潰えた守り人   作:スタビ

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それではその8、どうぞ


その8 朝

「ん…」

 

意識が戻り、目が覚める。

 

「ここは…」

 

周りを見回してみると、まだ馴染み切ってない新たな俺の部屋だった。

 

「何があったんだっけ…」

 

まだ少しぼーっとする頭をなんとか稼働させ、意識が途切れる前の記憶を探す。

 

「え~と…朝起きて、リビングに行って将臣たちと会話して…」

 

思考が加速し、段々頭がはっきりとしてくる。

 

「シャワー浴びたくて、風呂場に行ったら…誰かいたんだっけか」

 

記憶の中からその人が誰だったか思いだそうとするが、そういえば顔は見れなかったのを思い出した。

 

「誰だったんだろうな。え~と…その後なんか首元にクナイ…が…」

 

それを思い出した瞬間、汗がどっと吹き出る。

 

「はぁっ、はぁっ…」

 

呼吸が少し荒くなる。それをなんとか落ち着かせ、呼吸を安定させる。

 

「大丈夫…大丈夫…」

 

大丈夫と自分に言い聞かせる。今実物がここにあるわけじゃないし、自分は生きている。

 

「くそっ…ほんとにいやになるな…」

 

弱すぎる自分に嫌になる。一度引き金を引いて仕舞えば、鼓動は早くなり、呼吸は乱れ、体が動かなくなる。以前の事件後、体に刻み込まれた”死”への恐怖。どんなに抗おうとも抗うことは出来なかった。

 

「くそっ」

 

ここでもそれが邪魔をするとは…何が使い手になれる資格があるだ。そんなもの備わってなどいない。

 

「はあ…」

 

起き上がっていた体をバタッと倒し、自己嫌悪に陥っていた思考を停止させる。その時

 

「あ、起きたみたいだね」

 

部屋の襖が開き、そこから1人の女性が入ってきた。

 

「って、すごい汗だね。どうかしたかい?」

「あ、いえ。何でもないです」

 

言われた通り、体に服が張り付くくらいの量の汗をかいている。それよりも俺はこの人が誰なのか気になった。

 

「あの、あなたは?」

「私は駒川みづは。この町で医者をやってるんだ。よろしく神谷諒君」

「俺を知ってるんですか?」

「まあ叢雨丸の使い手が2人も現れたって、一部の人間の間で囁かれててね。それで私も知ったんだよ」

 

どうやら当事者の俺たちが知らないところで密かに盛り上がっていたらしい。なんとも居心地の悪い。

 

「それでどこか体に痛いところとか出ていないかい?」

「え~と…」

 

言われたように自分の体の状態を確認する。汗が凄い以外には呼吸の乱れとか、頭がぼーっとするとか、体の異常はない。

 

「大丈夫です」

「そうか。私の方でも軽く診たんだけど、多分問題ないと思う」

 

医者の人に言われ、安心する。

 

「それで、何があったんだい?突然倒れたとは聞いているんだけど」

「その、シャワー浴びたくて風呂場に行ったんですけど、そしたらこの家の人かは分からないんですけど、いきなり首にクナイ…を当てられて、バタッと」

 

あの場面で起こったことを全て話す。駒川さんは「ふむ」と言い何かを考えている。

 

「状況は分かったけど…恐怖とかで倒れたわけではないだろう?」

 

やはり医者は鋭い。俺が何を抱えているか大体わかってるのだろう。

 

「…俺、数年前からPTSDっていうのになってしまって」

「なっ!?」

 

PTSD、正式名称はPost Traumatic Stress Disorder。日本語で言うと心的外傷後ストレス障害。簡単に言えばトラウマのことだ。俺は事件後からそれを抱えている。

 

「…なぜそれになったか教えてもらうことって出来るかな?」

「すみません…それは」

 

出来ない。俺の勝手なわがままかもしれないけど、言いたくなかった。言ったら、その記憶が鮮明に思い出されそうで。

 

「そうか。まあ話せるようになったら話してくれればいいよ」

「すみません」

「大丈夫だ。じゃあ私は安晴さんを呼んでくるから」

 

そう言い、駒川さんは部屋を出て行った。ちょっと経った後、今度は安晴さんが入ってきた。

 

「諒君!大丈夫かい?」

「はい。心配をお掛けしました」

「いや、大丈夫だよ。それより、朝ごはんが出来たけど、食欲はあるかい?」

 

そう言われ、確認する。普通に腹が減っている。

 

「そうですね。いただきます」

「じゃあ行こうか」

 

布団から出て、安晴さんの後に続き、リビングに向かった。

 

 

 

 

 

「申し訳ございませんでした!」

 

リビングに着くなり、女の子に土下座されるこの突然の状況に俺は面食らう。

 

「あ、あのそこまでやんなくてもいいですから」

「いえ、気を失わせてしまったのは私ですから」

 

この女性はそう言ってるが、気を失った本当の原因は俺にあるからな…だからこの女性のせいだとは一概には言えない。

 

「あの、体に異常もありませんから、本当に大丈夫ですよ。顔を上げてください」

 

そう俺が促すと、その女性はずっと伏していた顔をようやく上げた。

 

「本当に申し訳ありませんでした。ワタシは常陸茉子と申します」

「神谷諒です。よろしく」

 

ようやくまともな挨拶が出来た。常陸さんは浅緑色の瞳を持ち、髪型はショートボブでまとめているが、横髪は胸のあたりまでくる長さになっている。というか、朝武さんもそうだったけど、常陸さんもお世辞抜きでかわいい部類に入る。穂織の女性はみんなこんな感じなのだろうか。…なんか俺凄い失礼なこと考えてるような…まあいいか。そんなことを考えていたら、安晴さんがパンパンと手を叩き

 

「さあ、朝ごはんにしようか」

 

そう促す。将臣と、朝武さんはすでに座っていたが、俺と常陸さんは机から少し離れた位置にいたので、移動し、座る。机の上にはご飯、みそ汁、焼き魚とメニュー的には普通の一般家庭の朝ごはんと変わりないが、見た目が違う。とても美味しそうに見え、食欲がそそられる。

 

「それじゃ、いただきます」

「「「いただきます」」」

 

まず、魚から手をつける。身を切ると、そこから湯気がのぼってくる。そして口に入れる。

 

「美味しい…」

 

身はふっくらしており、どこかに苦みもない。上手く出来ている。

 

「よかった。お口に合いましたね」

「え?これ常陸さんが作ったの?」

「はい。料理以外にも色々できますよ」

 

すごい器用なんだな。俺も一通りは出来るけど、ここまで上手く出来るかは分からんな。

 

「本当は私が家事全般をやるべきなんだろうけど、家事は苦手でね。妻にも先立たれてしまったから茉子君に頼りきりになってしまってるんだ」

「お気になさらないでください。楽しんでやってることですから」

 

なかなか安晴さんも大変なんだな。

 

「茉子君の家は昔からずっと朝武家に仕えていてくれてるんだ。本来の仕事は家事じゃなくて護衛なんだけどね」

「護衛…?」

 

普通に生活していれば出てこない単語を聞き、困惑する。

 

「常陸家は代々、忍として巫女姫様をお守りしてきたんです。とはいっても、日頃から護衛が必要な世の中じゃありませんから、普段は家事をしているんです」

「だから、クナイを。…納得しにくいけど」

「まあ、それは外とは違いますから。こちらからすれば神谷さんと有地さんが住んでいた世界の方が異質ではありますよ」

 

確かに。それは一理あるな。穂織と俺が住んでた──例えば東京──はかなり違う。VRやARの発展度もそうだが、基礎ネットワークの発展度もまるで違う。それに東京ではコンビニとかの会計は人を介さずにでき始めている。機械で商品を自動で読み取り、計算までする優れものだ。それに現金も使わなくなっている。そりゃ穂織から見れば、異質に感じるか。

 

「そういえば諒は料理出来るのか?」

「ああ、向こうでは一人暮らしだったから、料理を含めて家事全般は出来るぞ」

「神谷さんはこっちに来るとき、お家はどうなされたんですか?」

「穂織に居るのは半年っていう期限付きだから、東京の家は引き払ってないよ。そこは管理人さんが上手くやってくれてると思う」

 

こっちに来る時管理人さんに仕事のことを説明したら「あら〜学生なのに大変ねぇ〜。じゃあ部屋はそのままでしっかり守っておくよ!」と言ってくれた。すごい良い人で俺も何度も助けてもらっている。

 

「期限付きなのかい?それはなんで?」

「元々仕事で来たんですよ。今日もその仕事がありますけど」

「なら、なおさらワタシやっちゃいましたね…」

「だから気にしなくっていいって」

 

とまぁ、こんな感じで安晴さん、常陸さん、将臣とは楽しく会話出来てるけど、朝武さんだけが会話に入ってきてない。それに将臣も気づいているのか、何度か話しかけているけど

 

「巫女の仕事ってどんなのがあるの?」

「掃除や他の事務作業など色々です」

「そうなんだ…」

 

と、こんな感じでまったく会話にならない。というか会話をしたくないように見える。今朝将臣に言ったあの言葉をまさに現実にしている。これには安晴さんも頭を抱えるくらいで、「はぁ…」というため息をついてしまうほどだ。正直俺もこれには何も出来ないなぁ…

 

「ごちそうさまでした」

 

話していた俺たちと比べ、早く朝武さんの方が食べ終わった。朝武さんは食器を、流しに手早く運ぶと

 

「私は舞の練習をしてますので、何か用があれば呼んでください」

 

そう言うと部屋から出て行ってしまった。俺は頑固だなくらいにしか思わないけど、将臣にとっては居心地が悪いだろう。まあ朝武家に来てからの最初の朝ごはんは一方団らん、一方険悪となんだか大変なものになってしまった。ただ、干渉しすぎても、意味はないだろうし。

 

「(朝武さんの方から心を開いてくれるのを待つ以外はないか)」

 

そう結論づけた。

 

「ごちそうさまでした。俺も準備が出来次第、仕事に行きます」

「うん。がんばって」

 

そう安晴さんから言葉を掛けてもらいながら、食器を片付ける。そして自分の部屋に戻り、バックに必要な荷物を詰める。そこで机に置いてある時計を確認する。

 

「うん。良い時間だな」

 

朝ごはんを食べたり、談笑してたりしてたら丁度いい時間になっていた。

 

「それじゃ、行ってきます」

「行ってらっしゃい」

「行ってらっしゃいませ!」

「行ってらっしゃい」

 

朝武さんを除く3人から見送りの言葉を掛けてもらい、玄関から外に出る。いつか朝武さんにも言ってもらえたらいいなと考えながら、そう遠くない目的の場所へ歩いていった。




今回PTSDっていう単語をそのまま出すか、若干濁すか悩みましたが、トラウマの内、1か月以上続いているものをPTSDと呼ぶようなのでそのまま出すことにしました。
不快に感じていなければ幸いです。
次回もよければご覧ください。

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