担当ウマ娘であるルドルフがクラシック三冠という偉業を達成し、その疲れかジャパンカップでは3着に終わったあとの11月終わりの日。
日頃の練習で疲れたのか、携帯電話にはメールで『体調が悪いため3日だけ休ませて欲しい』と連絡があった。
疲労は見抜いていたものの、俺が練習を控えるように言ってもやりたいと言ってきていたがやっぱりダメだったらしい。
様子を見に行きたいがルドルフが俺に気を使うだろうから、ルドルフが休んでいる間は教官の補助として中等部のウマ娘たちの練習を教えていた。
ただ指導するだけでなく、ジャージに着替えた俺は男1人、ウマ娘に混じってゲート練習を実践して教える。
普段からルドルフと堅苦しい話ばかりで、女の子なのに華を感じられないトレーナー生活をしていたから中等部という若い子に教え、慕われるのは気分がいい。
別にロリコンというのではなく、女の子と話をしているという部分が重要なんだ!
ルドルフとはビジネスライクな付き合いというか、職場の同僚と同じ感覚になってしまっている。初めての担当で距離が近いと厳しくできないと思ったからで。
まぁその結果、週刊誌なんかのゴシップに悩まされるのがないのはよいことだけど。
3冠を達成しても抱き着いてくるというわけでもなく、笑顔と感謝の言葉だけ。
20代中盤の若い男ゆえに、ルドルフに抱き着かれて胸の感触を知りたいという下心があったが、感謝が言葉だけなのは少し寂しかった。
三冠を取ったんだから強く喜んでもいいのに。
でもそれはそれ。これはこれと、ルドルフの3冠達成後は目標を達成したため後進の育成を始めている。
ルドルフはあまり手がかからないことと、生徒会業務の時は俺の手が余るからだ。
それにルドルフのやりたいことである『百駿多幸。創ろう、 全てのウマ娘が幸せに暮らせる世を』の手助けをしている。
若いウマ娘の女の子とふれあいたい俺としてもお互いに得をする状況だ。
他にも将来的にはルドルフ以外の子を育成する勉強にも役立っている。
そんなことを思って疑似的ハーレム気分を味わいながら複数のウマ娘たちに走り方を教えている時だ。
ルドルフと同室の子が心配そうな顔で俺のところへやってきたのは。
なんでもルドルフの3日間にわたる体調不良は嘘で、実際はメンタル面の、つまりはなにかしらの理由でひどく落ち込んでいるとのこと。
ルドルフなら自分の弱い姿を見せたくないだろうとスマホでメッセ―ジを送っただけだったが、精神については考えていなかった。
経験が浅い新人トレーナーとはいえ、悩んでいたことに気づかなかったのは情けなく思う。
教えている子たちに中断することを伝え、後日また練習の時間を割くことを伝えて他の教官に任せる。
そうしたあとは急いで学園の売店でお土産として色々なパンを5つほど買う。
ビニール袋に入ったパンを手に持ち、早歩きでルドルフが暮らしている美浦寮へと向かう。
寮母さんに事情を伝え、ルドルフがいる3階の部屋前へと行く。
この時間帯は多くのウマ娘が練習にいっているため、寮は静かだ。外からはウマ娘たちがランニングする足音が聞こえるほどに。
寮へ来るのは初めてであり、誰もいないのはよかった。
女性しかいない場所はどことなく甘い匂いで満ちている気がして、俺という異質がいるのになんだか違和感がある。
またルドルフの私生活を見るのも初めてであり、なんだか緊張してしまう。
思えば、ルドルフと一緒にどこかへ出かけるのは靴や練習道具を見るだけで寄り道なんてのはしたことがない。
だから今この瞬間、ルドルフの部屋をノックするのは今までの距離を取った関係性から歩みよろうとする。
が、何度かノックをしても返事はない。
そうすると強引ではあるが、どうしても話をしたいために寮母さんから事前に預かっていた鍵でドアを開ける。
「ルドルフ、何か悪いのなら俺に相談を──」
部屋を開けたと同時にルドルフの香りがし、ベッドに腰掛けて冬制服姿の驚いたルドルフがいた。
そんなルドルフを見たと思ったら枕が顔面へと勢いよく飛んできて俺はぶっ倒れる。
枕とはいえ、ウマ娘の力。倒れて当然だ、と痛む顔と後頭部と背中の痛みを感じながら廊下の天井を見上げる。
「入るなら声をかけろ! いくらトレーナー君といえども許されないことだ!」
「悪かった。ルドルフなら平然としていると思ったんだよ。……いや、ひどく落ち込んでいると同室の子が言っていたから配慮すべきだったか」
「落ち込んでいなくても気にするべきだと思う。それと君は私をなんだと思っているんだ」
「精神が大人で落ち着いているウマ娘」
「……そう評価してくれるのは嬉しいが、私が女性だというのを忘れていないだろうか」
廊下で倒れたまま返事をしていると、大きなため息をついたルドルフがスリッパを履いて近づいてくる足音が聞こえてくる。
苦笑している俺を見下ろすルドルフは、どうにも女性というか女の子という感じがしない。同性の大人という気がする。
普通、男が無断で鍵を開けたら怒るとか大声を上げると思う。
それにスカートの中が見えそうな角度ではあるが、なんか嬉しくない。これがさっきまで指導していた子なら嬉しく思うんだが。
枕をルドルフに投げ渡してから起き上がると、部屋に戻るルドルフに続いて部屋へと入ってドアを閉める。
寮の部屋はベッドや机が2つずつと一般的な配置。
でもそんな他と代わり映えのない部屋でも気になったのがある。
それはベッドの脇にあるサイドテーブルに置かれた深緑色のパジャマだ。
丁寧に畳まれているが、こういうのが置かれているとついつい注目してしまう。
「君はそれに興味があるのかい?」
「いや、別に」
そっけなく返事をしたものの、男としてはどうしても見てしまう。それは女性として認識していない相手でも。
いつも使っている服。それを脱ぎ着しているところを想像すると……なんかえっちな妄想さえも起きない。
ルドルフはしっかりしている子のせいか、色気があまり感じられない。同じ生徒会のエアグルーヴはえっち成分が高めなんだが。
「そう戸惑いもなく言われると、女として自信をなくすのだが」
「俺とお前はそういう関係じゃないだろ。俺がお前に下心を持って契約したわけじゃねぇっての」
「ああ。そこは安心するが、私以外の女の子には興味を持っているじゃないか」
「なめんじゃねえよ。契約した相手に変な目で見るわけねぇだろ。……同室の奴にお前が調子悪いのは精神だと聞いたが、もしかして女扱いしないのが今になって気になったのか?」
「平気虚心。私はいつだって心は落ち着いている」
声は普段どおりに落ち着いているものの、耳や尻尾の動きはぶんぶんと強く動いている。
ルドルフといえども、感情の揺れはこうして表へと出てしまう。
だが、それは俺が予想していなかったことだ。
今になって女扱いして欲しいだなんて困る。
女として意識しないようにしていたから良い関係になれていたものの、かわいい子だけじゃなくイケメン系女子が好きな俺としては大変だ。
担当ウマ娘であるシンボリルドルフに惚れてしまうという問題があるからだ!
胸のサイズは86もあって俺好みだ。身長は165㎝と俺に近い高さなのは不満だが、それらは顔の良さで中和している。
そうだよ、顔がいいんだよ。とにかく顔がいいんだ、こいつは。
ルドルフがメイド喫茶や執事喫茶にでもいたら通い詰めて指名し続けるほどに好みなんだぞ、くそったれめ。
こうして考えると、結構好みの見た目だから女扱いはしたくなかった。
おまけに性格もさっぱりしているのも気楽に付き合えているのがいい。
……意識すると女性として興味が出てきてしまう。
「マジか。やめてくれよ、ルドルフ」
俺の嫌がる声を聞いたルドルフはベッドに座り、落ち込むため息をする
そんな姿を罪悪感が沸くも態度ははっきりさせよう。
勘違いして仲が悪くなったら嫌だ。ここは素直に失恋させておく。
「気づいたのはつい最近なのだが、どうやら私は君が好きらしい。恋心は愛へともう変わっている。これから先、恋人として一緒にいたいのだがどうだろうか?」
「そういうのはやめ──」
断る言葉を言い終える前に、ルドルフの前に立っていた俺の腕をつかむと力強く引っ張られる。
その引っ張られた先はベッドの上で、顔から突っ込んでしまう。
でも羽毛布団が柔らかいおかげで痛さはない。突然のことにわけがわからなく、そして意外にもいい匂いを感じて動けない。
このまま匂いを感じていたいが、俺は匂いフェチな変態じゃない!
「何をするんだ!」
「君が誰かに取られる前に行動しようと思ってね。今だって私の知らないウマ娘の匂いをつけているじゃないか」
「それは教官の補助をしてウマ娘たちのトレーニングを指導しているからだろ」
起き上がろうとするも手で背中を押さえつけられている。
自由に動く顔を横にして文句を言うが、ルドルフは困り顔だ。
「私の恋の好意を素直に受け取って欲しいものだが」
「恋愛感情じゃなきゃ問題はない」
「せめて女の子扱いはして欲しい。将来的には恋愛にしたいところだが、それぐらいはいいじゃないか」
「今までどおりでないと俺のほうがダメなんだっての。わかってくれ!」
「そのダメな理由を正直に言ってくれ。そうしたら押さえている手をどけよう」
レースをする時のように真面目な様子になったルドルフを見て、俺は誤魔化そうとする気もなく言うことにする。
この言葉を言った瞬間、ルドルフにはトレーナー変更の可能性があるかもと知って。
「お前を女の子として見るようになったら、俺が甘やかして練習メニューが変なのになるからだ」
「どうしてそうなるんだい? 何も変わらないだろう? 男尊女卑をしているということでもないのに」
「……お前を好きになるからだ」
「今は私を好きでないと? 単なるビジネスの関係だったのか?」
「ルドルフは人として好きだが、女の子と意識すると……」
「なんだ、続きを早く言ってくれないか」
「…………恋をするから嫌なんだ」
愛の告白をしたのと同じ意味の言葉になってしまう。あまりの恥ずかしさにルドルフから視線を外し、羽毛布団に顔を埋める。
ルドルフの匂いがし、なんか落ち着くなぁと自然に深く息を吸ってしまうのは悪くない。
8歳下であるルドルフに、まして担当のウマ娘に恋心を持つのは契約、社会人としてもよくないよなぁと落ち込む。
だが、仕方ないだろう。ルドルフのそばにいたら恋をしてしまう。
一見して完璧に見えるがドジっ子な姿はかわいい。
下級生から怖がられる対策として、ダジャレを言うという謎の選択をするぐらいにあほ可愛い。
シリウスシンボリと口喧嘩する姿やトウカイテイオーを甘やかす時なんて見ていて微笑ましく思う。
かわいい姿だけでなく、生徒会業務をする姿や生徒の相談、レース時なんかは真面目な姿がイケメンですっごくいい。
もし俺が女だったとしても惚れるぐらいにルドルフは人として素敵だからだ。
恥ずかしいことを告白し、もだえているとルドルフは俺を押さえていた手を離す。
次の瞬間にはベッドに倒れ込んで俺をぎゅっと抱きしめてくる。
ルドルフのブラ越しとはいえ、つきたてのお餅のようなやわらかいおっぱい。そして温かさ、髪の甘い匂いで幸せ感がいっぱいだ。
まぁ、なんでこうなる? という疑問も頭いっぱいで喋る余裕もないが。
「私とトレーナー君は相思相愛ということか。挙式はいつにする? シンボリ家総出で準備をしよう!」
「いや、待て。将来的にルドルフを恋愛的意味で好きになるかもしれないけど、なんで挙式になるんだ」
「好きになる。挙式がダメなら婚約をしよう。他のウマ娘に取られたくないからな」
「ここ3日、部屋にこもって考えていたんだ。目標である3冠を取ったあと、次はどうすればいいかと」
「それはいいことだ。それでその答えは出たのか?」
「ああ、君と一緒にいたいと。今まではビジネスパートナーという関係は楽ではあったが、2年間一緒にいて君が欲しくなったんだ。君に褒めてもらいたいそばにいたい。声を聞いていたいんだ」
尻尾がばっさばっさと激しく動きテンションが高いルドルフ。
そのルドルフの顔は今にもキスしそうなほど近くにあり、俺の心臓はばっくばくだ。
恋愛経験は多少あるものの、こうも迫られたのは初めてで大人だというのに気分は高校生の思春期に戻ったかのような。
ルドルフと見つめあい、硬直しているとふと髪を撫でられる。
片手で撫でてくる手つきはひどく優しくて、それだけでルドルフへの好感度が急増する。
「待て、髪はさわるな」
「君の汗の匂いは悪くないぞ?」
「そんなことをすると今すぐ惚れてしまうじゃないか。……いや、だから待てって。両手でさわるな!!」
「自分の気持ちには正直になると人生は楽しくなると私は思っている」
「俺の場合はトレーナーと担当ウマ娘という関係がある。だから時間を置いて俺たちの関係を考えたほうがいいと思うんだ」
そういうと思案顔になったルドルフに、俺は安心して深い息をつく。
このままだと勢いでルドルフと恋人になってしまうとこだった。恋人関係、それ自体は悪くないものの急になるのではなくじっくり関係を深めていきたい。
今までの付き合いは女の子として見なかったため、俺の気持ちが混乱しっぱなしだからだ。
「恋愛についてシービーに聞いたことがある」
「ミスターシービー?」
「そうだ。彼女の両親はトレーナーと担当ウマ娘だったという。だから在学中に恋人になった実例があるから、世間や学園は問題にならないと思うんだ」
ルドルフのことだからレース以外に興味はないと思っていたが、なんかすごく勉強しているぞ!?
努力家で何事にも全力で取り掛かるのが、恋愛にも適用されるのか!!
「それにマルゼンからは好きになったら攻めていけと言われてな。男と女でやることは少女漫画やTL漫画で学習済だ。安心して欲しい」
「いや、待ってくれ。親の許可を得てからにしてくれ。君はシンボリという名家で結婚相手は決まっていたりしないのか?」
「なるほど、親か。確かに私たちの想いだけでは無理だな」
「そうだろう?」
「少し待ってくれ」
落ち着かせることに成功したことに安心し、ルドルフは俺から名残惜しそうに体を離すと、サイドテーブルに置いていたスマホを手に取ってテレビ通話を始める。
その通話は俺にも聞こえ、相手はなんとルドルフの母親だ。
背中に冷や汗が出て、話の流れを間違ったかと後悔する。
テレビ通話のため、ルドルフとルドルフ母とのやりとりがよく聞こえる。話の内容はトレーナー君との恋愛と、親に認めて欲しいというもの。
あまりにも展開が早く、話に介入することもなくて呆然としている間に通話が終わってしまった。
スマホをテーブルの上へと戻したルドルフはひどく満足げな様子で俺を笑顔で見てくる
「2日後の土曜日に家へ行くことにしよう。父もきっと来る」
「あー……どういう用件で会いに行くんだ?」
「お付き合いについての了承を得る。なに、安心してくれ。母は私たちを応援してくれているし、父は1日あれば落とせるだろう」
「いや、だがなルドルフ。まだ問題があるんだよ」
「ふむ? 言ってくれたまえ。私としてはそう大きなものがあるとは思っていないんだが」
「年齢だよ。今のままだと俺は未成年に手を出したとして学園から追い出される」
ルドルフと付き合うことは嬉しいが、心の安定のために時間が欲しい。
心がピュアな俺としては時間をかけてお付き合いをし、婚約だとか結婚とかいうのを考えていきたい。
だが、俺の願いとはうらはらにルドルフは速攻で話を進めていきたいらしい。今だってにんまりとした笑みを浮かべている姿は恐ろしくもある。
「来年の3月13日に私は18歳となる。法律的に成人だ。つまりは君が危険視していた女の子ではなくなり、大人の女性となるわけだ」
「つまりはその日に?」
「そう。婚約をメディアに発表しようと思う。そうしてこそ私は安心する」
「別に俺は結婚自体は嫌がっているわけじゃないぞ? ゆっくりやっていきたいのがダメなのか?」
「ダメだ」
「なんでだ」
俺から顔をそむけ、恥ずかしそうにするルドルフ。
そういう姿は見ることがほとんどないから新鮮であり、かわいくもあり、いわゆるひとつのギャップ萌えという言葉が頭に思い浮かぶ。
「……君は魅力的だから他の子にいつ襲われるか心配なんだ。君が他のウマ娘へ指導しているのは良いことだが、私は私に自信がなくてな」
俺が襲われる前提なのか。普通は男が襲う側では。いや、ウマ娘の場合だと力任せで男を襲うこともあるが。
まぁ、こんなにも女性に想われているのはよいことではあるが。
「さてルドルフの悩み事は解決し、用件も済んだことだ。俺はウマ娘の指導に戻るよ」
「いや、まだだ」
「何か問題があったか?」
「あるとも。私の寂しさを埋めるのと、私の匂いを君につけるということが」
身の危険を感じ、慌てて起きようとするもルドルフに押し倒されてしまう。
こんなにもルドルフが恋愛に関する行為に積極的だなんて!
誰だ、教えた奴は。シービーか、マルゼン? もしくはむっつりスケベっぽいブライアンか!?
「安心するといい。この時間は練習の時間だ。多少声をあげても問題はない」
そう言ったルドルフは俺の足に足をからませ、手は恋人繋ぎをしてくる。
それからは同室の子が練習から帰ってくるまで俺は抱きしめられ続け、ルドルフの匂いしかしない体となった。
前話のアンケートで、男性がおっぱいに求めてるものは大きさだと思っていたけど1番はやわらかさだと知って驚きました。
2番目は形で、大きさは3番目だなんて。