米の女神と風の竜 作:春谷
「さぁてフォルテよ、今日も頼むぞ」
「承知しました!」
サクナヒメの草抜きの悲鳴から時は少しだけさかのぼり。
春も半ばのお昼時
晴天から指す日の光は夏の訪れを感じさせます。
サクナヒメは美味しいお米を育む肥料のため、そして手持ち無沙汰をまぎらわすために狩りに出ます。
とは言え彼女はまさに神がかった力の持ち主。
今のフレイの行動範囲内なら全て一蹴できるので身体が鈍っているのかどうかもわかりません。
それでもこうやって様々な土地に狩りに出るのは少しでも効果の高い肥料がなにか?を探すためでした。
「今日の修行場はどちらですか?」
「少しずつ慣れてきたのでな
今日は黒曜館とやらにいってみようと思う」
「こくっ!」
それゆえに産まれた悲劇でした。
サクナヒメは神なれど、大変、大層、人間味に溢れた神様なので、苦手なものもございます。
例えばお化け、例えばぬるぬる
されどそこは流石神様サクナ様
お化けに立ち向かうにあたり恐怖にとらわれることもなく
ぬるぬるした蛙やら河童やらと共に田仕事に励むこともなんのその
実はとてもたくましいのです。
さて翻って女騎士
かの騎士はとってもしっかりものです。
なんてったってフレイの面倒を真っ先にみた騎士ですから
ですが
甘いものに目が無かったり
お化けが嫌いだったり
料理が壊滅的だったりと
弱点がちらりほらりとございます、えぇちらりほらりと
かなりしっかりものなんですよ?
ほんとですって!
なにかとぐうたらしたがるのに、やるときはやるのがサクナヒメの神足る魅力だとするならば
高潔な騎士であると同時に欠点からくる親しみやすさも持つ二面性がフォルテの人足る魅力と言えるでしょう。
「あー……そうじゃったな。お化け、苦手か
わしも苦手なんだがすっかりなれてしまったなぁ」
『黄泉神にくらべれば、容易いものですな』
「どうするフォルテよ、今からでもキールと代わるか?」
「ににに苦手!?なんのことですか?!
お化けなんていません!いない以上苦手になどならないでしょう!?」
あわあわと慌てふためく女騎士
お化けなんていないというのであればゴスロリツンデレ少女のドルチェの相棒たるピコは何なのでしょうか?
などと考えてはいけません。
半透明で浮いていて長寿な、ただそれだけの特殊な種族なのでしょう。
サクナヒメとタマ爺は顔を見合わせてさてどうしたものかと考えます
先に閃くはサクナヒメ
ただし
……ろくでもない方向でした。
真剣な面持ちで伝えます。
「フォルテよ。わかる、わかるぞ。
だが残念ながらな、お化けはおるのじゃ」
「ななな何を言いますか!
私の剣に切れないものなど居ないのです!」
言葉とはかくも難しく、混乱の極致たるフォルテは万能の剣士となってしまいました。
斬鉄剣も真っ青です。
もうサクナヒメは平静を保つので精一杯
内心爆笑しておりますがここで笑ってはいけない。
なぜなら今からしようとしているのはとびっきりの怖い話。
表情筋を総動員し努めて真顔で喋ります。
「そうか、頼もしいの
フォルテがおれば黄泉神も任せられたんじゃなぁ
なにせ奴らには剣は効くであろう」
「ヨ、ヨモツガミ?」
まず一言、ちゃんと剣が効く実体のある存在であると
さきほども出たヨモツガミという知らない固有名詞は騎士の想像力を煽ります。
「あぁ、わしらの島におった鬼の一種、じゃろうなぁ
そうというにはあまりに哀れじゃが
死してなお戦うことをやめなかったアシグモ達
イタチのような獣人の民の成の果てよ」
「ひっ」
鬼。哀れ。成れの果て。
決定的なことは言いません。
ただ騎士の脳内では想像ばかりが膨らみます。
未知とはすなわち恐怖。恐怖とはすなわち未知。
そして
うすぼんやりと膨らみ続ける恐怖にサクナヒメは輪郭を与えます。
「タマ爺や、今思うとやつらどうやってあんな軽やかに戦っておったのかのう。
生きとるわしらの仲間のアシグモはわかる。
やつのしなやかな体躯、さぞ力強く動くであろうな。
だが黄泉神のアシグモは
彼らは
骨 だ け な の じ ゃ ぞ ?」
「ひぇぇぇぇー!」
サクナヒメの会心の怪談炸裂
ヒノエの夕餉では滅多に語り部に回ることはなく
どちらかというと聞き手に回りがち。
されどそこは文学少女
たっぷり溜めて真剣に一言
騎士の恐怖を煽る煽る
そう、煽りすぎました。
「うぇ!?帰りよった!?」
エスケープの呪文を使い帰ってしまう女騎士
責めることは出来ないでしょう
苦手な怪談を聞かされた上に何てったって事実の話
創作ならばまだ一笑に付せたかもしれませんがその語り口はまごうことなき体験談なのです。
ちょっとやりすぎたのーとサクナヒメは反省です。
もっとちゃんと反省してほしいとタマ爺がぐったりする程度の反省ですが。
「はぁ~……わしは街に戻れる魔法とやらは使えんし、一人でいくかぁ
黒耀館は抜ければ街につくといっておったの」
やれやれとばかりに鍬を構え黒曜館の突破に向かうサクナヒメ
まぁいくら怪奇現象があるといっても知れているでしょう。
お気楽な調子で黒曜館に入ります。
……お気楽だったのは入り口がロックされる瞬間まででした。
数刻後
セルフィア湖の北にはサクナヒメの甲高い声が響きましたとさ。
自業自得、因果応報でございます。