潰えた守り人   作:スタビ

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その4です。どうぞ


その4 伝説の勇者イベント

御神刀が祭られているという本殿まで移動してきた。中には何かを待つ列があり、それはおよそ30人くらいだろうか。男性だけでなく女性の姿もある。そしてその列の先には大きな岩に刺さっている一本の刀がある。その刀は周囲の光を反射し、綺麗に輝いていた。

 

「2人とも神社に来るのは初めてだっけ?」

「俺は正月に来るくらい…だな」

「俺は穂織に来たこと自体が初めてだからもちろん初めてだ」

「そうか、じゃあ諒はともかく将臣も中までは入ったことはないか」

「じゃあ説明がいるね。あそこの岩に刺さってる刀こそ、伝承にある妖怪を退治した叢雨丸だよ」

 

芦花さんが刀を指さす。

 

「あれって実際抜けないもんなのか?」

 

俺の信じられないという気持ちを含んだ問いに対して小春ちゃんが首を振る。

 

「抜けない、抜けない。信じられないっていう気持ちも分からなくはないけど、どんなに力を入れても、一ミリも動かないんだもん」

 

マジか…そんなに思いっきり突き刺さってるのか?

 

「俺も諒と同じで信じられなくて、実際にやってみたんだよ」

「どうだった?」

 

廉太郎も首を振る。

 

「全然無理。押しても引いても全く動かない。で、なんか腹が立ったから、横に力いれてみたんだけど、結果は変わらず」

「おいおい、それで折れたらどうするんだよ」

「それで折れるくらいなら、今までのチャレンジのどっかで折れてるって、絶対」

 

そりゃそうかもしれないが…感情任せは危なすぎるだろ。

 

「今ではあんな感じで抽選でやってるけど、最初は誰でも挑戦できたんだ。ただ人数が増えてくるとそういう訳にはいかなくなってくるでしょ」

 

そりゃそうだな。変な暴動でも起こったら最悪だ。

 

「日本人よりも外国の人の方が多そうだね」

 

将臣の言う通り、30人ほど並んでる列は、7:3くらいの比率で外国人観光客の方が多い。その中の先頭の凄くガタイの良い男性が挑戦する。刀の前まで行き、握る。そして思いっきり引っ張り

 

「ンンンーーーーーーーーー!!」

 

変な声を上げているが、まったく抜けない。もう無理だと分かり、次の人に交代するが

 

「ンィィィィィッショーーー!!」

 

その人も抜けない。

 

「ンンンーーーゥワッショォォォォイ!」

 

次の人も無理。二の腕が俺や将臣の何倍もありそうな、マッチョの外国人が何人も挑戦しているが、刀は微動だにしない。というかなんだその掛け声。

 

「疑う気持ちも分からなくはないが、あれを見て、何かイカサマでもしてると思うか?」

「確かに、してないとは思ったけど…」

 

あんなガタイの良い外国人が必死で奇声を上げながらやってたら、イカサマなんて思えない。

 

「アタシたちでも、イカサマをしたなんて話は聞いたことないよ」

「それにお祖父ちゃん、そういうズルとかは嫌いだと思うな」

「確かに」

 

将臣がうんうんと頷いている。まあ…イベントの真実を知っていて黙っているとしても、協力する必要性はまるでないもんな。そんなことを考えていると、将臣が何かを探すように、視線を右に左にきょろきょろ動かしている。

 

「あ…いた」

 

探し物、というか探し人が見つかったみたいだ。将臣はその人のところまでゆっくり近づいていく。そして話しかけた。なんか若干びくついていないか?まあ会話の内容までは分からないが俺には関係ない。将臣が戻ってくるまで勇者イベントを見ているとしよう。

 

「セイッーーーーーーー!」

 

しかし、ほんとに抜けないな。抜けないだけでなくてちょっと動くとかそういう気配もない。力任せじゃないとなると、コツかなんかなのか?…ん?なんだ、誰かに見られてる?

 

「…」

 

特段誰かに見られてはいない。

 

「どうしたの諒くん?」

「いや、なんでもない…」

 

気のせいか?確かにそんな感覚があったんだが…

 

「おーい!諒!こっち来てくれ!」

 

少し離れたところにいる将臣に呼ばれる。俺はそこまで移動する。

 

「どうした将臣」

「紹介するよ。俺の祖父ちゃんの鞍馬玄十郎」

「君が神谷諒くんか。話は聞いてる。わしは鞍馬玄十郎よろしく頼む」

 

なかなか威圧感のある人だ。

 

「初めまして神谷諒です。あの、話は聞いてるって誰からですか?」

「菊岡誠二郎君からだ。君を派遣すると聞いてな」

 

やっぱりあいつかい…

 

「依頼を出したのもわしだ」

「そうだったんですか?」

「穂織は他の地から隔絶しているとはいえ、今の時代ネット環境がないとどうしようもないからな。ただ穂織にはそれに詳しい人がいなくてな」

「そうだったんですか」

 

やっぱりか…半分予想通りではあったが。

 

「自分が出来ることであればやりますんで、なんでも言ってください」

「ああ、よろしく頼む」

 

腰を折り、礼をし、挨拶を終える。

 

「あのさ、祖父ちゃん話は変わるんだけど、あれ本当に岩に刺さってるの?」

「伝承を知らないのか?」

「それは知ってるけど…」

 

伝承…宿に行くときに芦花さんが言ってたやつか。

 

「神から託された伝説の刀…だよね?」

「そうだ」

 

うーん…流石にはい、そうですかと納得しにくいな。夢物語すぎる…

 

「お前らが疑う気持ちも分からなくはないが、ペテンではない、本物だ」

「なら、本当に抜くことも出来るの?」

「単純な力任せじゃ抜くことは出来ん」

「じゃあコツ?」

「コツ…ではないが…資格というべきものか…」

 

資格?…どういう意味だ?

 

「将臣と諒は参加したことあったか?」

「いや、ないけど」

「俺もないです」

「ならいい機会だ。参加してみるといい」

 

いいのか?

 

「え?事前に応募してないよ?諒は?」

「俺も応募してないですけど…いいんですか?」

「問題ない。ワシが話をつけてこよう。少し待っていろ」

 

玄十郎さんは、奥まで行き神主らしき人と話をしている。

 

「どうしたんだ2人とも?」

 

廉太郎がいつの間にか近くまで来ていた。

 

「なんか俺と諒もあれに挑戦しろってさ」

「抜けなかったらなんか言われたりしないよな?」

「流石にそれはないと思うよ」

 

芦花さんが笑いながら言ってくる。

 

「私も廉兄もお祖父ちゃんに言われたことあるから、別に深い意味はないと思うよ」

「そういやそうだったな。気構えなくてもいいと思うぞ。俺や小春が失敗しても何も言われなかったから」

「諒はともかく、将臣はなんでそんなに怖がってるんだよ」

 

将臣の表情は強張っている。

 

「いやー、たまにしか会ってないと、前の印象が更新されなくて」

「気持ちは分かるけどな。何回も怒られたもんな…」

「バカなことばっかりしてるからでしょ。私はそんなに怒られてないもん」

「まーねー…まー坊も廉太郎もかなりヤンチャだったもんね。廉太郎は子供の頃だけじゃなくて、今も…」

「どうせ今日だってナンパでもしてたんでしょ?」

「うっ!」

 

小春ちゃんの指摘に廉太郎はうめく。いい歳して何やってんだか。

 

「あ、図星ー。結果はどうだった?」

 

芦花さんがにやにやしながら廉太郎に聞く。

 

「…かすりもせず。全部空振り」

「何打数?」

「10…3打数?」

「打数多っ!くそ打率じゃねえか!」

 

どんだけ挑戦したんだよ。

 

「廉兄の実力だね」

「舐めんな!打率は悪くたって、ホームランもあるんだぞ!」

 

ただミートGのロマン砲だけどな。

 

「廉太郎がナンパねぇ…昔はむしろ逆だったくせに」

「今と昔は違うだろ」

「玄十郎さんに何回も怒られてるのに、ほんと懲りないよねー」

「今時このくらいが普通だろ。都会だってそういうことくらいやってたよな?」

 

廉太郎は都会にどういうイメージを持ってるんだよ。

 

「そんなことやってるのはごく少数だ。少なくとも俺はやったことないし、俺の周りもそんなことをしてる奴はいなかったよ」

 

和人はナンパするというか、半ばナンパされる側だし、遼太郎は…あいつは知らん。

 

「出会いは求めていかないとだぜ?穂織は変わり映えしないし」

 

穂織の女性を敵に回す発言だな、それ…

 

「将臣!諒!」

 

玄十郎さんに呼ばれる。廉太郎たちと話していたら、30人くらいいた列がいつの間にかいなくなっていた。部屋の中には俺たちと玄十郎さん、そして神主さんだけ。その全員が俺と将臣に視線を注いでいる。

 

「なあ諒、どっちが先にやる?」

「じゃあ俺がやるよ」

 

こういうのは先にやるに越したことはない。みんなの視線から逃れたいし。

 

「何か作法みたいなのはあるんですか?」

「特にはないが…挨拶くらいはしておいた方がいいだろう」

 

岩に刺さった刀の前まで移動し、その前に立ち軽くお辞儀する。

 

「ふうー…」

 

息を吐き、気持ちを落ち着ける。そして刀の柄の部分に手を伸ばし、握ったその瞬間。

 

「!?」

 

何か電流のものが走った。

 

「どうした諒?」

「いや…なんでもないです…」

 

何だったんだ?さっきのは…刀は若干ではあるが電気を通す。しかしさっきみたいな静電気は刀に電気が帯電してないと起こらない。ただこの状況だと帯電しそうにない。ならなんで?…刀自身が電気を発したっていうのか?いや…ありえない…

 

「…」

 

もう一度刀に対面し、思考を一度切る。息を吐き、柄を握り、力を込めて引き上げる。

 

「ふっ!」

 

少し持ち上がった感覚がしたが、その場所からは動かなくなる。

 

「…ダメだ。持ち上がらん」

「そうか。じゃあ交代だな。将臣、次だ」

 

将臣と交代する。

 

「どうだった諒?」

「確かに抜けないわ。でも少し持ち上がった気がするんだよなぁ」

「え!?マジか!?」

「あーいや。多分気のせいだと思うけどな」

 

あくまで、気だけだ。確信はない。そんなことを考えてるうちに将臣が刀の柄を握る。ただなんかめんどくさそうにやってるなぁ…早く済ませたいんだろうな。そして力を込め持ち上げると

 

パキッ

 

「…あっ」

「マジか…」

「やっちまったな…」

「…え?」

 

将臣が握っていた刀が呆気ないほど簡単に岩から離れた。しかし、刀の中心から折れた状態で。

 

「…は?折れ…た?」

 

どんどん将臣の顔が青ざめていく。将臣は刀に戻そうとするが、元の位置には戻るがくっついたりするわけはない。

 

「…あはは、ウケるー。なあ諒これ持ってみろって」

「やだよ」

「じゃあ廉太郎。持ってみろって」

「は!?やだよ!俺に押し付けようとするなよ!」

 

将臣は青ざめ、廉太郎は焦る。すげえ光景…

 

「言ったじゃないか!何をやっても全く動かないって言ったじゃないか!」

「いや、確かに言ったけど!普通は折るか!?」

「折るつもりはないし、そんなに力入れてないはずだぞ!?」

 

阿鼻叫喚、まさに地獄絵図。まあ2人だけだが。

 

「将臣、諦めろ」

「諦められるか!?」

「証拠がお前の手の中にある。もう無理だ」

 

現実を突きつける。

 

「嘘だ!なあ廉太郎、これドッキリだろ?なあ、そうだって言ってくれよ!?」

「知らん知らん。俺は何も知らん!」

 

どんなに叫び、懇願したところで、刀がぽっきり折れ、将臣の手の中にある事実は変わらない。

 

「あー…もう晩飯の時間かなー…」

「アタシもー…お店の手伝いしなくちゃー…」

「私も宿題が…」

 

3人ともこの場から逃げようとする。

 

「俺も、明日から仕事だし」

「諒、お前もここに残れ」

「え?」

 

なぜ!?

 

「さっき、何か違和感があっただろう?」

「あー…」

 

バレてたか、鋭いな…

 

「なんでお前はそんなに冷静なんだよ!?」

「まあ焦ったってしょうがないしな」

 

こういう時は冷静に、ステイクールだ。まあ…若干慣れてるっていうのもあるけど…

 

「将臣」

「ひいっ」

 

玄十郎さん目がこええ…俺でも気圧される。

 

「…」

「ひぃぃぃぃぃぃっ!」

 

将臣は情けない声を上げている。はてさて、これからどうなるのだろうか?




口調とかがちゃんと区別出来てるかな?読む分にはたぶん大丈夫だと思います。
次回もよければどうぞ

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