「帰投したわ、サンビタ。」
シラヌイと呼ばれた者はサンビタが迎えに来たのを見て、若干気分が良くなりながら言った。
「妖精さんもお疲れ!」
そうするとシラヌイの後ろから一人の妖精が出てきた。その妖精は白衣を着た研究員風の妖精で普通の妖精とあてはまるように小さく、可愛らしかった。細目なのと口が常に微笑んでいるのとでゆったりとした雰囲気をしていた。
「帰ったよ~サンビタ、あれコヘレトは?」
「風呂入ってるよ、酷い臭いがしたから。」
「う~ん、帰り道で面白い理論が思い浮かんだから相談しようとおもったんだけどな~。」
「コヘレトはまた徹夜したから明日か明後日にしたほうがいいよ。」
「そうする~じゃあ、向こう行ってるね。」
妖精はそう言うととてとてと走って自分の部屋へと向かっていった。
サンビタはシラヌイに向き直った。シラヌイは服装は深緑色のミリタリージャケットを着用し、長ズボンに大きなリュックサックを背負っていた。遠出していたせいか若干の土埃がついて清潔とは言い難いものの彼女自身のギラついた生気に溢れた目が女性としての美しさより雄々しさを感じさせた。だが、雄々しさと共に戦士として醸し出される気迫も外に出ていた。とても少女が放つものとは思えないものである。
シラヌイは明らかに構ってほしそうで、妖精と話している間に服を洗ったりするなり、リビングに行くなりすればいいだろうにわざわざ玄関に留まっていた。
「依頼お疲れ、この依頼って先頭に繊細な作業が必要だから私じゃ不利で行けなくてごめんね。」
「問題ないわ、無理に貴方が出て行って死んでもらうのも困るわ。」
「そう言ってくれるとありがたいよ。」
「私にはあまり当てはまらないけど適材適所というものがあるから。」
「それでもありがたいよ。」
二人は話しながら(シラヌイは手を洗った後)リビングへ行った。というのもこの場所は廊下が短く、普通に声を発していても聞こえるのである。
サンビタはシラヌイが手を洗っている間に酒の準備をした。テーブルの上に二つのグラスを置かれ、酒がとくとくと注がれる。サンビタが酒を注ぐ様は幻想的で彼女の顔は親しい者が無事に帰って来た時の安堵と喜びに満ちていた。それは遠い戦地に行った帰らなかぬかもしれぬ者が帰って来た時の顔に似ていた。架空の合成獣のような目を持つ女がそういったあまりに人間的な顔と仕草をするもので、これだけで一つの抒情的でフィクションと現実との相対性を描いた絵になるのではないかと思われるほどである。
シラヌイがやって来るとシラヌイが雄々しいのとサンビタの白い肌と仕草が女性的であるのと、それらを取り巻く家具や調度品が普遍的であるのも相まって一昔前の夫婦のような空間を醸し出させていた。
シラヌイが手洗いから戻り席に着いた。そして彼女は酒を飲んだが、苦い顔をした。
「まずい酒。」
「あるだけありがたいでしょ、酒屋の酒だってまずいのしかないし。」
「たまに美味いのもあるわ。」
「それだってごく稀だよ。」
サンビタがそう言うとサンビタも自分の酒を飲み始めた。まずいので顔をしかめるが飲み続ける。酔えればいいようだった。
「それで大丈夫だった?」
「何が?」
「艦娘達と協力して依頼をやれっていう話が依頼の一つにあったよね、シラヌイは艦娘達とうまくいかなくてこっちに来たんだし。」
「こっちに来たというよりは貴方に拾われたんだけど。」
「そうかー、そうだったね。懐かしいや、解体予定艦の仲間入りになって接合師の下に送られるのを私が拾ったんだったね。」
「懐かしいという程時間たってないわ。そうね、あの時は苦労したわね、互いに外の世界がよく分からないから色々問題を起こしてコヘレトに相談したこともあったわね。」
「あはははー。」
そう言ってサンビタはまたグラスに残った酒を飲み始めた。三分の一程の量になるとグラスを置いてこう言った。
「本題に入ろうか?」
「・・・分かったわ。」
「それでなんかやらかしたの?」
「いえ、大事にはならなかったわ。ただちょっと喧嘩しただけよ。」
「何で喧嘩したの?」
「生きていくにはあまりにも甘かったからよ、私達ほどの力もないくせに妙にしゃしゃり出て他人を救おうとして、それで一人死んだし。自分の仲間だけを大切にしていればいいのに。」
「成る程、そりゃ喧嘩するわけだ。」
サンビタが笑いながら言った。
「貴方も艦娘側なの?」
シラヌイが若干軽蔑したかのような視線をサンビタに向ける。ギラつく目も相まって怖い顔になる。読者にもさっきの会話で分かったようにシラヌイは思想が他の艦娘達と合わないのである。因みにこれはあくまでもシラヌイが解体予定艦になった一つの要因に過ぎない。このシラヌイ、まだ問題があるのだ。
「いや、私が艦娘だったら艦娘側かなって思っただけ。」
「というと今のあなたの意見は?」
「まず前置きとして話させてもらうと艦娘達のそのルールは鎮守府とその近辺なら適用しても問題ないよ、でも私たちみたいに一度社会のシステムに組み込まれると、特にこの社会は苦痛で回っていると言っても過言じゃないくらいだからいずれ耐えれなくなるだろうね。だからそういう意味だとシラヌイが言っていることは分かるよ。でも」
サンビタはグラスに残った酒を全部飲み干して次の言葉を述べた。
「だからと言ってそれが目の前の苦しんでいる人を見逃していい理由になるかというとどうかなって思わない?思わないか。私は多分見捨てたら後悔することになるだろうから結果はともかく助けるかな、大気圏突入して苦しんでいるっていうのならそりゃ行かないけどね。」
「理由どうもこうも全部力がなきゃ叶う者も叶えられないっていうのに貴方はそういうことを思うの?」
「だからこそ皆で寄り集まって考えるんじゃない?一人一人が弱くても知恵があって且つその枠組みの中にイスカリオテのユダみたいな人が居ないっていうなら信じられない力を発揮するんだよ。でも、本当にゴミの寄せ集めみたいな人間が群れを成してたらその内の一人が欠けるだけでも蜘蛛の子を散らして逃げ始めるだろうね、それで各個撃破されるだけ。そういう意味では個の力も必要だけどね。」
「・・・そういうものなのね。」
「そういうものじゃない?」
「結局貴方はどっち側なの?何で群れを成すかはある程度分かったけど。」
「シラヌイ側かな、私にはこの世にいる全員を気遣うことなんてできやしないから。自分と仲間のことしか考える余裕がないんだよ。」
彼女らがそういった内容の話をしているとコヘレトが風呂から上がって来た。彼特有の不衛生さは消し去られていたが目の下のクマはそのままだった。衣服は完全に休日を楽しむ中年の服装そのもので、ある程度彼の厭世的且つ虚無的な目を和らげさせていた。
「上がったぞ。・・酒を飲んでいるのか、あまり飲むのもやめてくれよ。仕入れるの大変なんだからな。」
「あーうんそうだね、今日はもっと飲もうかと思ったけどやめるか。」
コヘレトは改めて二人の女を見た。サンビタは一応大人の身体つきではあるが顔が若干幼く見えるからそれが酒を飲んでいる絵面が犯罪集を臭わせる、シラヌイに至っては事実だけを述べれば子供だが酒を飲んでいるのだから始末に負えない、が、このシラヌイは子供の割に放つ気配があまりに異色なわけだからシラヌイが子供であるという概念が吹き飛んでしまう。
(憲兵辺りの国家権力共に見られたら速攻アウトだな、ノリでシラヌイは何とかなるかもしれんが。)
そう思いながら彼はコーヒーメイカーの準備をし始めた。その途端に家庭用受話器から警報が鳴った。
「「「「!」」」」
遠くにいた妖精はその音を聞いて走って来た、シラヌイはそのギラついた眼光が更にギラつき始めてもう子供と言っていいものではなかった。サンビタは片目を開けてその音が鳴った家庭用受話器に目を向けた、酔いは覚めていた。コヘレトは一気に真面目な顔になって録音機を取り出して起動した後、受話器を取った。
「はい、こちら木こりです、ご用件は?」
コヘレトがかなり落ち着いた声でそう言った。
「クリフォトがこっちの街に来ている!早くしてくれ!こっちの鎮守府は練度が低いんだ、艦娘達を無駄死にさせるわけにはいかん!報酬は高く払うからとにかく早くしてくれ!ああ、クソ忌々しい煙が見えてきた!場所は○○県××市だ。」
電話をかけてきたのは錯乱した司令官と思しき人間だった。慌てているのが声に出ていた。
「・・・分かりました、すぐそちらに向かいます。」
「とにかく早くしてくれ!」
コヘレトは受話器を置いてサンビタ達に向き直ってこう言った。
「木こり達、時間だ。」
「う~ん寝ようと思ってたのに、休みがないの辛い。」
「そういうなよ、妖精さん明日は君の話付き合ってやるから。」
「わ~い!」
コヘレトと妖精は仕事の準備をし始めた。
「・・・。」
シラヌイはかなり怒っているのかグラスを握っていたが力が入りすぎてひびが入っていた。
「あー落ち着いて落ち着いて、速攻終わらせれればいいんだから、また今度一緒に付き合ってあげるから行こう。」
「・・・分かったわ。」
二人の木こりは準備をし始めた。
なんとなく深夜より昼や夕方のほうが書けてる気がします、気のせいですかね。