ウマ娘恋愛短編集   作:あーふぁ

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26.サイレンススズカ『スズカは彼を追う』

 ファミレスで賑やかな時間の午後6時。

 11月の今、この時間帯はすっかり暗く、夕食を食べる人たちでにぎわい始めている。

 テーブル越しに座っている、俺のスズカの間には重く静かな緊張感がただよっている。

 まわりにいる人たちは楽しく食事をしていて、話を楽しんでいるというのにスズカの目は俺の精神を圧迫するかのように見つめてくる。

 目をそらしたいが、そらした瞬間に何か罵倒されそうな気が。

 食べることを理由に逃げたいが、今は頼んだ料理が届いていなくなく水しかない今は逃げる道なんてものはない。

 

 19歳の俺は2歳年下である妹のように扱っている幼馴染のスズカに呼び出され、トレセン学園の正門前で嬉しそうに待ってくれた制服姿のスズカと合流。

 でもその後はすぐにウマ耳が後ろに倒れて機嫌が悪くなった様子で、肩を並べてファミレスまで歩いていく途中にきちんとした会話は1度もなかった。

 スズカがトレセン学園に入学する前はよく俺に甘えてくる子で、スズカが進学する時は俺と離れ離れになるのを寂しがっていた姿は可愛かった。

 今年から俺が専門学校へ通うために、地方からやってきた時はすごく張り切って東京案内をしてくれ、昔のように甘えてくれた。

 2年ぶりに一緒に過ごせるね、と言ってきたときは兄と妹のような関係を再開できるとお互いに喜んでいた。

 

 なのに今はどうだ。

 甘えたがりで寂しがりの妹なスズカはどこにもいない。

 何が理由かわからないが、スズカが怒っているのなんてずいぶんと久しぶりだ。たぶん、6年か7年ぶりなぐらいに。

 走るのが大好きなスズカが練習をしないで、俺と話すのを優先するというのは何か重要な問題があるのはわかるんだが。

 

「電話で言っていた、ミコトくんに告白してきたウマ娘って誰のことなの?」 

「あぁ、それのことか。それは内緒にさせてくれ。スズカとの仲が悪くなったら俺の気分が悪くなる」

「言って。大事なことなの。もしミコトくんと付き合ってしまったら、その子はミコトくんを好きになったことを後悔するだろうから」

 

 俺の名前を大事そうに呼ぶスズカはすっごい威圧感をかけてきながら、真面目な表情で言ってきたのは俺を罵倒する声だった。

 機嫌がどうかわかるウマ耳の位置は真上になっていて、心が落ち着いているのはわかるから歩いているうちに怒りが減ったようで安心した。

 しかし、好きになったら後悔するような存在の俺とはいったいなんだろうかと落ち込んでしまう。

 そこまで見た目も性格も悪くないとは思っているんだけど。

 身長は167㎝と高くはないけれど、見れる顔だし筋肉もそこそこにある。

 性格はスズカに嫌われないぐらいだから悪くはないはず。

 

 好きな女性の好みはスズカと違って巨乳だけど、えっちな本はアパートの部屋に置いていないから問題ないし。

 そういうのは全部スマホに詰め込んでいるから大丈夫だ。

 だからスズカが言うほど、俺を好きになって後悔するようにはならないと自信を持って言える。

 言えるけど、スズカにそのことについて聞くのは怖いため、変に反論しないことにした。

 

 親同士が親友同士だったから、小さい頃から俺たちは知り合い、仲良くやってきた。

 保育園の頃からずっと面倒を見てきたからか、小学校を卒業するまでは俺にべったりだった。そんなスズカがかわいくて甘やかすぐらいに。

 スズカが走りに行きたいと言えば、雨や雪が降っても付き合ってあげた。

 スズカのためにスポーツ理論を勉強したことも。その結果がスポーツ心理学を学ぶ専門学校を選んだくらいにスズカを中心に俺の人生は動いている。

 

 ……スズカがトレセン学園に行くまでは、俺の言うことをよく聞く素直な子だったのに。

 反抗期になったのか、今は俺のことをなんでも知りたがるようになって、少し悲しい。

 時々、昔のようなスズカが恋しくなる。小学生のスズカなんて走ることしか考えない素直な子で最高にかわいかった。

 

「今、何か変なことを考えていなかった?」

「いや、別に」

「それならいいけれど。それで、相手の名前は?」

「言えない」

「高等部? それとも中等部?」

「それも言えない」

「……じゃあ何のことなら言えるの?」

 

 スズカがひどく冷たい目で俺を見つめてくる。

 それは俺が金髪で巨乳な女の子が好きという性癖がバレた時と同じくらいに。

 バレた時は高校生で実家に暮らして、俺の部屋で待っていたスズカにグラビア写真集やエロ本を捨てられた。

 それ以降、俺はスズカに見られないようスマホで見るように気をつけ始めた。

 今もあの時と同じ状態のスズカだから、返事次第では何かの被害を受けそうだと冷や汗が出る。

 実家に変に報告されたら親に怒られて仕送りを減らされるかもしれない。

 

 でも告白してきたタイキシャトルの名前をスズカにには言いたくない。告白したことを言わないでと言われていることもあって。

 何よりも、その子はスズカとすごく仲のいい友達だから。

 もし名前を言ったら、その子とスズカの仲が変わってしまったら俺はひどく後悔する。

 特にスズカと仲のいいタイキシャトルのことだから。

 

 タイキシャトルは魅力的な女性だ。

 会話をするのは楽しいし、明るい性格は好感を持てる。

 それでも告白を断ったのは、恋人になる相手として見れなかったから。

 これからも仲のいい友人でいたいとタイキには言った。

 

「告白は断ったって教えただろ?」

「それは聞いたけど、気になるの。私のミコトくんに告白する子はどんな子だろうって」

「私のって。いつからお前のになったんだ、妹」

「妹って呼ぶのなら兄らしいことをして欲しいわ」

 

 小さく微笑むスズカを見て、この緊張した空気は終わったと一安心する。

 もう少しでストレスによって胃痛がするところだった。

 深いため息をつき、リラックスモードに入ろうとしたときに店員さんが頼んだメニューを持ってきた。

 ファミレスでは軽く食事をし、帰ってから夕食を食べようという話だったからチーズがたくさん乗ったミックスピザ1枚とフライドポテトの盛り合わせだ。

 俺はスズカより先に、店によって切り分けられたピザを1ピースだけ手に取るとスズカの機嫌を取るために口元へとピザを持っていく。

 

「スズカ、口を開けてくれ」

 

 スズカは驚いた顔で耳をピコピコと動かすと、機嫌良さそうに小さな口を開けてくれる。

 小さい時から機嫌が悪くなったときは、こうすれば機嫌を直してくれた。

 それは今でも有効みたいだ。

 俺はスズカの口の中へとピザの1ピースを3回に分けて入れていく。嬉しそうに食べていくスズカの姿を見ると、東京に来て大人びたと思ったけど子供だなとなんだか嬉しくなる。昔と同じ関係を続けれそうだと思って。

 でもスズカ。言葉では言わないけど、最後に口の中へ入れたときに強引に俺の指まで口に入れるのはやめて欲しい。

 唇の感触で心臓がドキドキとしてしまうんだが?

 好みのタイプでもないのに。小学校の時だって同じことをしてたのに、成長しただけでこうなるとは。

 家に帰ったらお気に入りの巨乳ウマ娘グラビア動画を見て心を落ち着けないといけないな。

 

「告白はどこでされたの?」

「その話はしない流れじゃなかったのか」

「だから名前を聞くのはやめたでしょう? それぐらい教えてくれてもいいと思うけど」

「俺のプライバシーを尊重して欲しいし、こういう場所では言いづらい」

 

 こっちの話を誰も聞いてはいないだろうが、不特定多数がいる状況で恋愛関係の話をするのは落ち着かない。

 自分から恥ずかしい話をするなんて、いったい何の露出公開プレイだと思う。

 そういうのは人が少なく、落ち着く場所でしたいところだ。

 

「それなら私の部屋に行く?」

「スズカは寮暮らしじゃないか。一般の人は入れないだろ。許可があったとしてもスペシャルウィークさんがいるだろ」

 

 スズカのことだから、なんとかして許可を取りそうだ。だからスズカと同室で2回だけ会ったことのある子の名前を出して穏やかに断りを入れた。

 そう考えて言った言葉をスズカは不思議そうな顔になる。

 

「スペちゃんは他の人に言いふらさない子よ? それと短時間の許可なら取れるけど。私にとってミコトくんは大事な人だから」

「あー……じゃあ、許可が取れたら遊びに行くよ。恋愛の話とは別件で」

「絶対だからね?」

 

 スズカは右手の小指を出し、俺も小指を出して指切りの約束をする。

 こっちに進学で来る前から、スズカは私の部屋に来てとよく言っていた。だから1度行けば今後誘いがあっても断りやすくなる。

 しかしスズカはここまで俺にこだわる子だっただろうか。

 以前までは俺の恋愛ごとにはまったく興味がなかったのに。こういうのを言うようになったのは高等部になってからだから、スズカも恋愛に興味があるお年頃?

 だとすると、俺のスマホの中身は何があっても死守しないといけない。

 性癖がバレたら、ひどく冷たい目で見られる。そうなったら、俺はショックを受けて雨が降った日に傘も差さずに出歩き、傷ついた心を落ち着かせるだろう。

 ……そうなったらそうなったで、新しい女性と巡り合えそうな気がする。

 具体的に考えるなら、雨の中で散歩するイケメンで三冠を取ったウマ娘とか。

 

 それからはなんでかお互いにピザやポテトを食べさせ合う流れになった。

 なんでだ。恋人でもないのに、こんなことをすると将来恋人が作れなさそうな伏線に思えてくる。

 途中から1人で食べれると断ったものの、スズカは「名前」と一言つぶやけば、俺はスズカを怒らせないために従うしかなかった。

 

 しかし、あれだ。なんかスズカに色気を感じてしまったのが悔しい。

 スズカの見た目は綺麗だが、色気がないのが特徴と思っていただけに。

 それを感じたのはスズカが差し出した俺の指を舐め、俺の口へとポテトを食べさせてくれるときに指まで入れて来た時だ。

 今まで小学生と変わらない感じだと思っていた。でも今は歳相応の色気が出ている。

 そもそも指を舐めたり突っ込んでくるのはいったい何をしたいんだ。

 

「どう?」

「何がだよ」

「こうされるとドキドキしない?」

「何の影響を受けたかの心配はする」

「こういうのって女の子にされたらドキドキするものじゃないの?」

「ちょっとだけなら」

 

 俺の返事にスズカは不満そうな顔になると考え込む様子でポテトを食べていき、ふと思いついたのかティッシュで手を拭くとすぐに俺の隣へとやってくる。

 そして俺へと密着しながら顔を近づけてくる。

 ささやかながらも感じる胸の感触。

 ブラ越しでも意外と柔らかさは感じるんだな、とその感触を味わいたくなる。

 だが、スズカの顔が近づいてきたのであとずさろうとするも、腰にスズカの手を回されて動くことはできない。

 強引にキスをしてくるのか!? と身構えているとスズカの口は俺の耳へと近づけられた。

 そうしてスズカの息遣いを感じると、吐息のような声で静かにささやいてくる。

 

「これならドキドキするでしょ」

「こういうのはファミレスでするもんじゃない」

「なら、ふたりっきりでならいいの?」

「……今日のスズカはやけに積極的だな」

「それはそうよ。ねぇ、私がさっき言った、ミコトくんを好きになったら後悔するって意味を知りたい?」

「俺が女性に気遣いできないってことだろう?」

「ううん、違うの。ミコトくんを好きになった人は、私を敵に回すってことになるから」

 

 その言葉を聞き終わると、怖くなった俺はスズカの肩を両手で強く押し返して距離を取る。

 スズカは俺に押されるまま距離を取ってくれるが、以前として体は密着したままだ。

 

「敵って。物騒なことを言うなよ」

「別に刃物で刺すということじゃないけれど」

「そういう言葉自体が物騒なんだよ。……それでお前を敵に回したらどうなるんだ?」

 

 そういうとスズカは背筋がぞくっとするほど色っぽい笑みを浮かべ、笛のように綺麗に透き通った声で言った。

 

「2度とレースを走れなくなるだけよ」

 

 怒っている様子でもなく、ただ相手を潰したいという純粋な想いは怖く感じた。

 妹のように思い、付き合いのスズカだが今のように悪意を感じることは1度もなかった。

 それだけに怖く、深呼吸を2度して心を落ち着けると意識して明るく振る舞いからかおうとする。

 

「俺のことを好きすぎるだろ、スズカは。なんだ、俺と付き合いたいのか?」

「ええ、付き合いたいわ。本当はこの気持ちを抑えて告白してくれるのを待っていたんだけど、それだとミコトくんは私を好きだって気持ちに気づかないで変な女にだまされちゃうでしょう?」

 

 さも当然のことのように動揺もなくスズカは言うと、自分の席へと戻って小さい口にポテトを入れて食べていく。

 

「普段はトレーナーさんが食事を指定してくるから、こういうジャンクフードをたまに食べるのはおいしいわね」

「スズカが気に入ってくれるならよかったよ」

「もし私が恋人だったら入るお店は変わってた?」

「いいや。スズカが恋人だったとしても気遣いは変わらないな。きっとここだったよ」

「よかった。私はミコトくんの特別なのね」

 

 嬉しそうの笑顔を見せる姿はさっきまでと違い、1人のかわいい女の子にしか見えない。

 するとさっきのは幻覚だっただろうかとも思いたくなる。

 女の子の嫉妬は怖く、誰かと付き合うことになった時にはスズカにきちんと話し合いをしようと考え、食べ終わったあとは寮へとスズカを送っていった。

 

 スズカを送り、帰る時にふと思った

 タイキシャトルの告白を断った理由は無意識のうちにスズカのことを考えていたからか、と。

 普段は恋愛相手として意識したことはないが、女性に対する基準はスズカを元にしていたことに気づいた。

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