少し長めのその5
どうぞ
「なあ、諒。これからどうなるんだ?」
「さあな。なるようにしかならないだろ」
将臣が刀を折ってしまうというひと悶着があった昼間から時間は進み、今は夜。俺と未だ現実を受け止めきれてない将臣に玄十郎さんはここで待つようにと言い、どこかに行ってしまった。因みに芦花さんたちは玄十郎さんに言われて、先に帰らせられこの場には俺と将臣の2人のみ。
「なんで諒はそんなに冷静で居られるんだよ…」
「まあ焦ったって状況が良くなるわけじゃないしな。あと若干諦めてる」
「なんというか、慣れみたいなのもある気がするんだけど…」
「まあ…若干は…」
あの日は今まで経験のないことだった。これまでの日常は崩壊し、命を賭けるゲームへと発展してしまった。それのせいであんまり驚かないし、多少驚いたとしてもすぐ冷静になれるようになった。良いのか悪いのかは分かんないけどな…
「あ~…不安だ。どうしよう…」
まあ、不安はあるわな。伝説の勇者イベントは春祭りの目玉イベントだったんだろう。それを台無しにしてしまった。今後どんな展開になるかは想像つかない。
「ああああああ!やってしまった!非常にまずい!」
「落ち着けよ」
「だって一大イベントだぞ!?刀を折っちゃった責任とか取らされるのかな…」
「うーん…案外その可能性は低いかもしれないぞ?」
「え?なんで?」
「だってその責任が発生するんなら、その場で説教の1つくらいあったはずだろ?神主さんだって居たわけだし。でもここで待てって言われただけで、何も無かっただろ?」
一度外に出るのは、あまりにも非効率だ。
「それに将臣も聞こえなかったか?まさかこんなことが…とか、本当に現れるとは…って。それも怒りとか悲しみとかのマイナスじゃなくて、待望とかのプラスの声で」
「なら…大丈夫かな?」
「大丈夫だろ。損害賠償とかあるかもしれないけど」
「大丈夫じゃないじゃねえか!」
そう俺に叫ぶと、将臣は何かを想像し始めた。と思ったら、顔を青ざめ、頭を抱えだした。終いには
「ペリカは嫌だぁぁぁぁぁぁ!」
とか変なことを叫びだした。何を言ってるんだか、ほんと。
「しかし、本当にどうなるんだろうな」
今後の生活を揺るがすほどに変わっていくのだろうか。
「…お主が吾輩のご主人か?」
「え?」
どこからか声が聞こえる。ただ、ここには俺と将臣の2人しかいないはず。
「こっちじゃ」
上から声がする。そこを向くと、1人の女の子が浮いていた。
「うおっ!?」
「誰だ!?」
「ちゃんと見えておるし、聞こえてるようじゃな」
若緑色の髪を赤い紐でポニーテールで結い、紫色の着物を着ている。ぱっと見、俺や将臣よりもずっと幼く見える。
「浮いてる…」
「まさか、幽霊?」
「幽霊ではないわ!」
いや、浮いてるのに幽霊じゃないと言われても…
「吾輩はムラサメ。『叢雨丸』の管理者…まあ平たく言えば魂みたいなものだな」
「もしかして、俺に復讐するのか?刀を折った俺に…」
「吾輩は幽霊ではないと言ってるだろう!」
あ、幽霊って言われるのは嫌なんだな。
「まず刀が折れた程度で復讐する必要などない。叢雨丸ならばすぐに戻る」
「こんなにものの見事に折れてるのにか?」
将臣の手の中にある叢雨丸はガラスのようにどこか尖っているわけではなく、のこぎりで木を切ったみたいにきれいな断面で折れている。
「まあ百聞は一見に如かずとも言う。先に証明して見せた方がよかろう」
少女が目を閉じ、力を少し溜める。すると、将臣の手の中にあった叢雨丸がすぅっと浮き上がり、宙に浮いたままの少女の胸元の高さまで上がる。俺も将臣もその光景を口を開くこともなくじっと見つめていた。すると途端に
「うわっ!?」
「な…なんだ?」
視界が白く染まる。俺はすぐにこれは光だと認識した。目を開くことも出来ないくらい一瞬にして莫大な量の光が飛び込んできた。そしてその光は段々と収まっていき、視界が元に戻り始める。少女の姿もくっきりと映り始める。
「え…本当に?」
「刀が直ってる…?」
くっきりと映った少女の手の中にあった刀が完全に直っている。摩訶不思議、人智を超えた何かが目の前で起こっていた。
「本当に直ってる…」
目の前で刀が直ったのを目撃し、これ以上ない証拠を見たことで将臣も幾分か冷静になってきたみたいだ。
「やっと落ち着いたようだな。これで話を聞く気になったか?」
そう言いながら、頭上からゆっくり降りてきた。
「吾輩はムラサメ。『叢雨丸』の管理者であり、神力を司るものである」
「神…力…?」
「なんだそりゃ?」
「これからよろしく頼むぞ、ご主人」
「いや、急にご主人って言われても…」
よく分からない単語を連続で言われ困惑する。
「どうした?そんな間抜けな顔をして」
「この状況をどう飲み込めばいいのか分からなくて」
「まずなんで将臣のことを『ご主人』って呼んでるんだ?」
「?叢雨丸を抜いたのだろう?」
なんでそれを聞くのかというような表情で言ってくる。
「あれ抜いたって言っていいのか?」
「まあどちらでも構わぬ。あの岩から離したのはご主人で間違いないだろう?」
「それはそうだけど…」
「それは誰にでも出来ることじゃないのだ」
それは…そうか。それなら今までのどこかで抜けてるはずだ。
「使えぬ人間が抜こうとどれだけ力を込めても、叢雨丸は動きはせぬ。だがご主人はそこまで力を込めてなかっただろう?」
「確かに、全然力は入れてなかったけど」
そういう通り将臣は俺から見てもほとんど力を入れてなかったと思う。踏ん張ってる様子もなかったし、腕が震えてたりもしてなかった。
「それが使い手の証なのだ」
「急にそう言われても…」
何か気になっているようだ。
「何が気になるのだ?」
「いや、まあ…うん、わかった」
腑に落ちない表情をしているが、そのままでいいのだろうか。
「兎も角俺は選ばれたってことでいいんだよな?」
「うむ。その理解でよかろう」
「じゃあもう一個質問。折れた刀が一瞬で元の状態に戻った理由は?」
そこだ。そこが1番聞きたかった。
「叢雨丸は穂織の土地神様より授かった特別な神刀だ。錆びようが、欠けようが、折れようが、神力を借りれば元の万全の状態に戻すことが出来る」
なるほど…神力とやらが刀の根源であり、生命線なのか。
「で…その神力を使うことが出来るのが刀の管理者であるお前ってことか?」
「お前ではない、ムラサメだ。自己紹介はしたではないか」
口を尖らせてそう言う。
「えーと…ムラサメ」
「いきなり呼び捨てか」
なかなかめんどくさい奴だな…
「じゃあ…ムラサメちゃん?」
一気に行き過ぎじゃないか?急に親しくなったな。
「それはそれで威厳がない気もするが…ま、よかろう。吾輩のご主人だからな。それで、どうした?」
「さっき言ってた神力を司るというか、魂とかのところを詳しく聞きたい」
現代じゃありえないところの話だ。だったらもう一段階深く知っておいて損はないだろう。
「叢雨丸は神力をその身に宿らせ、妖力に対抗する刀だ。しかし、ただの金属の刀に神力を宿らせるのは難しい。それをするために必要になったのが″人の魂″だ。まず神力を魂に宿し、その魂を刀に宿らせ、神刀と成すのが叢雨丸。そしてその魂こそがこの吾輩なのであ~る」
人の魂を宿す特別な刀…その魂の元々の持ち主はムラサメ…ちょっと待て
「それだとムラサメは元からそんな感じで幽霊みたいな感じじゃなくて、ちゃんと身体を持った1人の人間だったってことになるぞ!?」
「うむ、そういうことになるな」
「じゃあムラサメちゃんは今はやっぱり…ゆ、幽霊!?」
「幽霊ではない!吾輩は神の使いなのだ!そ、そそそんなものと一緒にするな!」
ころころ表情が変わっていくし、言葉も震えている。怖がってるのか?
「なんかすげえブーメランな気がするんだが…」
「それは気にしたら負けじゃないか?…なんか、夢物語の話しかしてない気がするけど…まあ神様の使いとして魂の存在になったってことでいいんだよな?」
「まあ、簡単に言うとそういうことになる」
神の使いか…どっからどう見ても幽霊にしか見えないけどな。
「ただ、吾輩は
「そこに将臣が選ばれた」
「そうだ。叢雨丸は選ばれたものだけが使うことが出来る。吾輩も見えるようになり、会話も出来るようになるのだ」
待てよ。じゃあ俺はどうなるんだ?使い手に選ばれたわけではない。
「なんで俺は見えるし、話せるんだ?」
「まあ例外もあるから。そなたはそこに属するんだろう」
例外か…ほかにいるのか?
「そしてご主人でも吾輩に触れることは出来ないのだ」
「え?こんなにはっきり見えてるのにか?」
「触ろうとしてもすり抜ける。こんな感じにな」
ムラサメが実際に叢雨丸の柄に手を伸ばす。握ろうとするが、その手はするっとそのまま柄を通り抜けてしまった。
「ほんとにすり抜けた」
「そうであろう?2人も試してみるか?」
そう言ってムラサメは胸を張る。
「将臣やってみたら?」
「お、おう…」
緊張してるんだかなんだか分からないが、少し硬い。
「じゃあいくぞ?」
「うむ」
将臣の手が少しずつムラサメの方に向かう。そして手が体に当たり、そのまま止まった。すり抜けはしなかった。
「この感触は…硬い!?」
将臣の表情からは何がなんだか分からないといったことが読み取れる。ただ対照的にムラサメはというと
「ご…ごしゅ…な…な…」
顔を真っ赤にしながら目を回していた。
「これって…」
「きゃああああああ!」
そして強烈な悲鳴。そして将臣は思いっきり吹っ飛ばされる。
「いってえ!」
「あれ?突き飛ばせた?すり抜けない?」
ムラサメが信じられないというような表情をしている。すり抜けると思っていたのに将臣の方からもムラサメの方からもすり抜けなかった。前例の無かったことなんだろう。
「いきなり何をするんだ!?」
「いや、いきなり何をするって…自分が何やったか分かってるのか?」
「え?」
何で呆けてるんだ。自分で認識してないのか?
「え?じゃないわ!ご、ご主人は吾輩のむ、胸を触ったのだぞ!?」
そう。将臣は手とか頭とかを触ったのではなく、あろうことかムラサメの胸を触ったのだ。
「え!?あれが胸!?思ったより硬い…」
こいつ…言ってはならないことを…
「なにおう!?ご主人…!」
「将臣、今のお前最低だぞ?」
「い、いや!今のは違くて!」
必死に取り繕うとしているが、焦っているのか言葉が続いてこない。
「お、乙女の胸を触りよって…ぐぬぬ…」
「本当にすみませんでした…」
将臣はおでこが床に付くほどの土下座をしている。
「まあまあ落ち着けって」
「わっ」
子供をあやすように、ムラサメの頭を撫でる。
「とりあえず冷静になろうぜ」
一先ずクールダウンだ。
「…あれ?なあ諒…」
「ん?どうした?」
「なんでお前もムラサメちゃんに触れてるんだ?」
あ、言われてみたら確かに…
「将臣は選ばれたからで、説明はつくかもしれないけど、俺は選ばれた人間じゃないはずじゃないのにな…」
「いや、選ばれた人間でも本来は触れないはずだ。ご主人が触れられた時点でまずおかしい…」
「叢雨丸の影響の可能性はないのか?」
「それはないはずなのだが…うーむ…」
だとすると説明がつかないな…
「…ダメだ。ご主人にむ、胸を揉まれたせいで考えられん」
「あらま…」
叢雨丸のことをよく知ってるムラサメが考えられないとなると、この問いに対する解が分からない。一旦手詰まりだな…
「…」
将臣も随分と考え込んで…いや、なんか別のこと考えてないか?
「ごーしゅーじーんー!」
「な、なんだよ。別に何も言ってないだろ?」
「言ってましたー『揉んだ感触が無かった』とか考えてましたー」
「べ、別に思ってないからな?」
嘘だな。めっちゃ声震えてるよ。…
「…なあ将臣」
「…どうだった?」
「なんか思ったより硬かった」
「へえー!将臣は触った上に硬いとか変なこと考えてたのか!」
わざと少し声を張る。
「やはり考えていたんかー!」
「あっ。くそ、諒お前どういうつもりだ!?」
「お前が悪いんだろうが」
俺は将臣にそう言うと1人、思考に耽っていった。
「(なぜ俺と将臣の両方がムラサメを視認できる?ムラサメが言うには本来はありえない話だ。何か別の要因が絡んでる?例えば、将臣はほんとに勇者に選ばれ、何か悪霊みたいなものを倒していく…とか。いや、ないな。ゲームじゃあるまいし、こんな現実で起こるはずもないしなー…だったら俺が見える意味はなんだ…)」
いくら考えても、分からない。情報も知識も無さすぎる…
「何騒いでおる」
「祖父ちゃん!」
玄十郎さんが戻ってきた。将臣を訝し気に見ている。
「誰かと話してたように見えたが…」
「き、気のせいなんじゃない?」
この反応、玄十郎さんはムラサメを見えていないようだ。
「あのさ、刀は…?」
「そのことか、それについてだが…む、刀身が」
折れていたはずなのに元通りに戻っている叢雨丸を見て玄十郎さんは目を見開く。
「これは一体何があった?」
「あー…なんて説明すればいいか、か、刀の霊が直してくれたって言ったら信じる…?」
「それはムラサメ様のことか?」
それを聞いて、将臣は少し驚く。
「知ってるの?」
「話だけだがな。ワシはムラサメ様のことを見えないから、見える方に話を聞いている」
「俺と将臣以外にもいるんですね」
ムラサメが「例外が居ると話したであろう」と言っているのが聞こえる。確かに言ってたな。
「それでだ、将臣。叢雨丸の担い手になった以上、お前には相応の責任をとってもらう」
責任という言葉を聞いた途端、将臣の表情が固まる。まあ穂織の一大イベントを図らずではあるが壊してしまったわけだし、何かはあるだろう。
「まずお前をウチで預かれなくなった」
「え!?じゃ、じゃあ刑務所!?」
「そういうことではない」
「じゃあ強制労働!?そして地下行き!?」
「将臣、いったん落ち着け。話が分からなくなるぞ」
将臣に声を掛ける。周りから見ても分かるくらいあたふたしてた。
「ああ、すまん…」
「まあとりあえず話を聞け。お前に紹介したい人がいる」
玄十郎さんが誰かを呼ぶ。その呼ばれた男性がこっちに歩いてきた。
「初めまして。有地将臣君。神谷諒君。僕はここ建実神社の神主をしている朝武安晴です。気軽に安晴と呼んでもらって構わないから、僕も2人のことを将臣君、諒君と呼ばせてもらうよ」
俺と将臣に挨拶をしてきたのは、何かの家紋か何かが入っている青い着物を着ている男性だった。
「よろしくお願いします」
「あー、初めまして。あのご迷惑をかけてすみませんでした」
「いや、むしろこれから将臣君には色々迷惑をかけてしまうことになると思うんだ」
「いえ、俺が事の発端ですし…出来る限りのことはします。それで、俺は何をすれば?」
「そのことなんだけどね将臣君」
「?はい」
「芳乃、入ってきなさい」
安晴さんが芳乃という名前の人を呼ぶ。部屋の扉が開き、入ってきたのは…
「あれ?」
「さっき舞をやってた…」
昼間、舞を踊っていた巫女さんだった。
若干日本語がおかしいところあるかも…
一気に原作主要キャラと接触させていきます。
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