ライブ会場にVIP席って存在するんだな……。
結局、看護師さんの熱意に負けて会場へ向かったはいいものの、人見知りの俺には他の人との交流は難しく。
さらには現場にいるファンは女性ばかりであり、見回しても他に男を見かけない。
距離をあけて俺を囲うように女性が集まり、変な空気になってきた頃。
会場のスタッフが慌ててやってきて、案内されたのがここというわけだ。
看護師さんは一緒ではなく、ファン同士交流していることだろうが……職務怠慢なのでは?
このVIP席とやら、知らなければどこにあるか分からない作りになっており。
個室で邪魔されることなく楽しめる空間で、さらには飲み物や軽食まである。
イスも硬いものではなく、二、三人は座れるソファーだ。
惜しむべきは距離があることだろうか。
モニターがあるとはいえ、やはり生のパフォーマンスを近くで見たい。
本来通される筈だった関係者席はここより距離が近いので、そちらはダメなのかと聞いてみたが。
安全にライブを終えるためにここで我慢してくれ的なことを言われた。
自分のせいで中止となるのはちょっと無理なので大人しく従うしかないが、正直何が危険なのか分かっていなかったりする。
今現在、ステージ上には最後に簡単な流れを確認するメンバーの姿が見えていた。
裏の部分は普段目にする機会がないため新鮮であり、ギリギリまで良いパフォーマンスをするため心血を注いでる姿に胸打たれる。
それらも十六時を迎える前には終わり、開場、開演に向けて準備が進められていく。
見るものもなくなり、暇になってしまった途端に少し眠気が。
始まる三十分前にアラームをセットし、靴を脱いでソファーへと横たわり、膝掛けとして貰っていた毛布をかける。
気絶するように眠っていた意識が、何かを感じて覚めた。
目をそっと開けてみれば心霊の類とかではなく、ソファーの側に膝立ちして俺のことを覗き込んでいる高瀬さんの姿が。
でも俺が起きたことに気がついていないし、寝ぼけ眼が少しハッキリして分かったのは、高瀬さんが目を閉じていることくらい。
どうしたのだろうと思うのも束の間、何故か高瀬さんの顔が徐々に近づいてきて──。
アラームの音によって意識がハッキリとする。
身体を起こして見回すが、高瀬さんは居ない……というか、この部屋には俺しかいなかった。
夢にしては妙にハッキリとした感触が口に残っている気がする。
触れるだけには留まらず、さらには舌が中へと──。
「…………」
そこで思考を中断させる。
夏月さんがいるのに、高瀬さんがキスをしてくる……夢? を見るだなんて、気持ちが浮ついている。
それもこれも、この変わった世界観では一夫多妻だという話を聞いたからだろうか。
心の中の悪魔が『全員抱けよ』と囁いてくるが、人は一度堕落するとどこまでも際限なく堕ちていくのを知っているため。
出来る限り心を強く持っていきたい。
本来ならばそれが望ましく喜ばれるのだろうけれど、どこか抵抗がある。
そのうちそれらも無くなるのだろうが、自身なりの……なんだろう。心の整理みたいな。
…………暫く高瀬さんの顔をまともにみれないのは確実だろう。
ジェンダーの時と同じく、あくまでこの作品における設定になります。
その事を念頭に置いていただけると幸いです。
この世界では大抵の病気を治せる。
癌やその他難病といわれるものも完治できるのだが、無精子病、無卵子病(排卵障害)はどうにもできないと言われている。
これまでは不妊治療などでどうにかなっていたものも、代が重なるごとに身体の構造が変わっていったのか不可能に。
癌などの完全治療が確立した背景として、子を産めない身体となった女性、子を成せない男性の犠牲に成り立っている。
当時も人権についての問題などあったが、世界各国は共通して『全ては次代に繋げる為(男性の為)』と掲げ、医療の進歩を早めるために非人道的な実験を繰り返していた。
今ではそのようなことは無い……と断言できない。
某国らでは未だに水面下で実験を続けており、各国もそれを知っている。
本来ならばあり得ないが、その実験が『無精子病(優先)、無卵子病』の治療確立であるため、黙認されているし、材料(人)を提供していたりする。
以下、どうでもいい補足的な
貴重な精子であるので、体外受精など子を成す為の技術などは真っ先に高められた。
現在、数多の女性が主人公の子を成していたりする。
ちなみに看護師さんも(男よりもオタ活メインなオタクだが、子供がいらないわけでは無い)。
母体が違くとも男は同じである為、男子が生まれた場合、近親交配についてはかなり気をつけられている。