⑨なチルノが脱出ゲームに参加した結果…… 作:タケノコ委員長
彼女もまた不思議である。
とある冬の朝の事である。不思議なことに、彼女は目覚めると箱庭の床に転がっている。そこは入口も出口もなく、かなり先に青いドアがあるだけの空間だ。彼女には到底、状況を理解することは出来ない。
彼女は起き上がると、真っ白な景色に囲まれ、ただ呆然と立ち尽くしていた。何も考えることができない。そんな時間が2~3分続く。
それから彼女は当てもなく辺りをさまよう。しかしなかなかドアを見つけることが出来ず、時間だけが笑いながら進み続ける。
5分ほど歩いただろうか。彼女は青い物体を発見した。それがドアだと気付いたのは、もう少しそこに近付いてからである。
ドアの目の前に着いた。未だ状況を理解できない彼女に、誰かが直接脳に呼び掛ける。
「脱出ゲームへようこそ。」
言葉を失いかけていた彼女への救いなのか、地獄の始まりなのか。天使の嘲笑とも言えるその一言に、やっと彼女は我に返る。
「ここ、どこなの?!」
ここに来て初めて彼女に疑問という概念が生まれた。しかし、やはり複雑な状況に対応することは出来ず、辛うじて最も単純な疑問を投げかけただけであった。
「目の前の扉を開けてみなさい。そこからあなたの旅は始まります。」
そう言うと、天使はどこかへ消え去ったような気がした。小声で聞いても、少し声を張って聞いてみても、どんな疑問にも答えてくれなかった。
彼女に残された選択。それは脱出ゲームを攻略するだけだった。目の前のドアが気になる。しかし、その前にここがどこなのかもっと気になる。
何も出来ないままずっと一人でいることで、突如として不安が襲いかかる。今まで無かった感覚だ。
ずっと考え事をしていても始まらない。少し辺りを探索して何も無いことを確認し、ドアノブに手をかける。
彼女は手を離した。勇気が出ず、泣き出す。それははぐれた小学生のように。しかし、どれだけ泣いても、どれだけ叫んでも、助けが来ることはない。希望を少しだけ残しながら、彼女も薄々気付いていた。
遂に決心がつく。この先何が起こるか分からない世界。もしかしたら命を落とすかもしれない世界。もしかしたら大切な人と決別するかもしれない世界。どんな世界が来ようとも、一生ここにいるよりは良いのかもしれない。
何も分からないまま、何を考えているのかも分からないまま、彼女は今一度ドアノブに手を差し出す。今度はドアがちゃんと開いたようだ。目の前の景色は、さっきまでの空間とは明らかに異なっている。
ドアを閉めると、意外なことに木々がたくさん存在していることに気付く。緑豊かな世界で、想像とはかけ離れたものだと一安心する。しかし、その場所に来たことは勿論なく、脱出の手がかりは一切ない。
さっきまでの物怖じする姿勢はいつの間にか消えていた。取り敢えずどこか寛げそうな所を探す。さっきの部屋に入ったときのように無心だ。
10分ほど歩いただろうか。さっきと大幅に異なる点が1つだけある。いつまで経っても何も起きないことだ。仕方ないので一度ドア付近まで戻る。
幸い道を覚えていた彼女は、うろちょろ歩いていたときとは違い早歩きで戻り、5分程で着く。すると、先程の天使の声だろうか。また何かが脳内に直接話しかける。
「あなたのやる事は、これから登場する5つの部屋から脱出することです。それぞれの部屋にはたくさんの脱出のヒントが隠されています。そのヒントを探したり、そこから脱出の方法を考えたりして、地獄の空間から逃げてください。」
なんとなくやるべき事は把握する。しかし、気になるのは最後の一言だった。ここは案外寛げそうな場所である。それなのに地獄の空間とは思えない。
脳内で勝手な妄想を繰り広げていると、天使はまた呼び掛ける。さっきより若干暗い声で、より嘲笑うかのように。
「各部屋のタイムリミットは1時間です。1時間経つとその部屋の存在が無くなります。あなたがそのなかにいたら?そう、あなたの存在も消えます。」
これまで抱いていた希望は、完全に失われる。むしろ絶望として彼女の周りにまとわりつく厄介な存在として生まれ変わる。
あれこれ考えている間もないまま、彼女の目の前に手のひらサイズのボタンが登場する。すると天使は語りかける。
「そのボタンを押してから、第一ステージは始まります。」
ボタンの色は黒みがかった赤に見える。実際は純粋な赤だというのに。
彼女は躊躇することなく、そのボタンを押す。それには彼女の僅かな期待や、多大なる恨みが入っているように見える。すべての感情をそれにのせ、デスゲームは始まる。
次回、episode1:アイロニー