マジックでは理解できない本物の魔法を使いたいのでINTに極振りしてみました 作:ディスタブ
とうとうやってきたイベント当日。
最終的なウィザードのステータスは、このような状態だった。
ウィザード
Lv.32
HP20/20
MP100/100(+60)
STR0
VIT0
AGI0
DEX0
INT200+(30)
装備
頭 【空欄】
体 【原初の衣】
右手 【空欄】
左手 【原初の杖】
足 【装備不可】
靴 【装備不可】
装飾品 【原初の指輪】
【原初のネックレス】
【空欄】
スキル
【ファイアーボール】【ウィンドカッター】【ウォーターボール】【アースインパクト】
あれから毒流の迷宮をソロで攻略したこともあり、ウィザードのレベルは一気に2レベ上がった。その時に入手したポイントは、無論INTに振られている。
魔法壁があることもあり、不安なことはほとんどなかった。
不安なことがあるとするならば、自分の知らない未知のスキルと超人的なプレイヤースキルを有する者との対決。
あとは、格上のレベルのプレイヤーとのぶつかり合いのみである。
AGIが0で機動力が無い点は、原初のネックレスの《重力魔法》が解決してくれているし、MP切れの件はオート回復(MP)が解決してくれる。
MP値が100となったウィザードだが、未だMPを50も消費する魔法は覚えていない。故に、【ルフの加護】を使用した加護モードになれないが、それでも基本的には4倍されたINTが有れば相手の防御を溶かすことができるだろう。
仮に加護モードに入れるようになれば、4倍×4倍で16倍。
考えただけでも恐ろしい。
もはやボスの火力がゴミにすら感じる。
「ガオーーー!」
定刻になった途端、突然どこからとなく不思議な赤い生き物が姿を現した。
ドラゴンのような赤い鱗、頭から伸びる一本の角、何故か頭から生えているドラゴンのような羽。
「それでは、NewWorld Online、第一回イベントを開始するドラー!」
これを不思議と呼ばずしてなんと呼ぶのか。
ドラゴンの部位がちょくちょくあるが、もはやぬいぐるみである。
「ステージは、イベント専用マップ。制限時間は3時間!ちなみにボクは、このゲームのマスコット、ドラぞう! 初めての人は以後よろしくドラ!」
『シャキーン』というSEと共にポーズを決めるマスコットキャラクターことドラぞう。その姿を多くのプレイヤーが唖然として見つめていた。
チラリと隣を見てみれば、ウィザードよりも数十cm背の低い少女も唖然とした表情でドラぞうを見ていた。
どこかで見たことがあるような、しかも最近見たことがあるような…ちょっとしたデジャヴを感じながらウィザードは少女から視線を逸らした。
「それではカウントダウン…」
ドラぞうを囲むように、4つのウィンドウが現れ、カウントダウンが始まった。
「3…」
考えるべきことは、如何にして上位に入賞するか。
「2…」
魔法壁がMPを消費するように修正された件も、今回の戦闘で色々と検証ができるだろう。
「1…」
なにはともあれ、自身のやるべきことは、たった1つ。
「0!!!」
それ即ち、サーチアンドデストロイである。
▼ ▼ ▼
『みんな頑張って、ガオーーーー!!』
もう姿も見えないドラぞうの激励を聞き流しながら、イベント専用マップに転送されたウィザードは、行動を開始した。
首から下げられたネックレス、真紅に染まるような赤い宝石が一際輝くとウィザードの足が地面から離れる。身体を縮こませ、バネが伸びるように身体を一気に伸ばす。
次の瞬間、文字通りウィザードの身体は空へと打ち上げられた。
瞬く間に遥か上空へと飛び立ったウィザードが、凄まじいスピードで青空を駆ける。
下を見下ろしてみれば、プレイヤーたちの小さな姿をウィザードの視界が捉えた。
少し高度を落とすもスピードはそのまま。
杖を器用に左手で回転させ、杖の切先を視界に捉えた小さなプレイヤーたちの方へと向ける。
「
刹那、光が弾けた。
ウィザードの構えた杖の切先から、眩い光の光線が照射される。照射された光線は、地面を抉りながら意志を持っているかのようにプレイヤーがいる方角へと走る。
「うわぁぁぁぁッ!?」
まさに地獄絵図。
地上では叫び声を上げながらも光に飲み込まれ、イベント開始1分も満たずに消滅していった哀れなプレイヤーが続出していく。
たっぷり数秒間照射された光線は、地上にいたプレイヤーを絶望の淵へと追いやった。
誰しもが思った。
どこの古代兵器だと。
空を仰ぎみれば、そこには浮かんでいるウィザードの姿。
地上にいた魔法使い職の放つ、苦し紛れに放たれた魔法も、空中を自在に駆けるウィザードには当たるはずもなく虚しく空を斬るのみ。挙句の果てには、避けもせずに謎の黄色い膜が、全ての攻撃を受け止めて見せた。
「
再び、太陽の光が如き光線が地上に向けて放たれる。
原初の妖精が見せた【ルフの加護】モードのものよりも格段に範囲が狭いが、それでも攻撃を受ける側からすれば、たまったものではない。
あんなもの、一体どうやって防げというのか。
結果、放たれた光線を止めることは誰にも出来なかった。
ウィザードにロックオンされたが最後、レベルを問わず、全てのプレイヤーがポリゴンの塵と化し、あえなくイベントマップから姿を消していく。
MPは時間が経てば、自然に回復していくような仕様になっている。通常ならば数十秒で5回復するとすれば、ウィザードの場合、半分の時間で5回復することができる。
検証してみた結果、《重力魔法》のMP使用率の激しい部分は、空中を移動している場合のみ。移動している場合のMP消費率は、オート回復(MP)の回復速度よりも早い。
オート回復(MP)で1回復する間に、《重力魔法》で3消費するようなイメージだ。
オート回復(MP)のリターンを鑑みた結果として移動中は2のMPを消費し続けることになる。
ただ空中に停滞しているのみならば、オート回復(MP)の回復でリターンが返ってくるほど効率は良い。
魔法壁に関してのMPの使用率は、一概にはいえない。
だが、少なくとも今回魔法壁で防御した限りでは、一つの攻撃で1〜5程度しか減っていなかった。
STRやINTに応じた威力に合わせて減るように設定されているようである。
今後、複数の敵と戦う時は注意が必要だ。
あたりにいた全てのプレイヤーらしきものを光線で消滅させたウィザードが、ゆっくりと降下し、その足を地面につける。
5分の間に消滅させたプレイヤーの数は、100を超えるだろう。
要因としては、空からの一方的な攻撃であることが挙げられるだろう。なにせ最悪のパターンは、こちらのことを認識もできずに光線によって焼かれていくのだ。
理不尽にも程があった。
しばらくの間、消費されていたMPを回復させると。
再びウィザードは空へと飛び立った。
▼ ▼ ▼
イベントに参加しなかったプレイヤーが集まる主街区では、イベントの様子を誰しもが見守れるよう、特大のウィンドウが用意されていた。
心躍るような接戦。
プレイヤー同士のスキルと駆け引き。
「…嘘だろ」
そんなものなど、当然見れるはずもない。
「噂の某掲示板で話題になってた奴こいつかよ…」
空中に投影されたウィンドウに映し出されているのは、1人の魔法使いが、光の膜で全ての攻撃を防ぎ、縦横無尽に空を駆け、杖から放たれる光線をもってして全てを呑み込む、蹂躙の様子だった。
「プレイヤー? ボスの間違いじゃなくて?」
その様子は、魔法使いというより、もはやボスであった。
それも中ボス程度の生半可なものでなく、ラスボスレベルの。
「いやでも、ちょっと待てって、こんなことできるなら俺魔法使いで作り直してくるわ」
しかも腹が立つことに、ウィザードの立ち振る舞いは多くのプレイヤーの目を輝かせた。
ド派手な光線に、空を駆ける姿。
こういったゲームにのめり込む人種には、やはりこういったロールプレイを好むものが、一定数いるのである。
無論、ウィザードの様子だけでなく他のプレイヤーの姿も映し出されるのだが、他は他で、違った意味で地獄絵図であった。
「…こっちはこっちで意味不明だな」
美少女がニッコリしながら、大楯を押し付け、プレイヤーを消滅させていく。ある時は、状態異常を用いて、倒れなくなったプレイヤーに大楯をおしつける。
またある時は、相手の攻撃を大楯でガードする。
おかしなことにガードした途端、相手は消滅するのだ。
もう訳がわからない。
挙句の果てに、攻略サイトで有名なボスモンスターである毒龍が猛毒を纏った姿で少女の後ろから姿を現し、襲ってくる始末。
こちらはこちらで理解不能な展開になっていたのだった。
第一回でこの有様。
このゲーム、本当に大丈夫だろうか。
プレイヤーの誰しもが、運営を疑った瞬間であった。