モフモフ海鮮幻想郷   作:アシスト

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鮪と白沢

 

 

 

 

幻想郷に店舗を構えて一週間。

 

「きゅー」「きゅー?」「きゅーっ」

 

モフモフが増えました。

 

 

 

*————————*

 

 

 

人生って何が起こるかわからないよね。まさかお店ごと幻想郷(いせかい)へやってくる日が来るとは夢にも思わなかった。

 

正確には表口だけが幻想郷に繋がっているだけで、裏口は俺の世界もとい、外の世界に繋がっている。故に、外の世界でも俺の居酒屋自体は健在だ。看板も表口も当然付いている。けれど、紫さんの不思議な力によって、外の世界において俺の店は他の人たちには認知できないようになっているらしい。

 

「きゅー」

 

そもそもどうして紫さんがそんなことをしたのか、原因はこのすくすくである。

 

 

なんでも紫さんはこの『すくすく白沢』なる生き物を認知できる人間を探していたのだとか。

 

で、俺がその素質を持っていたため、手っ取り早く居酒屋ごと幻想入りさせたんだとか。

 

そんで、俺に幻想郷中に散らばって生息しているすくすくをできる限り集め、保護してほしいんだとか。

 

 

いろいろと理解が落ち着かなかったが、一先ず全てを飲み込むことにした。何故とか思わないのが人生気楽に生きるコツ、っていうのが我が家の教えだ。

 

集めろとは言われたものの、紫さん曰く『すくすくは素質ある者に寄って来る特性を持つから、貴方は居酒屋で美味しいお酒と料理を提供しながら待っていればいいわ』とのこと。幻想郷でも外の世界でも、俺のすることは変わらずに済むのはありがたい。

 

 

あれよこれよと時が過ぎて一週間。

結果、増えたのがこの二匹だ。

 

「きゅー?」「きゅー!」

 

二匹ともピンク色の毛並みを持ったすくすくだが、片方には翼があり、もう片方はクジラを模した帽子を身に着けている。名前は…すくすくミスティアとすくすくみよいって阿求さんが言ってたかな。

 

理由はわからないが、すくすくの容姿は幻想郷の住人の姿を模しているようで。この二匹も例外ではなく、元となった人物がいる。まだ会ったことはないけれど、2人とも飲食関係のお仕事をしているのだとか。

 

そんな2人を模しているだけあってこの二匹、見かけによらず料理ができる。短い手足で包丁やフライパンを巧みに使いこなし、美味しい料理を作り上げる。すごいの一言である。

 

「「きゅー…!!」」

 

料理を褒めるとドヤ顔を見せる二匹。

後でいっぱいナデナデしてやろう。

 

 

ちなみにすくすく白沢はというと。

 

「きゅーっ」

 

「おおぅ……これ、私か……」

 

「あっはっは。かわいいじゃん慧音」

 

カウンター席で複雑そうな顔をしながら座っている慧音さんとにらめっこをしている。ご友人の妹紅さんはそれを見て笑いながらビールを一杯飲み、口の周りに綺麗な泡をつけていた。

 

この慧音さんこそ、すくすく白沢の元となった人である。満月の夜だけ角と尻尾が生える体質なんだとか。不思議な体質だなぁ。

 

「海の幸を取り扱っている居酒屋があると聞いて来てみたのだが、すくすくか…。知識としては知っていたが、実物を見るのは初めてだ」

 

「なぁすくすく。私のすくすくって今どこにいるか知ってる?」

 

「きゅー」

 

「なるほど。わからん」

 

「? 妹紅は自身のすくすくを見たことがあるのか?」

 

「まあね。昔はあちこちに生息してたから。いつの間にかパッタリ消えたけど、元気にしてるかなぁ」

 

「きゅー!」

 

 

昔を懐かしむように、妹紅さんはすくすくを優しくモフる。

口元に泡をつけたまま。

 

妹紅さんの言う通り、大昔、少なくとも500年以上ぐらい前にはすくすくは野生で存在していたらしい。が、ある日を境にパタリと姿を消し、今になって再び現れたのだと阿求さんから聞いた。……あれ? 妹紅さん何歳(いくつ)だ?

 

いやいや、女性に年齢を聞くのは失礼千万。

俺は俺のすべきことを進めよう。

 

 

ってことで、本日の一品目は(マグロ)の三種盛りです。

右から赤身、中トロ、大トロとなっております。大トロは気持ちわさび多めで食べるのをお勧めしますよ。

 

 

「ふむ、これが海の魚か。宝石のように綺麗な赤色の身……見た目はお肉のようだな」

 

「ちょっと白っぽいのもあるね。どれ一枚」

 

「こら妹紅、手づかみなんて行儀が悪い。ちゃんと箸を…」

 

 

妹紅さんは慧音さんの注意に耳を貸すことなく、大胆に大トロを指でつまみ、わさび醤油にチョンとつけペロリと一口頬張る。

 

 

「……んんっ!? けーね! これすごいよ! すごくておいしい!」

 

「す、すごくておいしい? すごく美味しいではなくてか?」

 

「うん! この大トロっての、アイスみたいに口の中でとろける! んでもって、んまい!」

 

 

妹紅さんは目をキラキラと輝かせて、慧音さんに熱く語る。

 

気持ちはよくわかる。大トロって初めて食べるとあんな反応になるよね。俺も子供のころ似たような反応をした記憶が微かにある。なつかしや。

 

「では私はこっちの赤身を……あむっ」

 

次に慧音さんは手慣れた箸遣いで一枚、赤身を口に運ぶ。

 

 

「……ッ!」ガタッ!

 

瞬間、勢いよく眼をカッと見開き、カウンター席から立ちあがる慧音さん。

うえっ、デジャウっ。

 

 

「んんッ! 肉厚だがとても柔らかい! その上で噛むたびに確かな旨みがあふれてくるっ! これがこのマグロという魚本来の味であり、それをわさび醤油がより強く引き立てている! 口の中に広がる何とも言えぬ幸福感! これは、美味いッ!」

 

「きゅーっ!」mgmg

 

 

高らかに叫ぶ慧音さんとすくすく。

 

……ええっと、美味しいものを食べると叫びたくなる気持ちはわからなくもないけど、幻想郷の住人は少しオーバーリアクション気味じゃなかろうか。まぁ美味いと言ってもらえる分には嬉しいからいいけどね。

 

 

「……突然叫んでしまい申し訳ない。大将」

 

「うわぁー、顔真っ赤だよ慧音。恥ずかしがるぐらいなら叫ばなきゃよかったのに」

 

「いや、何故か叫ばなければいけない衝動に駆られてしまってな。今日は酔いが回るのが早いみたいだ。恥ずかしいと言えば妹紅、さっきから口元に麦酒の泡が髭のように付いているぞ」

 

「えっウソまじで!? それ早く言ってよ!」

 

我に返ったのか、ほほを赤く染めて恥ずかしそうにちょこんとカウンター席に座る慧音さんと、それをおちょくる妹紅さん。しかし慧音さんのカウンターにより、妹紅さんも顔を赤くしながら口元を拭う。微笑ましい光景だね。

 

そういえばすくすくよ。さっき慧音さんと一緒に叫んでたよね。もしかしてまたお客さんの料理をつまんだのかな? ん? アッキー怒らないから正直に言ってみなさい。

 

「き、きゅぅ…」

 

しょぼんと落ち込むすくすく。どうやら慧音さんのお皿から中トロを頂いていたようだ。

 

まったくもう。今日の(まかな)い飯はマグロ丼にしてあげるから我慢しなさい。慧音さんにはちゃんとごめんなさいするんだぞ。

 

 

「きゅー…」

 

「ふふ、気にしなくていいよ。せっかくの可愛い顔が台無しだ。私も怒ってないし、ほら。撫でてやるからこっちに来なさい」

 

「! きゅーっ!」

 

「よしよし、良い子良い子。もふもふー♪」

 

「きゅー♪」

 

「……大将。こう見てると、慧音とすくすくって家族に見えない? 董子ちゃんがよく言ってる『尊みが深い光景』ってこういうのを言うんだろうね」

 

わかりみが深い。

 

 

「きゅー」「きゅー」

 

おっ、次の煮込み料理が出来上がったみたいだ。

火加減の管理ありがとう、すくすくミスティアにすくすくみよい。

 

二品目はマグロの角煮。

醤油と生姜をベースとした甘辛い煮汁で、程よい柔らかさになるまでマグロを煮込んだ一品です。味もしっかり染みてますので、ビールのお供には最適な一品となっていますよ。

 

「もぐ……んん、美味い! 濃い味付けではあるが、マグロ本来の旨みもしっかりと残っている。生姜の風味も食欲を刺激するし、これは箸が止まらないな!」

 

「ビールも止まらないやつだねこれは。ぷはーっ、うまうま」

 

「「きゅー!」」

 

「おっ。お前たちが作ったのか? って、夜雀に鯢呑亭の看板娘か。そりゃ美味いわけだ。よし、お前たちは私がモフってやろう。慧音とは年季が違うところを見せてやるよ!」

 

「「きゅーっ!」」

 

妹紅さんは手慣れた手つきですくすくを撫で回す。すくすくたちも気持ちよさそうだ。

 

すくすくは本来警戒心の強い生き物らしいが、妹紅さんの前で寝転がり『お腹も撫でて!』と訴えるように見つめている二匹を見ていると、とてもそうには見えない。

 

改めてみると変わった生き物だなぁ。すくすくって。

 

 

「大将。マグロの角煮のおかわりを頼みたい。次は大盛で頼む」

 

「私はお刺身おかわり。あと熱燗もちょうだい。慧音、明日は寺子屋お休みでしょ? 今日は二日酔いなんて気にせずじゃんじゃん飲もう!」

 

「ふむ……羽目を外すのも偶には悪くないかな。よし乗ったぞ妹紅。大将、熱燗はこの角煮に合う銘柄を期待するよ」

 

「きゅー!」

 

 

「あいよ。期待されました」

 

 

 

*————————*

 

 

 

閉店時間が過ぎると、俺は後片付けと皿洗いに追われる。量は多いけど、それだけたくさんお客さんが来てくれたってことだから、ちょっと嬉しい。

 

ぶっちゃけると、外の世界にいた時と比べてかなり稼げている。幻想郷には海が存在しないからか、海鮮目当てで来てくれる人が多いのが主な要因だ。あと、一人一人がめっちゃ食べるしめっちゃ飲む。おかげさまで今まで枯れ気味だった懐事情がパンパンに潤っている。嬉しい限りだ。

 

「きゅー?」「きゅ」「きゅーっ」

 

鼻歌を歌いながらお皿を拭いているところで、すくすくたちが不思議そうにきゅーと鳴く。

 

なんだろうと思ってカウンター席を覗き込むと、そこには3匹のすくすくに囲まれるように、見慣れないモフモフが中央に座っていた。

 

「きゅー」

 

綺麗な毛並みの黒色のすくすく。

妙に高貴なオーラを纏っているように見える。

 

はて、いつの間に現れたのだろうか。

とりあえず撫でよう。

 

「きゅーっ!」

 

うーん、かわいい。

 

黒髪と言うと思い浮かぶのは巫女さんと新聞屋さんの2人だが、この子はそのどちらでもない気がする。まぁ、まだ幻想郷に来て一週間しか経ってないしね。そのうち会えるかもしれないし、気長に待ってみよう。

 

……そういえば明日は満月だな。幻想郷にも月があるし、外に席を設けてお月見気分でお客さんに飲んでもらうのも風情があってアリかもしれない。

 

すくすく達もそう思わないか?

 

『きゅー……zzz』

 

あっ、寝とる。もうおねむの時間か。

 

時計を見ると日付が変わっている。すくすくの体内時計は正確で、どれだけがんばっても日が変わるぐらいのタイミングで寝落ちしていまうのだ。

 

洗い物の前に寝室に運んであげよう。

起こさないよう優しくね。

 

 

 







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