オリ主に女装を褒められた一夏が心まで女の子になった話 作:トッポの人
迂闊なことは言わない方がいい。
もしも過去に戻って何か出来るのなら俺は幼い頃の自分自身に口をすっぱくしてそう言っただろう。
「可愛いよ」
お前のその何気ない一言が多くの人間を歪めてしまうのだと。
「懐かしい夢だったな……」
目が覚めて、見ていた夢の内容に思わずそう呟いた。
内容はなんてことはない、幼い頃から付き合いのあった二人を自分の誕生日会に招いた夢。
俺と隣に住んでいる男の子の織斑一夏と道場で知り合った女の子の篠ノ之箒とは毎日一緒に学校まで通ったし、帰って遊ぶのも一緒だったほど仲が良かった。
それだけに幼馴染の一人と別れる際は寂しくて泣いたのを今でも鮮明に覚えている。
「晃、晃。朝ごはん出来てるよ。早く起きてー」
瞼を閉じて夢の内容に思い耽っていればそんな間延びした声が聞こえてきた。
途端に明るさが増した部屋に怯みつつも、うっすら開けるとそこにいたのは幼い頃と比べて成長し、学校指定のセーラー服に身を包んだ幼馴染の姿。
「おはよっ」
「おはよう……」
俺が目を覚ましたと知るやカーテンを開けて窓から見える太陽にも負けないくらい明るい笑顔を向ける。
向こうの元気さに比べて寝起きで今一テンション上がらない俺をくすくす笑う幼馴染。
一頻り笑うと今度はしょうがないと言わんばかりの顔を浮かべて俺の手を取った。
「ほら、顔洗って一緒にご飯食べよ?」
「あい……」
「ここから階段だから気を付けてね」
「あい……」
俺と比べて小さく柔らかな手に引かれ大人しく洗面所へ。
何度か水に触れると冷たさとさっぱりしていく感覚に少しずつ覚醒していく。
「ふいー……」
「はい、じゃあ顔拭いてあげるね」
「それくらい自分でやれるわ」
「あっ」
完全に覚醒したところでぴったりと横にいた幼馴染から奪い取ったタオルで顔を拭いた。
水気を拭ったところで改めて横浜にぎわいにいる幼馴染と挨拶をしようとしたところで漸く気付く。さながらハムスターのように頬を膨らませて不満を露にしていることに。
「どうした?」
「顔洗う前は大人しく言うこと聞くのに……」
「眠いからな」
何故か俺に対して世話したがりの幼馴染を無視して改めて朝の挨拶。
「おはよう一夏」
「おはよう晃」
────今までのやり取りで女の子の幼馴染の箒だと思った?
残念、男の子の一夏くんでした。
男の子と言ってもその見た目は完全に女の子と変わらない。
男の制服は学ランなのだが、こいつは何故か完全に女子用のセーラー服を着ているし、それが許されている。
体格も何も知らなければ女の子と間違えるほど華奢だし、身長もつい最近一五〇cmを越えたと喜んでいたくらいだ。
「何でだよ」
「?」
そうは言ったが原因は分かっている。
俺の誕生日会で箒の姉である束さんが何を思ったのか、いきなりサプライズで一夏を女装させたのだった。
その時はまだ一夏も口々におかしいと正常な判断をしていた。
ところがどすこい、そこで可愛いって余計な一言を言って正常な判断を僅かに歪めた野郎がいるわけですよ。
まぁ、俺なんですがね。くそっ、あの時の俺を殴ってでも止めたい。
ともあれそれを皮切りに束さんがお祝い事があると一夏を女装させるようになった。女装させた自身のセンスも褒められたと思った束さんも更に熱をあげていく。
毎度俺に感想を求めてきて俺も素直に可愛い、可愛いと褒めていた。僅かな歪みが徐々に大きくなっていく。
それが小学校四年生まで続き、束さんが女性にしか扱えないISというのを作ったから箒達は引っ越し。これで一夏くん解放されたかと思いきや、時すでに遅し。
「ど、どうかな?」
一夏くん、ついに自分から女装するようになってました。しかもお祝い事だけじゃなく、日常から女装するようになっちゃった。もうハマり具合凄すぎる。ハマり具合凄すぎてハマグリになったわね……。
あまりにも女の格好が似合い過ぎて中国から来ていた鈴って転校生が四年ほど日本に滞在していたんだが、その間完全に女子だと騙し通せていた。というか一度も男子と疑う素振りすら見せなかった。
「いや、何でだよ……」
「ど、どうしたの?」
唐突に頭を抱え始めた俺を心配そうに見つめる一夏。言葉遣いから仕草まで、何から何までもう本当に女の子らしかった。何処で勉強してきたの。
たまに頭がバグってこいつ実は女だったりしないかなとも思ったが、幼少期に一緒に風呂入ってしっかり股の下にぶら下がるものも見ていたからそれはあり得ない。
あれか、レベルEに出てきた幹久今日子みたいに実は染色体レベルでは女とかなのか。
それなら納得出来るから俺の頭がおかしくなる前に早く性転換してくれ。いや、そういう問題じゃないだろ、何言ってんだ俺。
「よし、大丈夫だ。俺は大丈夫だ」
「何で二回言ったの?」
「大事なことだからな」
「そうなの?」
思いっきり頬を叩き、大丈夫だと自分に必死に言い聞かせて謎の思考から脱する。
それを見てよく分からないと一夏が小首を傾げるがそういう仕草は俺に効くからやめてほしい。
「せーのっ」
「「いただきます」」
気を取り直して食卓へ着くと作ってくれた本人の音頭で朝食をいただくことに。和食で構成されたメニューはやはり日本人の舌に合うのか、朝から箸が止まらない。
この素晴らしい朝食を作ってくれた一夏が隣でニコニコしながら最早定番で分かりきったことを聞いてくる。
「美味しい?」
「おう、いつもありがとうな」
「どういたしまして。ご飯おかわりする?」
「んー……お願いします」
「はーいっ」
ちょっと悩んだがありがたくいただこう。茶碗を手渡すとヘアゴムで纏めた腰まで届く長髪を尻尾みたいに左右に揺らし、嬉しそうに台所へ。制服の上から着ているエプロンが眩しい。
「あっ、今日帰りにお味噌買ってこないと」
「んー。買うのそれだけか?」
「ちょっと待ってね。んーと……」
そう訊ねると茶碗にご飯をよそう前に一夏は冷蔵庫や台所の棚を見て在庫を確認する。
「ちゃうねんて」
「?」
いや、だからこのやり取り。特に疑問抱かなくなってるけどこのやり取りよ。新婚みたいになっちゃってるよ。
冷静になれ。そもそもこれは俺の両親が共働きで忙しいし、一夏の家も千冬さんが忙しくてろくに家にいない。
それならお隣同士だし、このご時世一緒にいた方が安心だからって理由で一緒にいるだけで、そのついでで一夏が家事をしてくれてるだけだ。えっ、言い訳苦しくない?
ただ一夏は本当に誘拐されそうになったから理由としては苦しくはないはずだ。物騒なことこの上ない。まぁ実際誘拐されたの近くにいた俺だったけど。
一夏が本当のターゲットだと分かったのは誘拐犯がターゲットは織斑千冬の弟だと言っていたから。まさか隣にいた見た目は女の子の方だと思わないもんね。こればっかりは仕方ない。
「はい、ご飯」
「お、おう、ありがとう」
「う、うん」
再び頭を抱えそうになったところで戻ってきた一夏から茶碗を受け取る。
と、何やら一夏の様子がおかしい。食卓に着いたのに食事どころか箸も持たず、ただ両手をもじもじとさせるだけ。
「どうした?」
「な、何かさ」
「おう」
あっ、ちょっと待って何か嫌な予感がする。
「さっきのやり取り新婚さんみたいだったね……なんてえへへ……」
「ッ、スー……」
聞かなきゃよかった。恥ずかしそうにとんでもないことを口にする幼馴染に思わず天を仰いで深く息を吸うしか出来ない。だって凄い幸せそうに笑ってるんだもの。
どうしようこれ。大きすぎて俺だけじゃ修正不可能だよ。千冬さん助けて。
ちなみにこの一夏が女性にしか扱えないはずのISすら欺いてみせたのはもう少し先の話。
俺がお前判定ガバガバかよって叫ぶのももう少し先。