ウマ娘恋愛短編集   作:あーふぁ

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百合


31.ナリタブライアン(百合)『私のモノになればいいのに』

 残念ながら私はウマ娘ではなく、美人な女の子として生まれてしまった。

 ウマ娘は美人な顔を当たり前に持つと言われている人種だけど、私は人の身ながらウマ娘以上に美人と言われている。

 お母さんがかつてG3を勝利したウマ娘。

 そのウマ娘の血を引いたから美しく生まれる可能性は高いというのが世間一般の認識。

 美人に生まれたのはいいことだ、と周囲や世間の人は言う。

 私はそうは思えない。

 

 この自分の美人さを憎んだことがある。

 小学生でも顔がいいというだけで男性たちに告白されることが多いということだけじゃない。

 ウマ娘でもないのにお母さんよりも美人なため、お母さんに嫉妬されているからだ。

 お父さんが私をよくかわいがっていることもあって、お母さんはことあるごとに言うことがあった。

 『人なのにウマ娘より美人だなんて』『ウマ娘を母に持つのに、人とはいえ運動能力がなさすぎる』と。

 まぁ、何もないところで転ぶほどに運動能力がないのは私も理解しているけど。

 

 お父さんは中央トレセン学園で優秀なトレーナーとして働き、家にいないことが多かったからお母さん親と一緒に過ごす時間が多かった。

 そのため、私は幼い頃からお母さんの機嫌を気にしながら、身を小さくして生きてきた。

 お母さんは気に入らないことがあると、私に愚痴、苦情、文句を言ってくる。時には暴力行為も。

 人の身に対してウマ娘の力はとても強力で、私が嫌がっても押さえつけていうことをきかせる。力加減は絶妙で骨折や骨にヒビなんてのは1度もなく、時々内出血があるだけ。

 

 そんなお母さん親が嫌で、お父さんに助けを求めたがダメだった。

 お父さんはお母さんのことを信じ切っていて、私の話を聞いてもわがままだと信じ込んでいた。

 妻が大好き過ぎるのかウマ娘は全員が優しい生き物だと思っているお父さんはむしろ私のことを叱った。

 『変なことを言ってお母さんさんを困らせるんじゃない』と。

 

 私は手のかからない子として生きてきたからか、困ったように言ってきたお父さんに見捨てられたと思った。

 頼れる相手もいない。家では母を恐れ、小さな物音や影にすら恐怖を。

 そんな日々をおびえて生きていくのはつまらなく、早く大人になって知らないところへ行きたいと思いながら平和そうに笑って過ごしていくクラスメイトを見ていった。

 私が成長して家事をできるようになっていくと、時間に余裕がお母さんは男遊びをするように。

 日頃から、お父さんが浮気していないか心配で、知らないウマ娘の匂いや毛をつけていると怒鳴りあいのケンカがよくあった。それが遊び始めた理由だと思う。

 お母さんはウマ娘だから美人で、日頃から美容を頑張っていたために男受けはよかった。旦那がトレーナーだからお金回りもいい。

 時々お母さんを迎えに来る男性を見たことがあり、その時のお母さんはまるで10代の少女のように若返ったように思えた。

 お父さんはお母さんが若い男の人と会っていることに気づきながらも、自分の仕事に文句を言わないのならそれでいいと放っていた。

 両親はそれぞれが生活を楽しみ、私は静かに生きてきた。

 

 でもそれが変わった日が来た小学校5年生の時に両親が離婚したからだ。

 原因はお母さんの不倫がばれたこと。

 お父さんは怒ったけど、お母さんは不倫をした理由を言った。

 私のお父さんが若いウマ娘の匂いをつけて帰って来るのが我慢できなかったらしい。それを知って結婚したのに。

 でもそれは理由付けであり、本当は若い男のほうに入れ込んだというだけ。

 お母さんは、初めての恋で結婚し、恋愛経験が少ないから恋愛に夢を見て生きていきたかったかもしれない。

 お母さんの理由を聞いたお父さんはもう怒りもせず、離婚を認めた。

 そうしてお母さんは私とお父さんを捨てて去っていった。

 

 お母さんがいなくなっても寂しい気持ちにはならず、もう怒られないのと自由な時間が増えるということにすっきりとした気持ちでに。

 でも家にいない時間が多いお父さんは娘である私が寂しがっていると思ったらしく、お母さんがいなくなって広くなった3LDKのマンションへ帰ってくる時間は早くなった。

 それと同時に自分の担当ウマ娘を家に連れてきては私の話し相手や遊び相手、時々家事の手伝いをさせることも。

 今まで小学校の友達との付き合いがなく、ひとりぼっちが多かった私はそれが嬉しかった。

 お父さんに対する不信感はあったものの、ウマ娘たちを連れてきたことだけは高く評価している。

 

 ウマ娘たちと交流を重ね、私の心が豊かになっていく時に運命の出会いがあった。

 それは中学1年生の時。

 いつも連れてきている担当ウマ娘のように、新しいウマ娘をお父さんは連れてきた。

 その子はまだ中等部1年生の子で、まだお父さんの担当ですらないのに気に入ったというだけで自分のウマ娘扱いをしている。

 そのウマ娘の名はナリタブライアン。のちにクラシック3冠を制覇することになるウマ娘で、口にくわえる植物が話題になりやすい子。

 

 彼女は鼻にテープ(スポーツ用の鼻腔拡張テープというものらしい)を付けた、黒髪ポニーテールで獲物を前にした猛獣みたいな目つきをしていた。

 多くのウマ娘を間近で見たけど、堂々たる姿に私は一目惚れをした。

 今まで告白はたくさん、50回目までは数えていたけど告白されても恋愛感情やドキドキすることはなかった。

 

 でもこの瞬間から、告白してきた人の気持ちがよくわかる。

 誰かを好きになるというのは、その子のことしか考えられなくて理性じゃどうしようもできないって。

 他のウマ娘にも強い目をした子はいたけれど、その子は芯がある強さを持っていた。勝つためならどんな努力でもする。

 そんな強さがあるブライアンは同じ年齢だとお父さんは言っていた。

 私の中学校でもこんな子はいない。これほど自身の心を強く持ち、気高くいるのは見たことがない。

 興味を持った私は興奮する気持ちを必死で抑えて話をすると、どうやら渋々連れてこられたようで私と会って話をするのは早く走る勉強になると言われて連れてこられた。

 

 いったい何のことだとお父さんに苦情を言いたい。

 私は中学で園芸部に食事していて、体育の授業で走って褒められたのはない運動音痴に何ができるんだろう。

 頭を痛めながらも、一目惚れした子と仲良くなりたくて色々なことを一緒にし、話をした。

 はじめはつまらなそうに料理や掃除を一緒にし、一方的に話しかける私が好きな草や花の話を聞いていた。

 一方的に話しかける関係でも、ブライアンは時々反応してくれるからそんな生活が私は楽しい。

 でも出会って半年ほど経った時に、ブライアンが「これ以上お前といて得るものはない」と言ってきた。

 

 惚れている相手とはいえ、そう言われた私はぶちぎれた。それはお母さんが私を無価値だと言ってたのを思い出して。

 その時は秋で、私は園芸部で育てた陸稲の稲をドライフラワー用にと持ってきた。

 それを10本ほどをまとめた束を、不意をついてブライアンの口へ強引に突っ込み、怒りが収まった。

 かっこいい美少女な外見をしているのに、口から稲穂を生やしている姿が間抜けすぎて。

 私に突っ込まれたブライアンは、最初は怒っていたけど次第に気分よさげになっていた。

 あとで聞いたところ、稲穂を口にくわえると気持ちが落ち着くらしい。

 

 それをきっかけとして、私は一方的に話をするんじゃなくブライアンとお互いのことを話すようになった。

 ブライアンは速さを求めるのではなく強さを求めて走っていると聞いたけど、私にはその違いがわからない。

 早くてレースに勝てば強いってことじゃ? と言えば、ブライアンは鼻で笑ってきたのでぽかぽかと叩いた。

 

 

 ◇

 

 

 ブライアンとの運命的な出会いから5年。

 美人な見た目を生かすためにアルバイトで雑誌モデルというのを始めた私は高校生となり、美人に磨きがかかっていた。

 イケメンなブライアンと並んでも負けないよう美容には気を付けている。

 腰までまっすぐ伸びたつややかな黒髪に雪のように白い肌。

 見た目は清楚だから仕事の評判はいい。

 人なのにウマ娘を超えるほどに美人と雑誌で書かれるぐらいに綺麗な私。

 モデルを始めてからは中学の時よりも男性に告白されることが増え、生徒だけにとどまらず教師など大人にも範囲が広がった。良く行くコンビニやスーパーでもそういうのが増えて告白を断るのが実に面倒。

 女性たちは嫉妬するし、彼氏持ちの人は男を奪った、と私が寝取ったふうに文句を言っている子がいて嫌になる。

 

 男性なんてのは存在だけで問題を増やす要素だ。男性さえいなければ、女性たちと仲良くできてトレセン学園の子たち以外に女友達ができたと思う。

 お父さんだけは例外で、私のお母さんが関係しなければ誠実で信頼できる唯一の男性。離婚してすぐは不信感が強かったけど、今では私の話をしっかり聞くようになって信頼できるようになった。

 そうして信頼できるお父さんを得たから、男性はお父さん以外いなくてもいいと思う。

 

 17歳になった私とブライアンは親友と言えるほど仲が良くなり、学校やレースでの愚痴。恋バナすらも気楽にできる関係になれた。

 出会った時からあるブライアンに対する私の恋愛感情は、沸き立つマグマのようにぐつぐつと大きくなっている。

 告白してカップルとなり、独占して仲良くしたいけど我慢し続けている。

 なぜなら、ブライアンは私のお父さんに恋愛感情を持っていることと、女性が恋愛的な意味でまだ好きじゃないから。

 お父さんは41歳で年齢差を理由にブライアンの恋愛は否定しない。ただ、ライバルが自分のお父さんだというのは複雑な気持ちだ。

 ブライアンが私の義母さんになる光景を想像すると嬉しいけど、自分の隣にいてくれないのは寂しい。

 いったいどっちが私とブライアンにとって最大の幸福を得られるんだろうと日々悩んでいる。

 どっちになったとしてもブライアンと一緒にいられるのは幸せなんだけどね。

 

 そして11月後半になっている今日は親友が1人で家にやってくる。家にお父さんがいなく、夕方に練習を終えたブライアンが。

 そう、1人で。つまりは、だ。

 ふたりきりでいちゃいちゃできるということ!!

 我がお父さんよ、残業ありがとう! いつもご苦労様です! 

 

 と、そういうウキウキ気分で高校から帰ってきた私はブレザーの制服からジーンズにトレーナーとラフな格好で夕食の準備をしている。

 ブライアンは肉が好きだから、肉を中心とした料理を作っている。もちろん健康のために野菜も混ぜて。

 出会った頃は極度の野菜嫌いだったけど、今は少しだけ嫌がるけど食べられるようになった。そうしたら、なんでか姉のビワハヤヒデにすごく感謝されてサイン入りグッズや高級バナナをたくさん渡されたけど。

 

 ブライアンとの過ごした時間を思い出していると、チャイムの音がなる。

 時刻は午後7時を過ぎたとこ。

 料理の手を止めた私は着けていたエプロンを外すと、急いで玄関へ小走りで行く。

 そしてすぐにドアを開けると、そこには肩からバッグを下げてジャージ姿でいつもの無愛想面をしたブライアンがいた。

 

「いらっしゃい、ブライアン」

「入らせてもらうぞ、マホ」

 

 お互いに下の名前で親しく言うようになった今。マホと私の名前を呼んでくれるのが嬉しい。

 初めて呼んでもらった4年前の時は嬉しさが2日間も続き、ブライアンに会わせてくれたお父さんへ感謝を伝えるために弁当が超豪華お重3段重ねになったほどに気持ちがあふれていた。

 

「あ、入る前にちょっと待って。……お風呂にする? ご飯にす―――」

「私は腹が減っているんだ。そういうジョークよりも飯だ。肉はあるんだろうな?」

「今日のお肉は期待していいよ! 奮発して高級な和牛を買ってきたから! せっかくだし、私と一緒に焼く?」

「マホが焼いてくれ。私よりもうまくできるだろ」

「うん、まっかせて!」

 

 ブライアンが来てテンションが高くて大声な私に対し、ブライアンは顔をしかめながらも丁寧に対応してくれる。

 昔だったら舌打ちをしていらだっていたのに。

 仲良くできていることに喜び、一緒にリビングに行く。それからブライアンを楽しませようとキッチンへ急いで戻る。

 冷蔵庫から生のお肉を出し、焼く準備をしているとブライアンはソファーへとどっかり座った。

 

「シャワー入ってもいいよ?」

「マホを置いて先に入れるわけがないだろ。私のことは気にしなくていい。こっちは勝手にやってる」

 

 私へ顔も向けずに言ってくると、テレビを付けてバラエティ番組をつまらなそうに見始めた。

 初めての人がこういう態度を見ると、あまりにも愛想のなさに怒るけど、これこそブライアンだ。

 人の顔色を気にせず、自分のしたいことを素直にする。周囲を気にせず、自分のスタイルを維持する姿はかっこよくも見える。

 でもそういうそっけない言葉だけど、大事なのを忘れてはいけない。

 

 ブライアンが優しいということ。それは私を置いて先にシャワーを浴びない。

 それというのも 私とブライアンは一緒に体を洗いあうぐらいの仲良しだから。今日のように来る時は必ず一緒にシャワーを浴びている。

 温泉や銭湯で一緒に入るというのはよくあることだろうけど、自宅でのシャワーとなれば珍しいに違いない。

 一緒に入る理由のひとつとして私に髪や尻尾を洗わせてくれる。

 洗うきっかけとなったのは、ブライアン本人がめんどくさがりで3年と半年前に注意した時に私が洗ってもいいと許可をくれた。

 はじめは嫌々で一緒に入ることも少なかったけど、今となってはうちに来たら一緒に入るのが当たり前に。

 ブライアンの鍛えられた美しい体をすぐ近くで見れるのは、世界広しといえど私だけ! ……でもないけど。見せてくれる人数がとても少ないから、これほどに仲がいいのを誰かに自慢したい。

 

 まぁ、お父さんやビワハヤヒデさんには自慢したけど。お父さんは無愛想が基本なブライアンがそれを許すなんて、と驚いていた。姉であるビワハヤヒデさんはすごく、とてもすごく悔しがりながらうらやましがっていた。

 ビワハヤヒデさん自身もブライアンと一緒にお風呂に入ろうと誘ったものの、そっけなく断られているとか。

 妹と一緒にお風呂に入りたいからといって、私に秘訣を聞いてきても特にないから困る。

 

 ブライアンも私に甘えてくるのと同じぐらいにビワハヤヒデさんに優しくすればいいのに、と思う。でも自分だけ特別ということに嬉しさで少しだけ変な笑い声をあげ、肉を焼き始めると同時に別のフライパンで野菜も焼く。

 そうして肉と野菜を焼きつつ、前もって作っておいたおかずを冷蔵庫から出して準備していた時に気づいた。

 実のお姉さんより私に甘えてくるブライアンは、実質的に姉妹なのでは? と。

 そう、実姉よりもたぶん仲がいい。つまりは世界で1番ブライアンと仲がいいということの証明だ!

 この見事な方程式が形成される関係性で、私は誰よりも仲良しだと思う。

 前にブライアンと一緒に雑誌で『レースを支える親友』というテーマでインタビューされたぐらいだし。他にも単独でモデルという私としてブライアンを語るコーナーも。

 インタビュー以外にもドキュメンタリー番組のウマ娘大陸で私は登場した。

 ブライアンにせっかくだから出ろ、と言われて。ブライアンに私という女がいるというところを印象付けるため、喜んででたけど。

 テロップで大人気モデル&親友という肩書きで初めてのテレビ出演をした私。

 雑誌のインタビューとは違い、ブライアンにご飯を作るところやいちゃついて遊ぶところを動画で流してくれたのは永久に記録しておきたい。

 テレビで私たちの仲がいい関係をアピールできたけど、全国放送で私の知名度が上がった代償として周囲の人がうるさくなったのはやっかいだ。

 

 テレビやインタビューの内容は好評で、気性難すぎて短いコメントしかすることがないブライアンが、長々と私について語ってくれたことはファンどころか担当トレーナーであるお父さんですら驚いたほどだ。

 そんなに関係がいい私たちだけど、気分よく浮かれているのはここまでにしておかないといけない。

 その理由として、今日ブライアンがここにやってきたのは恋愛相談だからだ。

 お父さんへと恋恋勝負を仕掛けたいということで。

 あと1か月と少しで今年も終わり、クリスマスが近くなってきたところでお父さんとの関係を近づけたいらしい。

 今までお父さんに対して恋愛という意味での反応はよくないけど、なんとか1人の女性として見てもらいたい。そういうことを恥ずかしそうに言うブライアンはかわいい。

 

 かわいいけど、違う。実の父とはいえ恋敵を助けなきゃいけないのか。

 大事な親友で愛するブライアンのためだから、渋々、いや、積極的に助言や状況を整えてあげている。

 ブライアンはお父さんの何もかもを愛しているけど、不器用だからうまく攻めきれていない。

 お父さんの方はブライアンを娘のように思っている気がする。1度だけでも女性ということを意識させれば、年齢差を気にさせなければうまく行きそうだと思う。

 本当は自分に恋愛感情を向けて欲しいけど、ブライアンは同性に対して恋愛感情がないのは今まで接してきて嫌というほどわかっている。

 押し倒してキスをしたいけど、そういうのは違う。向こうからも同じぐらいに愛して欲しい。そもそも襲ったとしても簡単に力で負けちゃうし。

 そもそも私は自分の気持ちを隠し、大好きな人の恋路を応援すると2年前から決めている。

 

 今日の自分はブライアンとお父さんの仲がうまくいくように助言や手助けをする。

 それ以外ではいつも通りにいちゃいちゃする予定だけど。

 ピンク色の妄想をしながら料理を作り終えると、お皿へ盛り付けてテーブルへと持っていく。

 肉を皿に盛りつけた時にはブライアンはテレビを止め、椅子に座ってテーブルで待機してくれている。

 焼いた肉にかけたソースの匂い+ジューシーな見た目をしているのが嬉しいらしく、ピコピコと揺れるウマ耳。早く食べたいとふりふり揺れている尻尾。

 目線はステーキに釘付けだ。

 ブライアンのそんな姿が微笑ましく、あったかい気持ちのなりながらフォークとナイフ、お米にお茶を用意して私が座るとご飯の準備は完了した。

 

「それじゃあ、いただきます」

「いただきます」

 

 私とブライアンは同時に両手を合わせ、色々なものに感謝する挨拶をすると夕ご飯を食べ始めていく。

 我ながらステーキは上手に焼けたと自分を褒め、高い肉は脂身がおいしいなと思いながら向かい合わせで食べているブライアンを眺める。

 ブライアンは肉時々付け合わせの野菜を食べつつ静かに、けれど豪快に大きくナイフで切り分けてはうきうきしながら口へと入れる姿が実にかわいい。

 レースでは、目にうつる全てが敵、という雰囲気なのに今だけは歳相応だ。こういう姿を見せるのは私の前でしかいない。

 今だけは私だけの彼女。独占しているということに満足感で心はいっぱいになる。

 

「どうした、マホ。食べていないが体調でも悪いのか?」

「ううん、そんなことはないよ。食べっぷりが気持ちよくて見ていただけ」

「そんなのいつも見ているだろう? 食べている様子を見ても面白くないだろ」

「私が作ったご飯をおいしく食べてくれるのは嬉しいよ。いつもそう言っているでしょう?」

「……私にはわからんな。自分で料理を作るよりも、食べるほうが断然いい」

「でも男の人には女性の手料理というのは、心にぐっとくるらしいけど」

「それ以外でトレーナーを落とせばいいだろ。料理はマホが作るから問題なんて何もない」

「問題ありだと思うけどなぁ」

 

 自信たっぷりに言い切る姿に対し、私は少しだけ不安に思っている。

 今の時代、女性は料理ができて当たり前という概念は悪とされている。だからブライアンが料理をしなくてもいいとは思うけど。

 それにお父さんはお母さんと離婚してから料理の勉強を始めたし。

 ……少し考えてみれば、ブライアンの食べる姿が好きな私としてはこのままのほうがいいかもしれない。

 私に料理をねだってくる姿はすっごくかわいいから。

 

 ブライアンの食べる姿を見ながらご飯を食べ終えたあとは一緒にシャワーを浴び、色違いのお揃いパジャマに着替える。

 自分の髪よりも先にドライヤーでブライアンの髪を乾かし、クシを通すのは至福の時間であり、髪を下ろしたブライアンと過ごす今からが今日のメインとなる。

 それは恋バナだ。ブライアンの恋愛対象が私のお父さんとはいえ、好きな相手が恋する乙女の顔になったのを見るのは好きだ。

 1番いいのは、その恋愛対象を私に向けてくれることなんだけど。

 わざと失恋させて私に依存させるということも考えたけど、そんなのは悪い人がやることだ。女性向けラノベでもそういうのは滅多にない。

 少女漫画だとそうさせるのは時々見るけど。

 

 歯磨きなんかの寝る準備を済ませたあと、一緒に行くのは私の部屋。

 この部屋にはブライアンからもらったサイン入り色紙や公式グッズ。他のウマ娘たちから渡された者たちで満ちている。

 勉強やウマ娘以外の元はいなくなったお母さんの部屋に置いてあるから、好きなものに囲まれる幸せ。

 とはいえ、好きなウマ娘グッズがある部屋じゃなく寝起きできる環境は十分に整っている。

 2人で寝れるぐらいに大きなベッド。1人で寝づらい時に使う抱き枕。クッション類もしっかりと。

 ごちゃごちゃせず、清涼感がある部屋で私とブライアンはベッドに背を預けな肩をくっつけて座り、話をしている。

 内容は恋愛。私の父をどうやってブライアンの女性的魅力に気づかせるか。

 

 ブライアンがお父さんへとやった恋愛的行動はたくさんある。

 ふたりきりでお買い物、一緒に食事を食べる、練習後に服を脱いで下着姿を見せつける、褒める、ボディタッチを増やして信頼を示すなど。

 今までの行動でわずかずつお父さんの意識はブライアンに向かいつつある。

 ブライアンがお父さんを好きでいる限り、私は全力で応援しているから段々と結果が見えてきたのはすっごく嬉しい。

 でも時々私の心が痛む。

 たとえお父さんとはいえ、私以外の人で恋する乙女の顔を出すというのは。

 それを見ても私は表情に出さない。好きな人が幸せになって欲しいのは当たり前。

 

「ねぇ、お父さんのことって今はどう見えているの?」

「どう、とは。信頼できるトレーナーということか?」

「違くて。こう、目にするとドキドキするとかそういうような」

「……そうだな。仕事で忙しいのか、目に隈ができた顔。自信ありながらも打たれ弱い姿を見ていると、あいつには私が隣でいて引っ張ってやろうという気になる。あの人の匂いや体温を近くで。

 前に、トレーナー室で1人ぽつんといたときなんかは心に来た。

 普段トレーナー室は誰かしらウマ娘がいるものだが、外は練習をしている音がうるさい。だが1歩トレーナー室に入ると、そこだけ喧噪から切り抜かれた世界。そこで椅子に座り、小難しい顔で見ている真面目な姿は実にいい。

 私にはもうこの人しかいないと感じる」

「青春してるねぇ、ブライアン」

「青春、だろうか。私はただ恋をしているだけだが」

「いーや、青春だね。そんな恋する乙女な様子で、ゆるゆるな顔をしているのはそうとしか言えないよ」

 

 照れてはにかむ笑顔がすごくいい。

 厳しい顔つきが多いブライアンだけど、今だけは歳相応な少女のように好きな男性への感情を語ってくれた。

 こんな姿を見れば、大多数の男女は恋に落ちるしかない。私は出会った時から恋に落ちていて、今は愛がある。

 まぁ、1番の問題は想い人が私の恋人じゃなく、義母になる可能性のほうがが高いことだけどね!

 私の気持ちはしまっておくとして、お父さんは年齢差を気にしすぎているから、自分の気持ちへ正直になってくれればいいのに。私の勘では担当ウマ娘以上の感情を持っていると思っている。

 

「こんなにも私を喜ばしてくれるマホは最高の親友だ」

「私もそう思っているよ」

「ああ。これからもずっと親友であり続けたい」

「……そうだね」

 

 親友でありたいという気持ちは嬉しいけど、自分の恋心を否定されたようで返事が遅れてしまう。

 落ち込み、暗い気分になってしまいそうなところだけど気分を上げていく。

 だって今は楽しく話をする時間なんだから。

 

 シャワー上がりでロングヘアになったブライアンは私と髪の長さが同じで、手を絡め合って楽しく話をするのは楽しい。

 はじめは女同士の付き合いという経験がなかったのか、ブライアンは困惑していたけど今は大丈夫。

 ふたりきりの、幸せな時間を過ごしていたけど時刻が夜の11時を過ぎるとブライアンがぼんやりとし始めてきた。

 練習のあと、のんびり過ごしたあとはこうなることが多い。

 

「もう寝る?」

「いや、まだマホと話を……」

「私はやだよ。ブライアンが眠いのに我慢させるなんてこと。ほら、一緒に寝よ?」

 

 ブライアンに無理をさせず、気持ちよく寝てもらいたいと考える私は勢いよく立ち上がると、ブライアンの両手を引っ張って立ちあがらせる。

 今日のために洗って干したばかりの真っ白なシーツに、ふわふわのタオルケットと羽毛布団。その中にブライアンを入れて端っこへと押していく。

 枕にブライアンの頭をそっと優しく乗せることも忘れずに。

 そうして部屋の明かりを消し、LEDの小さくてやわらかいオレンジ色の光が広がる部屋。

 

「お邪魔しまーす」

 

 自分のベッドだけど、ブライアンが寝そうになっているときに入るから毎回小さく静かな声で言うことにしている。

 ベッドの中へと入った私は仰向けになっているブライアンから、こぶしひとつ分だけの距離を開けて同じく仰向けの態勢になる。

 もうひとつの枕に頭を預け、顔を動かしては眠る寸前顔を見る

 

「おやすみ、ブライアン」

「あぁ、おやすみ、マホ」

 

 ひどく小さな声でそう言ったかと思うと、目をつむったブライアンはすぐに規則正しい寝息をあげている。

 その寝顔を1分は見つめたあと、天井をぼんやりとみつめる私。

 まだ眠気は来ない。早く寝ようと思うほどに寝られなくなるのはどうしてなんだろうと思う。

 明日の朝にブライアンの寝顔を朝日の下で見るために早起きしないといけないのに。1度も早く起きたことがないので今回こそはと思っているのに。

 幸せなことを考えようとするも、頭に浮かんでくるのは私にとって辛いこと。

 今年のクリスマスかクリスマスイヴで告白をする予定のブライアン。その結果がどうなるか気になるけど、私以外の人に告白するというのは想像しただけで気分が悪い。

 あのブライアンが私以外にかわいい照れ顔を見せるだなんて。

 愛しているのに、自分の物にはならないのが辛い。特にさっきのやりとりを思い出すと、気持ちが嵐のように荒れ狂う。

 

 親友。親友という言葉は嬉しくも嫌。

 特にずっと親友であり続けたいと言われたことは。

 そんなことを言うってことは、親友以上の関係にはなれないってことでしょ?

 恋人になりたい私を、本人は知らずのうちに止めてくる。

 今まで抑えてきた。この恋心を。でも無意識に可能性すら消してくるのは、ひどい女のよう。

 ブライアンは罪作りな女性だ。

 クールな雰囲気、ぶっきらぼうでファンサも時々にしかしない。でも男性からも女性からも人気が高い。

 走る姿だけでなく、炎のように髪を振りながら踊る姿は目に焼き付く。

 

 ブライアンへの気持ちが高ぶった私は静かに体を起こし、ブライアンの体へとまたがる。

 両手はブライアンの頭の脇へ置き、まるで押し倒したかのような姿勢に。

 静かに寝ている今なら、私の好きなようにできる。

 私がオレンジ色の光をさえぎり、私によって影ができると自分の物になったかのように思ってしまう。

 起こさないように気をつけながら、私はドキドキと高鳴っていく心臓の鼓動を感じながら言葉をゆっくり吐き出していく。

 今まで気楽に言うこともあった。でも今だけは親友としてではなく、愛する人へと送るもの。

 

「好きだよ」

 

 私だけの物にしたい気持ちを言葉に込めて。

 

「大好き、ブライアン」

 

 これから先、うまくいったらブライアンはお父さんの物になる。うまく行かなくても少しずつブライアンは私の心から離れていく。

 大好きな人が幸せになっていく姿を見るのは嬉しい。

 好きな気持ちは抑えられないけど、お父さんと仲良くなっていく姿を見れば恋心は落ち着いていくと思った。そうして私も男の子に対して恋愛の興味が出てくると。

 でもそんなことはなかった。ただ辛いだけ。

 

 ブライアンの耳元へ口元を寄せると「好き」と一言。くすぐったかったのか、ウマ耳をぴくりと動かした。

 こんなに愛をささやいても静かに気持ちよく寝ている。

 普段はぶっきらぼうで、ブライアンには力で勝てない。

 でも今なら。今、この瞬間になら何でもできる。

 

 それはキスであっても。

 

 誰かに唇を取られるよりも私が先にもらいたい。

 私もキスは初めてだから、問題ないよねと思ってしまうほどに欲望と理性がせめぎ合う。

 おでこやほっぺたじゃなく、唇にキスしようと顔を近づける。

 ブライアンの息遣いを感じられる距離になり、ひどく緊張しながらもじっと唇を見つめて深く深呼吸をし……キスをやめた。

 寝ている相手に一方的なキスはできない。たとえ気づかれなくても、こんなのは親友のやることじゃない。恋人になれなくても私は親友であり続けたい。

 ブライアンから顔を離し、深呼吸を2度したあとブライアンの上からどいて寝ることにする。

 最初に寝ていた場所へ戻ると、仰向けじゃなくブライアン片腕を取って顔に押し付ける。

 私よりも筋肉がついている腕。その感触はやわらかくはない。

 

 自分のやったことに対し、未遂とはいえど罪悪感がすごい。

 さっきまでの熱は時間と共に消えていき、私は目を閉じて意識を失い眠りの世界へと行く。

 それからどれほどの時間が経ったかわからない。

 ふと、声が耳に聞こえて一瞬だけ意識が浮かび上がる

 

「お前はいい子すぎる」

 

 優しい言葉がぼんやりと聞こえた。

 割れ物を扱うかのように、そっとふれるだけの私の頭を撫でてくれる手。

 大事に、大事にされる関係。想いを隠し、表に出せないのは嬉しいけど、それゆえに私は辛い。

 でも私のことを考えてくれることが嬉しく、心が幸せになって私はまた眠りにつく。

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