同時刻、響のいた鎮守府の近くの港町のとある広い家の客間でこのような話し合いが行なわれていた。
「料金は前払いにしますからラズミーヒンさん、何とかなりませんか?」
そう言ったのは55ぐらいの老婆だった。その老婆は少々蓄えがあったようで普通の老婆よりも豪華な服を身にまとっていた。
「そうですね、自分はもうそろそろ小遣いが無くなる頃でしたしハッキリ言ってありがたいですね」
そう言ったのは20代位の若者だった。普通の成人男性より少しだけ背が高く、顔立ちは温和で人のよさを思わせたが身体全身が海上で出会おうものなら深海棲艦と見間違えるほどに白く、その白さは死人の様でもあった。服装はまさに旅人の様であり身に着けているものは全体的にボロボロだった。デカいリュックサックにパンパンに物が詰め込まれていたにも関わらず楽々とその若者は背負っていた。
「それで誰の事を調査すればいいんですか?」
「近くの鎮守府についてよ」
「へえ、それはまた変わった所をご所望ですね」
「その鎮守府が最近おかしくってねぇ、最近あそこから唸り声が聞こえるし、あそこの近くに行った人達が行方不明だし、新しい提督になってから艦娘ちゃんたち、こっちに遊びに来ないのよ」
老婆は自らの抱える不安を表に出してそう言った。
「あの子達と遊んでると息子の幼いころを見ているみたいで楽しかったのに」
「へえ、遊びに来てたんですね。私は最初貴女に鎮守府の調査をして欲しいと言われた時、てっきり貴方が新しいビジネスでも始めるかと思っていてその一環かとばかり考えていましたよ」
「もう金稼ぎはこりごりよ、それよりも息子は結婚するからその嬉しさを一身に受けたいの、そのために不安なことはこの際取り除いておこうと思って、祝儀の途中で嫌なことなんて思い出したくないわ」
そう言うと息子の輝かしい将来を脳内に描いたのかホッホッホッと笑った。
「響ちゃんといずれ生まれてくるであろう私の孫が遊んでるところを早く見たいわ」
「はっはっはっ、私は貴女が羨ましいですよ。今のこのご時世、幸せを手に入れられるのは金を稼ぐより大変なことですから」
調査のための持ち物を準備しながらラズミーヒンはそう言った。
「そうよ、私でも自分が幸福だと思うわ」
老婆は口角を上げて目を細めて笑っていたが、不意に曇った。
「そうそう最近怖いわよね、何て言うだっけクリフォト化だったかしら、人間も艦娘も分け隔てなくクリフォトっていう化け物になってしまうっていうんだから!」
「件数も多くなってきましたし、クリフォトはギミックがあってそれを見破らなければ戦っていた側が即死したり、急に力が強くなって関係が逆転してそのまま全滅というパターンがあるようです。それと姿が奇異なものに変わりますね。何故なるのかも分かりませんから恐ろしいものです」
「もしかしたら響ちゃんクリフォト化してないわよね!」
老婆は急に取り乱してラズミーヒンに駆け寄り、そのままの勢いで手を取った。
「いやぁ大丈夫ですよ、おそらく。あの鎮守府の響本当に強いんですから」
「あの子ああ見えても中身は子供なのよ、心配だわ」
老婆は胸を押さえてそう言った。ラズミーヒンは出かける準備を始めるために荷物を整理し始めた。
「落ち着いてください、響は、『銀色の不死鳥』はその名のとおり例え負けようとも返り咲きます。国の『剣』の『鞘』ですから。むしろそうでなくては」
「『剣』てあの他の軍人や艦娘よりも飛びぬけて戦いが上手い人達や艦娘達のことでしょう?私剣の柄と昔会いましたけど酷くやつれてましたわよ」
剣の柄という単語を聞いた時、ラズミーヒンは明らかに機嫌を害したようで顔を歪ませ、荷物を手に取る力が増した。
「剣の柄って接合師のことですよね、アイツはろくでなしですから剣に数えない方がいいですよ。実際あのろくでなしは今は金の事にしか目をくれなくなって剣の柄を剥奪されましたし。全く、民衆のおかげで柄になれたのに金に目が眩んで結局民衆から柄を剥奪されるという始末とはね」
「今は別の人が剣の柄をやっているから剣の柄って言っても伝わらないと思ったのによく分かったわね」
「い、いえ、私の勘違いだっただけです」
「それにしても何で剣なのかしら、銃とか色々あったでしょうに」
ラズミーヒンは落ち着いてからこう言った。
「剣なのはおそらく、この世界がもう科学万能の時代じゃなくなったからでしょう。深海棲艦に侵攻されている時、今まで何の効果もなかった呪術や魔術が異様に効果を発揮し始めました。それで呪術や魔術で無理矢理戦闘力を上げて深海棲艦との戦いを持ちこたえましたが、それらの戦闘員も戦闘員として戦えるために術を掛けられている間に負荷がかかって死んでしまう者がほとんどで前線では数が足りなくて結局敗走しましたからね、かつての剣の刀身がいた所と認めたくないですが、剣の柄がいた所も大丈夫ではあったようですが。とにかく科学万能というよりこの世界はファンタジーチックです、ですから剣の方がそういう意味で適当なのでしょう」
「そういうことねー、あらやだこんな引き止めちゃった。ごめんなさいね」
「いえ、かまいませんよ。貴女には私が右も左も分からなかったころに引き取ってもらった恩がありますから」
「あとこれ前金ね、よろしく頼むわね」
「ありがとうございます」
ラズミーヒンは気を引き締めた。ボロボロの服はいつの間にかよく仕立てられた服に着替えられ、黒いスーツが彼の肌の白さを美しくさせた。
「ではいってきます」
「気を付けてね」
ラズミーヒンは笑顔で手を振り玄関から外に出た。
(全く、移ろ気なばあさんだ!)
ラズミーヒンは老婆と新郎新婦の家を見た。
(家族…か、分らんな僕には)
ラズミーヒンはそう思いながら愛用のバイクに乗って鎮守府へと向かった。
言っておきますがゴールデンウィークだから早くなるかどうかははっきり言って私にも分かりません。