【同人再録】Somewhere beyond the apocalypse what a wonderful world.   作:長串望

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艦娘終末後合同 Loveletter Beyond Apocalypseに収録されている拙作「Somewhere beyond the apocalypse what a wonderful world」、つまり前話の続編です。
読んでいないとわからないと思われます。
作者オリジナルファンタジー「異界転生譚ゴースト・アンド・リリィ」をお読みの方は、その世界観の下地になったと言えば大体どんなのかお分かりかと思います。
一応艦これの二次創作です。一応。


アキテーヌ手稿

 ヴァスタ・サブロージョと言えば、王国でも随一の港町である。

 王都の玄関口たる深い内海、その入り口に構えるため、湾への出入りの一切は必ずやここを通らねばならない。

 外洋を渡る大型の商船が常に出入りするばかりでなく、最新の軍艦が黒光りする砲をずらりと並べた姿は壮観と言ってよい。

 王国の技術の粋は、まずこの地に運ばれ、そして広まると言っていい。

 そしてこの歴史ある港は、()()の軍艦によって長きにわたって守られてきた聖なる都でもあった。

 

 しかし聖なる都といっても、そこに住まうのは俗世を生きる人々であるから、清らかなばかりでもない。

 喧騒もあれば、いさかいもある。後ろめたい過ちや腹黒い企みも横行する。

 酒も飲めば飯も食う。食えば出すし、疲れれば寝る。

 そういて生まれて、老いて、病んで、いずれ死ぬ。

 人の営みの一通りが、この町にもあった。

 

 ましてここは港町。

 陸路で、海路で、人と荷が常に行きかう交易地。

 

 地元の人間が暢気に煙草をふかしている向こうでは、また新たな馬車が荷を運んできた。

 そこから分かれて歩き出したのは、護衛の冒険屋たちだろうか。次も護衛についてどこかの町へ行くか、それとも久しぶりの町で骨休めをするかと話し合っている。

 

 あちらの賑やかでせせこましい市場では、青白い肌の山椒魚人が何人か、物珍しげに品を覗き込んでは往来の邪魔になっている。

 こちらの錬金術師の工房では、渓谷に住まう空魔遣いたちが、奇妙な金属や薬品を慎重な目付きで比べていた。

 

 塀の上で猫が鳴いていると思えば、その塀をするするとのぼっていく八つ足の犬もいる。そしてそれを追いかける飼い主らしき少年は、必死に名前を呼んでいるが、それさえも遊んでいると思われているものか、犬は調子に乗るばかり。

 

 そうした人の世の営みの賑やかさとやかましさは、裏通りの宿屋《入江の星々亭》にも変わらずにあった。

 《入江の星々亭》は冒険屋向けの宿屋の中でも、比較的懐に優しい親切な宿だった。つまりぼろで安くて店主の愛想は死んでいるが、客の荷を盗んだり客の命を奪ったりするような最底辺よりは上等な宿だった。

 

 一階の酒場では昼間から飲んだくれるごろつき連中が管を巻いていて、それが冒険屋というやくざな商売の中の下あたりだ。下の上になると金を払わないし、下の中となればそもそも金がない。下の下は野盗と区別がつかない。

 つまり中の下というものは、世間一般で曲がりなりにも冒険屋として認識される下限とも言える。

 

 その宿にげんなりした顔で帰ってきたのは、クナーボという若者だった。

 この若き冒険屋は、まだしも最底辺どもよりはいくらかマシであろうと自認しており、そしてそう考えている多くの最底辺どもと違って、実際に他者からもある程度評価されていた。

 もっとも、「事務屋」という身も蓋もない二つ名通り、冒険屋として期待される腕っぷしはいまいちだったが。

 

 クナーボは絡んでくる酔っぱらいどもを適当に流しながら目的の人物を探し、壁際のテーブルにその姿を見つけてほっと息をついた。

 

「アキテーヌ助祭、お待たせしました」

「いえいえ。先に始めさせていただいております」

 

 柔らかな微笑みに眩しく照らされたような心地がして、クナーボはうめいた。薄汚れた酒場の中で、そこだけ場違いに清廉な雰囲気さえある。

 たおやかな体つきをしたアキテーヌ助祭は、汚れひとつ見られない真っ白な法衣を身にまとい、その所作の一つ一つが酒場のよどんだ空気を浄化しているようでさえあった。

 

 助祭と呼ばわれるからには、もちろんアキテーヌは冒険屋などではない。最底辺などでは、とてもない。社会的地位で言えば、人々が頭を下げて道を譲る程度には高い。酔っぱらいも、最低限の敬意は払って助祭の方に反吐を戻すことはしない。他方にはお察しだが。

 

 しかし諸方を巡って祈りを捧げ、人々のために奉仕する巡礼尼僧は清貧を心掛け、このような安宿を選んで泊るのである。喜捨がしぶいので贅沢するような金がないことを宗教家はこのように表現する。

 

 巡礼尼僧はあくまでも尼僧であって冒険屋ではないが、凝り鬼(こごりおに)なる魔物を調伏する精霊の力の使い手でもあり、しばしば互いの利益のために行動を共にすることがある。

 

 尋常の存在ではない凝り鬼を相手取るには、精霊の手になる聖硬鉄の武器か、精霊の力そのものを扱う必要がある。精霊の力を扱えるのは、生まれながらに精霊に愛された申し子だけだ。

 しかし聖硬鉄も申し子は決して多くはなく、冒険屋が必ずしもそれらを抱えているわけではない。

 まして凝り鬼と正対できるほど強く精霊に愛された申し子というものは滅多にない。

 

 クナーボの亡き師であったメザーガは強く精霊に愛された申し子であったし、その一行もみな聖硬鉄の武器を揃えた猛者揃いであった。

 凝り鬼を幾度となく飯の種にしてきたその尋常ならざる一行でさえ、強大な凝り鬼一体の前に壊滅してしまったのだから、普通の冒険屋たちではまるで話にもならない。

 いくら金を積まれても割に合わない相手だ。

 

 一方で、巡礼尼僧は、たおやかで清廉な見た目とは裏腹に、みな凝り鬼調伏の法を修めた猛者揃いである。

 そのため凝り鬼を相手にして引けを取るということはない。

 

 しかし数少ないことに変わりはなく、巡礼尼僧は基本的に単独行動である。

 いくら強くても、一人でできることには限りがある。

 飯も食えば水も飲むし、眠らず休まずというわけにもいかない。

 

 そこで、冒険屋は凝り鬼を倒せる戦力として、巡礼尼僧は旅の負担を軽減するために、行動を共にすることが多いのだ。

 

 クナーボとアキテーヌ助祭もそのように、ある一件以来、旅路を共にしている。

 とはいえ、尼僧に世俗の仕事をさせるわけにもいかないので、普段の助祭はもっぱら辻で説法に励んだり、有力者のもとへ勧進に赴いていた。

 

 勧進というのは坊主や尼があれこれ話をしてなんやかんや金を無心することだとクナーボは理解していた。

 

 クナーボは疲れた顔で座り、薄めた麦酒と腹にたまるものを注文し、一息ついた。

 薄めた麦酒、というより、水に麦酒を加えたものと、何ものとも知れぬ煮込みがすぐに荒っぽくやってきた。いかにも貧相であるが、しかし存外に味は悪くないし、麦酒も小石や砂が混じっているようなことはない。

 

 アキテーヌ助祭のもとには、すでに空になった皿と、半ばほどまで減ったジョッキがある。それの中身は、もちろん酒などではない。敬虔な尼僧が真昼間から飲酒などもってのほかだ。

 これはあくまでも医者の水(メディトリンコ)だ。古の万能薬とも言われる蜂蜜に水を加えてなんやかんやしたものであり、薬が元なのだから薬であるというのが尼僧たちの主張である。

 なお、アルコール度で言えばクナーボが飲む麦酒水よりよほど高いが。

 

「ナージャ殿はご一緒では?」

「いやはや、相変わらずですよ。あの図体でどこに雲隠れしたものか」

「ふふふ、自由な方なのですね」

「自由……うーん、自由……」

 

 お上品な言葉に直せばそうなるのであろうが、要するに自分勝手ということだ。

 

 クナーボには連れの冒険屋がいて、ナージャという。

 長身の女で、めっぽう腕は立つのだが、喧嘩や争いごとは喜んでするのに、気の向かないことはてこでもしないし、つまらない仕事となれば姿をくらましてしまうのである。

 おまけに気前よく金を使ってしまうので、しょっちゅう無一文になってはクナーボにたかり、その総額は結構なものとなっている。クナーボもいちいち帳面につけて借金の返済を迫っているが芳しくはない。

 

 今日も倉庫の見張りという地味な仕事を、地味だからというどうしようもない理由で嫌がって姿をくらましてしまったので、クナーボは一人で倉庫の見回りをし、昼になってようやく抜け出してきたという次第だ。

 

「どうも怪しい連中が港をうろついてる、なんて噂でしてね。雇い主もそれで急に見張りを募ったみたいで」

「怪しい方々ですか……私も勧進の折にそのようなお話を耳にいたしました」

「ええ? となると噂ばかりでもないのかなあ」

 

 クナーボの表情が曇った。

 一応は冒険屋を名乗り、剣も帯びてはいるが、実際どのくらい使()()かと言えば、たかが知れている。

 また、師メザーガに見出された精霊の申し子ではあるが、その力は弱いし、扱い方もまだよくわからないままだ。

 

「荒事になりそうなら困るなあ……ナージャ見かけたら捕まえといてもらえますか?」

「わかりました。お伝えしておきます」

 

 クナーボは手早く何ものとも知れぬ煮込みをかっ込み、再び倉庫見張りへと走った。

 アキテーヌ助祭はそれを見送ると、()()と柔らかな微笑みを消した。変わって浮かぶのは至極物憂げな──はっきり言えば面倒くさそうな表情だった。

 ぱっちりとしたまなこは、胡乱気な三白眼にとって代わる。

 

「……ということでありますけど?」

「荒事と言っても人間だろう。()()()()()()は好かん」

 

 ぞんざいな物言いに返ってくるのは、これまたぞんざいな物言いである。

 近くの席に座っていた酔っぱらいの一人が、ばさりとフード付きのマントを脱ぎ去って立ち上がる。いや、それは変装であった。いくら長身と言えど、すっぽりとフードをかぶってうずくまってしまえば、ごろつきどもと区別などつかない。

 

 並の男どもを見下ろす長身に、密林の肉食獣を思わせるしなやかな肉体。精悍な顔立ちは、教会に佇む戦乙女の彫像を思わせる力強い美貌である。

 女はどっかりとアキテーヌ助祭の向かいに腰を下ろした。

 

「相変わらずでありますなあ、ナージャ殿は」

「やめろやめろ、お前までそんな呼び方を」

「まあまあ、これが今様の名前でありますよ」

「発音しづらいのは仕方ないが、落ち着かん」

「自分は結構気に入っているでありますけどなあ」

 

 ナージャというのは、彼女の名前をうまく発音できなかったクナーボが、苦肉の策として似た音の名前を仮に当てているに過ぎない。なおその名の持ち主は犬であった。

 

 本名を長門という。

 五千年以上の昔、人類の敵たる深海棲艦を相手に戦い、そしてついに力尽きて長き眠りについた、古代の人造兵士、艦娘である。

 仮死状態で休眠していたところに、ひょんなことからクナーボによって復活し、それから縁があって行動を共にしている。

 

「お前は昔からそう言うのが仕事なんだろうが」

「陸軍の諜報、なんてのはただの噂止まりでありますよ」

「どうだかな。胡散臭さはいや増しているぞ、()()()()

「手厳しい」

 

 肩をすくめる仕草に、清廉でたおやかな尼僧の面影などない。

 それらは造り物なのだから当然ではある。彼女にとってその程度の使い分けは造作もない。

 

 アキテーヌこと、あきつ丸。

 彼女もまたかつて艦娘と呼ばれた人造兵士の一人であった。

 もっとも、長門ほど出鱈目な生き方はしてきていない。

 

「長門殿こそ、五千年間野ざらしで、()()()一本でけろっと復活できるのは頭おかしいでありますからね」

「うむ、五千年も経っていたとはな。道理で見覚えがないと思った」

「当時海岸だったでありますからなあ、あそこらへん」

 

 地形が変化し、海岸線が移ろうほどの時間を、この二人は超えてきているのである。

 そしてそう言った艦娘は少なくなく、教会の抱える巡礼尼僧とはその多くが生き残りの艦娘たちで組織されているのだった。

 

 もっともそう言った艦娘たちは、戦争末期に軍事衛星群の崩落から退避するべく地下シェルターで休眠していたからこそ生き延びていたわけで、何の対策もなしに野ざらしで転がってたのにけろりと復活する長門ははっきり異常なのだが。

 

「人間相手では喧嘩にもならんし、コゴリオニだったか? はぐれの深海棲艦どもも級数低い奴ばかりだし、級数高い連中はとっくに停戦しているし、つまらん。歯応えがない」

「艤装もなしに素手で深海棲艦潰せるの、大戦艦級でもそんないねーでありますからね?」

「明石には艤装の復旧を頼んでいるんだがな」

「長門殿に艤装持たせたらろくなことにならんでありますよ……」

 

 あきつ丸とて、巡礼尼僧アキテーヌとして深海棲艦(コゴリオニ)とやり合うときは、艤装を展開する。いくら相手がイ級だのロ級だのと言った連中でも、素手でやりあおうなどと考えるのは普通に狂気の沙汰である。

 実際やらかす長門は艦娘ではなくもっと別のバケモンなのではないかと巡礼尼僧の間ではもっぱらの噂だ。

 

「まあでも、一応今回はクナーボ殿についておいた方がいいと思うでありますよ」

「あれもチンピラ程度ならそこそこやるだろう」

「チンピラで済めばいいであります。教会でも妙な動きを察して調査を進めているのであります」

「フムン?」

 

 教会は、かつての連合海軍ゆかりのものたちが組織した機関である。

 あきつ丸のように長い休眠を経て現代に復活した艦娘や、提督として指揮をとったもの。

 そして大崩落のさなかを生き延び、子々孫々と技術と知識を受け継いできた人々。

 精霊の力とはつまり、当時の艦娘技術が血脈の中に紛れ込んで広まったものなのだ。

 

 その彼らが、異常を察し、危機と判断して調査を進めている。

 それはたかが普通人の犯罪などでは、決してない。

 艦娘技術や深海技術、それらの絡む事件だ。

 

「『深き者ども』については?」

「ああ……なんだったか。深海棲艦信仰の連中だろう?」

「ええ、いわゆる邪教という奴でありますな」

 

 深海棲艦という人知を超えた脅威に対して、迎え撃つのではなく迎え入れて信仰しようという人々は旧世界にも見られた。

 深海棲艦は堕落した人間社会を正すべく現れた地球の免疫機構だとか、人類をより進んだ種へと導く道標なのだとか、人心の乱れた時代には大小さまざまな宗教団体が現れては消えていき、連合海軍としても対処に困っていたはずだ。

 

 『深き者ども』はそういった連中が現代まで続いた宗教団体の一つであるらしい。

 凝り鬼は人類への罰である、というのは教会つまり連合海軍がでっち上げた教義の通りだが、彼らはそこを大きく取り上げている。

 

 いまも凝り鬼が現れ続けるのは人類が悔い改めていないからであり、人類への罰である凝り鬼を退治するなんてもってのほか。

 きちんと悔い改めて凝り鬼を崇め奉り、凝り鬼を()()()()、選ばれた善人だけが招かれる母なる海へと還ろう。

 

 大雑把に言えばそんな教義を掲げているそうだった。

 

 彼らは自ら凝り鬼を探して、活動状態の者がいれば聖地や禁足地として周囲に住み着いてこれを守る。また休眠状態の個体を見つけたら祠をつくって崇めたり、保護したりする。

 たまに失敗して皆殺しにされても、それは殉教として尊ばれるという。

 

 それだけならまあ壮大な自殺行為でしかないので勝手にやってくれと言う話だが、もちろんそれだけでは済まない。

 彼らは彼らなりの基準で「堕落した罪人」を選別し、また、精霊の申し子、つまり艦娘因子を受け継ぐ人々を凝り鬼を害する罪人の血統とみなし、本人のみならず家族まで襲撃し、凝り鬼の生贄に捧げる。

 

 当然、深海棲艦の攻撃艦は人類に、特に艦娘因子に反応して攻撃するようプログラムされているだけなので、彼らの信仰とは全く関係がない。

 それどころか、高度な知性を有する深海棲艦上級個体の多くは、中枢(アクシズ)なる意志決定機構の破壊後は戦闘行為を停止しており、大崩落後の人類社会復興に協力までしている。

 一般人には受け入れがたいこともあって公開はされていなかったが、知識階級にとってそれは暗黙の了解だった。

 

 すべてが忘れ去られた五千年後の今では、彼女らは暢気に市場の露店を覗き込んだりしている。

 

「まあ、信仰が実際とかけ離れてしまうのはよくある話でありますが……問題は『深き者ども』が近年、急速に力をつけていることであります」

「だが、申し子とやらを排斥した、普通人の集団だろう?」

「巡礼尼僧として凝り鬼退治に赴いた駆逐艦娘が一人、襲撃を受けて手傷を追ったであります」

「……フムン?」

 

 途端、退屈そうな目に光を戻して前のめりになる長門に、あきつ丸は呆れたように肩をすくめた。

 

「凝り鬼に襲われているものと思って油断していたところに、申し子のものと思しき強化を受けた攻撃を受けたとかで」

「凝り鬼と一緒に襲ってきたのか? しかし連中は申し子を認めんのだろう。性質上、鹵獲も出来ん武器だ」

「ええ、ええ、なので、艦娘由来のものではないのでありましょう」

「なに?」

 

 あきつ丸は声をひそめた。

 

「深海棲艦の申し子、とでもいうのでありますかな」

「……人間と、深海棲艦が? そんな事が有り得るのか?」

「あれほどまでに姿を寄せたのであります。あるいは。それに五千年もあれば、人と深くかかわった事例も、あったのでありましょうな」

 

 いくら人のように見えても、深海棲艦は構成物質からして人間とかけ離れている。

 人間と艦娘のように、交雑可能なわけではない。

 しかし五千年の間にどのようなことが起こったのかは誰にもわからない。

 あるいは奇跡的なマッチングが起きたのかもしれない。

 

 ただ、確かなこととして、その鬼の申し子は、凝り鬼と一緒に襲い掛かってきた。

 それは単なる狂信者以上の脅威を想像するに難くない。

 

「そいつは凝り鬼に敵対されない……最悪、凝り鬼を操ることができる、そう言うわけか」

「教会では最悪の事態を想定しているのであります。巡礼尼僧はツーマンセルでの行動を徹底し、隠遁している空魔遣い……空母娘たちにも協力を要請しているのであります」

 

 殆どの深海棲艦が撃沈され、残る凝り鬼も十分対処できる以上、航空戦力は現代には過ぎたる力だとして、空母娘たちは人里離れた渓谷に住み着き隠遁していた。

 その彼女たちに声がかけられるというのは、相当な事態である。

 あきつ丸も警戒を厳にして臨んでいる。

 のだが。

 

「フムン……フムン! そいつは、そいつはモンダイだな!」

 

 長門が鼻息も荒くそう述べる。

 子供みたいに()()()()()()()で。

 

「うわぁ……だから言いたくなかったんでありますよなあ……」

「連れないことを言うな。つまり、つまりこれは戦争だろう。なあ、戦争だろう」

「遠足前の子供みたいな目で……」

 

 困ったほどの戦闘狂であり、戦争しかできないと自分で言うほどの脳筋なのだ。

 とはいえ、これが現状で一番頼りになる駒なのも事実なのだった。

 

「連中の信者が横……ヴァスタ・サブロージョに出入りしているのは確認済みであります。そしてその目的はどうやら、港湾部の()()()()()のようであります」

「なに? 出撃ドックだと? まだそんなものが残っていたのか。だがいまとなってはお前らもほとんど海には出んのだ。もはや古代遺跡みたいなものだろう?」

 

 かつてヴァスタ・サブロージョ──横須賀には大規模な鎮守府が存在した。

 出撃ドックとはその当時、艦娘たちが艤装を携えて海へと出撃する際に用いていた施設だ。

 基本は艦船用のドックと同じようなものだが、艦娘用の小さなものであるから、一般の艦船には使用できない。

 艦娘がほとんど陸上で活動している現代では、使用されることもないだろう。

 普通であれば。

 

「いいえ。横須賀鎮守府及び出撃ドックは現在まで整備維持がなされており、現役でありますよ」

「ほほう?」

「そして『深き者ども』は横須賀鎮守府に所属する唯一の艦娘を狙っているのであります」

「それは誰だ?」

 

 大崩落によって文明が崩壊してもなお、五千年もの長き間、横須賀鎮守府はたった一隻の艦娘のために稼働し続けてきた。

 深海棲艦の残党を一隻たりとも侵入させず、いかなる脅威からも内湾を守り続けてきた。

 出撃した艦娘たちが帰らず、提督さえも応答がなく、それでもなお彼女は戦い続けた。

 人々がシェルターから戻り、少しずつ社会が復興していく中でも、彼女は一人そこに立ち続けた。

 休眠もせず、整備と交換を繰り返して、魂を摩耗させながら、それでも。

 いまとなっては、起きている時間の方が短い。

 まともな会話さえ久しくない。

 眠らぬ電探だけが敵を探し続けている。

 

 最古の軍艦。

 王国の守護者。

 全自動戦争兵器。

 

 彼女の名は、大和。

 超戦艦大和。

 

 彼女のまどろみがいま、妨げられようとしてる。

 

 この世界で最も古い時代から戦い続けてきた艦娘。

 この世界で最も新しく生まれた深海棲艦の申し子。

 

 私たちの知らないどこか、終末の向こう側で、物語は動き出す。

 

 

 

 

 

 

「つまり、場合によっては大和のやつと演習できるかもしれんな」

「どんな場合でありますか!?」

 

 しかしそれは、まだ遠い未来の話だ。 

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