【完結】皇帝を育てた男が帝王を育てる話   作:兼六園

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紆余曲折あったけど無敗の三冠達成!URA優勝!いやあハッピーミークは強敵でしたね……


帝王を育てた男が約束を果たす話

「おじさん、カイチョー! 早く早くっ!」

「落ち着けテイオー、温泉旅館は逃げねえから。ったく……ルドルフからも言ってくれ」

「ああ。テイオー、転んでしまうぞ」

「へーきだもーん」

 

 早いもので、阿僧祇(あそうぎ)(やまと)がトウカイテイオーと契約したあの日から、無敗の三冠とURAファイナルズの優勝を果たすという壮絶な3年間が過ぎ去った。頑張った御褒美として、和は某所の温泉街にテイオーとルドルフを連れてきていた。

 

 私服に眼鏡を着用した珍しい格好のルドルフは和の隣にぴったりと寄り添って歩き、テイオーは温泉街の物珍しさに気分を高揚させる。

 

「……ところでルドルフ」

「何かな?」

「なんでお前まで居るんだ?」

「はて、なんのことやら」

 

 土産店の店先の商品を眺めているテイオーを余所に、和はルドルフに問い掛ける。

 

「この旅行はテイオーが引いた温泉旅行のペアチケットを使う為の旅行なのに、なんだって三人目(ルドルフ)が当然のように着いてきてるんだ」

 

「ああ、それならテイオーにこの話を聞かされてね、どうせなら一緒に行こうと誘われてしまったんだ。ペアチケットの予約に人数を追加して、今に至るわけだよ」

 

 自慢気に指を立ててそう言ったルドルフに、和は深いため息をついた。

 

「こそこそやらないで、俺に言えば良かっただろうが。相手がお前なら断らねえよ」

「……当日に合流した件については申し訳ない。ただ……あくまでもテイオーの為の旅行だ、万が一あなたに断られでもしたらと思うと──」

 

 ルドルフの言葉が尻窄みして、耳がぺたんと倒れる。気弱な処がある彼女に、再度ため息をついた和は、組んでいた手を腰へと回して言う。

 

「断らねえよ。寧ろ……お前のトレーナーだったときにこういうところに連れていってやらなくて、悪かったよ……ルナ」

「──! ふふ、じゃあ、これからは遠慮なくワガママを言おうかな?」

 

 表情を明るくして、パタパタと尻尾を振るうルドルフ。たんったんっと和の足を叩く動きに苦笑をこぼすと、戻ってきたテイオーが声を荒らげて二人の間に和って入って頬を膨らませた。

 

「こらこらこらーっ! 二人だけで何をイチャついてるのかな?」

「別に問題ないだろ、俺、一応ルドルフの元トレーナーだし」

「そーいう問題じゃないんだけど! これ、ボクとおじさんの慰安旅行なんだよ」

 

 ルドルフから和を離すようにして、ガルルルと威嚇をする。テイオーのことを良く知っている二人からすれば、可愛いげのある行動だった。

 

 くつくつと喉を鳴らして笑うルドルフが、テイオーの頭をそっと撫でながら返す。

 

「彼は君のトレーナーであり私のトレーナー君なのだから、何も問題はないだろう? 私だって、トレーナー君との旅行は初めてなのだぞ」

「えー……それは酷いよおじさん」

「お前はどっちの味方なんだよ」

 

 手のひらを返して和を非難するテイオーに、彼はツッコミを入れる。とはいえ現役時代に旅行なんかに連れていかなかったことは事実な為、強く言い返す事が出来ない。

 

「──あっ、あっちに足湯があるって! ねぇおじさ~ん、温泉卵食べよーよー」

「わかったわかった」

 

 ──やったー! と言って、一転して走って行くテイオーの背中を見て、現金だなと和は呟く。そしてふと、彼女の成長に気が付いた。

 

「……テイオーのやつ、この三年でずいぶんと成長したな。なんとなくルナに似てる」

「そうだろうか?」

「髪の量もあるが……なんだろうな、どことなく雰囲気が血縁者っぽいんだよ」

 

 ふうむ、と首を傾げる二人は、テイオーに呼ばれて意識を切り替える。足湯を堪能しながら温泉卵を味わう三人が温泉宿に向かうのは、それから暫くのことだった。

 

 

 

 

 

 ──夕方、宿での夕食を終えた和は、一人貸し切り状態の温泉に体を落ち着けていた。

 

「っだあ゛~~~……」

 

 胸元までを濁ったお湯に沈め、ゆったりと全身を癒す。なんだかんだとウマ娘二人の相手をしながらではどうしても心身ともに疲れが溜まるため、だらしなく風呂を堪能する和を責められる者は誰もいない。彼はさらりと対応できているが、ルドルフもテイオーも、端から見ればかなり気難しいウマ娘なのだ。

 

「……さて、どうしたもんかね」

 

 露天風呂であるため、ぼんやりと空を見上げながらそんなことを吐露する。

 

「テイオーとの約束も大事だが……ルナの気持ちを無下にするわけにもいかねえしなぁ」

 

 しかし、二人を纏めて選ぶとなると、和本人にそこまでの度胸や甲斐性があるかと問われれば、彼は首を横に振るだろう。

 確かに歴史上で和より以前に、複数のウマ娘から想いを寄せられたトレーナーは何人か存在する。存在するが、そのトレーナーが全員を娶ったという事実は一つとして無い。

 

 理由は簡単。法的に難しく、倫理的に怪しく、そしてなにより──人間のアスリートを上回る身体能力とスタミナを持つウマ娘の相手をしていては、男側の()()()()()()のだ。

 

「……流石に、男として笑えねえ死に方は勘弁願うぞ。まったく……」

 

 和は考えを纏めて、熱い温泉を掬い顔を洗う。それから風呂を上がると、浴衣に着替えて二人の待つ部屋に戻った。

 さも当然のように相部屋にされている事を指摘することすらバ鹿らしくなってきた和だが、部屋に戻れば意識が二人に向けられる。

 

「お帰り~おじさん」

「お帰り。お湯加減はどうだった?」

 

「……ああ、良かったよ」

 

 和と同じ浴衣に身を包む二人が、敷かれた布団の上で雑誌を広げていた。若干はだけた服装に、ちらりと覗ける色白の美肌。風呂上がりで僅かに汗が滲み、無警戒な二人の谷間に流れて行く。

 

「………………っ」

「ほらっ、おじさんも座りなよ~」

「この雑誌、覚えているかい? 私とあなたの、当時のレースでの記事だ」

「あ、ああ……」

 

 三つ並んだ布団の真ん中にストンと座り、広げられた雑誌に目線を移す。

 そこには今とそう変わらない美貌のルドルフが写ったページがあった。

 

「菊花賞で勝って、無敗の三冠を果たした私を見て、あなたは大層嬉しそうだったね」

「……俺のワガママで走らせて、それでも勝ってくれて……嬉しかったに決まってる」

「またそうやって卑下する。あなたの悪い癖だ、もっと胸を張って良いだろうに」

 

 やれやれ、と頭を振ったルドルフに、和もまた苦い表情を作る。だが、雑誌を読んでいたテイオーが疑問の声を上げた。

 

「ねーねー、これ変じゃない? なんでカイチョーの事ばっかりでおじさんの話が無いの?」

「そりゃあルドルフのことを目的とした記事なんだから、俺はお呼びじゃねーんだろ」

 

「いいや、それは違う。そもそも、根本的に間違っているぞトレーナー君」

 

「る、ルドルフ……?」

 

 ゆらりと髪を揺らし、ルドルフはテイオーから雑誌を奪い取るように手にすると続けた。

 

「人バ一体という言葉があるように、我々ウマ娘とはトレーナーがあってようやく完成するのだ。昔から続くこのウマ娘を優先しトレーナーを見向きもしない記事は多々あるが、まったく嘆かわしい……私はウマ娘全員が幸せになる世界を目指しているが、しかして影に埋もれるトレーナーという立派な人達をも幸せにしたいんだ」

 

 まるで演説のように仰々しい言葉に、二人は気圧される。荒々しい雰囲気を落ち着かせると、雑誌を傍らに置いて、ルドルフはおもむろに和の体にしなだれかかった。

 

「……トレーナー君」

「おい……急にどうした」

「例えば、ウマ娘とトレーナーを平等な立ち位置にするには、前例が必要だと思うんだ」

「……そ、それで?」

「そんな素晴らしく、愛に溢れた、尊い関係の第一人者になりたい、と言ったら──あなたは私を受け入れてくれる?」

 

 そのままの勢いで、ルドルフは和に顔を近付ける。思わずキスでも出来そうな距離に首を曲げて逸らすが、不意に後ろから熱が伝わった。

 

「っ──テイオー?」

「……カイチョーだけじゃなくて、ボクだって同じ気持ちだよ」

 

 首に腕を回され、耳元にテイオーの口が、背中にはこの三年で成長したふくよかな部分が当てられた。優しく回されている筈なのに、その腕を外すことが出来ないでいる。

 

「…………あなた」

「…………おじさん」

 

 熱のこもった声が、和の理性を溶かす。そして激流に身を任せるように、二人に布団の上へと転がされ──明かりを消された部屋の中へと姿を隠した。薄々こうなるだろうとは思っていた和だが、その通りになるとは思っていなかった。

 

 どこで間違えたのか。いや、間違えた部分など無いのだろう。ルドルフに好かれ、テイオーに好かれたのだ。ここで有耶無耶にしても、いつかのどこかでこうなっていたと確信している。

 

 ──せめて温泉旅行のチケットの裏面を読み込んでさえいれば、もう少し心の準備をすることが出来たのに、と。そんな後悔をしながら、彼の意識は凄まじい脱力感で途切れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──キタサンブラックは、トウカイテイオーに憧れたウマ娘である。無敗の三冠を成し遂げ、その後に二冠を達成した五冠のウマ娘。

 

 そんなウマ娘に憧れた彼女は、数年後にトレセン学園に友人のサトノダイヤモンドと共に入学し、早速と別行動して学園内を見学していた。

 

 そしてキタサンブラックは──とある男性と共に模擬レースのパドックを観察している、()()()()()()()()()()()()テイオーと再会した。

 

「──! テイオーさんっ」

「およ、おーキタちゃん! 大きくなったねぇ、そっかあ……もうそんな時期かぁ」

「ん──ああ、あの時のちびっ子か」

「……あ、阿僧祇トレーナーさん……!」

 

 キタサンブラックはテイオーの隣に立っている和を見て、ぶるりと身震いをする。当然だろう。彼はトウカイテイオーを、そしてシンボリルドルフを無敗の三冠バに育てた男だ。

 

 阿僧祇和とは、紆余曲折を経てそんな二人と結婚したある意味伝説のトレーナーである。

 

「あの、テイオーさんとシンボリルドルフさんの二人と結婚したって、本当なんですか?」

 

「そこ掘り返されると色々辛いものがあるんだけどな……まあ、事実だよ。あれからテイオーも引退して、あいつも生徒会から退いたけど」

 

「今はカイチョーじゃなくてリジチョー補佐だもんね。時代は変わったよ~」

 

 しみじみとする二人に、キタサンブラックはおずおずと質問をした。

 

「あの、テイオーさんもトレーナーさんの服を着てるってことは、もしかして……」

 

「うん、あれから全盛期も過ぎてレースを引退したからねっ。ボクの走りとレースの経験を後輩の育成に使えないかと思って、おじさんのサブトレーナーとして改めて学園に入ったんだ」

 

「これはこれで『身内贔屓か』って一時期荒れたけどな。いやはや、裏で炎上を鎮火してくれた乙名史記者には頭が上がらない」

 

 そんなことが……と小声で独りごつキタサンブラックは、二人が顔を見合わせてアイコンタクトを交わしているのに気付き、それから二人のイタズラっ子のような笑みに一歩後ずさる。

 

「ねえキタちゃ~ん、ボクたちに鍛えられてみない? キタちゃんなら強くなれるよ~?」

 

「えっ?」

 

「来週の選抜レースまでに仕上げるとなるとまあまあハードになるが……端から見ても体つきはしっかりしてる。1着、狙えるな」

 

「えっ?」

 

 テイオーが一歩近づき、キタサンブラックは一歩下がる。和に近づかれて、キタサンブラックは更に一歩下がる。二人の手に握られた契約書を交互に見て──彼女はこんなことを言われた。

 

「キタサンブラック、俺とテイオーとお前で──最強の伝説を作らないか?」

「ボクやカイチョー……じゃなくてリジチョー補佐のような無敗の三冠を──いや、それを超える無敗の四冠だって夢じゃないよ!」

 

 ポカンと、キタサンブラックは口を開けて惚ける。それから一拍置いて──

 

 

「えっ、えぇえええっ!!?」

 

 

 晴天の青空に響き渡る、そんな声を上げていた。これは、皇帝を育てた男が帝王を育てた話。

 そして同時に、帝王とその夫が、これから最強を作り上げる話でもある。

 

 ──キタサンブラックが無敗の四冠を目指す激動の三年が始まるのは、また別の話。

 

 

 

 

 

『完』




温泉旅行チケット
・裏面を良く読むことでカップルor夫婦向けの割引券であることが察することが出来る。そのため、従業員は最低限しか部屋に近付かない。


阿僧祇 和
・ルドルフとテイオーに押し切られて二人と結婚。世間からの多少のバッシングはあったが、無敗の三冠を二度成し遂げさせたトレーナーという実績もあってか、あまり波風が立つことは無かった。現在は引退したテイオーをサブトレーナーに据えてトレセン学園で育成を続けている。次の担当はキタサンブラック。


トウカイテイオー
・無敗の三冠を達成したのちに二冠を果たし、五冠のウマ娘として名を轟かせる。その後は和と結婚して引退し、彼のサブトレーナーとしてトレセン学園に所属することとした。書類上の名前には、和の名字が付け加えられている。


シンボリルドルフ
・テイオーと同じく和と結婚したウマ娘。現在は次期理事長候補として、たづな共々理事長補佐を勤めてトレセン学園を駆け回っている。テイオー共々、書類上の名字は和のモノを使っている。
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