ウマ娘恋愛短編集   作:あーふぁ

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34.メジロアルダン『恋愛に演技はあるが愛情は真実がある』

 12月の半分を過ぎ、クリスマスや年末が近づいてきた近頃。

 きっちりスーツを着て身だしなみを整えた俺はトレセン学園の昼休み中、トレーナーである俺は担当であるメジロアルダンと親戚なメジロパーマーを校舎内にあるトレーナー室へと呼び出した。

 パーマーはメジロ家でとても話をしやすい子であり、時々悩み事相談に乗ってもらっている。

 トレーナー室ではエアコンの暖房でしっかりと暖めてあり、実に過ごしやすい室温だ。

 そんな部屋で俺とパーマーはテーブルを挟んでソファに座ってはお互いに真面目な顔をして見つめあっている。

 

 悩み事はウマ娘との結婚についてどう思っているかだ。

 はじめは今まで相談したことのない恋愛ごとだからか、うろたえていたパーマーだが10分ほどかけて落ち着き、今では俺が結婚相手にふさわしい男かどうか見定めている気がする。

 冬仕様の制服を着たパーマーは肩まである長さのポニーテールと外ハネを揺らし、時々俺から目を離して体を揺り動かしながら悩んでいる。

 

 今回はいつものアルダンについての相談では最も重い話だ。

 それというのも、アルダンが結婚や婚約について話を軽く振ってくることが増えてきて、時々好きと軽い様子で言ってくるから、そういうことについてメジロ家の方針やメジロのウマ娘はどういったことか気になるからだ。

 俺が女なら同性同士は結婚できないよ、と言えたんだが男であり年齢が29歳だから実に悩ましい。

 結婚したいなという願望はあるものの、担当ウマ娘に手を出してしまったら、これからトレセン学園で仕事がしづらくなるなんて不安がある。

 

 そもそもとして11歳も年下の子を好きになりかけている今も問題があるような気がするが。

 世の中、愛に年齢なんて関係ねぇ! だなんて言う人もいるけど、やっぱり気になるものだと思う。

 

「それでパーマー、はっきりと言って欲しいんだが」

「や、まだ待ってよ。これさ、私の一言でふたりの人生が変わる勢いっしょ。私としてもどう言うのがただしいのかわからなくて……。おばあさまに聞くのが1番だとは思うんだけどね」

「あの人にそんなことを言ったら何が起こるかわからん。度胸がない男と言って笑ってくれてもいい。俺は小心者だから、ゆっくり慎重にやらないと落ち着かないんだ」

「そういうのはキミのいいところだと思うけどさ、恋愛なんてもっとシンプルでいいんじゃない? 名門のメジロ家といっても恋愛には寛容だよ? 身分がどうのこうのって言わないし」

「……だよな。やっぱり俺の気持ち次第ってことではあるんだ」

 

 深くため息をつき、テーブルにあるアルダンからのラブレターであるピンクのかわいらしい封筒を見ながら自分自身の覚悟が足りてないことに落ち込む。

 そんな俺を見たパーマーはフォローしようとしてくれたのか口を開いたものの、何も言わないままだった。

 俺と真正面に向き合ったパーマーは天井を見上げ、悩んだ声を出しながらもすぐに明るい表情で俺へと向けてくる。

 

「どういうのが自分にとって幸せか、で考えればいいんだ! そういう基準なら難しくないっしょ!」

「幸せか。考えすぎても答えが出ないだろうし、それだけで考えればいいか」

 

 何が幸せかという定義を考え始めるとまた別の悩みになるだろうから、今までアルダンと一緒にいた時にいて楽しかったことをを思い出す。

 レースで勝ったことを喜んだ時は当然として、スーパーのカラフルなチラシを見て買い物に行ったときは実物の商品と値段でこれはお得な商品か? とふたりで悩んだ時は楽しかった。

 一緒にごはんを食べる時も楽しかったな。誕生日になったらごはんを食べに行きましょうと言われて、ついて行った先がメジロのお屋敷だったのは驚いたが。

 アルダンにとっていい食事メニューをふたりで考えている時、病院食が最高なのではという結論に達して病院食を調べては作ったこととか。

 

 ……なんか半分ほど恋人っぽいことをしているような気がする。

 エアコンの暖房だけが響く静かな部屋で幸せだったことを思い出していくと、俺が気にしている年齢差以外では恋愛感情として好きなんじゃないかと気づく。

 一緒にいて楽しいし、いる時間が当たり前だ。

 それはトレーナーと担当ウマ娘という関係だけでなく、休日も一緒に過ごすほどに。誘うのはアルダンからでもあり俺からの時もあった。

 今まで担当していたウマ娘では休日に遊びに行こうという気持ちは一切なかった。

 だからこそ、今までの違いを自分で明らかにしていくと、なんだか恥ずかしくなってくる。

 

 自覚なしで惚れていたことを今になって気づいて。

 アルダンより大人なのに、自分の気持ちがわからないなんて。

 向こうから好きという直接的な言葉を言われていたのに、パーマーに言われてからでないと自分のことを考えようとしなかったのが悲しい。

 今まではただ面倒なことになりそうだという思いだけで逃げていたんだと気付いて。

 

 自分の恋愛感情に向き合うことに決め、今日の放課後に自分の気持ちを伝えることを決意。

 ただ恋人として付き合うのは最低でもトレセン学園を卒業したあとだ。そうでないとメジロ家からレースを走らせると誓った大事な子供を預かった責任を果たせない。

 

 昨日渡されたラブレターからは、愛の言葉と俺とどうなっていきたいか。

 アルダン自身の将来への希望と、俺に迷惑をかけたくないことが書かれていた。

 ここまで愛してくれるなら、向き合うしかない。

 

 相談に乗ってくれたパーマーに感謝の気持ちを伝えようとすると、ふとパーマーの耳が勢いよくドアへと向く。

 その動きに釣られ、ドアに顔を向ける。

 何の様子がないまま5秒ほど待つと、遠くから聞こえるウマ娘たちの元気な話声に紛れながら足音がやってくる。

 俺にはそれが誰の足音がわからないものの、パーマーの表情を見ると絶望した様子で耳もしょんぼりと下に垂れている。

 その様子から俺はアルダンが来たとわかった。

 

 普段ならパーマーと一対一で会うことはあるが、それはアルダンに伝えたうえでだ。

 しかも毎回練習が終わって会っているから、昼休みの時間にこっそりとだなんて何かをたくらんでいると思われてもおかしくない。

 場合によっては浮気として認識、いや、まだ付き合ってはないが。

 

 アイコンタクトでパーマーにごまかしてくれと頼み込むも、勢いよく首を横に振られる。

 悪いことをしたわけじゃないのに、この罪悪感。

 アルダンのことを相談するためとはいえ、年頃の女の子と密室は変なふうに思われても仕方がない。

 俺とパーマーがこっそり恋人関係になっていたとか。

 

 ひとまず言い訳と謝罪の言葉をどうしようか悩んでいるとノックの音が響く。

 ノックのリズムと間隔から間違いなくアルダンだ。

 

「トレーナーさん、いらっしゃいますか? 仕事でお疲れと思い、差し入れを持ってきました」

「あぁ。入っていいぞ」

 

 素直に答えるとパーマーが悲鳴をあげそうな表情になるが、これは仕方がないだろう?

 居留守を使っても気配でばれるだろうし、隠そうとしたほうが状況が悪くなる。

 恋愛事においては嘘をつくというのは、メリットよりもデメリットのほうが非常に大きいから。

 それに俺たちは悪いことをしていないんだから、堂々としていればいい。

 そうパーマーに目で伝えると、声を小さく出してため息をついた。

 

「それでは失礼します。……あら、パーマーが来ていたんですね。お邪魔でしたか?」

 

 缶コーヒーを持って穏やかな笑顔で入ってきたアルダンは冬仕様の制服を着ている。

 髪は腰まで伸びているのをラモーヌのように後ろでシニヨンの髪型でまとめ、他は普段のように自然に流している。

 それは秋のトゥインクル・シリーズファン大感謝祭で演劇をした、男装の時の髪型だった。

 

 演劇が終わってからもアルダンは時々こういうふうにロングヘアじゃなく髪をまとめる時がある。

 普段のお嬢様という雰囲気じゃなく、シリウスやルドルフに負けないイケメンな女の子だ。

 メジロ家では一番のイケメン美少女だと断言できるぐらいにいい。

 アルダンの髪に見惚れながらも、怒っていない様子に安心する。

 

「いや、話はさっき終わっていたから大丈夫だよ」

「そうそう! ちょっとした悩み事の相談だったんだよ! ふたりの邪魔しちゃ悪いから私はかえ──」

 

 即座に帰ろうと立ち上がったパーマーの肩を押さえて力づくで座らせたアルダン。

 その目は不思議そうに俺たちを眺めていて、パーマーは力なくうなだれてしまっている。

 これは静かに怒っている!! アルダンの担当になって2年目になるが、いまだに怒っている時の様子がわからない。

 

 しかし、よかった。パーマーがこの部屋にいてくれて。怒られるなら一緒のほうが被害が少なくなりそうだ。

 そういう悪い思考をして表情を変えずにいると、アルダンは缶コーヒーをテーブルへ置いてからじっと俺を見たあとに後ろへと下がって距離を取る。

 うついむいてからから、顔をあげると表情は辛く苦しそうで、見ていてこちらが悲しくなりそうになっている。

 

「ハムレット、第三幕第一場」

 

 そのセリフは秋の感謝祭で演じた劇であり、ハムレット役をしたアルダンの台本の読み合わせに付き合ったから内容を覚えている。

 静かながらも力強くつぶやかれた言葉。 その言葉と共にアルダンは小さく一歩を踏み出し、両手を力なさげに少し開いていく。

 突然はじまっていく劇。

 ハムレットは一言で言うと、主人公である王子の復讐劇だ。

 

 そして第三幕は『生きるべきか死ぬべきか、それが問題だ』のセリフで有名で1度は聞いたことがあるという人が多いであろう場面だ。

 これから演じていくアルダンは俺への問いになりそうなことを感じさせてくれる。

 この作品を俺とアルダンのどちらとも知っているからこそ、演劇の力を借りて伝えたいことがあるんだろう。

 パーマーは今の展開についていけず、静かに俺たちふたりを見つめている。

 

「生きるか、死ぬか、それが問題なんです」

 

 元々のセリフをアルダン自身の言葉へと変え、深く悲しみを持った声。

 そしてアルダンは両腕で自分の体を強く抱きしめて床へと視線をゆっくり落とす。

 

「どちらがウマ娘らしい生き方と言えるのでしょうか。

 自分だけを大事にして運命から逃れて静かに生きるか。それとも足を壊すとわかっていても必死に走り、すべてのことを終わらせるのと。

 いったいどちらが! いっそ死んでしまったほうが楽かもしれません。死ぬとは眠ること。1度、眠ってしまえばトレーナーに対する想いも解放されるでしょう。

 でもそうしたら私は強く思い残すことがあるんです。

 パーマーが私のトレーナーとこっそり会っていて、情熱的な愛をささやいていたかと思うと死んでも死に切れません」

「え、ここで私なの!? そんなことはしていないって!」

 

 パーマーの名前が出ると同時に俺とアルダンは同時に振り向く。

 それが怖かったのか、パーマーは驚いた声をあげてソファの上でアルダンからあとずさっていく。

 このパーマーに話を向けた時にやっと気づく。アルダンは別に怒っているわけでなく、俺とパーマーを驚かせたかったのだと。

 俺への気持ちも改めて伝えながら。

 

 元の言葉からアルダン風に言葉を変えていき、シーンを部分的に省略しながら動きや言葉を続けている。

 これが即興なら、アルダンは実に冷静だ。

 でも唐突に名指しをされたパーマーは困惑するばかりだ。

 一見して、パーマーに恨みを持っているふうな演技を見せられたら、その反応も当然だ。

 アルダンの演技も以前より上達しているし。

 以前、演劇を披露した時よりも動きがなめらかになり、感情を表現する時の動きが大きくなって見る人からはわかりやすくていい。

 

「死の眠りの中で、どんな夢が訪れるかわかりません。これが私を悩ませているのです。

 私の想い人への片思いを知りながら、どうやって奪っていくのでしょう。

 かなわぬ恋の痛みに、親友の裏切り。これらにどうして心が弱い私が耐えられるのでしょうか。

 高いところから身を投げ出すだけで、この人生からさよならができるのに」

 

 省略はいいとして、元よりずいぶんと過激になっているんだが。どう話を終わらせるんだ。

 最後のほうのセリフでは、パーマーを真剣に見つめながらソファーへと座り、距離を詰めていくアルダン。

 

「取っていないって! 恋のお悩み相談をしていただけ!! 大丈夫、トレーナーさんはアルダンのことを好きだって言ったから!!」

 

 続けて言葉を言おうとするアルダンに対し、パーマーはさっきまで相談していたことを全部ぶちまけてくれていた。

 アルダンはその言葉を聞くと、パーマーに迫ることをやめて今度は俺の隣へとやって座ってくる。

 肩がふれるほどの距離ではアルダンからシトラスな香りがただよってくる。

 

 上目遣いで俺を見てくる今の姿は高校2年生にしては色気がある。

 目と目が合い、俺が動けないでいるとアルダンは俺の腕へと顔を押し付けてくる。

 そのふれあいに心臓がどきりと動き、緊張してしまう。

 そんな気持ちの揺れを抑えるのを意識しつつ、なんでもないことのように言葉を出す。

 

「アルダン、最近はどうやって過ごしている?」

 

 ハムレットの独白から続ける形で、オフィーリアの言葉を言うと、アルダンは少し考えてから口を開く。

 俺がオフィーリア役でハムレット役というのは性別が違っている気がするが、ささいなことだ。

 大事なのは演じるキャラクタの役割だから。

 

「聞いてくれてありがとうございます、トレーナーさん。私は元気ですよ」

「アルダン。昨日、渡された手紙の返事を伝えようと思うんだ。どうか今から聞いてくれないか?」

 

 セリフを今の状況に変え、告白の返事を返そうとしたがアルダンは俺から顔を離したあとにパーマーを見てからそっと目を背ける。

 

「手紙を渡した覚えはありません。きっと誰かのいたずらでしょう。私はトレーナーさんに今、ここでの強制はしたくないのです」

「アルダン、ハムレットは終了だ。本当はな、もう少し雰囲気のいいところで言いたかったんだ。悪い話じゃないから聞いてくれ」

「……わかりました」

 

 俺はテーブルに置いてあった封筒をスーツのポケットにしまい、1度深呼吸をしてソファの上でアルダンと向き合った。

 

「アルダン、俺は年齢差やメジロ家から大事なお子さんを預かっていることに悩み、自分の気持ちを押さえていたことに今日、気づけたんだ。

 俺はアルダンと一緒に同じ時間を過ごしていきたい。

 担当とウマ娘というだけでなく、それ以上に。最もそれをするのはアルダンが卒業をしてからになるが。……どうだろうか?」

 

 そう言った途端、表情は真面目な顔つきだがアルダンは耳をピンとまっすぐに伸ばし、尻尾は高く持ち上げられてふんわりと左右に振っている。

 アルダンの返事を待つも言葉はなく、ただ俺の太ももを軽く手で叩いてくるだけだ。

 

「アルダン?」

「次の言葉を早く言ってください。それだけじゃ足りませんし、これ以上私を焦らしても何も得はありませんよ」

 

 ここから何を言えと? 俺はアルダンの返事を待っている側だというのに。

 なんだ、他につけたす言葉ってあるのか? 自分の気持ちに正直になったからいいと思うんだが。

 それとも付き合いたいってのは今すぐがいいというのか? それをすると学園やメジロ家の方々と問題になるんだが。

 

「……これ、私がいなくてもちょっと時間があればくっついたんじゃない? 恐怖の味わい損な気がするパーマーさんなんだけど」

 

 顔が真顔なアルダンに太ももをぺしぺし叩かれ続けながら、言葉に悩んでいるとそんなことを視界の片隅でパーマーが言ってくる。

 そうだ、パーマーがいたのを完全に忘れていた。

 パーマーにはお世話になり、怖い思いをさせてしまったので何か感謝の気持ちを送っておかないとな。

 ヘリオスとセットでパーマーたちを高級料理店に連れていけば、なんとかなるはずだ。

 

「トレーナーさんはもしかして私だけじゃなく、パーマーも好きなのですか? 1対1の関係になれないのは残念ですが日頃からお世話になっているパーマーなら──」

「待って、待って待って!? 私、トレーナーさんに親しみはあるけど、そういう恋愛感情じゃないから! だから、そういう言葉を言いながらにらんでこないでってば!」

 

 ソファから勢いよく立ちあがったパーマーはおびえを見せながら、ドアの前まで言って悲鳴のような言葉で言う。

 

「アルダンのトレーナーさんも早く好きだって伝えてよ! このままだと私、ひどいことされるから!」

 

 もしかしてアルダンが俺に待っていたのは好きという言葉か?

 思えば、今まで言われてはいたが俺が言ったことは1度もなかった。

 さっきの会話もアルダンと一緒にいたいとは言ったが、それだけで自分の気持ちを直接的な言葉で表現してはいない。

 

 

「あー、アルダン。パーマーに言われてからなんだが、気づいたことがあるんだ。聞いてくれるか?」

「それなら聞きたくありません。あなた自身に気づいて、自分の意思で言って欲しかったんです。

「じゃあ言わなくていいのか」

「いえ、言ってください。そうでないと私は怒りますよ?」

 

 これ、どうすればいいんだ。

 ひとまずはふたりきりにならなきゃいけない。俺はパーマーに視線を合わせると目で謝罪の気持ちを向ける。

 するとパーマーは小さくうなづくと、すぐさま部屋から出ていった。ただし、扉だけは静かに閉めて。

 

 パーマーが廊下を走っていなくなる音を聞いたあとは、不満げな顔になっているアルダンをどうしよう。

 さっきと違って耳は不満げに後ろへと倒れていて、尻尾はぶんぶんと勢いよく振り回している。

 今さら雰囲気をよくなんてできないし、できたとしても学生の子とこんな昼間から学園で何かするわけでもないし。

 消去法で考えるなら、勢いで色々と進めてしまおう。

 

 俺は怒った様子のアルダンに近づき、アルダンの両腕を巻き込みながら背中に手を合わせて強く抱きしめる。

 顔は見えないが、抱きしめていると段々とアルダンが落ち着いてくるのがわかる。

 それと同時に、俺の頭に耳を押し付け、首元に鼻を当ててなんでか匂いを嗅いでいるのも。

 

「アルダン」

「はい」

「色々と遠回りはしているが、好きだ。一人の女性としてお前を見ている」

「……はい。私もあなたが好きです」

 

 ついに言った。たくさん周囲を気にしていて、自分の気持ちと行動を縛っていたが言ってしまえば、もう楽な気持ちしかない。

 自分の感情に嘘をついたままというのは、とてつもなく精神に負担がかかる。

 こうして素直に自分の気持ちを伝えられるようになり、受け止められるようになったのは嬉しい。

 ……嬉しいが、すっげぇ恥ずかしい。

 抱きしめるというのは今回が初めてなこともあるし、女性として今まで見ようとしなかったから意識し始めると緊張と興奮で心臓の鼓動がうるさい。

 体を鍛えていても女性だから柔らかさがあるし、髪だけでなく体全体からいい匂いがする。

 

 そしてなによりも大きい胸の感触がもうすんごい。語彙力がなくなってしまうが、とにかくすごいのだ。

 前の身体計測ではバストサイズ87だから、ボリュームがすごい。

 離れようと思っても、自分の体にあたる胸の感触が気持ちよくて、ずっとこのままでいたい。

 

 今日恋人関係になったとしてもアルダンを大事にしてゆっくりと関係を進めていきたくはあるが。アルダンの魅力に飲み込まれてしまいそうだ。

 ここからどうしようか、昼休みが終わるチャイムの音があれば自然と離れられるかと悩んでいるとアルダンの両耳が立ち上がり、ドアのほうへと向く。

 いったい何があるのかと思い、そっと首を回すとわずかに開かれたドアから6つの目が俺たちを見ていた。

 

「やばっ、ばれたよ!?」

「少女漫画そっくりで素敵でした!」

「お熱くていいわね」

 

 パーマー以外は余裕のある言葉を残し、ライアンとラモーヌの3人は即座にドアを閉めて小走りで立ち去っていった。

 これ、メジロ家だけでなく学校中に広まりそうだなぁ。あとで不順異性交遊って言われて理事長に怒られそうで落ち込んでしまう。

 

「大丈夫ですよ、何かあっても私とメジロ家の力であなたは安全ですから」

 

 俺はアルダンと穏やかに時間を過ごしていきたいが、急速に外側からの力によって関係が進んでしまいそうだ。

 来年中に結婚とかはないよな? 将来的に結婚をするとは考えているが、まだ独身という自由な時間を楽しんでいたいんだ。

 でもアルダンの余裕がある声を聞くと、もうなるようにしかならないとあきらめがつく。

 アルダンが一緒にいてくれるのなら、すべての困難は乗り越えていけそうだから。

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