「グッ!」
集まって来た深海棲艦の軽巡へ級の砲撃をラズミーヒンは自分の左腕を使って身を守った。衝撃で体がビリビリしたが彼は耐えることができた。左腕で防いだ部分の服の部位がなくなり、そこからは彼の死人のような白い肌が見えるはずだが違った。銀色の鋼鉄が目に見える状態になっていた。
(昔思い出すから、あんまり見たくないんだけどな、これ。)
そう思いながら周りを見回すとラズミーヒンは囲まれていた。ラズミーヒンに対して砲撃が中々当たらなかった故イライラしていた深海棲艦は獲物を目の前に舌なめずりをするようにラズミーヒンを見ていた。
(ハハッ、こりゃヤバいな。)
そう思った途端にほとんど同じ場所にいた深海棲艦二隻が派手な音をたてて撃破される音が聞こえた。深海棲艦達はその音に気付くと音がした方向を向いた。その隙を逃さずにラズミーヒンは咄嗟に隠れた。
深海棲艦二隻を倒した者の容姿はこのようだった。色はメインカラーが灰と錆の色で血管のように石炭の黒が張り巡らされていた。形は西洋甲冑の様で所々にかつての栄光が読み取れるような意匠が凝らしてあった。兜には羽根の飾りがあり、手には剣とも槍とも似つかない武器を持っていた。全体的に古ぼけており、その西洋甲冑の様はまるで何千年の眠りから覚めた古物のようである。だが、その西洋甲冑の中からは若々しく、熱い魂の暖かさが感じられた。
それを見たラズミーヒンは自分の知識や記憶とこの鎧を結び付けようとしたが、失敗した。
(クリフォト・・・にしてはあまり不気味に感じないし、アイツら特有の陰気な雰囲気を感じないな。しかし、それはそれとして)
ラズミーヒンは西洋甲冑を着ている者と目が合った。その目は紛れもなくラスコーリニコフだった。彼はその西洋甲冑が味方だと確信した。ラスコーリニコフが逃げろ、と言っているようにラズミーヒンは見えた故、逃げ出した。
(全く、ロジオンあんな事できるのかよ。)
ラズミーヒンは逃げていく最中、ラスコーリニコフを見た。深海棲艦から集中攻撃を受けていたが鎧は傷一つ付いていない。重巡リ級の持つ艦娘の砲に似た物をくらっていたが、それでさえラスコーリニコフを怯ませることはなかった。ただし、速度が遅いようで攻撃するために近づくまではいいが、遅さで誰が狙いか分かってしまい、それで対処されてしまうのだった。
(深海棲艦に弾薬の概念があるならいいけど)
そうして逃げているとまだ生きている新婚の妻の方に会った。相変わらず血を流していたが驚いたことにまだ生きていた。しかし、異常であった。このままでは確実に彼女は死ぬだろうが死の雰囲気は全く感じられず、寧ろ別種の不気味さや、陰気さが彼女を覆っていた。
ラズミーヒンは不思議に感じたが、特に気にも留めなかった。
(一応連れていくか、こいつらの親族に遺体を持っていくのも重要だろうし)
新婚の妻は口で何かを伝えようとしていたが、言葉にならずに空気の小さな振動になるだけだった。それでも口は動いていたのでラズミーヒンは何とか言っている事を理解した。
「寒い、か。確かあまり血が流れすぎると寒く感じるんだったんだっけ。」
そう言って彼は新婚の妻を背負おうとしたが、体が明らかにおかしくなっていった。
体の半分は萎み、その部分は黒くなり、もう半分は青白くなっていた。顔は割れたハートになり、その中から少量の煙が立ち上っていた。服は1800年代風の貧しい女子の服に変わったが、その服は全体的にボロボロであった。左手には使用済みのマッチが詰め込まれた手提げかごを持ち、体からは絶え間なく血が流れ、服もその血によってある程度赤くなっていた。その者はこう言った。
これを近くで見たラズミーヒンは自分の死を感じたが、クリフォトは遠いラスコーリニコフの方を向いた。そして体から血をまき散らしながらラスコーリニコフの方へ行った。
ラズミーヒンは悩み始めた。彼の見立てではクリフォトはクリフォトごとに能力があり、その能力を見抜かなければ一気に致死率が高くなる。純粋な身体能力では同等であるだろうが、彼はラスコーリニコフが能力を見抜けるか不安だった。
(クソ、僕はどうすべきだ。クリフォトは能力を見抜けなければその能力に圧倒される、・・・ロジオンは逃げろと促していたが、やはり僕には見捨てることはできないな、ああ仕方ない、行くか!)
ラズミーヒンもラスコーリニコフを助けるべくラスコーリニコフの方へ行った。
「うん、この鎧の使い方も分かってきたな。」
そう言うと長物を槍のように突いた。そうすると長物の先から炎が弾丸のように放たれ、砲撃を貫いて深海棲艦の内の一隻に直撃した。
後ろから砲撃が飛んできたがその砲撃は鎧から炎を出して灰燼に帰させることで防いだ。
「!」
ラスコーリニコフは尋常ではない殺気を感じて振り返った。そこにはクリフォトになった新婚の妻がいた。そのクリフォトは血をまき散らしながらラスコーリニコフに近づいてきていた。
そしてクリフォトとラスコーリニコフがぶつかり合った。クリフォトは右手を振り上げて下ろした。ラスコーリニコフはそれを長物で防いだ。鍔迫り合いになりギリギリと音をたてる。傍から見れば年代物の西洋甲冑を身にまとった騎士と異形の人間のぶつかり合いであり、その様は異様だった。
しばらくその状態が続いた。4分は経った頃に、残り一隻のイ級がラスコーリニコフを噛もうとしたのをラスコーリニコフは炎を噴出させることで防ぎ、イ級はその炎で焼かれていった。その時状況が動いた。クリフォトがラスコーリニコフに構わずその燃えているイ級に飛びかかったのである。そして飛びかかると待望していた瞬間のように燃えているイ級に抱きついた。愛おしむように、この瞬間が長く続くようにそのクリフォトはずっと抱きついていた。ラスコーリニコフはその状態のクリフォトを攻撃した、効いていたが全く動じなかった。イ級が完全に燃え尽きるとクリフォトの顔である割れたハートの中から煙が勢いを増して吹き上がった。そうすると絶え間なく砲撃の音が聞こえてきた。ラスコーリニコフに煙で見えていないが、この煙を吸った深海棲艦が同士討ちをし始めたのである。この煙には幻覚作用があるのだ。ラスコーリニコフは西洋甲冑の効果で守られていたが、長く続きそうになかった。
「まずいかな、これは」
そうするとクリフォトは突然別方向に突き進んでいった。
「おおい、ロジオン。逃げるぞ!今の僕たちじゃ相手にできないぜ。」
煙の向こう側からラズミーヒンはラスコーリニコフに言っていた。
「分かったよ。でも逃げられるかい?」
ラスコーリニコフは声のした方に向かった。そして煙地帯から抜けるとラズミーヒンが長く燃えそうなものをライターで火をつけては風向きで煙がこちら側に届かなくなるであろう場所に投げ飛ばしていた。
クリフォトは煙に包まれていて彼らにはもうよく見えなくなっていた。
「ハハッ、僕の思った通りだ、クリフォトになる前に寒いとか言ってたしほとんどロジオンにしか攻撃してなかったっていうのと燃えているイ級にしか眼中になかった状態があったからもしかしてと思ったけど、煙で途中から見えなくなってたから半分賭けだったけど良かったぜ。」
「というと暖かいものにあのクリフォトは導かれていくということか。後その腕はどうしたんだい?」
「正確に言うと火がない場合は温度の高いものに引き寄せられていく、という感じさ。腕は・・・あまり気にするな、人は誰でも秘密の一つや二つ背負って生きてくもんさ。」
そう言うとラズミーヒンは最後の火を投げた。そして鋼鉄の腕をサッと隠した。
「よし、じゃ、とっとと逃げるぞ。」
そしてラズミーヒン達は素早くその場を離れた。
最近著作権に関する法律が少々変わって県立図書館の本が電子書籍として読めるようになったらしいですね。世の中が世の中ですから有難いです。私が興味ある本もあればいいのですが。