ウマ娘恋愛短編集   作:あーふぁ

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21.マンハッタンカフェ『マンハッタンカフェはここにいる』

 マンハッタンカフェと共にふたりきりでやっているトレーニングを午後5時という早い時間帯で切り上げる。

 夏の暑い日差しから逃げた木の下に行き、カフェの汗をタオルで拭いてあげながら、明日の土曜日には早朝練習がないと言う。

 練習量が減ったことを伝えるのは、近頃いい感じに練習ができているからこそ申し訳ない気持ちだったけど、カフェはトレーナーである僕にも同僚との付き合いがあると理解しているから責めてはこなかった。

 まだ16歳だけど雰囲気に大人っぽさがあるカフェに怒られたら、結構な精神的ダメージが来るところだ。

 担当契約した頃は僕が用事でいなくなるといじけることが多かったものの2年もそばにいると、子供というのは時として精神の成長が早く進むことを実感する。

 

 そしてカフェから離れてする付き合いというのはトレセン学園の大人たちでやる、居酒屋を借り切っての宴会だ。

 8月の今、多くのウマ娘やトレーナーたちが合宿所にいって仕事の量が減っている今こそ飲んでおこうと思っているらしい。

 人間関係は良くしていきたい僕も渋々付き合うことになったわけだ。

 トレセン学園に来て8年。30歳になった今でも飲み会での付き合い方がわからず、酔っぱらった人から面倒な絡みをよく受ける。

 愚痴や教え子の自慢を酒臭い息と共に言うのは短い時間ならいいけど、同じ話をループしてくるのは困る。

 反応しないと文句を言われるし。

 酒が飲めないのに、強く薦めてくる人がいて断るのも大変な精神力を使う。

 楽しくない飲み会だけれど、良い人間関係を作るのにはこういうのも必要だ。

 同じく酒が飲めない、仲がいい先輩も僕と同じように苦労をしながら飲み会によく参加している。

 

 午後11時になると飲み会は解散になり、酔っぱらった人と一緒に店を出た僕はすぐにタクシーを捕まえると自宅へと向けて帰る。 

 タクシーの車内では1人になれたという開放感があり、店内では脱いでいたジャケットとネクタイを結び直して飲み会の時とは違う姿によって気分を入れ替えた。

 向かう先は自分のアパートであり、飲み会前のメールで僕の担当ウマ娘であるカフェが部屋を涼しくして待っていると伝えられた。

 

 本来は担当ウマ娘である子が夜遅いのに自宅へ来るというのはあまり良くないことだ。

 でもカフェには合鍵を預けるほどの仲になっている。

 カフェとは担当になって1年と3ヶ月ほど。

 今まで担当してきた子とは違い、カフェとは仲良くしている。

 カフェは落ち着いた低音の声に普段から落ち着いていて、話をするのが楽しい。

 それに僕と同じコーヒー好きで、よく一緒に喫茶店巡りをしては仲が深くなる。

 

 カフェの方も幽霊問題があって、彼女の近くにいると色々と問題が起きるから話す相手は僕とアグネスタキオンがほとんどだ。

 多少は霊による恐怖があるけど、カフェ自身が悪いわけじゃない。

 友達が少ないからか、男である僕にも女性の親友のように仲良く接してくれるのは嬉しい。

 ただ近すぎる距離感がいつも気になっている。

 肩を並べて座る、資料を見るときは顔がとても近い、尻尾や髪をさわってもいいと言ってきたりと対応に困ることもあるけど。

 それでも断る理由がないかぎりはべったりとくっつている。

 あとは何かと僕の世話を焼きたがり、おかげで仕事は丁寧で多くこなせると評価が上がった。

 感謝の気持ちとして、カフェが興味を持っていた欲しがっていたオズワルド農園のコーヒー豆などを。

 誕生日には僕のアパートの合鍵も。

 

 ……カフェが居心地いいと言ってよく来そうだからあげたくなかったんだけど、耳元で仕事をねぎらってくる優しい言葉をささやかれるとダメだ。

 カフェの言うとおりにして鍵をあげてしまったことは少し後悔している。

 

 その理由として部屋の掃除や洗濯をしてくれること。ご飯の材料を買ってきて、買ったものはこっちからお金を出してはいるけど。家政婦さんかメイドさんがいるような気分になってしまう。

 人としてカフェに頼り切りでダメになりそうだ。

 あげたあとでダメというのもアレだし、見えないお友達による脅迫とカフェの満足そうな顔を見た時には、被害があるわけでもないし問題ないということにした。

 そういう過程でカフェが俺の自室に来ている。外泊許可はすでに取っていて、疲れを癒してあげたいと言ってきた。

 

 タクシーから出ると満月の月明かりの下で2階建てアパートがよく見える。

 2階にある1DKの自宅へ入る前にあたりを見回し、特に霊関係の何かは来てなさそうだと思ってからドアを開けた。

 照明がついて明るい廊下と冷房のひんやりした空気を感じながら靴を脱いでいく。

 そうしていると、ぱたぱたと急いだ足音でカフェが迎えに来てくれた。

 

 カフェは身長は155㎝と僕より20㎝ほど低め。淡い黒色の髪を腰まで伸ばし、金色に輝く目を持つ16歳のウマ娘。

 胸が小さくスレンダーな体形でトレセン学園の長袖と短パンのジャージを着ている。それが夜という時間帯もあって普段見るよりも色っぽい。

 カフェは僕の前に来た時に、髪と同じように黒が美しい耳と尻尾をふわりと1度だけ揺らして帰ってきたのを喜んでいるみたいだ。

 

「おかえりなさい、トレーナーさん」

「ただいま、カフェ。来ていたんだね。もう遅い時間だけど大丈夫?」

「はい、大丈夫です。飲み会で心が疲れると言っていたので、私が癒してあげようかと思いまして」

 

 聞き惚れる低い声で心配そうに言ってくるカフェがかわいく、頭をぐりぐりと強めに撫でてしまう。

 その時に爽やかな香りがし、シャワーを浴びたんだなとわかった。

 清潔でさっぱりしているカフェを疲れた時に見るのは落ち着く。

 そう思いながらしっとりしている髪を感じながら撫でる僕を嫌がることなく嬉しそうに受け入れてくれる。

 あぁ、帰ってきたら美少女にお迎えされるというのはなんと幸せなことなんだろう。

 独身である俺にはぐっとくるシチュエーションだ。

 

「2次会に行って遅くなることもあると思うから、次はしなくてもいいよ」

「私が好きでしていることですから。トレーナーさんは気にしなくていいですよ」

 

 僕が部屋に上がると、カフェはドアの鍵を閉めて後ろから着いてくる。

 冷蔵庫の前へ行き、缶の微糖コーヒーを一気に飲んでゴミ箱に捨てた時に気づいたことが。

 夜ご飯をカフェは食べたのだろうかと。

 見つめるとカフェは不思議そうにしていて表情ではわからず、冷蔵庫近くのゴミ箱を見るとコンビニ弁当が捨ててあった。

 

「冷蔵庫の材料は使っていいっていつも言っていると思ったんだけど」

「それだとトレーナーさんが何か食べたくなった時に困るじゃないですか。私は一緒に住んでいるわけでもないですし、自分のご飯は自分で持ってきます」

「でもコンビニ弁当というのも……」

 

 カフェの担当トレーナーとしてコンビニ弁当というのは栄養面で気になってしまう。

 別に時々は好きなのを食べても問題ないのはわかっているけど。

 僕は悩みながらもカフェがいつの間にか持っていた濡れタオルを渡され、汗を拭いていく。

 汗ばんだ肌には冷たいタオルは気持ちよく、気遣いが上手なカフェはいい奥さんになれそうだなぁと強く思う。

 僕とカフェは友人以上恋人未満の関係。でもカフェにいつか恋人ができて、ここに来なくなったら寂しくなる。

 ……この寂しい気持ちが恋心かは自分でもまだわからない。そういう気がしないでもないけど、まだよくわかっていない。

 そう思いながら、ついぼぅっとカフェを見ていると、カフェは首を傾げて見つめてくる。

 

「えっと、どうかしましたか?」

「いや、何も。今日は疲れたなと実感してきたところ」

「それならシャワーを浴びてきてください。着替えはもう脱衣室に置いていますから」

「ありがとう。それじゃあシャワーに行ってくるけど、今日は泊まる?」

「はい。そうさせていただければ嬉しいです」

「わかった。適当に何かしていてね」

 

 そう言ってから僕は疲れている体で脱衣室へと行く。

 そこに用意された肌着とトランクス、短パンがあるのを確認してから脱ぎ、中でわずかに残るカフェの香りがある場所で熱いシャワーを浴びて体をすっきりさせていく。

 カフェはもう入ったらしく、カフェが使っているシャンプーの香りが残っていた。

 思えば、寝間着として使っているジャージを着ていたんだから今日は泊まっていくということに気づくんだった。

 普段は聞かなくてもわかるのに、ずいぶんとぼぅっとしているらしい。

 人間関係に必要とはいえ、飲み会はずいぶんと疲れてしまう。終わるたびに疲労を少なくしようと思っているけど、うまくできたことがない。

 

 そういう時は家に帰ればカフェが優しくしてくれるからありがたい。

 お腹が減っている時にはご飯を作ってくれる。

 寝るときには耳元で子守歌。

 ……なんだか甘やかされている気がする。カフェは恩返しと言いながら僕に良くしてくれるけど。

 僕からすればたいしたことはしていないけど、カフェは僕がいたから救われたと言う。

 今まで一緒にやってきて、カフェは変わってきた。

 はじめは自分のせいで誰かに迷惑をかけないかおびえていた。でも何かあってもそれほど気にしていないという態度を続けていると変わっていった。

 今では幽霊を自分の力でぶちのめすほどになり、僕と唯一の友達であるタキオンには積極的になっている。

 

 僕はカフェのためになっているなら嬉しいと考えながらシャワーを浴び終え、着替えをする。

 カフェが持ってきた性能のいいドライヤーで髪を乾かしたあとは、丁寧に歯磨きをする。

 そうして寝る用意ができてからカフェのところへ戻ると、床には布団がぴたりとふたつ並べてあった。

 お腹が冷えないよう、夏用のタオルケットも用意してある。

 

「……今日は布団が近くない?」

「私が寂しい気分になっているので」

 

 そう言うカフェはエアコンを止めて部屋の窓を開けている途中だった。

 暑い日に寝る時はエアコンで喉をいためないためにそうしている。

 それは僕がいつもしていることだけど、なんだか今日のカフェはずいぶんと積極的だ。

 

「少し火照った体が落ち着いたら寝ましょう」

「先に寝ていてもいいけど」

「私をひとりにするんですか?」

 

 布団に置く扇風機の位置を調整していたカフェは、しょんぼりした耳と寂しそうな表情を僕に見せてくる。

 壁にかけてある時計は午前0時を過ぎていて、カフェのためにも早く体を冷やそうと扇風機の前へと座った。

 あぐらで座り、目をつむって扇風機の風を体で受けていると風が止まる。

 目を開けると、そこにはカフェが立っていて自然と足の間へと座ってきた。

 時々こうやって椅子のようにされることはあるけど、それは涼しい時だけ。今のように暑い時にされると非常に息苦しくなる。

 

「暑い、重い」

「女の子にそんなことを言うと嫌われますよ」

「今だけ嫌っていいから離れてくれ」

「お断りします」

 

 カフェは楽しそうに笑い声を出しながら僕の胸へと体重を預け、満足そうに息をつく。

 僕は嫌と言ったけど、実はそれほど嫌じゃない。

 カフェの温度と重さを感じると、いつもしていることと変わらないことに安心するから。

 10分ほど扇風機に当たり続けると、カフェが僕の手に指先をそっと絡ませてくるので今日は寂しかったんだなと思いながらされるがままでいた。

 

「そういえば僕を癒してくれるんじゃなかったっけ」

「そうですよ。そのために私は毎日努力して、よりトレーナーさんを癒せる結果を近いうちに出そうと思います。

「カフェが辛くなければ好きにしていいけど」

 

 部屋の明かりを消してから風を入れるためにカーテンを開け、月明かりに照らされながら布団の上へ崩れるように仰向けで倒れ込む。

 カフェは僕とは違い、静かにに入ると布団で体を横にしている。

 一息つき、寝る気持ちでいるとカフェが近寄ってきて耳元で優しくささやいてくる。

 

「辛くなんてありませんよ。あなたのためなら」

 

 その小さな息遣いと重い感情がこもった言葉に、背筋がゾクリと快感と寒気で震えあがった。

 言葉の意味は変なものではない。純粋に僕を心配しての言葉だと思う。

 だけど声に込められた意味は僕が思う以上に感じる。

 

「あなたの選択は私の選択。あなたの望みは私の望み。将来的に私はそうなりたいです」

「僕はそんなのをカフェに求めていないよ。求めるとすれば、多くの友達を作って欲しいかな」

「いりません、そんなの。あなたとタキオンさん、私にしか見えない"お友達"だけいればいいんです」

 

 僕は横向きになり、寝る前に真面目な話をしようとする。

 でも目の前には鼻と鼻がくっついたほどの近さでカフェが僕の目を見つめていた。

 慌てて距離を取ろうとしたけど、できなかった。

 カフェのすべすべとした足が壊れ物でもさわるかのように優しく僕の足に巻き付き、手をそっと首に回してきたから。

 こんなふうに足がふれるといったことは初めてで、今日のカフェはいつもと違うことに心配する気持ちが大きい。

 強い眠気に耐えて話をする。何よりも大事なのはカフェの体調だから。

 密着してくるカフェでドキドキしてエッチな気持ちは心の奥底に封印しておく。それはもう厳重に。

 

「今日は調子悪い?」

「ただ寂しいだけです。"お友達"はタキオンさんの『月の満ち欠けによる運動能力の違い』という研究に興味があると言って出かけました」

 

 いつもはカフェの"お友達"がいるから、僕との関係が進みすぎないようにセーブしてくれる。

 それは窓ガラスにヒビが入るとか、ポルターガイスト、ラップ音といった心霊現象で。

 

「カフェが学園を卒業するまで走ることを見捨てないよ」

「卒業したら終わりになるんですか」

 

 カフェは鼻と鼻がふれあうほどに顔を近づけると同時に僕の首に回す手の力を強くする。

 少し息苦しくなりながらも首を横に振り、今まで言ったことのなかったことを言う。

 

「言葉が悪かったね。卒業したあとはカフェの気持ち次第で、その、あぁー……明日でいいかな?」

「ダメです。言ってください。そうでないと私、ひどいことをしてしまいそうで」

「じゃあ言うけど。……その、愛の告白というのをしようかと考えていて」

「いいですよ。結婚を前提としてお付き合いをしましょう」

「今のは告白したわけじゃなくて」

「未来にする予定があるなら今しても変わらないと思います」

「カフェ、近い」

 

 耳をぴこぴこと激しく動かしているカフェは僕の胸へと顔をうずめて抱きしめる形になったが、その顔を両手で押し出して強引に突き放す。

 告白していないけど、カフェから恋人になる返事をもらえたのは嬉しい。

 でもまだ早すぎる。今は友達以上恋人未満でいないと色々と我慢できなくなる。

 ……我慢するなら、そもそも家の鍵を渡すなと言われそうだけど。僕もカフェと一緒にいたかったから出来心で渡してしまったんだ。

 

「話はあとでするから寝よう。意識があやふやだから、忘れてしまったらごめんね」

「そうなっていたら私が思い出させてあげます。……それではおやすみなさい」

 

 そう言ったカフェは僕から体を離し、頬を大事なものを扱うかのように一撫でしてから自分の布団に戻った。

 ようやく静かになったものの、僕の心臓はカフェの告白を思い出してバクバクと動いている。

 でもそれも時間が経つにつれて収まり、僕の目はゆっくりと閉じていく。

 そしてあっというまに眠りについた。

 

 

 ◇

 

 

 顔に強い日差しを感じ、暑苦しさを覚えながら目を開ける。

 壁にかけてある時計を見ると、午前5時30分。

 しょぼしょぼとする目を指でこすり、大きなあくびと共に起き上がる。

 その時に手に重さを感じ、寝ているカフェと手を繋いでいたことに気づく。

 カフェの眠るかわいい姿を見ながら手の甲を撫でると、一瞬だけ笑みを浮かべた。

 

 昨日、寝る寸前の記憶はちょっとだけ覚えていないけど、告白しあったことだけはわかる。

 ちゃんとした告白ではなく、カフェが将来結婚したいという話だったはずだ。そして僕は先送り。

 まだ16歳の子供に対し、大人として正しい対応ができたと思う。

 カフェはまだ幼く、精神がもう少し成長してからの言葉だと僕もカフェを受け入れるつもりだ。

 それまで自分の恋愛感情を抑えて指導者として上手に対応できるかは難しいかもしれないけど。

 ダメだとなったらタキオンの実験薬を飲んで自分への罰としよう。

 

 恋人繋ぎで絡んでいる指をほどいて上半身を起こし、カフェを見ながらぼぅっと意識が覚醒していくのを待つ。

 そうしてカフェを見ていると朝日にあたって輝く黒の髪が魅力的で、つい手を伸ばしてさわってしまう。

 絹糸のように柔らかく、手で持ち上げると水のようにさらさらと手からこぼれて行くのを見ると笑みがこぼれてしまう。

 

「いつも優しくしてくれてありがとう」

「そう言っていただけて嬉しいです」

 

 褒めた途端、目が急に開いて目があったことにひどく驚いておおげさに髪から手を離す。

 でもカフェが素早く僕の手を両手で掴むと手の平に優しい口づけをしてきた。

 

「ずいぶんと積極的だね」

「気持ちを伝えたから、積極的になっていこうと思いまして」

 

 突然のことに混乱しながらも、手の平にキスする意味はなんだったかと思い出そうとする。

 そうしている間にカフェは起き上がり、僕を抱きしめようとしてくるので慌てて両肩を押して近づいてくるのを止めた。

 

「それはダメ。付き合ってから」

「……抱きしめ合うのはいいと思いますけど」

「きちんと線引きをしないとダメだよ」

「泊まっている時点で理由としては弱いですが」

 

 自分でもそう思うけど、ダメなのはダメだ。

 このまま話をしていると言いくるめられるので、急いで指をほどくと布団から立ち上がる。

 カフェも僕に続いて立ち上がり、一緒に洗面台へ行って顔を洗う。

 その後、今日1日は何も予定がないため、漫画本一冊ほどの距離を取って一緒に並んで座りテレビを見る。

 

「一緒に起きるというのは恋人も同然だと思いませんか?」

「添い寝フレンド。略してソフレというのもあるから恋人とは限らないよ」

「わかりました。トレーナーさんが私の恋人になりたくなるまで静かに行動しますね」

「僕の評判が落ちないようにして欲しいなぁ」

「それはもちろんです」

 

 少しの間テレビを見ていると、ふとカフェは何かを思い出して立ち上がるとキッチンへと行く。

 不思議に思ってついていくと冷蔵庫を開けて中にある材料を取り出している。

 

「あの、朝ごはんを作るだけなのでトレーナーさんはテレビを見ていてください」

「作ってもらってばかりだから今日は僕がしようか?」

「私が恩返しをできるのはこれぐらいだけですから。そして将来の妻として夫のご飯を作るのはごく当然のことです」

 

 真面目な表情をしてかっこいい顔になるけど、さりげなく結婚することを確定としているのはどうかと思う。

 お互い時間が経つうちに好きな相手が変わるかもしれないし、予定を決めて生きていくのは意識してしまって生きづらくなる気がする。

 そんな考えが表情に出ていたのか、カフェは持っていた野菜を置いて僕から少しだけ距離を取る。

 そうして僕の前でくるりとゆっくり一回転をし、素敵な髪がふんわりへ浮かぶ。

 僕は髪に注意を引かれて見つめていると、カフェは小さく笑い声を漏らす。

 

「私は自慢の髪を見てもらいたい。あなたは私の髪を見たい。だから大丈夫ですよ」

「性格が好きだから大丈夫と言うものじゃないか、普通は」

「だって私がいないと、トレーナーさんは生きるのに苦労するじゃないですか。全部私に任せてくれればいいんです」

 

 最後に掃除をしたのはいつだろう?

 気がつくと窓ガラスは綺麗になっていて、洗濯物は洗われている。僕は家に帰ってご飯を食べて寝るだけだ。

 スーパーに行ったのは? 

 行ったとしてもカフェと一緒だ。1人で買い物に行くことなんて学園の購買しかない。お財布は渡していないものの、近いうちに毎回お金を渡すのが面倒になって預けてしまうだろう。

 

「生活能力がない人と結婚してくれる女性は私ぐらいしかいませんよ。仕事以外は私に任せてくれればいいんです」

 

 計算して行動していたという事実に気づき、怖くて体が震える。

 僕は1人暮らしをしていたと思っていたけど、カフェに頼りきりになっていた。僕とカフェが一緒に寝る日も増え、同棲に近いと言えるかもしれない。

 恋人ならそれでもいいけど、そうでない僕とカフェでは依存関係になっているんじゃないか。

 ……でも一緒にいて気楽なカフェとなら堕落する生活をしてもいいか。

 カフェの暗さと重さを感じる、濁った瞳を見つめながら僕はそう思った。




地の文について勉強。
今までよりも読みやすくなったと思います。
面白さも増えていると嬉しいですね。
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