米の女神と風の竜 作:春谷
セルフィアの太陽も元気いっぱい。
まもなく夏になろうという頃合いです。
「ふむ……ずいぶんと大飯ぐらいじゃの。この田んぼは」
そうなのです。田植えしてから向こう半月。
サクナヒメは徐々に徐々に施肥の格を上げていっております。
肥料入れの中で何が起こっているのか気にしてはいけないのはヒノエでも同じこと。
とりあえずまずは各種薬草から。次に魔物の素材類。
試しに入れてみた作物もバッチリ効果の高い肥料と化しました。
(畑の一角を借りて育てたカブですが、一番大変だったのはフレイの説得でした。
食材を武具に打ち込む方がよほど冒涜的なのでは?と気づいたのは説得でくたくたになった次の日に施肥をしていたその時で、時既に遅しでしたが)
「そうなの?確かにずいぶんいろいろ入れてたみたいだけど。カブまで……」
「ええい!その話はもうよかろう!
……実は個人的に少し頑張っての。結構本気で入れてみたのじゃが、
過剰にはなってなさそうなんじゃよなぁ」
なんとぐうたらサクナヒメ。曰く結構本気を出したとのこと。
とは言え実は全然です。まぁほぼ不眠不休で働いていたヒノエ時代が異常なのですが。
朝田んぼの面倒を見、昼は鬼の狩りを行い、夕餉前には田んぼの面倒を見、夜は夜の希少素材を狩りに行くと。
そんなブラック労働を自発的にやっていたヒノエ島に比べればちょっと本気を出そうが昼2時くらいに出て夕方に帰ってくるセルフィアの生活は極めて優雅です。フレイのお手伝いは午前で片付きますし。
帰宅の魔法“エスケープ”と飛行船の使える誰かしらを巻き込み遠出にトライするのが最近のブーム。
よく捕まえるのはフォルテとキールの姉弟で、まぁいろいろとありますが、陽気に楽しくやっています。
「雑草も……まぁ知れとるし、の!」
さて本題、繰り出したるはサクナヒメの神速の雑草抜き
目にも止まらぬ速さで根を張る雑草をぶっこ抜きます。
施肥をすればするほど雑草にも好ましい土地となり、結果栄養や日照を奪う雑草も増えます。
だがしかし、どんなに手ごわい雑草だろうがサクナヒメの前には根なし草。
彼らもよりよく生きるために懸命ですが、神も良い米のために必死なのです。
ここもまた、仁義なき闘争の世界です。
「え?!」
「お?どうしたフレイよ。
あぁこの草いるか?わしにはよくわからんがよく使っておるよの?」
わしの手際の良さに驚いたのか?とでも言いたげです。
農作業を教授するなかで驚くフレイを見るのはサクナヒメとしても悪い気はしません。
よく言われますが神とは敬われてこそ神たりえるのですから。
「えぇ……?
ごめんサクナちゃんもう一回見せて」
「はぁ……?こんなの生えとるところで抜くだけじゃぞ?
いつも畑でやっておろうに」
「やっぱり見えない……どこに雑草あるか教えてもらっていい?」
きょとんとしてフレイを見るサクナヒメ
どうにも温度差があります。
最初はわしもちょっと近寄らんと見えなかったしの、なんて思いながら。
神眼をもってすればまばらに田んぼに生えたわずかな雑草も見逃すことはありません。
適当に見つけた雑草を教えていきます。
「そことそこと、その辺にもあるの。
ほれ近寄って見てみるか」
「うわっ!ホントだ!」
ここに姫は神の手助けを得て、見ることができていなかったことを知りました。
それに気づいてしまえばあとは一気。
ブレイクスルーとは些細な気づきから始まるものなのです。
何せ姫は、今まで気づいていませんでした。
ここセルフィアでは種を植えたあたり、しっかり耕したあたりからは不思議と雑草が生えてこない。そう見えていたのです。
しかしここに開眼。今のフレイは世界の解像度が違います。
確認のためにサクナヒメを隣の畑に引っ張ります。
「えっ!ちょっと!サクナちゃん畑も見てよ!」
「うぇえ~……畑は雑草抜かなくてよかったんじゃなかったのか?」
「そんなこと無いに決まってるじゃん!」
ちょっと理不尽な気がしないでもないですがフレイの言もむべなるかな。
まぁ種籾選別の時もそうでしたが、大地の姫もたいがいなのです。
こと農業に良いと思われることなら貪欲、強欲、見境なし。
ちょっと冷静さを欠くのです。
かたやサクナヒメ、このケースは彼女のちょっぴり残念な面が表に出ました。
(フレイが放っておいているならこれは抜かなくてよい草なんじゃの。
楽勝じゃのう。がっはっは)
なんて論理です。
まぁぜんぜん責められる話ではありません。
うっかり引っこ抜いたのが作物の芽かもしれないのですから。
可愛いちょっとしたすれ違いです。
そんな不幸なすれ違いで
「雑草抜きはもういやじゃぁ~~~~~~~」
なんていうサクナヒメの悲鳴は空に溶けていきました。
大地の眼を開眼した!
開墾済みまたは作物を植えたあとの畑から雑草を取れる時がある。
雑草を取った一角の土レベルがわずかに上がる。