マジックでは理解できない本物の魔法を使いたいのでINTに極振りしてみました 作:ディスタブ
少し空くかもしれないです。
青春溢れる若者の都、高等学校。
人呼んで高校。
基本的に余程、成績不良でない限りは、僅か3年しか滞在できないとされるこの都。
若者たちは、皆一生懸命に趣味や部活、恋に勉学に励んでいる。
そんな高校の最上階の1室で、悠もまた部活動に勤しんでいた。
実のところ、部活動ではなくたった1人の同行会なのだが…。
テーブルの上に置かれているものは杖と大きめのハンカチ、そしてコイン、トランプ。
欠伸を噛み殺しながら、ぼーっとそれらを見つめると悠は徐にトランプを手に取った。
トランプを半分に分け、親指と人差し指でトランプの束を曲げる。そのまま左手に持った束と左手に持った束が折り重なるように弾いていく。流れるような動作でアーチを作るように曲げ、離す。
するとトランプはサーッという軽い音とともに綺麗に混ざっていき、最初のトランプの束に戻った。
トランプの一番上を表にして机の上に置いた時、コンコンと軽いノックの音が悠しかいない教室に響き渡った。
「し、失礼しま〜す…」
「??」
「え、えーっとマジック同行会?の人でいいんだよね?」
教室に入ってきたのは、アホ毛が立った黒髪の少女だった。男子の中でも小さい部類に入る悠よりも、更に数十cm小さい少女。
「これを先生から頼まれて持ってきました」
悠が少女の言葉に頷くと、少女はホッとした表情で一枚の紙を手渡した。
A4サイズの紙を受け取り、内容を確認する。
同行会として活動を認める旨が書かれた書類のようだった。
マジック同行会。
その名の通り、マジックが好きな人やマジックに興味がある人が集まり、魅せたり魅せられたりする同行会だ。
メンバーはいまのところ、悠1人。
他メンバーは現在進行形で募集中である。
この高校では、生徒の自主性を重んじることを提唱している。その最たる例が部活動ではなく、同行会の設立である。
基本的に、他の高校では複数人集まらなければ作ることができない同行会も、倫理からズレていなければ活動することができる。
改めてA4サイズの用紙を見てみると注意書の箇所に、危険なマジックの練習は、都度申請を行い、許可証が発行されてから行うこととある。
…許可証があれば出来ることの方が驚きである。
しかし今は、それよりも気になることがある。
「…なに?」
目の前にいる少女が、こちらをじっと見て、うんうんと唸っているのだ。
その様はまるで、大事なことをどうにかして思い出しているかのようだった。
「あ、あの、どこかで、会ったことないかな?」
「???」
首を傾げる悠にハッとした様子で手を叩いた少女だったが、すぐ様再び考えるような素振りを見せる。
「いや、でも、流石に気のせいだよね…うん」
「????」
そうして最後には、少女はぶつぶつと言いながら教室から出て行ってしまった。
首を傾げたままの悠だったが、数秒後には何事もなかったように再びトランプを弄るのだった。
▼ ▼ ▼
場所は変わってNewWorld Online。
ウィザード
Lv.11
HP20/20
MP98/98(+12)
STR0
VIT0
AGI0
DEX0
INT130+(28)
装備
頭 【空欄】
体 【空欄】
右手 【空欄】
左手 【初心者の杖】
足 【空欄】
靴 【空欄】
装飾品 【魔力の指輪】
【空欄】
【空欄】
スキル
【ファイアーボール】【ウィンドカッター】【ウォーターボール】【アースインパクト】
現在のウィザードのステータスである。
レベルは未だに11程度だが、そのステータスとスキルはやはり異常である。
特筆すべきはやはり
物理攻撃や魔法攻撃はおろか、状態異常の攻撃まで、ほぼほぼガードしてしまう。その性能は異常である。
実際にプレイしてみて、やはり魔法は面白い。
言葉を口にするだけで、炎や水が出てくる。
タネも仕掛けもない杖からである。
もちろん、ゲームなので本当のことを言ってしまえば、システムに則っている。しかしそれでも、自分で仕掛けを考え、手品を披露するのとは全く感覚が違った。
声を出し、杖を振るうことによって飛び出る魔法にウィザードは感激した。
特に近日では、
挑発スキルを用いて、モンスターの注目を一身に集め、複数体の敵を同時ロックオン
飛び出していく炎の連弾は一つ一つが意思を持っているかの如くモンスターを追尾していく。
これがなんとも面白い。
右に曲がったり、左に曲がったり、急上昇急降下を繰り返してモンスターに食らいつき、爆発する様にモンスターを消していく。
魔力の消費事態もそこまで大きくなく、連続して撃っていっても基本的に問題はない。
モンスターがいなくても、何気なく杖を振るいファイアーボールやウォーターボールを壁に向かって放ってみたり、ウィンドカッターで木々を薙ぎ倒してみたりとやりたい放題である。
そんなことをしながら探索していたウィザードが出会ったのは、行き止まりだった。
正確には、あたり一面を覆う壁と、その前に聳え立つ巨大な大樹だった。
今まで切り倒してきた木とは明らかに違う巨木に、ウィザードは何気なくウィンドカッターを放つ。
甲高い音をたてながら超速で回転する風の刃は、確かに巨木へとヒットした。
だが、巨木は切り倒されることなく、悠然とその場に聳え立っていた。
今度はファイアーボールを放つ。
『切れないならば燃やしてみよう』…こんな発想である。
まずもって、巨木をどうにかして消滅させるという選択肢がどこからきたのか。
そこから不思議でたまらない。
ファイアーボールを数回受けて尚、傷一つない巨木の姿に、ウィザードは延々と魔法を放ち続けた。
5分、10分、15分。
意地でもこの巨木を消し去ってみせるとばかりに、ゲームを始めたときの初期ゴールドで買ったなけなしのMPポーションまで使用する。
MPの限界まで魔法を撃ち続け、0になってはMPポーションを割り、再び魔法を撃ち続ける。
ギリギリまで魔法を撃ち続けられるように、魔法の順番を守り、きっちりMPを0にしてからMPポーションを割るあたり、がむしゃらに撃ち続けているわけではないらしい。
表情がいつもと変わらないので、楽しんでいるのかムキになっているのかはわからないが…。
やがて、その時は訪れた。
巨木から響く轟音。
ファイアーボールが直撃したと巨木の幹が爆発するように砕け散ったのだ。
同時に、システムメッセージを告げる透明なウィンドウが例の如く現れる。
【オート回復(MP)】
MP回復の時間を1/2にする。MPの値を2倍にする。
STRを1/2にする。
【取得条件】
MPをぴったり0にし続ける。かつ、オブジェクトに使用し続ける。かつ、その間モンスターにダメージを与えない。かつダメージを受けない。
魔法使いとして、メリットしか無いスキルである。
このスキルが有れば、ウィザードをほぼほぼ魔法を制限なく打ち続けることができる。
無論、MPが0になれば撃たなくはなるのだが、回復スピードが2倍早くなるのならば、絶対的な量が変わってくる。
巨木の幹に穴が空いているような、どう見ても不自然な形で光の膜はあった。大きさからして、子ども1人が入れるかどうかくらいの大きさだ。大人が入ろうとするならば、屈んでみれば入れるかもしれない。
虹色の光を放つその膜におっかなびっくりに手で触れてみる。
驚くべきことに、ちょっと触れるだけのつもりで差し出した手は腕までも光の膜の中に入っていく。驚き引き抜こうとも試みたウィザードだったが、底無しの沼のような引力が身体全体を襲う。
気がつけば、身体は完全に光の膜の中へと飲み込まれ、森林からウィザードの姿は消えてなくなった。