ウマ娘恋愛短編集   作:あーふぁ

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百合


32.シンボリルドルフ(百合)『ルドルフに恋をして、ルドルフと恋をする』

 彼女とすれ違ったとき、あたしは初めて恋をした。

 今までの人生で男性の人に恋はしたことはなく、かといって同性の女の子にときめくなんてことはなかった。

 でもあの子は特別だった。

 入学式の時にすれちがったっていうだけなのに。

 あとから彼女のことを知り、有名なシンボリ一族のシンボリルドルフということがわかった。

 当時の私はサブトレーナーだったから、自分の立場を利用して彼女のデータをじっくり眺めては見た目だけでなく高い能力に関心を持つように。

 それ以上は行動を起こすわけでも追いかけるわけでもなく、自分の感情を抑えていた。

 あたしの推しの子。

 

 2度目に大きくときめいたときは中等部2年になっていて、自動販売機で欲しいジュースが売り切れで悩んでいたら話しかけてくれた。

 売り切れていたジュースは他の場所にあると教えてくれ、さらには場所まで案内してくれるという。

 見た目から好きになっていたけど、面倒見がよく、低めで落ち着く声はさらに私の心を熱くしてくれる。

 目的のジュースを買ったあとは、もっとシンボリルドルフと話をしたくてジュースをおごってあげてやや強引に話をした。

 そんな誘い方が下手でもシンボリルドルフは優しく話し相手になってくれた。

 好き。

 

 3度目は選抜レースの時。

 もう今までよりも人生で最高に喜び、ときめいた。

 中等部3年となったルドルフとはそこそこ仲がよくなり、気軽に名前を呼びあっては学校内で出会えば話をする程度の仲にはなっていた。

 同じ女性ということもあって親しくなりやすかった。年齢はあたしのほうが10歳年上だったけど、話題を向こうから合わせてくれて助かる。

 他の中等部の子と比べて精神が大人びているから、周囲の子とは話しづらかったらしい。

 大好き。

 

 

 そして現在。

 あたしは校舎内のトレーナー室にいる。

 10月の終わりとなった今は紅葉は散り終わり、あったかい肉まんやホッカイロが必需品となるぐらいの寒さだ。

 放課後の今、外が寒いから暖房を強く設定しているトレーナー室には、4日前に菊花賞を勝って3冠ウマ娘となったルドルフがいる。

 彼女は、ソファに座ってテーブルに置いたノートパソコンにカタカタと文字を打ち込んでいた。

 その仕事は雑誌に載せる記事用の文章だ。

 真面目な顔のルドルフは素敵だなぁ! と心の中で静かにときめく。

 あたしの人生最大の幸運はルドルフをスカウトできたこと。レースでの3冠もそこそこ嬉しいけど、今では片思いの恋愛相手となったルドルフといるだけで幸せ。

 それ以上の喜びなんてあるだろうか?

 

 ない。

 合コンの時でさえも喜ぶことはなかった。

 イケメン俳優が出る映画で心が喜ぶことはあったけど、1番はルドルフだ。

 今だって同僚の愚痴を聞きながらも、ルドルフの横顔からは目を離さない。

 ルドルフはトレセン学園の冬用長袖な制服を着ている。

 髪は全体に茶色、おでこ付近は濃い茶色でそのまんなかに白い一房がメッシュとしてある。

 そんな特徴的な髪色は遠くからでも簡単に判別できるほどに特徴的だ。

 特に髪が素晴らしい。髪形は腰まで伸ばしているが、あたしの担当ウマ娘になるまでは少しだけしか気にかけていなかった。

 

 でもあたしが担当になったからには、ひとめぼれした子をさらに美人にしたくてたまらない欲があるから遠慮せずに解放した。

 おかげでルドルフはあたしが教えた髪の手入れをするようになり、雑誌で髪が美しいウマ娘ランキングの2位に入れた。

 髪以外にも肌や爪のお手入れもやるように言い、本人は「ここまでしなくてもライブやインタビューの時に化粧をすればいいだけじゃないか」なんて言っていたけど許せるわけがない。

 ルドルフにはいつだって美人でいて、多くの人がルドルフに心を奪われて欲しいから。

 あまり乗り気でないルドルフを説得する時には、皇帝という通り名があるのなら立派にするべきと言って押し切った。

 

 そうして、化粧であたし好みの見た目にしたルドルフは実に素晴らしい。最高だ。

 ただ、気になるところもあるけど。それは身長差。

 あたしの身長は145cmだというのに、ルドルフは165cmと高身長。

 こんなに差があるからこそ気になる。それはあたし自身の体が悪いこともあって。

 あたしの身長145cmでバストサイズは90と昔からロリ巨乳と言われていて腹が立つ。そう言ってくる男には容赦なく急所攻撃をしてやったが。

 相手が女の場合はにらみつけるだけにしているけど。

 

 まぁ、29歳の今となってはスーツを着てショートヘアにしてくるからロリっぽさがなくなって言ってくる奴は減ってきて嬉しい。

 今、あたしに電話越しで愚痴をこぼしてくる腐れ縁の男はいまだに言ってくるのでしょっちゅうケツを蹴っ飛ばしてやっているが。

 ルドルフを見て心を癒やしながら適当に聞き流していたが、気になる言葉が言った。

 やつは緊張しながらも、大胆な告白をあたしへとしてきたのだ!

 別に愛があるものなんかじゃない。

 

 なんと、このバカはあたしと恋人だと嘘をつきやがってくれたのだ。

 それもついさっき。時間にして電話がかかってくる直前の5分前。

 すぐさま急所に蹴りをお見舞いして土に埋めたくなるが、深呼吸をしてから怒りを収めて理由を聞く。

 こいつはG1トレーナーでふたりのウマ娘を育ててあり、なんらかの問題がメディア的な理由で発生したかもしれないからな。

 場合によっては理事長の力を借りるかもしれない。

 心が瀬戸内海のように広いあたしは「そうした理由はなんだい?」と優しく問いかけた。

 そいつは安心して理由を語ってくるが、聞いていくうちに怒りでスマホを握りつぶしそうになってくる。

 

 なんでもファインモーションとエイシンフラッシュが国外旅行で家族へ会いに行かせようとしてくるから、身の危険を感じた。だから逃げるために、恋人がいるからもう無理と断ったらしい。

 相手はと問い詰められ、あたしの名前を出しやがった。あたしの名前をだ!

 なんであたしが恋人にされなきゃいけないんだ。

 嘘だとしても片思い相手がいるあたしはすごぉく嫌だが、他にも感情的な問題以外でもっと大きな問題が起きている。

 

 それはふたりのウマ娘から敵対されるということだ。アイルランドの王女とスケジュールの鬼。

 ふたりが組み合わされば、四六時中あたしの生活を調べられ色々されるに違いない!

 あとふたりの親友からもなんかされるだろうし。

 これはもう命の危機だ。

 だというのに、こいつは軽い感じで言ってくるし罪悪感のかけらも感じていない。

 そもそもお前自身が、気のある振りをして距離感を取らないのが悪いんだっての!

 どこの漫画の鈍感男だ!! ハーレムを作りたいのか!? そうなら勝手にやってくれ!

 

「あたしを面倒なことに巻き込むんじゃねぇ!! 男なら堂々と向き合えっての! このあほんだらぁぁぁぁ!!!」

 

 あまりにもあたしへの軽い扱いとこれからの面倒ごとにぶちぎれ、通話を終えると力いっぱいにスマホを壁に投げつけようとする。

 だが、ルドルフが心配する視線をあたしへと向けてくるのでソファへと投げつける。

 強く投げつけられたスマホはソファの上でバウンドし、床へと落ちる。

 そのスマホはルドルフが拾ってテーブルの上へ置いてくれる。

 なんて優しい子なんだ。

 怒りのあまりにもっと叫びたくてたまらないけど、ルドルフが一緒にいる今はこれ以上みっとものない姿は見せたくない。

 まったく。片思い相手と一緒に静かにいられる今の生活があのバカ男に崩されてはたまらない。

 

 イライラを抑えるべく部屋をぐるぐると5周ほど右回りをして少しだけ落ち着いたが、これからどうしようかとため息をつく。

 ひとまず何か案を考えようとルドルフと同じソファへと座る。

 ただし一人分の距離を開けて。

 本当は体をくっつけるとか抱き着きついて癒しを得たいけど、そうすると大人としての威厳がなくなるし、いきなりの身体接触は嫌われるからしない。

 ルドルフをぎゅっと力いっぱい抱きしめたいというのに!!

 それほど好きなのに、なんで男と恋人なんていうことにされているんだ。

 ……少し時間が経って気分が前向きになったらファインモーションとエイシンフラッシュを探して誤解を解きにいこう。

 あのふたりと話をすると考えるだけで気持ちがつらくて溜息が出てしまう。特にファインモーションは王族ということもあって護衛の人からにらみつけられるのは怖いし。

 

「困っているようだが、私が助けになるのなら助けさせてくれないか。明るい姿が魅力的なトレーナー君がそんなにもなるとは心配で仕方ないんだ」

「助けてくれるんだ?」

「もちろん。トレーナー君が困っているのなら、助けたいんだ」

 

 あたしを心配してくれるルドルフの顔は、いつものキリッとしたイケメン顔と違って不安そうに困った表情なルドルフが最高にかわいい。

 これがギャップ萌えってやつなのね。

 そんな困り顔を見続けていたいけれど、担当ウマ娘であり片思いをしている相手に心配をかけすぎたくはない。

 

「助けては欲しいけど……」

「まずはどんな問題か教えてくれないか? 私の力が足りないなら生徒会やシンボリ家を巻き込んでもいい」 

 

 レース関係でなら素直に助けを求められるけど、あたしの人間関係の問題だから自分で解決したほうがいいよね。

 それにルドルフって堅物というか真面目だから、話をしたら大きな問題になりそうだし。

 でも何も言わないのも心配させすぎるし……。

 いったいどうしようか悩んでいると、ルドルフはあたしの太ももにに手を置くと近づいて無言であたしを見つめてくる。

 

「あの、ルドルフ?」

 

 大好きなルドルフが太ももに手を置いてきて、スーツのズボン越しに手の柔らかさや温かさを感じる。

 そして近くでじっと見つめられると、心臓がときめきでドキドキと鼓動を強くするし、なんかむらむらしてくる。

 手がえっちに感じられるんだけど。

 ゆっくりと顔が近づいてくれるのにあたしは耐え切れず、ルドルフのおでこに手の平を当てて押し返す。

 

「わかった、わかったって! 言うから下がって」

「ありがとう。君の悩みは私の悩みも同然だからね。言ってくれなかったらどうしようかと思ったよ」

 

 安心した笑みを見せてくれたルドルフは、押し返したあたしの手を両手でぎゅっと優しく握ってくる。

 もうやばい。こんなに好意的であたしの体を色々とさわってくると勘違いしそう。

 ルドルフは女の子が好きという話は今まで1度も聞いたことがないのに、もしかして頑張れば恋人になれるんじゃ? なんて考えちゃう。

 

 あたしはルドルフに手を握られたまま深呼吸をし、さっきの電話の内容を伝える。

 そうすると段々ルドルフの笑顔がなくなり、耳を後ろに倒しては歯を食いしばって怒った様子になってきた。

 おおぅ、1か月ぶりに怒る姿を見たけど、あいかわらず迫力がある。いや、前回あたしが渋々合コンの人数合わせで行ったとき以上に怒っている。

 あの時は断り切れなかったあたしが悪く、片思いしているのに男と飲んだから自己嫌悪だった。ちょっと時間が経ってから帰ったとはいえど。

 今回はあたしが原因ではないから、前回と違って今回はルドルフの顔を安心して見れる。

 予想した以上に怒りすぎているけど、それがまたかっこいい。少年向け漫画でよくある戦闘シーン前やシーン中と同じぐらいに最高。

 

 今日の短時間で仕事をしているとき、心配してくれる、怒っているという多くの表情を見られたのは幸せだ。

 その点で腐れ縁の男には感謝している。デメリットである、あのふたりのウマ娘を抑えないといけないのには頭が痛くなるけど。

 問題の本人にやらせると、逆に問題が広がっちゃうだろうし。

 

 今頃、ファインモーションはあたしの情報を手に入れるべく行動していると思う。

 エイシンフラッシュはあたしの行動を調べて予測シミュレートをしていそう。何かをするにしても行動パターンがあると便利だからね。

 情報収集まではいいけれど、その実行前には問題を解決したい。

 まぁ、現段階でもコイバナ好きな女子学生だから噂は広まりつつある……いや、噂が広まるとあたしとの恋仲が確定するからしないかな。

 だから、そこは気にしなくていいと思う。

 大事なのはあたしがあいつと恋人関係でない証拠と説明。それらはなかなかに骨が折れる。

 高校生の頃から友達になり、それが今でも続く。もう13年ぐらいも仲がいいとなれば、恋人になって当然だと誤解しやすいし。

 ……困った。

 

「どうしようかなぁ」

「解決案はあるのだろう? そうでなければ落ち着いてはいないだろう、君の場合」

「あるよー。あるんだけど、リスクがあるからねぇ。あとはあたしの覚悟だけ」

 

 ひとつめは高校の時からの写真を見せて、それを丁寧に説明。昔はあいつ以外の男とも写真を撮ったことがあるし、好みのタイプじゃないと言えばいい。

 でもそれだけだと時間がかかるし、解決したとしても疑念はずっと続く。

 

 ふたつめは、あたしには恋人がすでにいるということにする。そして、説明はあの男はふたりと一緒の旅行から逃げたいためにあたしを利用した、と。

 これが実行できるなら1番楽ではあるけれど。偽装恋人を作る場合は周囲への影響が強い。

 ルドルフという三冠ウマ娘を育てたトレーナーだから、どういう男とくっついたかという興味がメディアにあるからだ。

 これが問題としてメディアが楽しめるものなら、こぞって取り上げるだろうし。

 

 それに大きな問題がひとつある。

 片思い相手であるルドルフを無視して、嘘とはいえ恋人を作ったということにあたしの心が耐えられない。

 そもそも男と恋人になるという、考えるだけでも嫌だ。

 すごい男嫌いというわけでもないが、ロリ巨乳としてスケベな目と言葉、強引にさわってきたことには今でも嫌悪感と恐怖がつきまとっている。

 嫌なことを思い出していると変な顔になったらしく、ルドルフが怒りを収めて心配をしてくれる表情になった。

 

「私も手伝う案があって、それを提案してもいいだろうか?」

「言ってみてよ。ルドルフだから私には考えつかなかったことかもしれないし」

「そこまで期待されると困るのだが……。つまりは男と恋人関係でないことを明確かつ素早く伝えたいということだろう?」

「そういうことだけど、あのふたりのウマ娘の場合は国際問題になりそうだから困っているんだよね」

「ならば、私を恋人にしているということにすればいい。トレーナーと担当ウマ娘というのは昔から恋人関係になりやすいからな。私と君がそうなっても自然な流れだろう?」

 

 そう言うとルドルフは私との距離を縮めて、体と体を接触させてくる。

 ソファの上だと急に逃げられなく、突然のことにあたしは硬直するしかない。

 大好きな人がこうも簡単にくっついてくると脳内はパニックだ。

 こんなに近づくと想いが爆発するから、くっつきたくはなかったんだけど。

 

 まぁ、そんなことを思ってももう遅い。

 今は幸せと緊張で心臓と脳がいっぱいいっぱいだから。

 こうやって冷静に考えているけど、それは突発的な出来事で現実感がないから。

 心以外の部分は顔は熱いし、ルドルフの顔が近くて目を合わせられない。

 挙動不審度が全力全開なあたしだ。

 

 幸せが絶頂なあたしはルドルフに感謝の言葉を、いやこれ以上くっついてると気を失いそうだから離れて欲しいと言いたい。

 でも口は開いても言葉は何も出てこない。

 ルドルフが首をかしげながらも柔らかい笑みで見てくる。

 誰か助けて。ここで気を失うのは恥ずかしい!

 

「君が何も言わないから続けるが、この関係の証明として写真を取ればいいんだ。ただ普通に仲良しでなく恋人っぽさを感じるものをね」

「でも、それ、それはルドルフの、迷惑に」

「迷惑になんてならないさ。困っている君を助けられるのなら嬉しいことなんだ」

 

 なにこのイケメン。世の中の男どもにこういう優しさを持って欲しい。

 合コンで会う男はいかに自分が素晴らしいかを言葉だけで自慢げに話すからうざったいだけ。

 でもルドルフは気遣いもあり、行動で表現してくれる。

 もう両想いじゃないの、これって。

 

「それじゃあ、助けてもらおうかな。どんな写真を取ればいい?」

「相手が君と付き合いの長い男だから、普段の君がしないポーズの写真を撮ろう」

 

 そう言ってルドルフは太陽が差し込んでくる窓の前へと行く。

 スカートのポケットからスマホを取り出すと、あたしへと体を向けて待っている。

 ルドルフと写真を撮るのはレース時の勝った時だけで、プライベートで撮るのなんて1度もなかったなぁって思いながらルドルフのそばへ行く。

 するとルドルフの左隣へ行くと、左手であたしの腰に回して抱き寄せてくる。

 それに驚いて固まっていると、ルドルフは右手で手をいっぱいに伸ばしてスマホの位置を調整している。

 

 なにこれやばい。ソファの時とは違い、上半身だけでなく足まで密着してくる。

 そう、ルドルフの生足とだ。今さらながら自分がスーツを着ていることを残念がる。

 これでタイトスカートとかなら、よりくっつけるのに。まぁ、その場合だとタイツを履くから生足密着とはならないけど。

 身長差が20㎝差があるから、下から見上げるともうかっこいいの言葉しかない。

 

「ふむ。どうにも印象が弱いな。以前、雑誌に載っていたのを参考にしようか」

 

 あたしがルドルフにぼぅっとみとれていたら、一度あたしから体を離すと軽く抱きしめあう姿勢にされる。

 そして驚くべきは胸の位置だ。

 あたしのおっぱいの上にルドルフのおっぱいが乗っている!!

 たしかにこれなら印象が強い。身長差があり、なおかつ大きいサイズでないとできないポーズ。

 

「あとはフジキセキがやっていたやりかたを……少し恥ずかしいが耐えてくれ」

「え、これ以上恥ずかしいのがあるの? あたしが社会的にやばかったりする?」

「いや、そういうわけではないが……私が少し恥ずかしくてな。安心してくれ。送るときは君に確認してもらう」

「それならいいけど」

「では君の了承も得たことだし、さっそく撮ろうか」

 

 ルドルフは伸ばした手をやや天井側に向け、手の位置を固定する。

 そうして撮影ボタンを指へ伸ばす。その直前、あたしのほっぺたに生暖かい感触がする。

 驚いて一瞬だけ硬直したあと、撮影する音が聞こえた。

 ルドルフが抱きしめたのを離したから、自分のほっぺたに手を伸ばしてさわって気づく。

 キスされたんだと。

 嬉しさと驚きで声にならない叫びをあげると、あたしから目線をそらし口元を手でおおって恥ずかしそうにしているルドルフ。

 

「なんでキスしたの……?」

「その、これだと私と君が間違いなく恋人関係だと思うだろう!? ほら、撮影した画像だ!」

 

 ルドルフは慌てながら早口で言い、あたしと目を合わせないままスマホの画面を見せてくる。

 その画像はぼぅっとスマホへ顔を向けているあたしと、恋人のようにあたしを抱きしめてほっぺたにキスをしているルドルフの姿があった。

 あたしとしては片思い相手にこういうふうにされるのは嬉しいという気持ちでいっぱいだけど、堅物なルドルフがこうういうのをするなんて。

 もしかして結構あたしのことを好きなのでは? トレーナーと担当ウマ娘という関係じゃなく、友人以上的な何かで。

 画像を見終えると、ルドルフの横顔をじっと見つめる。

 ルドルフは視線を感じてか、一瞬だけあたしと目を合わせるとまた目をそらした。

 

「問題がないなら、ファインモーションとエイシンフラッシュのふたりに送ろう。……よし、送った。これで問題は解決だ」

「ありがと。これで安心して生活を送れるけど、なんでキスをしたの?」

「キスをしたのはだな……君が男と恋人だと思われるのが嫌だったんだ。女性が女性を恋愛という意味で好きなのは変だと思うかもしれないが、どうか軽蔑しないで欲しい」

「……もうダメ。我慢できない。好き、大好き。ルドルフを愛してる!!」

 

 今までは年齢や立場を気にして理性で我慢していたけど無理。こんなかわいく恥ずかしがっているのは最高にかわいい。

 こんな姿を見たら我慢するほうがおかしいと思う。

 同性愛的な感情をルドルフも持っているらしいし、時間をかけて仲良くなっていけば恋人になってくれそう。

 

 あたしの言葉にルドルフは口を開け呆然としているけど、ピンと立った耳はあたしの言葉を聞き逃しはしないというのを感じて嬉しくなる。

 これからは今以上の関係になっていきたい。

 世間の反応は気にしすぎない。自分の気持ちに正直でいたい。

 それにもう状況は待ってくれないし。

 男と恋人になった誤解は、ルドルフにキスをされた写真を送れば一発でわかってくれるに違いないから。

 そして、今日これからあたしたちはもっと仲良くなる。

 ゆくゆくは同棲を目指して!

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