マジックでは理解できない本物の魔法を使いたいのでINTに極振りしてみました 作:ディスタブ
ウィザードが立っている場所は、巨大な切り株の上だった。
深い青色の空に眩い光を放つ太陽。
青い空と白い雲が広がっており、地面から余程高いのか、下を覗いてみても見えるのは青い空と白い雲だけだった。
ウィザードが立っているこの場所は、巨大な切り株の塔といっても過言ではない。
周囲に目立ったものは何もない。
草が生い茂っているわけでも、木が立ち並んでいるわけでもない。
やすりがけがされたかのように、ざらつき一つない切り株の上に立っていた。
誰もいない場所に、ただ一人、ウィザードだけがこの場所にいるかのように思えた。
だがこの静寂も終わりを告げる。
ガラスが割れたような音とともに、空間が割れる。
青い空がひび割れ砕けるその様は、ウィザードが巨木の幹を砕いた時と全く同じだった。
その証拠に、空に空いた穴から巨木と同じような光の膜が揺らめいていた。
何かがくる。
直感的に悟ったウィザードが、足を片幅に開き、杖を器用に回し、構える。
魔法は発動しない。だが、いつでも魔法を放てるように心構えだけは決めておく。
光の膜が更に眩く、虹色の輝きを放つ。
その輝きは徐々に増していき、ウィザードの視界さえも真っ白に染めてしまうほどにまで大きく広がっていく。
一瞬のことに思わず瞳を閉じる。
「Laaaa」
光が止んで瞳を開く。
眼前にいたのは、女の姿だった。
身長は165cmほどだろうか。
耳は鋭く、背中からは小さな透明な羽が生えており、髪と同じ色をした宝石のような瞳がこちらを真っ直ぐと射抜いていた。
妖精が、音もなく羽を羽ばたかせる。
「ッ!!!」
急速に接近し、近距離で放たれた緑色の光の球がウィザードに直撃するすんでのところで
驚いような表情を浮かべた妖精が、今度は右腕を横凪に振るう。
ウィザードに向けて襲いかかるカマイタチのような風の刃。無数にも分離した複数回の風の刃が断続的に
しかし、
どれだけ妖精がカマイタチを放とうが、緑色の球を放とうが、ウィザードの身体を360度すっぽり覆う薄い光の膜は割れることなく防ぎきる。
反撃とばかりにウィザードから放たれたウィンドカッターだが、妖精の動きは尋常ではない動きと速さで、難なく回避していく。それはファイアーボールでもウォーターボールでも同じことだった。
音速の速さとも呼ぶべきスピードで急接近しては、緑色の球を放つ妖精。
だがそれは、魔法壁が難なく防ぐ。
やがて少しずつパターンが読めてきたウィザードが、タイミングを合わせてウィンドカッターを放る。
風の刃と爆発的な力を秘めた球が衝突し、爆風と共にに煙をあげる。
強い爆風に思わず片腕で視界を覆う。
体感に数秒。
そうして煙が晴れた光景にウィザードは目を奪われた。
「Laaaa〜♪」
光り輝く小さな蝶のような形をした何かが妖精の周りをヒラヒラと飛んでいた。
その数は30を超えるのではないだろうか。
歌うように、呼びかけるかのように、透き通るような声をあげる妖精の姿。
余りに幻想的な光景だった。
魔法使いとは『こうあるべきだ』と妖精が諭しているかのように空からウィザードを見下ろしていた。
妖精が徐に左手を天に掲げる。
同時に、周りを飛んでいた蝶のような何かが甲高い音を上げながら、小さな光を放つ。
光は荒々しく、しかし細い管のように妖精へと集中していた。
肌で感じるほどの力の激流。
MPを分け与えているようにも見えた。
高威力の魔法は間違いなく、今までの魔法とは桁違いのものが放たれる。
そのことを物語るように、広げられた左の掌の上にエメラルドグリーンに輝く球体が荒々しく乱回転していた。
AGIが0のウィザードに回避の選択肢はない。
ただ、横にした杖を力一杯握りしめ、来るべき衝撃に備えるのみ。
次の瞬間、妖精の姿がぶれる。
「はやッ!?」
気がついた時にはウィザードの眼前に立ち、エメラルドグリーンの球体が伸びるように弾け、極太の緑色の光線を放った。
「ッ!?」
ウィザードの視界が眩い緑に覆われる。
叫ぶ余裕すらもウィザードにはなかった。
弾き飛ばされるかのように、ウィザードの身体は極太の光線によって切り株の端まで追いやられる。
落ちるかと思ったその時、背中に何かがぶつかった。
後ろを振り向いたが、何もない。
見えない壁だった。
恐らく、フィールドから落ちないように製作者が設定した、戦闘フィールドの端。
落ちていたら終わっていたかもしれない。
このゲームをプレイしてから初めて
だが、ヒビが入ったり割れたりするようなことはなかった。とてつもない衝撃に
本物の魔法を見た気がして、ウィザードの心は踊った。
やはり年頃の男の子。
こういった派手なタイプの魔法は、心を燻るらしい。
しかし、今は戦闘だ。
冷静になって現状を分析し直す。
AGIが0のウィザードに機動力は全くない。
反撃をしようにも、初期魔法は簡単に避けられ、擦りすらもしない。
故に、とるべき選択肢は決まっていた。
「
ウィザードは
そう、要は放たれた魔法に追尾性能があればいいのだ。
放たれた3つの炎の連弾が、一つ一つ意思をもっているかのようにそれぞれが別の挙動を取りながら妖精に追尾していく。異常なスピードで連弾の裂け目を縫うような動きで避け、ウィザードに魔法を放つが、魔法壁は易々と防御する。
「
更に新しく3つの連弾を生成し、妖精に向かって放つ。
どんどんと数を増やしていき、MPの全てを
作り始めた連弾の数が20を超えた時、ようやく妖精の身体に炎の塊が爆発するようにヒットした。
この間も連弾は増え続ける。
1つの連弾が当たってからは、早かった。
ジェット機が墜落するように回転しながら落ちて行く妖精に、群がるように炎の塊が襲いかかる。
炎の塊が当たるごとに、視界に表示されていた妖精のHPゲージが急激に減って行く。
オートMP回復のおかげもあり、普段よりも節約しながら
MPが10減るのと同時に5回復するようなイメージだ。
地面に倒れ伏した妖精に容赦なく浴びせられる炎の塊。
ウィザードのMPが0になり、
しかし、妖精の身体は消えなかった。
よろめきながら立ち上がり、ふらふらとウィザードの前へと立つ。
そうしてウィザードに向かってゆっくりと手を伸ばす。
両手が頬に添えられた。
不思議なことに
呆気にとられるウィザードに妖精がクスリと微笑む。
そのままゆっくりと目を閉じて、今度こそ妖精は消えていった。
入れ違いに光と共に現れた大きな宝箱を見て、ウィザードはその場にへたり込んだ。
魔法壁が反応しなかったことに驚いたのだ。
そして、やられると思った。
妖精といえど設定されたモンスター。
物理攻撃をも防御する魔法壁が反応しないということは、攻撃ではない行動だったのだ。
あらかじめ決められた攻撃ではないのであれば…つまり、システムが攻撃と判断しなければ、魔法壁は反応しないのだ。
大きく息を吐くウィザードに何度も聞いたシステムメッセージが現れる。
【ルフの加護】
ステータス状の最大MPの半分以上の魔力を使用して魔法を発動するとき、一定時間加護を受けることができる。加護時、INTを4倍にする。加護時、魔法の攻撃範囲を2倍にする。
【取得条件】
オート回復(MP)、魔法壁を所持した状態で原初の妖精を魔法のみで倒す。かつ、ダメージを受けない。かつ、パーティを組まずに一人で倒す。
原初の妖精の魔法を習得する
【取得条件】
原初の妖精に認められる
全てのスキルを確認し終えたウィザードは、次に宝箱に向かう。
一人で空けるにはとても大きな箱だが、杖を無理やり押し込むようにしてなんとか空ける。
視界を埋め尽くす光の後にそこにあったのは、緑色の植物が先端で丸くなった金色の杖と白いローブ、水色のサルエルパンツ、金色の指輪と赤い宝石のネックレスだった。
ユニークシリーズ
単独でかつボスを初回戦闘で撃破しダンジョンを攻略した者に贈られる、攻略者だけの為の唯一無二の装備。
1ダンジョンに1つきり。取得したものはこの装備を譲渡できない。
【原初の衣】
MP+30
《原初の魔法使い》
魔法壁の状態異常耐性を状態異常無効にする
スキルスロット空欄
【原初の杖】
INT+30
《ルフの導き》
ルフの加護時のINTを2倍にする
MPを2倍にする
スキルスロット空欄
【原初の指輪】
MP+15
《ルフの加護》
HPを3秒に1回復する
【原初のネックレス】
MP+15
《重力魔法》
MPを使用して空中移動を可能にする
スピードはINTの1/3となる
この日、ウィザードは人間をやめた。