ウマ娘恋愛短編集   作:あーふぁ

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嫌われが少しあります。


23.シンボリルドルフ『僕のことが好きで照れ隠しとして説教をしてくるルドルフに迫られて胃が痛い』

 ウマ娘たちが学校の授業を終え、ジャージに着替えてトレーニングが始まって少したった頃。

 走る基礎を教える教官の助手として副教官の職を得ている僕は畑作業をしていた。

 広さはテニスコート4面分。理事長に言われて去年から作り始めたニンジン畑だ。

 

 本来は僕の仕事ではないものの、就職したばかりだったのと若いからという理由で流れで任されてしまった。

 高校を卒業後、2年間勉強した専門学校ではウマ娘のことだけ。

 副教官という職業の都合上、暇になる時間は多く、そのあいだに農作業について勉強をした。

 用意した道具は理事のポケットマネーで、労力は自分が学んでいる教官のもとでトレーニングをしているウマ娘たちだ。

 トレセン学校に入ったばかりの彼女たちは不思議に思い、または嫌そうにしながらも手伝ってくれた。

 

 今年で2回目だから去年よりも作業は手際よくなり、ついでに僕の体も筋肉質になった。

 そうして彼女たちが5月はじめから9月終わりの夕方までちょこちょこ手伝ってくれた畑。

 朝から俺が収穫作業をして午後からは今いる子たちの手伝いもあった。そしてたった今、作業を終えた。

 

「収穫完了!!」

 

 疲れながらも収穫できた喜びの叫び声をあげると、俺に合わせて畑のあちこちで「かんりょー!」と6人のウマ娘たちが元気に大声をあげてくれる。

 他にも手伝ってくれた子たちはいるけど、その子たちは今、教官の指導を受けてトレーニング中だ。

 ここの子たちは教官が1度に見られない子たち。自主練だけだと飽きるから、教官の許可をもらって今日まで作業をしてもらっていた。

 収穫したニンジンは理事長に持っていくのと、持っていくのにダメそうなのは自分たちで食べる。

 

 そのため、収穫用コンテナに入れたニンジンたちは僕に与えられている、グラウンド近くにあるトレーナー用の部屋へといったん持っていく。

 ウマ娘たちと一緒に運び入れていくニンジンは明日選別をしてから、それぞれに配る予定だ。

 土に汚れたウマ娘たちは自分で育て、収穫したニンジンにきらきらした目で見たあとに僕へ大きく手を振って練習へと戻っていった。

 特別に理事長から与えられた僕だけの小さな部屋。

 その中にあるのは農作業道具、ニンジンが入ったコンテナ。ウマ娘に関する本とウマ娘たちにあげるお菓子が入っている本棚が3つ。あとは僕の作業用デスクと椅子。ノートPC。

 他には僕個人が持参した小さな冷蔵庫。

 半分物置になっているけど、これが僕の作業場だ。

 

 部屋のエアコンを付け、机の上に置いてあるタオルで体と短い髪を拭き、冷蔵庫で冷たいスポーツドリンクを飲む。

 そうしてから椅子に座り、大きく息をつく。

 20歳でトレセン学園に就職し、教官で親戚のおばさんの下で将来教官になるために僕は学んでいく。

 

 ……という予定だったんだけど。理事長に会ったら農作業のことや事業拡張計画に巻き込まれ、親戚の教官からは兼任している教師で疲れているということもあって、ウマ娘に関する多くの事務仕事を任された。

 おかげでトレセン学園の人たちと顔を繋ぎ、広い仕事の経験をできたのはいいのだけれど。

 きちんとウマ娘のトレーニングを直接教えたいという気持ちが強い。

 今の僕は22歳。まだ焦るべきじゃないけど、早く成長したいという気持ちが強くなりすぎてしまっている。

 ウマ娘たちのためにバーベキューのやりかたや、お出かけの送迎をするのも仕事としてはいいんだけど。

 

 トレセン学園に就職できただけでも、満足すべきだよなぁとため息をつきながらPCの電源を立ち上げると、教官から任されている僕の事務仕事を始めていく。

 いや、その前にあさってニンジンを料理するための食堂申請のデータが先か。

 その後は農作業の過程や収穫の成果、各ウマ娘のトレーニングスケジュール設定、一緒に農作業したウマ娘たちの精神状態の文章化。

 必要な物品の申請。それと教官がメモ書きしたのも文章化が必要だな。

 

 頭の中で優先順位をつけ、机の上にある付箋紙にそれを書くとモニタのはじっこに張り付けておく。

 急ぎの仕事ではないけど、全部合わせるとなかなかの業務量となる。

 仕事を片付ける要領がよくないから、どの仕事もよく時間がかかってしまうのが少し悩みどころ。

 そう思いながらもカタカタとノートPCのキーを叩いていく。

 

 畑作業を終えた時はすっきりとした気分だったものの、仕事を続けていくうちに段々と気分が悪くなってくる。

 仕事が嫌とかそんなのじゃない。

 そろそろ『彼女』が来る時間かなと思ったから。

 壁掛け時計を見ると、時刻は4時50分。

 今日のトレーニングはどれだけ時間がかかるかわからないけど、20分以内には来そうな気がする。

 

 そう思ってしまった途端、ひどく憂鬱になり大きなため息をついてしまった。

 僕が仕事を貯めている様子がわかったら、きっと説教をしてくるんだろう。

 あとはウマ娘たちにトレーニングをさせずに農作業をさせているのはいったいどういうわけだ、と。

 

 農作業については理事長と教官の許可があるけど、ウマ娘がトレーニングをしないことが、というよりも僕のなにもかもが気になってしまうようだ。

 ダメ出しを色々と出される僕にとっての癒しといえば、ウマ娘たちのふりふりと動く尻尾。いや、それよりもシービーと気楽に話すのが楽しい。

 ……長い時間、話をしているとどこからともなく『彼女』がやってきて話に混ざってくるのが胃に痛いとこだけど。

 

 『彼女』のことを考えると、恐怖と焦りがやってきて以前、精神の疲れで1度吐いたことを思い出す。 

 僕としては楽しく話せるぐらいに仲良くなりたいんだけど。

 そう思い、苦しみながらも農作業関連の提出データを終えると同時に部屋の扉が静かに開く。

 その音に僕はビクリと体を強く震わせ、すぐに開いた方向を見る。

 そこには僕の苦手な『彼女』で、ジャージ姿で練習を終えたらしいシンボリルドルフが立っていた。

 

「やぁ、副教官。君の様子を見にきたよ」

「……トレーニングが終わったのかい?」

「だから、ここにいるんだろう? 私はトレーニングを投げ出すなんてことはしないよ」

 

 爽やかな雰囲気だけれども、その声を聞くと僕をいじめに来たんじゃないかと想像してしまう。

 そういうのは今までないけれど、僕と彼女が出会ってから仕事をよく見に来られるから緊張する。

 

 その恐れる対象である子は中等部1年で9歳年下だ。

 ルドルフはデビューしてないながらも、すでに注目度が高い。

 名門のシンボリ家で、トレセン学園に入る前から能力の高さで3冠ウマ娘の期待値が高く、話題性が強い。

 また面倒見の良さや責任感から中等部をまとめていると言われている。

 

 歳の差が9歳で180㎝の僕とは10㎝少しの差があるけど、そういう大人と子供の差があっても恐れてしまう。

 尻尾の毛1本1本から威圧感があるシンボリルドルフは部屋に入ってくると、近くに置いてあった椅子を取ってひとり分ほどの距離を開けて隣へと座ってくる。

 

「作業画面を見てもいいかな」

「ん、あぁ。大丈夫」

 

 会話をするだけでも一気に僕の緊張が増えるが、彼女は僕の様子を気にすることなく僕のノートPCの画面をのぞき込む。

 今の画面は理事長に向けて出す、ニンジンの育成結果の文書だ。

 本当は仕事のものだから見せないほうがいいんだけど、生徒の個人情報じゃないから抵抗することなく見せてしまう。

 

「これで今日の仕事は終わったのかい?」

「まだだよ。さっきニンジンの収穫が終わったばかりだから」

 

 そう言ったら、大きなため息が返事になった。

 それに僕は恐怖でぶるりと体が大きく震える。

 

「いつも言っていることだが、君は仕事の要領がよくない。効率よくやって、時間を作れるようにならないとウマ娘のトレーニングを任せてもらえないと思うのだが」

「わかっているけど、仕事は丁寧にやるものだと思うんだ。それにウマ娘たちと農作業をするのは僕にとって癒しの時間だから、予定外のこともしちゃって」

「癒し? 理事長から任されているのはニンジンを育てることだが、それの何が癒しになるんだい?」

 

 僕をぎろりとにらみ、少しだけ耳を後ろに絞って怒っている様子だ。

 失言だった。

 仕事が楽しい、といえば怒られることもなかった。でもウマ娘たちと作業するのが癒しだなんて言ったから、怒っているんだろう。

 シンボリルドルフも優先的にする練習がない時は一緒に作業することはあるけど、その場合は毎回僕の隣にぴったりとくっついてくる。

 嫌がらせをしてくるわけじゃないけど、僕が何をするにしても一緒に来て、一緒の仕事をする。

 僕が普段からさぼっているように思われているのか、監視をしてくる。だから、他のウマ娘たちと雑談はできず、作業に関する話しかできない。

 シンボリルドルフがいる時、他のウマ娘たちは僕たちに近づきたくないのか、いつも話をしに来る子さえも近づいてこない。

 

「君は何をしにここへ来ているんだい? ウマ娘たちと楽しくお喋りをすることではないだろう? 確かに会話をすることでコミュニケーションを取るのはわかる。

 君と一緒に作業をした先輩や後輩からは、話が楽しく、勉強になることがあると聞いているからね。

 でも、私は君と楽しい話をしたことも勉強になったこともない。この違いはなんだろうね」

 

 お前に監視されているからだ! なんて言いたいとこだけど、言っても状況は改善するどころか悪くなるのが容易に想像できてしまう。

 ……僕はただ、楽しく仕事をしたいだけなのに。

 女性ばかりいるトレセン学園でハーレムや恋愛をしたいという気持ちはない。

 友達や友人のような関係になりたいと思うことはあるけど。

 恋愛するなら同い年や年上にしか興味がないから、安全だと思う。そのあたりも就職するときに事前チェックされたし。

 ……親戚でもある教官を通して、僕の性癖が理事長や理事長秘書に公開されるという羞恥プレイがあったのは辛かった。

 

「聞いているのか、君。真面目に仕事を続けていないと、私や他のウマ娘たちのトレーニングを任されないぞ」

「あぁ、うん。そうだね。その通りだよ」

「……なんて覇気のない。私としては君に頑張ってもらいたいんだが」

 

 あきれたように大きくため息をついて目をつむるシンボリルドルフ。

 そう言われた僕は強く胃が痛くなり、すぐに右手でお腹を押さえる。

 シンボリルドルフと会ったばかりはこんな感じじゃなかった。

 はじめは礼儀正しくて真面目な子だと感じ、わからない部分があれば僕や教官に色々と聞く勉強熱心なことで好印象を持っていた。

 でも次第に多くのウマ娘たちと一緒の時間を過ごすうちに、4月に入学してて8月あたりから僕へと厳しくなっていた。

 

 昔はルドルフと呼んでいたけど、今ではシンボリルドルフと呼んでいる。

 別にそう呼べと言われたわけじゃなく、僕自身より年上な精神年齢の気がして呼び捨てだと気がひけたから。

 気分が最低限に近い状態になりながらも、僕は文句を言われないうちに仕事を始める。

 見られても大丈夫な、購入物品のリスト作成を。

 表計算ソフトを立ち上げ、打ち込みを始めると横にいるシンボリルドルフが不満そうな気配を出し始めた。

 

「私に聞かないのか?」

「何を?」

「私が何の練習をしてきたかを。副教官である君は予定として知っていると思うが、実際に走った者の声を聞くのも大事だと思う」

 

 目を開き、いつものようににらんでくる表情を見ると僕はノートPCを閉じて体をシンボリルドルフへと向ける。

 そして、話してくださいという姿勢になると満足そうにうなずいて話を始めた。

 

 内容はストレッチや校外ランニングといった普段のメニューと変わらないこと。でも校外で何々を見た、先輩、後輩がいい併走相手で嬉しいといったこと。

 それを相槌をしながら聞いていくけど、あまり内容は入ってこない。

 僕が思うことは早く1人になりたいという思いだ。

 それなら自分から何か用事を作って逃げればいいけど、前にそうしてカフェテリアでゆっくりしていたらバレて怒られた。

 ストーキングというわけではなく、他のウマ娘が教えてくれたとのこと。その時はシンボリルドルフの人望に驚いたものだ。

 

 別のことを考えながら、シンボリルドルフの顔や肩、足といったものを見ていく。

 中等部1年である13歳の時点で美人な顔とスタイルの良さから、将来はレースのこと以外でもメディアが放っておかないなぁと思う。

 そうして段々と僕のことを忘れていって欲しいものだ。学園内であっても話しかけてこないぐらいに。

 嫌いというわけじゃない。ただ怖いだけ。

 自分が要領よく仕事しないのはわかっている。だからといって毎日のように説教をされたくはない。

 今は自分自身のことを一方的に話をしてくるし、きちんとした会話をしたい。

 

 ……いや、きっと僕を好きでないだろうから難しいかな。こうやって近づいてくるのは僕に不信感を持っているのと、何かしでかさないかと監視をする意味でだと思う。

 僕みたいに若い人は少ないし。何が気に入らないか聞きたいけど、それでまた怒られるのも嫌だから現状維持となって耐えるだけ。

 他のウマ娘との会話が日々の癒しだ。

 

 耳は話を聞いて頭では現実逃避な思考をしていると、ふと話が止まった。

 意識を戻すと、話したいことは終わったらしい。

 そのことに安心し、でも会話も動きもなく見つめあっているだけの静寂の時間は心地よくはなく、シンボリルドルフも目を天井にやって口元に手を当てながらどうしようかと悩んでいる様子だ。

 僕もこれからどうやって1人で仕事をするか言い訳を考えないといけない。

 そう思っていると、何か思いついたらしくシンボルルドルフが目を合わせてきた。

 

「よかったら私に君の仕事を手伝えることがあったら―――」

「やぁ、ミスターキャロット。農作業が終わって疲れ切ってないかい?」

 

 言葉をさえぎりながら開いた部屋の扉。

 やってきたのはミスターシービー。

 そう、シービーだ。時々僕のことを変わった名前で呼ぶ彼女。今日の場合はニンジンの収穫作業をしたからキャロット呼びみたいだ。

 さて。この息苦しい状況にやってきた今を改めて喜ぼうと思う。

 

 シービーが来た! 扉が、扉が開いてミスターシービー! と僕の心の中では救世主のように彼女は美しく輝いている。

 彼女は中等部2年だけれど、結構話題が合うこともあって同年代のようにふれあえて僕と最も仲がいいウマ娘だ。

 

「教官が君を呼んでいたよ」

「ありがとう、シービー! それじゃあ、僕は行くから」

 

 シービーに声をかけられた僕は、逃げ道ができたと喜びながら勢いよく部屋を出ていく。恐怖から逃げれる気持ちとシービーに感謝する気持ちを胸に抱きながら。

 そしてシンボリルドルフに対し、不機嫌にされない話題を近いうちに探しておこうと考えながら。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 今日も失敗した。

 私は副教官と仲良く話をしたいだけなのに。

 部屋に残ったのは私と、面倒見のいいシービーだ。

 先輩ではあるけど、形式ばったのは嫌だと言われたから名前は呼び捨てで敬語をしないで話せる人だ。

 

「ルドルフ、副教官と雪山で凍えそうなほどの辛い雰囲気だったけど何かあった?」

「いつもの心配をしただけだ。来てくれて助かったよ」

「あー、今日もやらかしちゃったかぁ」

「あぁ……成長しない自分が恥ずかしくてたまらないよ。彼を見ると頭で考えていたことが全部消えてしまうんだ。さっきだって一緒に農作業をしていたウマ娘に嫉妬して辛くあたってしまったぐらいなんだ」

「それは難しい気持ちだね」

 

 シービーは困った笑みを浮かべて私に近づくと、さっきまで副教官が座っていた椅子を指差して「座っていい?」と聞いてくる。

 私は少しだけ腰を浮かばせると、副教官が使っていた椅子へと座り直す。

 自分とは違う温かさが残る椅子は、ちょっとだけ落ち込んだ気持ちを癒してくれる。

 シービーは微笑みを浮かべると、私が座っていた椅子へと座った。

 

「ほんと、ルドルフは副教官のことが好きだね」

「一目惚れだからな。それから彼自身のことを知るともっと好きになった。真面目で気遣いがよく、彼が多くの人に頼られている姿なんて―――」

「待った、ストップ。長くなるでしょ、それ」

「あぁ、すまない。以前も語ったのに同じことを言いそうになるなんて」

「それはいいの。ルドルフが嬉しそうな姿を見るのは好きだからね。でもそんなに好きなら告白してから距離を詰めるっていうのもあるけど?」

 

 好きで好きでたまらない。

 あの人の声が、匂いが、仕事をしている時の雰囲気。

 最初の頃以来、自分に向けられない笑顔。

 でも、だからこそ仲がよくない今では無理なんだ。

 

「…………今日は名前すら呼んでくれなかった。今の状況でそれをしてしまうと、余計に嫌われると思わないか?」

「あの人はいい人だから、ルドルフがなんできつくなっているかを伝えられれば大丈夫だと思うけど」

「私が来るといつも怯えて緊張する。私が飲み物を持ってきても口をつけず、笑顔を向けた時にはひどく怯える。そんな彼に私は伝える勇気がないよ、シービー」

「それならさ、少し自分を変えてみるのもありじゃない?」

 

 シービーはゆっくりとした動きで、私のおでこを人差し指で軽く押してきた。

 自分を変える?

 そうすれば、彼は私のことを見てくれるんだろうか。

 

「変えると言っても見た目じゃなくて、中身のことね」

「シービーみたいに明るくフレンドリーに、ということか」

「ダメだよ、それじゃあ。アタシはアタシでルドルフはルドルフだから。人の真似をしてもうまくいかないよ」

「だったら何をすればいい。私には思いつかないんだ」

「たとえば、ギャグを言って笑わせるとか」

「ギャグ」

 

 その意外な言葉は、私はシービーが言ったことを繰り返して口に出すほどに考えたことのない答えに戸惑ってしまう。

 

「そ、ギャグ。お堅い雰囲気のルドルフに親しみやすさを出すにはそれがいいかなって。あ、別にアタシが言ったからってこれが答えじゃないからね?」

「いや、貴重な意見はありがたい。私には考え付かなかった。ひとまずそれをやって、ダメだったら新しいのに挑戦すればいい」

「恋する乙女の精神は強いね」

「あの人を私に惚れさせるには頑張らないとね。9歳差は意外にも大きな壁だ。親しくなった後は、私を女性として認識してもらいたいものだね」

 

 私は椅子から立ち上がると、さっそく思いついたギャグをシービーに見せるため、本棚へ行って副教官が置いてあるチョコ板を手に取ると冷蔵庫へ行く。

 その冷凍庫部分の扉を開き、チョコ板を入れる。

 そして私は笑みを浮かべて力強く自信を持ってシービーへと顔を向ける。

 

「チョコ冷凍」

 

 シービーは一瞬ぽかんとしたものの、小さく声をあげて笑ってくれた。

 

「お堅いイメージがあるルドルフが言うと、ギャップ差があっていいね。うん、いいと思うよ」

「そうか! これなら副教官も意外に思ってくれるか!?」

 

 副教官と1番仲のいいウマ娘であるシービーがこう言ってくれている。つまりは好印象を持ってもらえる確率が高い!

 嬉しさのあまり、私は一気にシービーに詰め寄ると両肩に手を置いて感激を伝えるように肩を掴む。

 

「顔が近い、近いって。はじめは変に思うだろうけど続けてやれば、あぁ、続けてといっても適度な間隔でね?」

「そのあたりは気をつけるとも」

「私はいいと思ったけど、反応が悪かったらすぐに引くんだよ?」

「……これがダメだったら私は元の私に戻ってしまうんだが」

「いや、他にも色々とあるよ? 耳かき、ASMR的なささやき、マッサージ、ご飯を作ってあげる、お菓子をプレゼントとか。でも1番は……」

「1番はなんだ? 難しいのか?」

「んー、まぁ、ルドルフが照れ隠しの説教やにらみをしないで、素直に好意を伝えられればいいんだけど」

「……努力する」

 

 彼の顔を見ると、考えていたことが全部吹っ飛んでしまう。

 そして恥ずかしがっている弱い私を見せたくないあまりに、彼のささいな失敗や欠点を見つけては説教をしてしまう。

 また彼が他のウマ娘と一緒にいたときは、胸のあたりが針で突き刺したように痛く、痛みをごまかすために他のウマ娘への態度に文句をつけてしまう。

 彼は優しい人だというのに、自分がうまくできないのが恥ずかしい。

 考える時間の多くは彼のことで、彼のことを思い出すだけで尻尾が自然と興奮で揺れてしまう。

 




素直になれない恋する乙女という方向性で書いていたんです。
でも思ったより厳しくなって。
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