マジックでは理解できない本物の魔法を使いたいのでINTに極振りしてみました 作:ディスタブ
第一回イベントは運営が予想していた以上に、地獄と化していた。
無論、
「いや、バグ…完全にバグやんけこれ」
運営の1人が、げんなりとした様子で呟くと周りにいた者たちも同じくげんなりした様子でがっくりと肩を落とした。
何せ、この強者たち。
考えに考え抜き、イベント開始前までになんとかウィザードのスキルを修正していた
漸く終わったと思ったら、次はバグである。
「悪食が異常なんだなー」
「これ、ウィザードでも勝ち目ないんじゃないか?」
「バカ、どっちもどっちだろ。どんぐりの背比べってやつだ」
「これがどんぐりって…どんぐりって古代兵器か何か?」
いってしまえば、こちらもまた
最初の者が口にした通り、問題は大楯の少女ことメイプルの【悪食】が原因であった。
【悪食】
あらゆる物を飲み込み糧に変える力。
魔法や攻撃、アイテムを自分のMPに変換することができる。
容量オーバーの魔力は魔力結晶として体内に蓄えられる。
取得条件
致死性の劇物を一定量口摂取すること。
悪食の場合、全ての攻撃を無効化するだけでなく、その力そのものを自身の力へと還元することができる。さらに、オーバーした分は貯蔵することができ、いつでも引き出すことができる万能っぷり。
魔法壁では攻撃を防ぐだけであり、自身に還元することはできない。
その分、魔法壁の場合は全方位からガードしてくれる仕様になっているため、こちらもやはり異常である。
「はい、イベント終わって少し睡眠とったらメンテナンスで修正かけるぞー」
「えー、リーダーそれ労働基準法に違反してまーす」
「だから少し仮眠とるって。修正案考えるからイベント終わるまでに各自で案考えとけー」
どうしようもないことを察した運営陣一同が、ガックリと肩を落とす。無論、リーダーと呼ばれた者もまた、同じように消沈している様子である。
しかし、ゲーム自体、まだ始まったばかり。ここで対応を遅らせるわけにはいかなかった。
今後のNewWorld Onlineの為、運営達は手を取り立ち上がる。
…気が休まることがない、運営サイドであった。
▼ ▼ ▼
所変わってイベントエリアでは、プレイヤーたちを一掃しては魔力を回復させ、別の空域へと飛び立つ一連の行動を繰り返すウィザードがいた。
その有様は、イベント外主街区でもありのまま放送されてたおり、すでにチャットと掲示板を騒がせている。
もちろん、当の本人はそんなことは梅雨ほど知らず。
すでに1000人を超えるプレイヤー達をデータのポリゴン片へと変化させてきた。
そんなウィザードが次に辿り着いた場所は、廃墟らしき場所だった。
石のレンガで出来た古風な廃墟。天井が崩壊し、太陽の光が差し込む2階部分にプレイヤーらしき者の姿。
人数は1人。
効率を考えてみると、1人を狙うよりも大人数が集まっている箇所を狙った方が圧倒的に良い。そのため、ウィザードは廃墟を素通りしようと考えた。
しかし、次の瞬間。
流し目で見つめていたウィザードの視界に、数多の魔法陣が展開される。
驚き、思わず急停止したウィザードは杖を構えたが、放たれた魔法はウィザードではなく、先程見えた1人のプレイヤーへと向けられていた。
どうやら、1人のプレイヤーを狙い、示し合わせたように全員で魔法を展開したらしい。
先程まで視界に入らなかったあたり、廃墟の中に潜んでいたのだろう。
「
その光景を見たウィザードは、好都合とばかりに高度を落とすと杖を右から左へと思い切り振り切った。
放たれたのは、巨大な三日月状の風の刃。
ウィンドカッターの3倍程の大きさがある風の刃。1度の詠唱で放たれるその数、なんと5つ。
風の刃は魔法使いが潜んでいた箇所に寸分違わず直撃し、廃墟の一部を真っ二つに切り裂いた。
眼下で叫び声が響き渡る中、ギョッとした様子で1人のプレイヤーと目があった。
アホ毛が立った黒い髪に、全身紫がかった黒の鎧を着込んだ少女の姿。
イベントが始まる前、すぐ近くにいた少女であった。
もっと言うならば、なんだかモンスターに囲まれて、動かなくなっていた謎の少女であった。
漸くそのことを思い出したウィザードだが、正直それだけである。
何も興味もなかったこともあり、ウィザードは再度杖を廃墟へと向ける。
「
紡ぎ出す詠唱が、3つの炎の塊を生成する。
見た限りでも、偶々魔法が当たらなかった2人とアホ毛の少女の計3人しかいなかった。
故に、丁度3つ生成することができ、尚且つ複数隊ロックオンすることができる灼熱の連弾を選択した。
あと、MPの節約にもなる。
杖を振るい、それぞれが狙うべき獲物を支持すると炎の塊たちはそれぞれが自立した軌道を描き、別々の標的へと襲いかかる。
修正されたこともあり、誘導性能は大分下がったことをこれまでの戦闘で実感したが、それでも十分な性能を誇っている。外れることはないとウィザードは確信していた。
故に、防がれるとは微塵にも思っていなかった。
「…防がれた?」
ウィザードの表情が、珍しく目に見えて変わる。
ゲームを始めて以来、妖精との戦闘以来のことであった。
灼熱の連弾を防いだのは大楯の少女のみ。他の2人のプレイヤーは、今までのプレイヤーと同じように消えていった。
余程、防御力が高いのか、それともこちらの火力が足りなかったのか。
今度は少女の意表を突くべく、目にも止まらぬスピードで少女の眼前に急接近。
その様は、数日前に戦った加護モードの妖精がウィザードにしたことと全く同じである。
少女とウィザードの距離、数値にして僅か1m程度。
「鎌鼬!」
至近距離で放たれるのは5つの三日月状の風の刃。
避ける暇などありはしない。
少女は驚愕した直後、目を瞑って大楯を身体の前へと押し出した。
そして、不可解な現象が起きる。
大楯と風の刃が衝突した途端、風の刃がポリゴンの欠片へと姿を変えた。そしてそのまま、ポリゴンの欠片は少女の大楯へと吸い込まれるかのように消えていった。
それは残りの4つの風の刃も同じ。
同じように大楯に直撃した直後、同じように大楯へと吸い込まれていった。
「???」
「な、なんとかなった…??」
蒸気機関車が溜まり切った蒸気を吹き出すかのように、勢いよく煙を吐く大楯。
その大楯には、先程まではなかったひし形の宝石が5つ。
この時、ウィザードは自身の攻撃が防御されたのではなく、吸収されたことを理解した。
「びっくりしたけど、今度はこっちの番だよ!」
安堵した様子だった少女が、ドヤ顔しながら腰に下げられていた短刀の塚に手を添える。
「パラライズシャウト!!」
キンッと小気味いい音が鳴り響くと同時、バチリと電流のようなものが地面を走る。
だがそれは、ウィザードを完全自動で守り続ける魔法壁が容易く防御する。
直後、多々の赤い結晶がパリンという音とともに砕け散った。
「???」
「???」
お互いが目を丸くしながら、言葉を発さずに同じように首を傾げる。
お互い首を傾げたまま動かない。
目を丸くし、張り付いたような笑みを浮かべたままである。
「はっ」
先に立ち直ったのは、ウィザードである。
「光線!」
現在使うことのできる最大火力を誇る光線を少女に向けて放つ。
杖に溜まり切った光の球体から、眩い光と共に光線が放たれる。
未だ、少女との距離は1mのままである。
避ける暇などありはしない。
ギョッとした少女が、先程同様に目を瞑って盾の後ろに隠れるように身を隠す。
そして再び、不可解な現象が起こる。
光線は未だに杖から放たれ続けている。
だというのに、大楯にぶつかった途端、光線の先端部分はポリゴンの欠片となり大楯に吸い込まれていくではないか。
光線を出し切った後、残ったものはお腹いっぱいとばかりに煙を吐き出す大楯と大楯の表面に増える結晶だった。
「……」
魔法を吸収するこの少女に対して、なす術はなかった。
魔法を吸収されてしまえば、ウィザードに攻撃手段はない。STRが0のウィザードでは、杖でポカポカ叩いたとしてもダメージなど通らないだろう。
まして大楯使いということは、他の職業よりも防御力が高いことは明白である。
「きゅ、急に攻撃してくるなんて、怒ったんだから!今度こそこっちの番、
肩をふるふると震わせた少女が、腰に下げていた短刀を振り上げる。
次の瞬間、少女の背後に猛毒を纏った3つ首の毒竜が姿を現す。ボスモンスターが突然現れたのかと飛翔して大きく後ろに下がるウィザード。
だが、よく見れば少女が召喚した毒竜は以前対峙した毒竜とは違うようだった。
まず、色が違う。
むしろボスモンスターよりも毒毒しい。
そしてなにより、透けて見えていた。
確証はないが、魔法であるということをウィザードは想定した。
3つ首の毒竜はこちらに遅いかかってくるわけではなく、それぞれが別の方向を向き、禍々しい瘴気を上げる毒を吐き出す。
その範囲は、あまりに広い。
ここに先程の魔法使いの集団がいたならば、恐らく誰1人として避けることは叶わなかっただろう。
杖の端と端を両手で握りしめ、横に持つ。
防御体勢をとるのと毒が魔法壁にぶつかるのは同時だった。
光線と同じく、照射時間がある毒竜のブレス。
魔法壁によって弾かれ、標的を失った毒がウィザードの周りに撒き散らされる。
数秒間もの毒竜のブレスを魔法壁は、難なく防ぎきった。
それもそのはず、この魔法壁、ぶっ壊れクラスの妖精の加護モードの魔法ですら受け止め切ったのである。
しかも、魔法壁には状態異常無効が付与されているため、毒の効果は意味をなさない。
圧倒的な攻撃力を持ってでしか、現状では魔法壁を壊すことはできない。
「……」
「???」
唖然とした様子の少女と首を傾げるウィザード。
もはや、この戦いに勝者はいなかった。