マジックでは理解できない本物の魔法を使いたいのでINTに極振りしてみました 作:ディスタブ
とある高校のとある教室。
そこでは2人の少女が机をくっつけて、弁当を広げながら、話に花を咲かせていた。
「へぇ、イベント」
「うんっ! 今日、第一回のイベントやるんだって。プレイヤー同士のバトルロイヤル!」
花を咲かせていたが、それは決して色恋の関係ではなくゲームの中の話である。
最近、ネットを騒がせ始めた謎の大楯使いメイプルこと本条楓。
当時渋っていた楓にゲームを勧めた張本人、白峯理沙は目を細めてタコさんウィンナーに楊枝を刺す。
「ふーん。最初のイベントからバトルロイヤルか〜。結構シビアなことしてくるね、運営さんも」
「う〜ん…そうなのかな?でもでも、上位に入ると特別限定の記念品がもらえるんだって!」
理沙の言うとおり、多くのプレイヤーは第一回イベントは討伐イベント、ないし、採取系のイベントを想定した。討伐系イベントならば、パーティーを組んで遊ぶことができる。採取系のイベントならば、レベルの差が顕著に現れるようなことがない。
まさか、プレイ時間とスキルが顕著に現れるPvPが第一回イベントだとは思い浮かべもしなかった。
仮に運営が、虚をつくことを目的としたならば、それは成功といえる。
「あ〜、そういえば楓、限定品とかそういうの好きだったね。それにしても、予想以上にゲームにハマっているようですな〜か・え・で・さん?」
「いやぁ…私もびっくりだよ〜。特にイベントの告知がされてからは限定品のことばかり考えちゃって」
「ま、楓さんが楽しんでくれるなら、わたしも勧めた甲斐があるってもんよ」
「うんうん!感謝してるよ! あ、そういえばね、少し前に不思議な魔法使いの人に…」
件の魔法使いとメイプルが再び出会うまで、もう少し。
▼ ▼ ▼
ゲームを運営するものたちのみが入ることのできる空間。
ゲーム内に特別な部屋で彼らは、それぞれの業務に勤しんでいた。
バグが起きていないか。
ゲーム内で問題が起きていないか。
各プレイヤーのログアウト、ログイン時間等々、logの管理。
やることは様々だ。
部屋の中にはいくつもの画面が表示されており、各プレイヤーが現在何をしているかが、わかるようになっていた。
「はああぁぁああぁぁあああ!? 妖精がやられた!?」
そんな中、1人の男が叫ぶ。
「は?」
「え?」
「あ?」
1人が叫んだ言葉は、周りにいた者たちを驚かせるには十分すぎた。
なぜなら、その可能性が限りなく低いことを彼等は充分に理解していたからである。
「んなバカな。妖精ってあれだろ、お前の悪ふざけの僕の考えた厨二魔法使いだろ?」
「そもそも、ふざけすぎてキチガイみたいな行動しなきゃ戦闘フィールドに移動すらできないんじゃなかったか?」
「しかも、特殊スキル持ちじゃなきゃ開かないんだろ?」
「だから!? いたんだって、そのキチガイが!?」
叫んだ1人の男が、空中に浮かび上がったコンソールを慌てた様子で操作する。
直後、現れたのは1人の魔法使いの様子を映した巨大な画面だった。
「…マジ?」
再生された映像を見つめていた1人が唖然とした様子で口を開く。
映像では、妖精の全ての攻撃を
しかも、【ルフの加護】状態の魔法でさえも、魔法壁で受け止め切ったのだ。
灼熱の連弾にいたっては、誘導性能があることから、威力自体は低く設定されているはずだった。
というよりも、そもそも、あそこまで異常な追尾性能にした記憶は微塵にもなかった。
「おいおい、しかも魔法壁持ってるってことは【ルフの加護】と原初装備一式、あいつに持ってかれたのか!?」
「おいおい、あいつ今無敵なんじゃねえか?」
「…申し訳ないが、流石に修正かけるか。手の空いてるやつはイベント前に俺の黒歴史を精算するの手伝え〜」
こうして、ウィザードの知らぬところで、修正が入ることとなった。
▼ ▼ ▼
新しい装備に身を包んだウィザードの姿は、正に魔法使いという風貌だった。
上半身と下半身とで色が違う不思議なローブ。腰の部分が赤い縄のような部材がベルトの代わりをしている。胸元がはだけるような形になっているのは、自分で直すことは出来ず、こういう使用なのだと諦めた。
首元には真紅も宝石が嵌められたネックレスを下げ、左手の人差し指にはエメラルドグリーンの指輪が嵌められている。
少なくとも、現代の日本には確実にいない服装なのは間違いない。
海外…特にアラビアの方に行けば、着ている人がいそうだが…。
ウィザード
Lv.30
HP20/20
MP100/100(+60)
STR0
VIT0
AGI0
DEX0
INT195+(30)
装備
頭 【空欄】
体 【原初の衣】
右手 【空欄】
左手 【原初の杖】
足 【装備不可】
靴 【装備不可】
装飾品 【原初の指輪】
【原初のネックレス】
【空欄】
スキル
【ファイアーボール】【ウィンドカッター】【ウォーターボール】【アースインパクト】
ユニークシリーズである原初シリーズに身を整えたウィザードは、行き交う人々の視線を集めることとなった。
魔法使いの装備にも様々なものがあるようだが、ショップでも販売されていない装備は良くも悪くも視線を集める。それは、プレイヤーメイドのものでも同じようで、別の魔法使いも同じように視線を集めていた。
…その魔法使いが美少女だったことも要因の一つになるかもしれないが。
さて、ウィザードのレベルもとうとう30の大台を超えた。
現在の最高レベルは48というが、一体どれだけの時間を費やせばそこまであげられるというのか。
ウィザードは疑問で仕方がない。
ウィザード自身も、朝学校に行き、終わり次第こちらの世界に潜っている。プレイ時間だけはそれなりに溜まっていく。
実際のところ、壁に魔法を放ったり、レベリングせずに魔法を混ぜてみようとしているあたり、レベルが上がらないのは当然といえる。
むしろ、どうしてレベル30の大台を超えられたのか、そちらの方が疑問である。
しかし、ログインをしてから変わったことがいくつかある。
【魔法壁】
防御力はINTに依存する。INT値がプラス2倍される。STR値がマイナス2倍される。
魔法壁が下方修正されていた。
MPをどれだけ消費するのか記載がないのが、尚のこと不安だが、ゲームバランスを考えた結果なのだろう。
いつものように、ぼーっとするわけでも魔法で遊ぶわけでもなく、ウィザードは確かな足取りでフィールドへと向かっていく。しかも、目指していく先にある場所は【毒流の迷宮】である。
攻略サイトでも既に取り上げられているほど、有名なダンジョン。
ウィザードは珍しく真面目にレベリングをするつもりだった。
その理由はずばり、第一回イベント入賞でゲットできる限定品である。
限定品とあれば、もしかすると強い魔法スキルや魔法使い向きの武器、アクセサリーが手に入るかもしれない。ならば、参加せずに後悔するわけにはいかなかった。
既に原初シリーズを装備しているというのに、この図々しさである。
なにせ、原初シリーズはゲーム序盤の第一層で入手できる装備。
これからもっと強い武器が手に入ると考えることは仕方がないと言える。
開発陣以外、ウィザードも含めて原初シリーズの異常さをまだ理解できていないのである。
…というより、この装備がゲーム序盤の第一層で入手できてしまうことこそが異常なのだが。
魔法壁が下方修正されたこともあって、レベル上げに励むウィザードの気迫はまさに鬼神の如し。
果たして第一回イベントでは、一体何人のプレイヤーがウィザードに倒されることになるのか。
兎にも角にも、ウィザードは毒流の迷宮を意図も容易く攻略することになるのは、余談である。