鬼の俺が鬼殺隊にいるとか間違っている。 作:ファクト0923
エタッたと思いました?自分も思いました。
里に来てから一週間が経過。最初の一日こそ温泉に浸かったがその日以降は宿でのんびり過ごすか里を散歩するかの何れかだった。もう少し温泉に浸かってもよかったかもしれないな。また今度の楽しみだ……尤も今度があればの話だが。
さて、今日はやっと刀を貰える。鋼田さんの最高傑作を楽しみにしながら彼の家まで歩を進める。ごめんくださいとひと声かけて引き戸を開け応えが来るのを待つ。が待てど暮らせど返事は来ない。焦れったくなった俺は入りますよ、と断りを入れてから上がり込む。廊下がやけに埃っぽいな……まさか……。俺はすぐさま彼の工房に足を踏み入れるとその”まさか”、一週間前と変わり果てた姿に愕然とする。痩けた頬、生気のない顔色、反して目だけが爛々と輝き右手に金槌を握って振り下ろしていた。
「鋼田さん……あんた……」
「ん? おお、お前さんか。気付けなくて悪かったな。もう少しだけ待っていてはくれんか?」
「いや……でも……」
「本当にもう少しだけなんだ」
「……分かりました」
俺は断続的に鳴り続ける金属音に耳をすませながらただじっと待った。ただ、ただ只管に。
どれ程の時間が過ぎたのか朧気になった頃鋼田さんはぴたりと手を止め顔を上げた。
「完成だ……つっても鞘もねえし柄糸も巻いていないがな」
「お疲れ様です……持ってみてもいいですか」
「おうとも。お前さんが言い出さなきゃこっちから言うところだった」
恭しく刀を手に取り、刃先を天井に向ける。茎(剥き出しの柄)を握りしめてみた。まだ熱が残っていたらしく手が焼ける匂いと音がするがそんなものは気にならない。何故なら色が変わった刀身に目を奪われたからだ。
その刀は正しく墨にでも浸したかのような漆黒。吸い込まれてしまいそうな黒色に目を離せない。ふつう、黒というのは冷たい印象を覚えるがこの刀の黒は違った。夜闇のような冷たい黒ではなく、木陰のようなどこか暖かな黒。
「いい色だな……」
「本当にありがとうございます、鋼田さん」
「いいってことよ」
「ところで……ちゃんとご飯食べて寝てますか?」
「そういやぁここ一週間まともに飯食ってねぇや」
「睡眠は?」
「大丈夫大丈夫、寝てるよ。三時間くらい」
「よく生きてますね……」
「あたぼうよ、その刀打ち終わるまで死ぬに死ねなかったからな。つーわけで俺は寝る」
そう言い放った彼はごろんと横になりぐうぐう鼾をかき始めた。寝付きがいいのか疲れていたのか、いずれにせよ
「本当にありがとうございます……」
毛布を探し出して彼に引っ掛けた後家の中を隅々まで綺麗にしてお暇した。もう少し自分のことを大切にしてほしいものだ。絶対に鰻や寿司をご馳走しようと心に決める。
よし、刀を打ってもらえたのでそろそろ戻るべきかと考えていた時不意にあることを思い出す。初日以外竈門からの襲撃がないことに。あの底抜けにお人好しな馬鹿正直者が一度しか来ないなど青天の霹靂である。
気になって仕方がないので鴉と共に探した結果。
「六日間不眠不休の上飯も水も口に入れずに人形と戦ってたぁ? 馬鹿かよ」
「言われたこともできない炭治郎さんが悪いんですよ」
「お前の方がよっぽど鬼だよ」
当の竈門の状態はというと頬はこけ、土気色の顔色をし、瞳孔が開きかかっている。あれじゃ本当に死んじまうが不思議と動きは悪くなかった。恐らく無駄な体力を使わないよう最低限の動きで攻撃を躱したおかげだろう。柳のような……というよりは木枯らしに舞う枯葉のようなと形容するのが正しいが。
本来であればここで止めてやるべきなんだろうが餓鬼が邪魔して止められず仕方なく静観することになった。倒れそうになればすぐ駆けつけるが果たして持つかどうか……
明くる日も「昨日の続きからですからね!」と小さな鬼畜が仰ったのでまたも生死の境を彷徨う竈門に同情の念を抱かざるを得ない。あっ……もう意識がない、そろそろ動くか? と考え始めた時、竈門は目をかっ開き刀を
「一撃入りましたね炭治郎さん!! ショボ過ぎて人形びくともしてないですけど食べ物!! あげましょう!!」
不眠不休で飯抜きでよくやった方なのにこの言いざま……涙が出そうになる。
「おにぎりと梅干し!! お茶は高級玉露で!!!」
お前はもう好きなだけ食え、金出すから寿司でも鰻でも何でも食え。よく頑張ったよお前は。
米の美味さに涙しながら口に運ぶ竈門が俺に気付いた。
「あれ? 比企谷さんいつからここに?」
「昨日からいたんだがやっぱ気付いてなかったか」
「えっ! すみません!!」
「いや謝らんでいい、休み無しであの人形とぶっ通しでやり合っていたんだろ? 仕方ねぇよ」
「すみません……ありがとうございます。あ、おかわりください」
「あ、もうダメ」
「お前は謝った方がいい」
腹が減っては戦ができぬという言葉を知らんのかお前は。見ろよ、彼奴の絶望した顔を。行き場を失った手がこれまた哀愁を醸し出してる。結局おにぎりを二つ三つ食べてまた人形とやり合い始めた。しかしあの人形強いな、雑魚鬼は勿論下弦ですら倒せるかもしれない。そしてその人形の動きに食らいつく竈門も強い。少し見ない間に驚きの成長を遂げていた事に嬉しくもあり、不安でもある。
ふと目を向ければ決定的な一撃が入るところだった。あ、今躊躇った。
「斬ってー!!! 壊れてもいい!! 絶対俺が直すから!!」
本当に紙一重……いや《髪》一重だったな。竈門の一撃により人形の動きが止まり、竈門は尻から落っこちた。
「アイダッ!」
「大丈夫ですか!!」
「ご、ごめん、借りた刀折れちゃった」
「いいんですよそんなの!」
「あっ!?」
「!?」
人形がピシと音を立てたかと思えば頭が前後に真っ二つに割れ、中にはなんと刀らしきものが。
「なんか出た! ここここ小鉄君なんか出た! 何コレ!!」
「いやいやいやわからないです俺も、何でしょうかコレ!!
少なくとも三百年以上前の刀ですよね!」
「そうだよね、これ……やばいねどうする!?」
「はぁっ、はぁっ! はぁっ! はあ、はあ、はぁっ、はぁっ!!」
「興奮が治まりませんね!!」
「うん!」
「これ炭治郎さんが貰っていいんじゃないでしょうか、もももも貰ってください是非!!」
「ややややや駄目でしょ! 今まで蓄積された剣戟があって偶々俺の時に壊れただけだろうしそんな!」
「炭治郎さんちょうど刀打ってもらえず困ってたでしょ、いいですよ持ち主の俺が言うんだし!」
「そんなそんな君そんな!」
「戦国の世の鉄は凄く質がいいんです貰っちゃいなよ!」
「いいの!? いいの!?」
「ちょっと抜いてみます!?」
「そうだよね見たいよね!」
言うが早いか竈門は鞘に左手を、柄に右手をやり力を込める。そして引き抜かれた刀は……錆びてた。
「……いや当然ですよね、三百年とか……誰も手入れしてないし知らなかったし……すみません、ぬか喜びさせて……」
「大丈夫!! 気にしてないよ」
両の目から涙を、鼻水を垂れ流していながら気にしていないは無理があるぞ竈門。
「うわあああ炭治郎さん!! 炭治郎さ……ごめんね!!」
少年が謝罪した直後ズン、ズンと何かが近付いてくる音が。俺は即座にいつでも戦えるように構えていたが出てきたのは刀鍛冶師……? それも全身が鍛え抜かれた刀鍛冶師だ。火男のお面に似合わない体つきに思わず声が出そうになる。どうでもいいがはっきり言って竈門より強そう。
「うあああああ!! 誰!? 鋼鐵塚さん!?」
「話は聞かせてもらった……あとは任せろ……」
「何を任せるの!?」
刀を持ち去ろうとする鋼鐵塚さん? と一悶着あったが鉄穴森さんの協力のもと鋼鐵塚さんに錆びた日輪刀を研磨してもらうという話に落ち着いた。
その後は土産を買うために商店街に足を延ばし、饅頭やら髪飾りなんかを購入。そこではたと気が付く。
新鮮な血の匂いに。
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刀鍛冶師の里だから怪我の一つや二つは当たり前……確かにそうだろう。
だが温泉から硫黄混じりに流れてくること、硫黄の匂いが強いにも拘わらず俺の鼻に届いたこと、この二つから只事ではないと判断した。
温泉で怪我をすることはかなり少ないのではないか。余程酔ってるかのぼせ上がっていれば話は別だが……仮にそうだとしてもここまで血の匂いがするということはそれなりの出血量である筈だ。何れにしろやはり只事ではない。
最悪の事態を想定しながら鴉を産屋敷の下へ飛ばし匂いの根源へ向かう。
暫し走る内に想定は現実であったと思い知らされる。木霊する複数の悲鳴と濃い血の匂いによって。
見れば金魚の化け物が人を食わんとしていたから首と思しきところを斬るがすぐさま再生。ならば壺かとたたっ斬れば塵となった。血鬼術によって作られた化け物だったらしい。
「ありがとう……た、助かった」
「別に気にするな、仕事だからな」
適当に話を切り上げてまた金魚の化け物を狩りに行く。金魚を切り刻みながら里長の家に向かってみれば常駐の隊士が悪戦苦闘していた為に手助けしてやった。
「ご無事ですか里長」
「うむ、でも……若くて可愛い娘に助けられたかったな」
「助ける必要なかったかもなこのジジイ(ご無事で何より)」
「鬼柱殿!! 心の声がだだ漏れですぞ!!」
「遅くなってごめんなさい!! あれ!? 比企谷さん!?」
「おう、甘露寺か。血鬼術で作られた魚の化け物が現れた、急所は壺、手伝ってくれ」
「あ、はい……」
甘露寺の気の抜けた返事を聞き流しながら意識を鼻に集中させる。里とほど近いところに一つ、里からやや離れたところから一つ、凝縮された血の匂い……恐らくは上弦の鬼が二体来ているのだろう。死ぬなよ竈門。
オリジナルカップリングは
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二次創作だし多少はね?
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好きにしろ
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許さんお前の家に縁壱送り込むからな