しそうだけどな…
「私も大学の頃は穂織から出ていてね、外であの格好をしていたら浮いてしまうよ」
駒川さんは軽く笑いながらそう言う。
「それでそのままその格好で落ち着いたんですか?」
「そうだね。仕事が忙しいから、すぐに着替えられる方が楽なんだよ」
「確かにそうですね。その手の和服は結構時間かかりますもんね」
そんなことを話しながら歩いていたら保健室に着いた。中にある椅子に座る。
「さてと、まずは脇腹の状態を見させてもらおうかな」
「わかりました」
軽く服を捲り上げ、脇腹が見えるようにする。
「これは…」
少し驚いた顔をしている。何か良くないことが?
「何か問題でもあったんですか?」
「いや、むしろその逆だよ。もう治りきってる。これが若さかな」
「どうでしょうね?」
怪我の回復は特段早い方でもないんだけどな。
「じゃあ一応他のところも診ておこうか」
そう言い肩、腕等々、色んなところを診ていった。
「うん、傷は治ってるし、血色も良い。穢れの影響もなさそうだね」
「そうですか、よかった」
何も心配することはないようで、一安心。医者に直接言ってもらうと安心感が違うね。
「あと精神面もチェックしておこうか。あ、ムラサメ様はそこにいるかい?」
「?いますよ。俺の後ろに」
「少し部屋から出てもらっても大丈夫かな?内密なことだから」
「だそうだけど、大丈夫か、ムラサメ?」
俺の後ろにいるムラサメに聞く。
「まあ、平気だが…」
「大丈夫だそうです」
「あまり聞かれたくない内容も質問するので、すみません」
そう駒川さんが断りを入れると、ムラサメは保健室からすうっといなくなっていった。
「いなくなりましたよ」
「わかった。さてと…大丈夫だったかい?」
「大丈夫…とは?」
「祟り神に会って、トラウマが…」
ああ、やっぱりそのことか。その時の状況を思い出す。
「祟り神と対峙したときは、まったく動けなくなりましたよ。呼吸も荒くなって、何も考えられなくなって」
言っている最中も今現実に起こっているわけじゃないのに、どんどん口が渇いていく。それに少し震えも出てしまっている。
「かなり…きつかったですね…はは、みっともない…」
乾いた笑みを浮かべながら一旦言葉を切る。すると突然駒川さんが俺の手を握ってきた。
「あ、あの…駒川さん?」
突然の行為に俺は少し驚く。駒川さんを見ると、凄く優しい笑顔でこっちを見ていた。
「大丈夫。落ち着いて…」
俺の手を包んでいる駒川さんの手から暖かさが伝わってくる。そうしていたら自然と体の震えが収まっていた。
「みっともなくなんかないさ。その時の状況は聞いたよ。有地君を先に逃がしたようじゃないか」
「…共倒れになるのが一番まずいと思ってやっただけですから」
ただ将臣の身に何かがあってほしくないと思ったからだ。それに俺は結局ケガをして終わった。
「それは十分称賛されることだ、かっこいいことだと私は思うよ」
「…そうですかね」
「そうさ。それに人は誰しも弱さを抱えているものだよ。大事なのはそれを受け入れて、自分に何が出来るのか、最善をつくすことだ。神谷君は立派にそれを果たしたんだ。自分を卑下しなくてもいいんだよ」
駒川さんの言葉が俺に沁みる、少し心が軽くなった気がする。
「…ありがとうございます」
「うん。それじゃもう終わりだよ。体調管理には気を付けてね」
「わかりました。ありがとうございました」
そう言い椅子から立ち上がり、扉に手をかける。
「あ、ちょっと待って」
「どうしましたか?」
保健室から出ていこうとするときに呼び止められる。
「さっきのを見ても神谷君の心理状況は不安定になりやすい。だから定期的にカウンセリングを受けないかい?」
「カウンセリング…ですか?」
それは東京にいたときも定期的に受けていた。けどあまり効果はあったとはいえないんだよな。
「君さえよければなんだけど、どうかな?」
…駒川さんにならいいかもしれない…かな。
「じゃあ…お願いします」
「じゃあ、それについてはまた今度話そうか」
「わかりました、失礼します」
今度こそ保健室から出て、帰るために歩を進めた。
「さてと…」
今は玄関にいる。下駄箱から自分の靴を取り出し、それを履く。
「あ、神谷君ちょうどいいところに」
「中条先生、どうしました?」
靴を履いて玄関から出ようとしたところに中条先生が来た。
「頼みたいことがあってですね」
「頼みたいこと?」
何だろうか?
「聞いた話なんですが、神谷君は穂織のネットワーク関連の仕事で来たんですよね?」
「そうですけど…」
「実はこの学院のネットワーク管理も手伝ってほしいという話になりまして、お願いできますか?」
うーん…俺の一存では決められないな、籍は一応情報整備部にあるわけだし。
「自分の判断ではちょっと…」
そう言いながら鞄から名刺を一枚取り出す。
「俺の所属は今はここになってるんです。だからここに連絡してもらっていいですか?」
そう言いながら名刺を手渡す。
「穂織情報整備部特別顧問…特別顧問!?凄い肩書ですね?」
「肩書だけですよ、別に他の人と変わりませんから。では依頼はそこにお願いします」
「わかりました」
それじゃ、と言いその場を後にする。そのままどこにも寄らず家に向かった。
最後がどうも駆け足になってしまうなあ。
次の話はテストが始まる関係上出すのが少し遅くなりそうです。早く出せそうなら早めに出します。
次回もよければご覧ください。