ウマ娘恋愛短編集   作:あーふぁ

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24.ナリタブライアン『熱は指先からやってくる』

 狭いトレーナー室にいるのはスーツ姿の俺と、今日は休みのために長袖制服姿なブライアンのふたりだけ。

 窓を開けて網戸で部屋を涼しくしている、10月にしては暑い日。

 窓の外から聞こえるトレーナーやウマ娘たちの声を耳にし、俺たちはお互い静かに過ごす。

 ブライアンはソファーで力なく座り、マヤノトップガンに渡された女性向けファッション誌を興味なさそうに読んでいる。 

 俺はというと、机に向かって過去のトレーナーたちがウマ娘と不純異性交遊で処分を受けた始末書を読んでいる。

 同じ男性として女性の魅力に負けないようにしないといけない。

 メディアやファンによって、人生が大きく変わるからだ。ウマ娘への恋愛ごとは好意的に見ることが多いと言えども。

 健全な恋愛ならいいが、行き過ぎたのはよくない。

 

 始末書だけでなく、恋愛に関連する提案書も持ってきてある。

 男女共にトレーナーが育児休暇を取った時の担当しているウマ娘の扱いについての提案書も興味深い。

 それと提案書なのに、カレーのレシピしか書いていないとはどういうことだと不思議に思う。レシピを書いた人は多数のウマ娘を育成して、これがよく役に立ったとあとがきにはあったけど。

 これらはウマ娘との関係について役に立つ。 

 

 俺は担当ウマ娘であるブライアンには女性的魅力はまったく感じないが、将来チームを持ったときに今から気をつけておかないとボロが出てしまう。

 学園にいるウマ娘と恋愛するなら、相手が成人年齢である18歳を過ぎてから堂々と付き合うのがいいとも文書に書いてあった。

 考えると、理想の関係は友達以上恋人未満という関係なんだろうか。

 すでに結婚や恋人がいてもウマ娘は恋愛に積極的な子が多いから対策をしておかないとまずいと強く書かれている。

 トレーナーが気づかないだけで、ウマ娘はあなたに恋をしているかも、とも書かれてある。

 

 ブライアンが俺に恋ねぇ……。

 首だけをブライアンが座るソファーへ向けると、ブライアンはわずかに目を合わせて不審そうな目で見つめ返してきたあと、すぐに読書へと戻った。

 今の反応だけでも、友情以上の気持ちは俺に感じてないだろう。よくて兄とかだろうか。

 ブライアンがイケメンで男装が似合いそうだから、俺からすれば弟にも思えるし。

 それに俺とブライアンの年齢差は10歳差。27歳になるおっさんではなく、若くて気が強い男のほうが好みのはずだ。

 ブライアンと恋愛に関する話はしたことがないから、好みは推測になるが。

 ブライアンを眺めつつ、部屋を通っていく心地よい秋風を感じながら紙をめくる時、不意に紙の端で指を切ってしまう。

 

「いっ……てぇ……」

 

 その痛みについ声を出してしまうも、ブライアンがいる手前、恥ずかしくないようになんとか声を抑えることに成功する。

 小さい傷ながらも痛む右手の人差し指を見ていると、傷口から血がにじみはじめて薄く血が指先から流れ始めていく。

 

「どうした」

「指を切っただけだ」

 

 これなら浅い傷だから保健室に行かなくてもいい。

 自分でちょいと手当すればいいが、医療キットはどこにしまっただろうか。

 

「なんだ、治療しないのか」

「なぁ、医療キットはどこにしまったかわかるか?」

「ないのか? ……仕方ない」

 

 ブライアンはあきれたため息をつき、雑誌を置いて立ち上がると乱雑に置いてある棚へ目を向ける。

 でもウマ耳をぐるぐると動かしながら何か考え事をしたあとに、俺をまっすぐに見つめてくる。

 なんでか恥ずかしがるような顔をしたあと、ピンとウマ耳をまっすぐに立てては椅子に座っている俺のすぐ目の前へ足早に来る。

 じっと俺を見下ろしてきたあとは、が血を流している両手でそっと握ってきた。

 

「待て、何をするつもりだ」

「怪我をしたらすぐに治す。お前だって私に口うるさく言っているじゃないか」

「それとこれとは違っ―――」

 

 ブライアンは俺の言葉を最後まで聞かず、すばやく俺の指を自身の口へと入れた。俺が抵抗する時間もなく。

 温かく、ぬるりとした舌の感触は背筋にびりりと電流が走り、初めて体験する気持ちよさがあった。

 

「ん……む……、ん……」

 

 俺の指を口に入れてから目をつむっているブライアンは、時々色っぽい声を出しながら傷口を丁寧になめてくれる。

 だが、そのブライアンが色っぽくて俺はつばを飲んでから大きく首を動かして視界から外す。

 今までブライアンのことを綺麗、かわいいと思ったことはあった。だが、こういう色っぽく感じたのは初めてだ。

 別に性的なことをしているわけでもないのに。

 ただ治療として指をなめているだけ。それだけなんだ。

 

「もういいんじゃないか、ブライアン」

 

 興奮してきた自分を抑えながらそう言うと、ちらりと視線を動かすと口の動きを止めたブライアンと目が合った。

 ブライアンはゆっくりと口を開けて俺の指を離してくれる。

 でもまだ掴まれたままの指。

 その指からはブライアンの唾液がしたたり落ちている。

 指はてらてらと鈍く光っていて、いやらしい気分がちょっと増えてくる。

 

「こういうのは血が止まるまでじゃないか。お前の味がまだ感じられる」

「血だ。俺の味って言うな。もう十分だからやめてくれ」

「お前、恥ずかしがっているのか?」

「…………別に」

「ふむ。いいことを聞いた」

 

 獲物を見つけたかのごとく素敵な笑みになると、また俺の指を両手で押さえたまま口の中へと入れていく。

 今度は目を開けながらで、俺の反応を見ながら動きを変えている。

 傷口とは違う部分をブライアンの小さな舌が熱く絡み、歯列は甘く指を挟んでくる。

 もう止血というレベルではなく、ただの指舐めになってしまっている。

 

「はぁ……、んっ……、あぁ……♡」

 

 歯を離すと今度はぴちゃぴちゃと音を立て、ブライアンは熱い吐息をこぼしながら唇で小鳥がついばむようにキスをしてくる。

 俺はもう力を強く入れて抵抗できないほどに快感を受け入れはじめると、ブライアンに引き寄せられた俺の指は爪先からゆっくりとブライアンの中へ入っていってしまう。

 でも指は先端部分を舐めるだけ。

 けれど俺の指を愛おしく舌を這わせてくる。

 

 やばい。これはやばい。この不器用だけれど、一生懸命な舌遣いは。

 まるで恋人にするかのような、いや、恋人でもここまでやるレベルは物凄く深く愛しているってことじゃないか?

 高校生の時に付き合っていた女の子はいたが、軽いキスまでだった。卒業と同時に別れて以来、女性とは縁がなかったものの、今どきの子はこれぐらい普通にやるものなのか!?

 それとも生徒会か? または姉のビワハヤヒデが教えたのか?

 ……もしくはオレが知らないだけで男を作っていたのだろうか。

 ブライアンが恋人を作ったとしても気にはならないはずなのに、もし作っていたらと考えると今だけはすごく気分が沈んでしまう。

 俺を見つめていたブライアンは、俺の気持ちの動きに気づいたのか、指から口を離してくれた。

 

「お前は勘違いしているようだが、これはエアグルーヴからやり方を聞いたんだ。こんなことをしたのはお前が初めてだからな」

「やり方って……。そもそもこういうのをするなよ。恋人にやってやれ。俺はお前のトレーナーだぞ? 誰かに見られたらどうしてくれる」

「ここに来る奴なんてそうはいないだろう? お前が静かにしていれば問題ないさ」

「問題があるってーの」

 

 また指を舐めようとしてきたブライアンの顔を左手で抑えると、やっとブライアンは手を離してくれた。

 俺はスーツのポケットからハンカチを取ると、自分の右手をよく拭いていく。

 ブライアンは制服のそでで男らしく自分の口を拭いた。

 ブライアンの口元はてかてかと光って色っぽく、赤くなったほっぺた、走った時とは違う熱い吐息。

 それらをつい見てしまい、心臓がドキドキしてしまう。

 ついさっきまでブライアンに『女』を感じなかったというのに。

 

「しかし、これはいいことを知った」

「なにがだよ」

「お前は私と契約した2年間、弱みを見せなかった。だが、今回のは初めて見れた」

 

 得意げな笑みを浮かべるブライアンを見て、俺は静かに切れた。

 指舐めという、えっちなことをしての感想がそれかと。

 こういうのはよくないことだと教え込まないといけない。

 そう、指を舐めるのは恥ずかしいことだと。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 私の担当トレーナーは弱みを見せることがあまりない。

 だから弱みを見たくて、今がいい機会だと思って指を舐めた。

 またいつもの嫌がらせに対抗できる手段が欲しかったとも言うが。

 こいつはよく食事制限を指示してくる。おかげで寮の食事は肉抜きなのが多い。

 肉がない分はカフェテリアや外で買い食いすればいいものだが、食べられない時があるのは不愉快だ。

 別に嫌いというわけではない。 色々と私のわがままを聞きつつも、私のために頑張っている姿を見てきている。

 

 ただ、今回は私の肉制限から反抗したくて今回のことをした。

 やろうと思った時はそういう理由だったが、やり終えた今は体が震えるほどの気持ちよさと満足感がある。

 私の舌で、大人の男であるトレーナーを支配したという感覚があって。

 ……それだけじゃなく、むらむらした気持ちもあるんだが。

 たまに姉貴が読む大人の女性向け小説では、私の今の状態は『発情』したとも言うらしい。

 どうしてもこいつの唇に目が行ってしまう。キスしたいと。

 普段、そう思うことはないが今だけはすごく男として意識してしまう。

 いや、今でなくても私に優しくしてくれる時は意識する。

 

 雨や泥で体が汚れたとき、髪や尻尾をタオルで拭いてくれた時は嬉しさと気持ちよさが。

 そういう時は頭を撫でられたい、力いっぱい抱きしめて欲しいとも。

 正直、付き合いたいという想いはある。でも今は走ることが優先だ。私が学園を卒業するまでトレーナーがフリーでいてくれるとありがたい。

 指だけでこれだけ気持ちいいのなら、その先は走ることと同じぐらいのいい気分になるだろう。

 

 私は指舐めを終え、心が満足して自然と出た笑みを浮かべながらそういう考えに達した。

 こいつのそばにずっといたいという気持ちと一緒に。

 その一緒にいるよりも先に、口についたよだれを落とすのが先だが。

 

「さて、私は少し口を洗ってくる」

「待て。他に言うことはないのか」

「別にないが?」

「……それなら仕方がない。お前に今のはよくないことだと教えてやる」

 

 静かに、けれど力強い言葉を言ってトレーナーは私の左手を両手で握ってきた。

 私は何をするのかと不思議に思い、変なことをしてくるようなら力任せに振り払えばいいと考えされるがままになる。

 トレーナーは私の手に顔を近づけると、指と指の間を舐め始めた。

 立っている私を罰するかのように力強い上目遣いで見つめてきながら。

 

 よく叱ってくる怒りの表情とは違い、色気があるそれを見ていると背中がぞくぞくと電気が走り、気持ちよさを感じる。

 指の方はくすぐるように舌でつついてきて、舌の温かさとぬめぬめした感触が変に気持ちがいい。

 

「お前、んっ……、やめ、あぁっ♡」

「ブライアンがさっきやってきたのと似たのをやってるだけだ。恥ずかしいことはもうやるなよ」

「ぐっ、お前に、やらっれぱなしには、んっ♡」

 

 文句を言おうとするも快感で言葉が止まってしまう。

 それでもこいつに屈したと思われるのは気に入らず、あえぎ声が出ているのを恥ずかしく思いながらも返事をする。

 そうしたら次は手の平を舐めてきて、音を出しながらぺろぺろと舐めてきた。

 左手で口元を押さえ、漏れ出そうになる快感の声を必死に我慢する。

 

「わかった! もうお前の指は舐めない! だからやめてくれ!」

 

 自分から逃げるほどに体には力が入らない。

 腹の奥が熱くなってきて、段々と興奮してきてしまう。

 これ以上されると今より恥ずかしい姿を見られると思い、私は降伏した。

 でも次は今と違う方法で弱みを見つけてやるとの決意も一緒だが。

 言葉だけは降伏した私を、トレーナーは疲れた様子ながらも満足したように私の手から口を離す。

 

 さっき使ったとは別のハンカチをポケットから取り出して私の手を丁寧に拭いてくれる。

 ハンカチを2つ持っているとはなんと用意がいい。

 と、紳士的すぎることにあきれていたが考えてみれば、

 私がトレーナー室でフライドチキンやホットドッグを食べたあとは、口を拭くのはこいつの仕事だった。

 自分から弱みを先に見せている気がしなくもないが、担当ウマ娘の世話をするのはトレーナーとして当然だから問題はない。

 

 段々と荒い呼吸と興奮がわずかに落ち着いてくると、不意に視線を感じる。

 顔を向けた先には、網戸越しには1人のウマ娘がいた。

 そいつは何かと私に絡んでくる、ジャージ姿のマヤノトップガンだった。 

 

「マヤ、みちゃった……。これはカレンちゃんに教えなきゃ!」

 

 見られていたことに少し驚きはしたものの、そいつは私と目が合うとすぐにいなくなってしまった。

 そのままいなくなるのを目で追ったあと、雑誌を読み直そうとソファーへ向かうものの、トレーナーの叫び声によって止められる。

 

「ブライアン、行け!」

「追う必要があるのか?」

「ある! だからマヤノトップガンを連れてきてくれ!」

「私だけじゃなく、あいつにも手を出そうと? このロリコンめ」

「放っておくと変な噂がつくだろうが! 連れてきたらお願いごとをなんでも聞いてやるから!」 

「言ったな? その言葉、忘れるなよ」

 

 私は別にこいつとの噂なら問題はないが、トレーナーは世間体が気になるらしい。

 あまり気乗りはしないものの、こいつに言うお願いごとを何にしようか考えながら、部屋から出て後ろ姿が遠くなった奴を追いかけ始める。

 だが、興奮して全力を出せないために追いつけなかった。

 翌日、私とこいつが大人な関係で恋人同士だとトレセン学園で広まった。

 でもこれで私のトレーナーに手を出す奴はいないだろうと安心した。

 ……お願いごとを聞いてもらえなかったのは残念だったが。

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