潰えた守り人   作:スタビ

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それではその6、どうぞ


その6 『結婚』

「初めまして。朝武芳乃です」

「え、と、初めまして、有地将臣です」

「初めまして、神谷諒です」

 

お互いに挨拶をする。

 

「本当に叢雨丸を抜いたんですか?」

「まあ、うん。抜いたっていうか折ったに近いけど」

「間違いないんですか?」

「…?」

 

朝武さんは俺や将臣の方を見て問いかけるのではなく、俺たちの後ろを見て問いかけている。その場所にはうーんと唸りながら悩んでいるムラサメがいる。

 

「ムラサメ様、本当なんですか?」

「ん?ああ、間違いないぞ。将臣こそ吾輩のご主人だ」

「朝武さんも、ムラサメちゃんが見えるの?」

「…ムラサメちゃん?」

 

朝武さんが少し驚きながら将臣を見ている。

 

「吾輩のご主人だからな、呼び名は任せてある」

「会話してるし、朝武さんも見えてるんだね?」

「そうだ。芳乃は吾輩と会話できる数少ない人間の内の1人だ。ご主人のように叢雨丸の使い手に選ばれた人間ではないがな」

 

なるほど。叢雨丸の影響以外って、何が理由なんだろうか。

 

「じゃあ安晴さんは見えるのか?」

「いや、僕には見えないよ」

「それはなんでですか?」

「僕はあくまで入り婿だからね。朝武の直系じゃないと…」

「お父さんっ、言わなくてもいいことまで言わないでください」

 

朝武さんがすごい剣幕で止めた。ただ良いところまで聞けた。

 

「朝武家直系じゃないとおそらく見えないんですよね?だから安晴さんは見えない。なら、俺が見える理由は何なんですか?」

「え?諒君はムラサメ様が見えるのかい?」

「はい。しかも見えるだけじゃなくて、会話も出来て、ムラサメに触れることもできます」

 

こんな風にと言い、ムラサメの頭を触る。見えているものには実際にムラサメの頭に触れてるのが分かるし、見えないものには空中で不自然に俺の手が止まったように見えるだろう。

 

「因みに俺だけじゃなく、将臣も。これの理由は何なんですか?」

「…すまないが、そこまでは分からない。朝武の過去と接触があったのか…」

 

朝武の過去?神谷家の誰かが過去に穂織に居たのか?

 

「お父さん、神谷さん。そこまでです」

 

そこでまた朝武さんが止めた。

 

「お父さんは喋りすぎなんです」

「でも、諒君ももしかしたら関係があるかもしれないじゃないか?」

「どういうことですか?」

「神谷さんには関係ありません」

 

なんか余計に気になるな…まあ今は一先ず置いておこう。

 

「ねえ、ムラサメちゃん。朝武さんていつもあんな感じ?」

「まあ、結構頑固なところはあるな」

「とりあえず、いったん俺下がってますね」

 

後ろにいたムラサメのあたりまで下がり、将臣を出す。

 

「まあ、ともかく、これが僕の娘の芳乃だよ」

「こっちが叢雨丸を抜いた、有地将臣君」

「…よろしくお願いします」

「こちらこそ、お願いします」

 

改めて挨拶をする。

 

「それで、ここからが本題だよ。将臣君が叢雨丸を抜いてしまった以上、このまま帰すわけにはいかなくなった。芳乃も分かるよね?」

「…はい、分かります」

 

目を伏せ、どこか何かを憂うような顔をする。

 

「将臣君、君に責任を取る意思があるんだね?」

「は、はい。俺に出来ることであればなんでも」

「うん。じゃあ君には叢雨丸を抜いた責任として」

 

少し空気がピりつく。安晴さんの口から何が発せられるのだろうか。

 

「結婚してもらいたい」

 

…ん?結婚?…え?…ちょっと待て理解が追い付かない。

 

「…あの、結婚て、誰と?」

「僕の娘と、だよ」

「安晴さんの娘と…」

 

視線が朝武さんの方へと動く。

 

「結婚…ですか…」

「将臣と朝武さんが結婚…」

 

俺のその呟きの後、少しの沈黙が生まれ…

 

「「けっこんんんんんん!?」」

 

一気に2人が慌てる

 

「あの、結婚って、男側の権利は半分になり、義務が2倍に増える、あの結婚ですか!?」

「お前、結婚に対してどういうこと考えてるんだ…」

 

ひどい価値観だ。

 

「都子の家はそんなに不仲だったかの…」

「将臣君の結婚に対する価値観は分からないけど、その結婚だと思うよ」

「お、お父さん。一体どういうことなの?」

「芳乃もついさっき、将臣君をこのまま帰すことは出来ないって、分かってくれたじゃないか」

「それはそうだけど…でも…」

 

朝武さんの言葉がどんどん弱くなっていく。まあ突然結婚しろと言われても、混乱するよな。

 

「芳乃にとって、必要なことだと思うんだよ」

「どういうことっ?」

「親の心子知らずってやつかね」

「そういうことじゃないです。神谷さん」

 

バッサリ切られた。あながち間違ってないと思うんだけどなあ。

 

「じゃあ将臣君はそういうことで。あと諒君」

「何ですか?」

 

今度は俺に話が振られる。

 

「君は叢雨丸を抜こうとしたときどうだった?」

「どうって…言われても」

 

話が抽象的すぎて分からない。

 

「玄十郎さんから聞いたんだけど、刀と何かあったようじゃないか」

「…そうですね。刀に触れた瞬間に静電気が起きました。本来はありえないと思うんですけど。その後改めて抜こうとして、上に持ち上げたら、少し上がったんですけど、途中で動かなくなって」

 

あの時起こったことを隠さずに全て話す。

 

「神谷さんも抜けそうだったんですか?」

「どうだろうね。最後は止まっちゃったから抜けそうにはなかったと思う」

「けど、刀は動いたんだよね?」

「ええ、まあ」

 

そう答えると安晴さんは真剣な顔になる。

 

「それは特異だね…」

「特異…ですか?」

 

特異…他とは一線を画し変わっているということだが、どういうことだろうか?

 

「おそらく、諒君も使い手になれたかもしれないんじゃないかな?」

「俺が叢雨丸の使い手に…ですか?」

「うん。諒君はムラサメ様も見えているんだろう?」

「一応…」

「それなら。資格みたいなのが備わってると思うんだ」

「資格ですか」

「将臣君との共通点も多いようだしね」

 

資格…か。そんなものが俺にあるとは思えない。最後まで戦えなかった俺に。

 

「どうでしょうね…俺にはそんなのがあるとは思えないですけど」

「いやいや、何よりの証拠があるじゃないか」

 

そうは言われてもな…

 

「まあともかく、もしかしたら君にも関係があるかもしれない以上。玄十郎さんの宿では預かれなくなったんだ」

「あの、さっきから何に関係があるんですか?」

「申し訳ないが、そこは言えないんだ」

 

気になるな。そんなに言えないこととなると、かなり大きなことかもしれないな。

 

「分かりました。それで俺はどうすればいいんでしょう?」

「君も将臣君と同じように家に来てもらいたいんだ」

「…分かりました」

 

流石にここで断れないしな。

 

「じゃあよろしくね。あ、将臣君もそういうことで、芳乃をよろしくお願いするよ」

「待って!お父さん!」

「え、あの、えぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

俺は少し混乱しているがまだ冷静だ。ただ『結婚』という二文字を告げられた2人は簡単には吞み込めないだろう。一瞬にして、これまでの日常生活が方向を変えた。俺も将臣も、おそらく朝武さんも。そんな時にここにくる前にあった悪い予感が少し膨らんだ気がする。俺は気のせいだろうと深く考えなかった。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~

side ムラサメ

 

ご主人が結婚を、諒が居候を告げられた時、吾輩はそれはそうだろうなと思っていた。2人とも使い手になるに相応しい資質を持っている。ただどちらかというと諒の方がそれが濃く見えた。…そこが問題だ。

 

「本当に妙じゃ…」

「ムラサメ様、妙ってなんですか?」

 

いつの間にか芳乃が近くまで来ておった。

 

「叢雨丸の使い手になるのは諒だと思ったんだがの」

「え?でも叢雨丸を抜いたのは有地さんじゃないですか?」

「あの瞬間を後ろから見ていたのだが、先に諒がやって、そこで抜かれると思ったのだ。叢雨丸の感覚は管理者である吾輩も分かる。ただ…」

「ただ?」

 

訝し気に見てくる。

 

「諒の方から拒絶されたような気がしてだな」

「拒絶…ですか。そんなことありえるんですか?」

「いや、まず拒絶の感情を持ってること自体おかしいのだ。普通の人間ならそんな感情何て持たないし、まず諒は初めて穂織に来たようなのじゃ」

「じゃあ何で?」

 

その問いに対して、吾輩は首を横に振る。

 

「分からん。こんなこと前にはなかったからの」

「…何かあったんでしょうか」

 

芳乃は心配そうにしている。芳乃は少し頑固で融通の利かないところがあるかもしれぬが、優しい心を持った人間だ。吾輩も頼りにしておる。

 

「…本当に諒は何かあったのかもしれぬな」

 

もしかしたら諒自身の過去に何かあったのかもしれない。もしくは安晴の言う通り、本当に朝武家と何か繋がりがあるのかもしれぬ。ただ今は初めて会った上に何も分からない。吾輩はこの問題を一旦頭の隅に追いやることにした。




諒の過去に何があったんでしょうかね~、まあ想像つく可能性はあるかもしれませんが
次回もよければどうぞ

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