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では、その2どうぞ
芦花さんと会ってから3人で歩き、たくさんお店の並ぶ商店街のようなところまで来た。ただ、俺は1つ気になることがあった。
「なあ、将臣。さっきから芦花さんのことずっと見てないか?」
「え?」
「なになに、お姉さんに見惚れちゃった?」
芦花さんがかなりにやにやしながら、そう聞いてくる。
「…正直に言うと、見惚れてた」
「ッ!?」
うーわ…随分と正直に言ったなあ。そのせいで芦花さんの顔が真っ赤だ。
「じょ、冗談は良くないよ?」
「冗談じゃないよ。諒だってそう思うよな?」
そこで俺に振るんかい。
「まあ、確かにすごい美人だと思うけど」
「~~~ッ…ありがとう…」
芦花さんの顔はまるで蒸気でも出ているんじゃないかと思うくらい、真っ赤になった。
「それで何で将臣は芦花さんのことずっと見てたんだ?」
「そういう服着てたなーと思ってさ」
「どこか変かな?他の人みたいな感じではないけど…」
そういう芦花さんの表情は不思議そうで、俺や将臣が疑問を持つであろう服を気にしてる様子もない。
「なあ、将臣。穂織に住んでる人の服ってこんな感じなのか?」
「ああ、別に芦花姉の趣味ってわけじゃないよ。穂織で生まれ育った人なら全員だ」
なるほど、その地特有の。
「凄い似合ってるね」
他意やお世辞はなく、これは本音だ。
「ありがと。やっぱり穂織と外は違うんだね」
特に意に介した様子もなく答える。
「そういえば芦花姉って学生じゃなかったよね?就職先を外にしようとか思わなかったの?」
「こんな時代だから、なかなか就職先が見つからなくてね」
芦花さんは左手を軽く頬にあて、困ったような顔をして答える。
「じゃあ今は何してるの?」
「家がお店をやってたこと覚えてる?」
「うん、覚えてるよ。喫茶店だっけ?」
「正確には甘味処。今は実家の経営に関わってるの」
へえー…経営に。凄く若そうなのに凄いな。けど
「それってご両親に何かあったの?」
「んーん。何も。至って健康だよ」
首を軽く左右に振りながらそう答える。
「ただ最近は外国からのお客さんも増えてきてね。色々問題があるんだよ」
なるほど。確かに日本は外国人にも人気で、東京では電車に乗れば左右が外国人、レストランではカウンター全席外国人なんて場面にもたまに遭遇する。昔に比べ外国人が増えてきているのは事実だ。
「で、わかんないことも増えだしてきた矢先に、お前に任せるなんて押し付けられちゃって」
困った顔をして、そうに言う。
「へー…だったら、こんなところで俺たちと一緒に居ていいの?」
「身分を隠して、お客さんの意見を聞く。これも仕事のうちの1つ。スケルスマーケティングだよ!」
少し声を張り、自信たっぷりにそう言う。けど、ちゃんと間違ってる。
「…それを言うならステルスマーケティング」
「え?…そう、それ!」
絶対分かってなかっただろ。若干早口だったし。
「まあ、話し相手がいてくれる方がいいけどさ」
「ところでさ、芦花姉。なんか観光客が多くない?」
将臣が言う通り、道には人が溢れていて、将臣はともかく俺は荷物をずらしたりしながら他の人に当たらないように気を遣いながら歩いている。
「昔からこんなもんだっけ?俺が前来たときはもっと少なかったと思うけど…」
俺もここまで多いとは思っていなかった。さっきのタクシーの運転手の口ぶりから判断すると外部の人間はあまり寄り付かないと思ったけど。
「前よりお客さんが増えてるのは事実だよ。今はネットで色んな口コミが広まるからね。穴場の温泉地として、外国のサイトに載って広まっていってるんだって」
なるほど、現代らしい広まり方だ。
「あと、今日は春祭りだからじゃないかな?」
春祭り?初耳のワードが出てくる。
「ああ、春祭りか!俺、初めてかも」
将臣は言葉だけは知ってるみたいだ。
「春祭り?」
「そっか諒くんは知らないか。戦国時代の戦が祭りの始まりでね。こほん」
軽く咳ばらいをし、調子を整える。
「遡ること、数百年前。戦い巻き起こる戦乱の世に、1人ある女がいました」
なんか、始まった。
「その女は、権力者にすり寄り、寵愛を得て、男を狂わせ、戦を起こす妖怪だったのです。そしてそそのかされてしまったのが隣国の大名。野望のため、穂織に攻めてくるではありませんか!」
声が大きくなっていき、クライマックスにでも差し掛かっているのだろうか。
「妖術相手に大苦戦。落城寸前で藁にも縋る思いで祈祷を行うと、あら不思議!妖怪に対抗する力を持つ刀叢雨丸を授かったのです」
…なんじゃそりゃ?ありえなさすぎる気がするんだが。
「叢雨丸で蔓延る妖怪を退治すると、隣国の兵たちは敗走。こうして穂織に平和が訪れました。ちゃんちゃん」
ここで突然始まった劇場が終わった。
「その勝利を祝ったのが春祭りの元。戦から戻ってきた兵を模しての練り歩きが行われるの。そして最後に巫女姫様が舞を奉納するの」
なるほど。かなり古くからの言い伝えがあるのか。
「なんか、色々ぶっ飛んでんなその話。信じてる人いるの?」
「信じてる人はあんまりいないだろうね。でも海外の人にはこういう話って重要だったりするんだよ?」
うーん…まあ確かに。海外の人この手の話意外と好きな人多いからなあ
「そんなもん?」
「そんなもん。この世の中観光地はたくさんあるからね。どれだけしょっぱい逸話でもないよりはいいでしょ?」
「そうだけど、地元民がしょっぱいって言っちゃダメでしょ」
「重要なのはそれをどう生かすか、だよ」
それは重要だが、少なくとも地元の人は誇りみたいなものを持っといた方がいいんでは。
「とにかく、外から人を呼ぶことが重要なんだよ」
「ここら辺の人間は寄り付かないの?」
将臣の質問に芦花さんは首を横に振る。
「寄り付かないだけじゃなくて、タクシーに行先を伝えると嫌な顔をされるって言われるくらい」
さっきのタクシーの運転手のようにか。穂織は芦花さんがさっき説明した妖怪の話が先祖代々受け継がれ、周りから疎遠になってしまったのだろう。だから、こんなに不便で、同じ日本なのに外とはまったく違うように発展したのだろう、ここで生まれ育ったわけではない俺にもわかる。
「まあこの話はここまで、どうする?2人とも練り歩きみていく?」
「うーん…俺はいいかな。諒はどうする?」
「俺もいいよ。さっさと荷物置きたいし」
春祭りの練り歩きは見ないことを決め、そのまま3人で志那津荘に向け、歩き出した。
「ここか…」
歩くこと数10分。志那津荘に着いた。建物は大きくて、和の雰囲気を前面に出している古風な旅館だ。
「志那津荘は結構外国人のお客さんにも人気でね。いろんな人がこの宿を利用するんだ」
「へえー…」
宿自体があんまりないことももしかしたらあるんだろうけど、それ抜きで人気なのだろう。その時隣の将臣に目を向けると
「…」
なんか固まってた。何やってるんだ?店の目の前で。
「何固まってるんだ?将臣」
「あー、いや…」
なぜか歯切れが悪くなっている。ただすぐに何か意を決した顔に変わった。
「すみませーん!」
「ただ今参ります」
将臣が旅館の方に声を掛けると、中から女将さんが出てきた。
「お待たせいたしました。ご予約のお客様でしょうか?」
「客ではないんです、鞍馬玄十郎はいますか?」
女将さんは将臣の言葉に対して少し訝しくなる。
「失礼ですが…」
「玄十郎の孫なんですが、祖父に挨拶をしておきたくて」
怪しさが晴れ、合点がいった表情に変わる。
「大旦那さんのお孫さんでしたか、遠いところからありがとうございます。大旦那さんは建実神社にいるはずですよ」
建実神社?初耳のワードが出る。
「そっか、玄十郎さん春祭りの実行委員なんだ」
芦花さんも今気づいたような反応をしている。
「予定通りでしたら、練り歩きが神社に到着すると思いますよ」
「それじゃあ、神社から離れることはできないかな」
重要な役職についてるなら、迂闊に持ち場は離れられないだろう。
「そちらのお客様はどうなさいましたか?」
今度は俺に話を振ってくる。
「神谷諒と言うんですけど、菊岡誠二郎から話いってませんか?」
「神谷さんでしたか、確かに話は伺っております。長期の宿泊ですね」
「はい」
女将さんは旅館の方に戻り、何かを確認してくる。そしてすぐ戻ってきた。
「申し訳ありません。部屋の準備がまだ整っていなくて…」
「あー、そうですか」
「準備が整うまで、春祭りを楽しんではどうでしょうか?」
それはいいな。見てみたいと思っていた。
「そうします。将臣はどうする?」
「うーん…俺も見てみようかな」
「では荷物を預かりましょうか?」
「じゃあお願いします」
俺と将臣の荷物を手渡す。そうして身軽になった俺たちは、春祭りに行くためその道を通って行った。
読んで頂きありがとうございました。
次回もよければどうぞ。
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