ウマ娘恋愛短編集   作:あーふぁ

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30.ダイワスカーレット『アタシは1番という言葉に嘘をつく』

 アタシがスズカさんの恋人、彼氏であるマサキさんを知ったのは学園が夏休みに入る少し前の日だった。

 その日はチームスピカの中で脚質に逃げ適性がある2人で走った休憩の時間。

 スピカの中で最も女の子らしいから、と相談にのったのがきっかけ。

 そして、マサキさんの写真を見た瞬間からアタシの初恋が始まる。

 スズカさんの彼氏だということを理解しながら。

 

 その人はスズカさんと幼馴染で、スズカさんを追いかけるようにしてスポーツ推薦で東京へとやってきた。

 スズカさんとマサキさんは同い年の17歳。

 アタシより二つ上なのに、なぜかどちらの相談にもよく乗ることがあった。

 それというのも恋愛に興味が薄いのに、告白を受けて恋人関係になったスズカさんが悪いことが多いんだけど。

 恋人同士になって3年だと言うのに、まだ恋愛の段階が進んでいなくて手を繋いだことしかないと知ったときの驚きぶりは20秒ほど固まってしまった。

 そんなの小学生ですら先に進んでいるのに。

 

 あまりにも進展がないことを知ったアタシがスズカさんに参考資料(高校生が主人公の少女漫画)を押し付けて渡すぐらいには心配をした。

 それがなんでかスズカさんにお願いされ、2人のデートに付き合うことが始まった。

 マサキさんを知って3ヶ月たった9月末。

 スズカさんの話だけで知っていた人は、とても輝いて見えた。

 身長は163㎝のアタシよりもわずかに高いぐらいで、体型は陸上部ということもあって筋肉質でよかったけど。

 でも顔立ちは特別いいというわけでもないのに少女漫画の主人公のようにアタシの心はときめく。

 

 初めて会った時から、スズカさんにだけでなくアタシにも優しくしてくれた。人に優しくするのは当然とばかりで、アタシたちだけでなく知らない人であろうとも声をかけて助けようとする。

 間違っていれば、その人のためになるように叱る。

 その優しさは、自分に兄がいればこんな感じかなぁと考えるぐらいだった。

 

 学校で彼の話をすると、あの人の優しさはスズカさんにいいところを見せたいだけじゃないの? と聞き、慈愛の笑みを浮かべたスズカさんは1人でいた時でも同じようなことをしていたと言った。

 それはアタシが直接見たものではないけど、1年前にスズカさんがこっそり隠し撮りした動画を見てアタシも同意見へ。

 幼稚園から一緒に過ごしていたスズカさんが言うには、ゴミが落ちていれば急いでない時でなければ拾うし、人間だけでなく動物に対しても優しさをを与えて懐かれる。

 自分のものではない花壇に管理人の代わりとして水をやり、誰も見ていないのに清掃活動をしているのはよくあることらしい。

 ただ、不満があるとすれば自分のことを大事にしないからよく怪我をするのが不満で、自分に優しくしないのが嫌だと言ったけど。

 

 私は動画や話を聞いて思った。そんな人がこの世界にいたのかと。

 それからスズカさんの付き添いで会い、一緒に遊び、スズカさんなしでも時々会うように。

 そうして段々と意識して恋愛感情が芽生え、けれどスズカさんの恋人に好きだという気持ちを知られないように抑え続けていた。

 彼の1番になりたいと願いながらも。

 

 ◇

 

 あの人が泣いたのを初めて見たのは今日が初めてだった。

 トレセン学園の感謝祭で一般の人とウマ娘がふれあえる春のイベント。

 スズカさんとマサキさんが学園内でデートをする、というのをマサキさんから聞いて私が助言。

 それがうまくいっているかを知りたくて探していたときにそんなシーンに遭遇した。

 空は天気がよくて晴れているのに、2人の空気はじめじめと湿っている。

 2人は遠くから喧噪が聞こえ、人気がないベンチにひとりぶんほどの距離を開けて座っていた。スズカさんは制服で、マサキさんはチノパンに長袖のシャツを着ている。

 見つけた瞬間、いったいどんな会話をしているのかとワクワクしながら私は近くの茂みにしゃがんで隠れると、目をつむって声に集中する。

 聞こえてきた声は楽しいものではなく、悲しさを含んでいるものだった。

 

「───だからね、マサキくん。私はトレセン学園にいる間は走ることに集中していたいの」

「それは俺とランニングもダメなのか」

「うん。今は大事な時期だから。メッセージや電話だけじゃダメ?」

「デートもか?」

「私は上を目指したいから。しばらくの間、待っていて欲しいの」

「スズカがそういうなら我慢する。……俺たちは恋人同士だよな?」

「私はそう思っているけど、違った?」

「いや、違わない! 俺はスズカの恋人。……恋人でいいんだな?」

「そうよ? 私は告白されたから受け入れたんじゃなくて、マサキくんを好きだから恋人になったの」

 

 3人でいるときは楽しい雰囲気なのに、私がいないときはお互いがお互いに恋人だということを確認するほどに冷えたような。

 2人の声は別れる寸前のような気がする。私は恋人なんていたことがないけど、ドラマや映画では今のようなシーンを何度も見たことがあるから。

 愛しているのに、こんなにも冷たく接しているスズカさんにいらだちがある。

 マサキさんという、大事にしてくれる彼氏がいるのにそっけない態度のことを。

 恋人として付き合っているのに、スズカさんに合わせて手を繋ぐとこまでしか進まないようにしている男の子は貴重だと思うのに。

 普通、男の子は女の子に対して肉体関係を迫ることが多いというのに。相手のことを大事にしてくれる彼のことをスズカさんはもっと感激してもいいと思う。

 

 2人がどんな様子で話をしているか気になった私は目を開けると、茂みに顔を近づけては葉っぱの隙間から2人の様子を見る。 

 ここに来たときと距離は変わっていなく、恋人というよりも普通の友達というようにしか見えない。

 気遣いができる、素敵な男の子なのに大事にしようとしないスズカさんにイライラしちゃう。

 彼氏のことなんてどうでもいいんじゃないかって。

 

 でもそれはアタシの感覚で見ているからだけであって、アタシが知らないところで優しくして───と思ったけどそうでもないことを思い出す。

 スズカさんはメッセージの画面を見せてきては返事をどうすればいいか聞いてくることがある。だから普段からどんなやりとりかがわかる。

 言葉で表現ではなく、行動で表現する人だと思うから仲がよくないのは偶然、今だけだったと思う。

 そう信じていらだちを抑え、深呼吸を1度して気持ちとブンブン振り回してしまっている尻尾の動きを落ち着ける。

 

「スカーレットと会ってくる」

「それがいいわね。あの子、マサキくんと会うのを楽しみにしていたから」

「……俺がスカーレットと感謝祭を2人で楽しんでもいいのか?」

「ええ。2人が楽しんでいるのは嬉しいから」

「そっか……スズカがそういうなら楽しんでくるよ」

 

 少し落ち込んだ様子を見せたマサキさんは勢いよく立ち上がると、その背中に手を伸ばしかけて寂しそうに見送るスズカさんの視線を背に受けながら校舎へと向かっていった。

 それを見届けたアタシは、好奇心でのぞき見をした自分に嫌悪感が出て立ち去ろうとしたけど、スズカさんが隠れているはずのアタシを見てきて冷や汗が出始める。

 その表情には先ほどの寂しさはなく、クールで無感情な顔。

 

「怒ってないから出てきて。尻尾が動いた音が聞こえたから、いるのはわかっているのよ」

「すみませんでした!!」

 

 このまま隠れ続けることはできないと判断し、即座に立ち上がると腰を直角に近いほどに曲げて頭を下げる。

 見られたくない場面を見てしまったことに、これからどんな罵倒が来るかと恐怖しながら待つ。

 でも私の恐怖感とは違い、かけられた声は違ったものだった。

 

「見ていたのはスカーレットだったの。怒っていないからこっちに来て」

 

 と、穏やかな声をかけられたので顔を上げるとスズカさんが座っているベンチの横をぽんぽんと叩いている姿が見える。

 表面は言葉どおりだけど、内心どうなっているかわからないアタシは逃げたいところ。

 けど、逃げても結局はスズカさんと話をする機会があるから、心を落ち着けるためにゆっくりと近づいて恐る恐る隣へと座る。

 距離は2人ぶんほどを開けて座ると、スズカさんはまっすぐにアタシを見つめてきた。

 

「さっきのを聞いていて、私が冷たいと思ったの?」

「えっと、正直に言わせてもらってもいいんですか?」

「そのほうがありがたいわ。私自身も何か間違っているとは思うんだけど」

 

 その言葉を聞き、恋愛感情がなくなってきたんじゃなくて不器用なだけなんじゃないの? と感じた。

 思えばスズカさんは少し言動がずれている。考える優先順位が走ることに集中しすぎているからだと思うけど。

 それを考えた上でアタシは自分が思ったことを素直に言う。

 

「恋人に対して冷たいかな、と思いました」

「そう。冷たいのね、あの言い方は」

「だって好きな人に対して距離を取るのはそう感じても仕方がないと思うんです」

「でも私は走りに集中し続けていないとマサキくんに甘えちゃってダメになるから」

 

 その悲しい表情は、まるでレースに負けたときのようなひどい落ち込み具合。

 さっきマサキさんと話をしていた時には分からなかった感情が、アタシの前だと隠すことなく教えてくれる。

 自分自身の気持ちを上手に伝えていれば、さっきのようなケンカ別れしそうな雰囲気にはならなかったと思うのに。

 

「でもスズカさんほどの才能があるなら大丈夫かと思いますけど」

「今の話にそれが関係するのかしら」

「しますよ! 何かを犠牲にしないと欲しいものが取れない人は能力や問題解決に行くまでの考え方が足りないだけなんです! 普段から努力しているスズカさんは恋人に甘えるぐらい、いいえ、恋人に甘えないと逆に無理をし過ぎてダメになります!」

「そこまで?」

「そうです! このまま走るのに集中しすぎると骨折しそうなぐらいに!!」

 

 マサキさんはアタシの好きな人。

 このまま放っておけば段々と仲が悪くなって2人が別れる確率が増えると考えるアタシがいる。

 でも好きな人だからこそ、スズカさんと幸せになって欲しい。

 誰かを好きになるという気持ちを軽く扱っているスズカさんにいらだっているということもあるけど。

 

「……そう、それなら考えてみようかしら」

「考えるんですか」

「考えるわ。だって、これからの私のことだもの。私は器用じゃないから、きちんと自分の気持ちに整理をつけておいたほうがいいと思うの」

 

 スズカさんのすぐに行動しない言葉に、荒れる気持ちをぶつけてしまう。でもスズカさんは感情のおもむくままではなく、決断をするための時間が必要らしい。

 アタシだったらこうするという考えになって言葉が出てしまうけど、恋愛をする速度はみんな違う。

 これ以上アタシがスズカさんに何かを言うのは違うかもしれない。

 

「そう思っているなら安心しました。まったく冷や冷やしましたよ」

「ありがとう、スカーレット。あなたがいてくれて本当によかったわ」

「やめてください。2人が別れるのが嫌なだけなんですから」

「わかったわ。もしスカーレットが好きな人に対して行動するとなったら助けるから」

 

 そう言われて、アタシの暗い気持ちが浮かび上がっている。

 アタシの好きな人はスズカさんの恋人だからもらってもいいですか、とか。略奪愛ってどう思いますか、と言いたくなりそうに。

 スズカさんの言葉にどう返そうか悩んでいると、スズカさんは穏やかに微笑む。

 

「心の底から好きな人がいるなら私は止めないわ。こうして恋愛の話をスカーレットと一緒にする時間はとても好きだもの」

 

 それはまるでアタシがマサキさんを好きだという気持ちに気づいているような。

 恋愛に関することは鈍いと思っていたけれど、実はアタシがそう思っているだけで鋭いんじゃないかと冷や汗が出る。

 その微笑みの向こう側に、アタシの気持ちを知っているかもしれないと。

 少女漫画やスズカさん以外なら好きな人を独占したくて他の人を排除しようとするかもしれない。

 でもスズカさんは違うと思う。

 いかに気持ちよく走るかを考えるこの人は、恋愛も同じように考えているかもしれない。

 つまりは自分が幸せな空間を作っていたい。今の言葉を言うと、3人で恋人関係を作ろうと言っているかのようにアタシは思ってしまう。

 

 どうしよう。

 アタシの思っていることが当たっていたら、それは嬉しい。

 自分が好きな人の1番でいたいという気持ちはあるけど。

 頭の中でどうすればいいかをぐるぐると考え、スズカさんの好意と優しさに満ちている笑顔を見ていると気づいたことがある。

 恋する乙女、その中でも恋人がいる人は精神が大人になるんじゃないかってことを。

 

 アタシは恋愛を漫画やドラマでしか知らない。幸せのひとつとして、自分だけの恋人が隣にいることは素敵なことだと思う。

 でも幸せという意味で考えれば、好きな人を独占するよりも3人でいたほうが楽しいかもしれない。

 実際、スズカさんに誘われて3人で遊んだ時はすごく楽しかったから。

 

「その、アタシは……」

「どんな答えでも私はスカーレットの答えを尊重するわ。だから教えて欲しいの。あなたは恋をしているかを」

「アタシは、恋は、恋をしていて……えっと、今じゃなくて後で話をさせてください!!」

 

 スズカさんの優しい言葉と笑みに、つい自分の気持ちを言いそうになったけど今じゃない。

 私はマサキさんとどうなって行きたいかの気持ちがはっきりしていない。

 好きだというのは自覚している。その好きの後のことはまだ考えきれていない。

 マサキさんとどうなりたいかを。

 恋人になりたい?

 片想いのまま友人になりたい?

 3人での恋人関係?

 

 答えが出なく、アタシは勢いよく立ち上がってそこから走っていなくなる。

 行き先はどこでもいい。

 ただ自分の気持ちを落ち着かせたかった。

 

 そうして走っていると偶然にも噴水のあたりでマサキさんを追い越し、声をかけられる。

 

「あ、スカーレット!!」

 

 好きな人に名前を呼ばれ、胸が高鳴る。そして急ブレーキをかけて勢いよく彼の元へと行く。

 

「偶然ね、マサキさん。感謝祭は楽しんでいる?」

 

 アタシは今日初めて会ったかのように、実際に会うのは初めてだけどスズカさんと冷たい会話をしていたことを知らない振りをして返事をした。

 

「楽しいよ。テレビで見たウマ娘がいて感激するし、執事喫茶に行ったときはすっごいイケメンなウマ娘がいて驚いたよ」

「浮気はダメよ?」

「しないって! ただかっこいいウマ娘がいるなぁって思っただけで!! それにさっきまでスズカと一緒にいたから浮気じゃないのは証明できるし!」

 

 さっきまで落ち込んでいたのに、わたわたと元気に慌てる姿がとてもおかしい。

 普段から落ち着いていて優しいのに、ちょっとからかうだけでこんなふうになってくれるんだから。

 

「ホントかなぁ? 心配だからアタシが一緒に回ってあげるわ!」

「いやいや、俺はスズカ一筋で……あー、まぁスズカと会うまで頼むよ」

「アタシに任せておきなさい!」

 

 苦笑するマサキさんの右隣に行き、一緒に出店を見ながら歩いていく。

 こうして隣にアタシだけがいるというのは嬉しいけど、スズカさんのことをいつも考えているというのを聞くと胸が痛くなった。

 

 ◇

 

 春の感謝祭が終わった2日後。

 学園での授業が終わったアタシはルームメイトでよく口喧嘩をする、まぁそこそこ仲のいいウオッカと一緒に学園の外をランニングしていた。

 今日はスズカさんは珍しく練習を休んでいて、スズカさんの私生活はどんなふうになっているかと話をしながら走っている時だった。

 河原の土手を走っているとき、遠くの斜面で制服姿のマサキさんとスズカさんが見える。

 

「休憩しましょう、ウオッカ」

 

 特に疲れてもいないけど2人の様子を見たくて強引に休憩を取ったアタシは、ウオッカが文句を言ってくるのを流しながら2人をじっと見つめる。

 感謝祭で見たときと違い、距離を開けて座ってはいない。肩がくっついている。

 笑いあっている姿からして、仲良くなっているのを見られたのは嬉しい。

 きっとスズカさんは走ることだけじゃなく、彼氏であるマサキさんのことをよく考えるようになったみたい。

 今、スズカさんの方から背中に手を回して抱きしめているし。

 3年もの間、手を繋ぐだけだったのに仲が進展している。2人とも素敵な笑顔だ。

 そんな様子を見ていると、心がほのぼのと穏やかな気持ちになる。──私が彼を好きになっていなければ。

 

 今まで大事に扱っていなかったのに。アタシなら走ることだけじゃなく彼のことをずっと考えるのに。

 スズカさんのように手を繋ぐだけじゃなく、キスもその先も。

 アタシがもし隣にいたのなら。

 そんなことをどんどんと想像し、自分が人の不幸を願うのが嫌になって急に走り始める。

 ウオッカが呼び止める声を無視して、アタシの好きな人が仲良くしている場所とは逆の方向へ。

 

 ◇

 

 好きな人が恋人であるスズカさんと仲良くしているのを見てから、どことなくスズカさんの恋愛相談には以前ほど集中して考えることはしなくなっていた。

 自分が告白をすることもなく恋は終わってしまったのだと理解をしてしまったから。

 そもそも好きになった時からスズカさんという恋人がいたから始まるも何もあったのではないのだけど。

 

 5月も終わりになり、1カ月経っても自分の恋の炎は燃え尽きないでいた。

 片想いはいまだ続いており、スズカさんとマサキさんとの3人で遊びに行くことも続いていて。

 でもアタシは以前と行動を変えていた。

 前は積極的にマサキさんとふれあい、話をする行動を取っていた。今はスズカさんとうまく行くように話や場を整えるように。

 

 そういう気持ちになる土曜日に学園の外で1人ランニングをしていると、住宅街でジャージを着てアタシと同じようにランニングをしているマサキさんの後ろ姿を見つけた。

 マサキさんが住んでいる寮は学園からは距離があるけど、ランニングをするなら学園の近くまで来ることがあるから珍しいと思う。だからスズカさんがいないなら仲良くしてもいいよねと自分の行動に理由をつける。

 

「マサキさん!」

「おぉ!? あぁ、なんだスカーレットか。驚かさないでくれよ」

「ランニング中に驚かさないようにするのは難しくありません?」

 

 息を切らしているマサキさんは立ち止まり、アタシは彼のすぐ横へと行く。

 

「自然と前に来て振り返る、俺が気づくまで後ろで走るとか」

「そもそも偶然ならどうやっても驚くと思いますけど」

「それもそうだな。今日は1人みたいだけど、一緒に走る?」

「いいんですか!?」

 

 ふたりきりでのランニング。実質的にデート!

 練習という意味ではマサキさんの走る速度じゃダメだけど、こういう時じゃないと一緒にいれる時間がないからすごく喜んじゃう。

 

 

「そこまで喜んでもらうほど楽しいものじゃないけど。ここから遠回りな感じで学園正門まで行こうか」

「はい、ぜひ!」

 

 そうして一緒に走る時間はずっとこうしていたいと思うぐらいに居心地がよく、会話がなくても静かな時間は楽しい。

 そうして過ごしているとどうしても考える。

 この人といるだけでやっぱり楽しく、恋人として欲しいという気持ちも。

 

 

 それから1日考えた。

 短い時間だと思うけど、以前から抑えていた気持ちを表へ出そうと決心しただけだから気持ちの整理さえつけば、すぐに答えは出た。

 次の日には学園の休み時間にスズカさんを人気のないところに呼び出して伝える。

 アタシの恋心のことを。

 

「アタシ、マサキさんが好きです! だからスズ──」

「なら一緒に恋人になりましょう?」

「……待って。待ってください。どうしてそうなるんですか? そこは怒るところじゃないんですか?」

「だって、私はスカーレットのことも好きだもの。3人でいる時間はとても好きだから、それがずっと続くならいいと思って」

 

 その言葉に混乱しかない。

 向かい合って立つスズカさんは怒ることも嫌がることもしていない。

 なんでなの?

 普通、恋人というのは1対1でなるものなのに。

 それが1対2という男女の数。こういうのは男の人からすればハーレムというものになるんだったっけ?

 まぁそういう愛の形もあるけれど。今の時代、恋愛の形はとても自由で結婚をしなくてもパートナーという関係で一生を過ごしていくこともあるけれど。

 でもアタシは戸惑ってしまう。

 スズカさんがさも当たり前のように、アタシがこういうことを待っていたかのように余裕を持って言うんだから。

 情報を処理しきれないアタシは、スズカさんに何か言わなきゃと焦りを持った気持ちがあり、今の言葉で気になったことを聞く。

 

「え、スズカさんは女の子もいける人なんですか」

「そういう意味じゃないの! 恋愛的な意味では男の人が好きだけど、スカーレットとはこう、友達の、そう親友的な意味で好きというようなね!?」

 

 その言葉の焦り具合からして、本心から女の子が恋愛感情として好きではないと理解する。

 アタシは女の人に対してはそういう気持ちがないからよかった。男の人への恋も最近気づいたばかりなのに、女の人への気持ちも求められたら対応できない。

 スズカさんぐらい美人で落ち着いた人ならアリかなぁ……と考えるけど。

 でも今のアタシはマサキさんにひどく惚れている。

 スズカさんの女の子がどうよりも、3人で一緒にという提案は心が惹かれるものがある。

 

 このままだとアタシは恋人持ちのスズカさんから略奪愛をする嫌な奴になる。かといって、おとなしくして2人がいちゃらぶするのを眺めるのはもっと嫌。

 つい先日まで進展がなかったのに、抱きしめるという段階に進めばキスも近いうちにやっちゃうに違いない。

 スズカさんが女の子じゃなくて男の子、マサキさんがいかに好きかということを語る言葉を半分だけ聞き流しながら3人で付き合うということを考える。

 

「スズカさん、また3人でデートしましょう」

「……私たちとずっと仲良くしてくれる?」

「マサキさんがアタシとそうしたいと思ってくれているのなら」

「それなら問題ないわ。スカーレットと3回目のデートから3人でいたいと私がずっと言っていたから。だから学校はさぼりましょう?」

「そんな前から計画していたんですか。というかマサキさんも了承済みですか。いえ、そもそもこれから授業がありますよ?」

 

 アタシは結構な心構えをしてきたというのに、スズカさんは前から3人で付き合いたいと思っていたとか。

 これは心が広いと言えばいいのか、自分の気持ちに素直でいたいということか。

 彼の隣に自分だけが、自分が1番でいたいと思っていたけど、そんな気持ちは揺らいでいく。

 

「今はこっちの方が大事だから。3人で学校を抜け出しましょう」

「え、でも、アタシは優等生として真面目に授業を──」

「マサキくんがスカーレットのことを前から気になっていて告白したいって」

「さぼりましょう。今すぐ。何か問題があってもウオッカがなんとかしてくれますから」

 

 スズカさんへ早口で返事をし、アタシの好きな人がアタシを好きになってくれたことは嬉しくてたまらない。

 しかも告白してくれるとか!

 少し自分の気持ちを素直に聞くならば、確かに彼の1番になりたかった。でもそうしないと恋人になれないと思ったからであって。

 あの3人で過ごせる時間なら1番でなくてもいいかと思う。

 ずっと居心地のいい幸せな時間を過ごせるのなら!

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