Nodding anemone   作:不思議ちゃん

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二十二輪目

 レジに向かうまで隙を見て伝票を奪おうとする高瀬さんをいなし、会計を済ませて店を出れば。

 いろんな感情が混ざった形容し難い表情をしている高瀬さんが俺をジッと見てくる。

 

 手に持つ財布からお金出して渡そうとしてくるのが何となくわかったので、そうなる前に自身の財布をさっさと鞄にしまってしまう。

 

「むっ」

「ほら、財布しまってください。アクセサリー店に行きますよ」

 

 そう言ってさっさと歩き出せば、少し慌てて財布をしまった高瀬さんが追いかけてくる。

 

 今回はやってやったぜ、と思ったけれど。

 隣を歩く高瀬さんの雰囲気から、これまで以上の何かをされるような気がしてならない。

 一瞬、大人しく奢られとけば良かったんじゃないかという考えがよぎるが、例え自己満でもやったことに後悔はしていない。

 

「あ、ここですね」

 

 先程の店からそれほど離れているわけでもなく。

 五分も歩けば目的の店である。

 

「ここってすごい有名なところだよ」

「そうなんですか? そういったのにだいぶ疎いのでよく分からないですけど、流して商品を見た感じ良さげだったので」

 

 デザインは凝ったものからシンプルなもの、お値段も高いものからお手頃まで幅広く取り揃えてある。

 ここでならいい物も見つかりそうであると思った。

 

「いらっしゃいませ。本日はどのような物をお探しでしょうか」

「あ、えっと」

「彼の彼女の誕生日プレゼントを探しに。私は付き添いです」

「畏まりました。それでは奥のお部屋へどうぞ」

 

 あまり慣れない空間に呑まれる俺とは違い、高瀬さんは店員さんと普通に話を進めている。

 どうなってるのか理解が追いつかないまま案内に従って部屋に通され、椅子に座ったはいいものの。

 

「……こう言ったらあれですけど、あまり高いの無理ですよ」

「大丈夫だから気にしなくていいよ」

 

 雰囲気的にセレブ用の部屋であり、このまま高い物を薦められるのではと思い。

 こっそり高瀬さんに伝えるが、クスッと笑ってそう口にするだけである。

 

 案内してくれた店員さんと入れ替わるように別の人が部屋に入り、対面の椅子に腰掛け。

 手に持っていた冊子をいくつかテーブルの上に置いていく。

 

「ようこそいらっしゃいました。私、村瀬と言います。お客様が満足していただけるよう精一杯サポートさせて戴きますので、どうぞよろしくお願いします」

「えっと、桜です。よ、よろしくお願いします」

「高瀬です。お願いします」

 

 挨拶したはいいが、どうしたものかと思っているとテーブルに置かれた冊子に高瀬さんが手を伸ばし、中を見ていく。

 

「桜くんは夏月にどういったもの渡すか、何となくイメージはついてるの?」

「そう、ですね……凝ったものよりはシンプルなほうが普段使いしやすいのかなって思ってます」

「それでしたらこちらとこちらの冊子になります」

「あ、ありがとうございます」

 

 渡された冊子を流し見ていくが、シンプルながらもいろんなデザインがあり、結構悩む。

 どういう掲載順なのか分からないが、値段も高いのだったりお手頃だったりがバラついてある。

 

「気になるものがありましたら、こちらに実物を運んできますのでお伝えください」

「そう、ですね……」

 

 取り敢えず値段のことは一度気にせず、気になったデザインのをいくつか持ってきてもらうことにした。

 

「色は全部、淡い水色なんだね」

「キャラにも多少引っ張られてるんですけど、夏月さんの雰囲気が爽やかな元気、って感じなので。名前に夏ってあるので青もいいかと思ったんですけど、少し強いかなと思って」

「そうなんだ。ちなみに私はどんな感じ?」

「高瀬さんは赤寄りの淡いオレンジ、ですかね? あ、名前の春から桜を連想した色も似合うと思います。ん……でもやっぱり髪色から淡いオレンジの方が良い、のかな?」

 

 そんな話をしてる間に頼んだものが運ばれてきてテーブルに並べられていく。

 プレゼントするのはネックレスと指輪の二種を考えてるのでそこそこ数がある。

 

「うーん……良いものが多くて悩みますね」

「桜くんが一生懸命選んだものがいいから、焦らず決めよ」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「今日はありがとございます」

「ううん。私も楽しかったよ」

 

 悩んだ結果、良いと思えるものを買えたはいいが。

 店を出る頃には夕方までいかないものの、そこそこ時間が経っていた。

 

 プレゼント選びに高瀬さんを何時間も付き合わせてしまったのと、相談に乗ってくれたのとで申し訳なさと感謝が。

 そしてもう一つの理由から。

 

「あの、良かったらこれ貰ってください」

「へ?」

 

 実は高瀬さんにバレないよう店員さんに頼んで買ったものがもう二つあるのだ。

 チェーンブレスレットと指輪で、高瀬さんが気になってよく見ていたデザインのもの……だと思う。

 これで違ったら少し恥ずかしい。

 

 渡した物を見て、高瀬さんは驚きの表情をして俺を見てくる。

 サプライズとしては良いのではないだろうか。

 

「相談に乗ってもらったお礼と、二ヶ月ほど遅くなった誕生日プレゼントということで」

 

 高瀬さんの誕生日は三月で、初めて会ったときにはもう過ぎてしまっている。

 けどまあ、そんな細かいことは問題ないはず。

 

「え、でも、桜くん……」

「後は……これからも長い付き合いになると思うので、よろしくお願いしますという意味合いも込めて、ですかね?」

 

 そう伝えると、喜んで貰えたのか早速この場で付けてくれるようだ。

 指輪を左手の人差し指、チェーンブレスレットを左手首と着けてるので偏ってないかなと思わなくもないが、本人がとても嬉しそうなので良しとしよう。

 

「色といい、デザインといい、とても似合ってますよ」

「本当? 凄く嬉しい! ありがとう!」

 

 やっぱり、淡いオレンジ色で正解だった。

 俺としても大変満足できた買い物である。

 

 ……出費についてはあまり考えないようにする必要があるけどもね。




既にボロボロの春だが、『財布』としてでも主人公の側にいられたらと思い始めていたところ、その役目すら奪われ。
普通を装えているのは主人公に情けない姿を見せられない半ば意地である。
自身に似合う色を真剣に考えてくれたことで少しだけ気力を回復したりでなんとか無事に買い物も終え、家に帰って酒を浴び、泣こうと思っていたところ。
アクセサリーを『夏月よりも先に』プレゼントされ、『これからも長い付き合いになる』と告白され。
春は主人公という沼にハマって抜け出せなくなりましたとさ。
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