米の女神と風の竜 作:春谷
「くも?」
「そう、蜘蛛じゃ」
夏も盛り
水の涼しさが恋しくなる時期
入道雲を眺めながら畦道でのんびり喋る姫と神
さりとて今日の話題は雲ではなく蜘蛛です。
雑草抜きをしながらぼんやりとサクナヒメは気づいたのです。
そういえばこっちに来てから蜘蛛も蛙も
2次分けつに至った米もすっかり元気に育ち順調そのもの。
結構な施肥をしていますが雑草や害虫、疫病に困らされてる様子ではありません。
まぁここはセルフィア、異世界のルーンの心臓
少し位不思議なことが起こっても気にはなりませんし、田螺や蛙がいるかもわかりません。
それでもまずは自分の知る最大限を尽くしたいのが神情というもの。
ゆえにこれはまぁ相談といった感じです。
「蜘蛛だったらスパ朗がいるじゃん」
「いやあやつはデカすぎじゃ!
黒耀館で捕まえてきたヤツじゃろう!?」
スパ朗とは黒耀館出身の蜘蛛のモンスター
モコモココンビと同様にフレイの繊維業の基礎を支える名ペット
ただし、モンスターですから
サクナヒメのイメージする蜘蛛の百倍はありそうな大きさです。
稲につく害虫の駆除が目的なのにスパ朗のエサになるような虫ならそれはもう直接駆除する対象でしょう。
むしろ雀なんかの害鳥駆除をしてくれそうですがスパ朗が雀を食べるかはわかりません。
食べたとしても絵面がホラー過ぎて直視したい光景ではないでしょう。
「う~ん……虫に困らされたことは無いんだけど……
雑草の件みたいに私が気づいてないだけかもしれないしなぁ……」
「虫ケラの話なの~?」
「どわ!?急に現れたな、どうしたんじゃコハクよ」
「えへへ~、涼みに来たの~。
田んぼの横、気持ちいいんだよ~」
うんうん唸るフレイの横にニコニコと現れたのは天然少女コハク
守り人の一角であり、蝶の魔物と融合していたことからその容姿に面影を感じます。
なんなら面影どころか羽も触覚もばっちり生えていますが。
寒いのが苦手、お花が好き、ハチミツ大好きと大層わかりやすい女の子です。
ちなみに魚も嫌いでサクナヒメとはぬるぬる嫌い同盟を締結しました。
同じ守り人で釣り好きのディラスとは記憶も戻っているし付き合いが長いはずなのですが、ぬるぬる嫌い同盟は彼にたいして二人で仲良く威嚇したこともあります。
「わしも昼寝しようかのぉ」
「もう暑いでしょ、するんならこっちの木陰にしたら?」
「えへへ~、フレちゃんありがとうね~」
「ぐぅ~」
「なぜクローリカがおるのじゃ……なぜ立ったまま……」
水路を流れる水のせせらぎを聞ける木陰に案内するフレイ
ちょこちょこ着いていくサクナヒメとコハクでしたがそんな素敵なお昼寝スポットには先客
女執事見習いたるクローリカ
なぜか立ったまま寝ています。
もう場は混沌の極み
なんの話しとったっけ?
と思わないでもないですがもはやちょっとどうでも良くなってきました。
「田んぼはさらさらきらきら素敵だねぇ、お米はお花咲くの?」
「咲くが滅多に見れるものじゃないの、一瞬じゃ」
「じゃあハチミツはとれないねぇ」
「コハクはハチミツ好きじゃなぁ、気持ちはわかるがの」
「ぐぅ」
「こやつ寝息で相槌を……!!」
完全に雑談コースです。
やれやれ今日は雑草抜いておしまいかな?と
フレイは眼の慣らしがてら雑草抜きに再度動きます。
「虫ケラさんは大丈夫なの」
「ん?」
「アンがいるから大丈夫、フレちゃん近くの小屋にアンを連れてきてあげて」
「え?う、うん。わかったけど、どうして?」
「アンは蝶の女王様だから
虫ケラは言うことを聞くのだ~
はんはんふ~ るんたらったら~」
木陰に座り羽をぱたぱたご機嫌なご様子。
笑顔でニコニコと虫ケラとか言うコハクです。
(いつものことです)
彼女の言うアンとは蝶の魔物のアンブロシア
苦労して作った超トイハーブで仲間にした、フレイの仲間モンスターの内でもとびきりのエース格です。
……そしてコハクの守り人としての融合先で、化身と言っても過言ではないでしょう。
「おおう、なんというか……触れてはいけないのぅ?」
「だね……あとでハチミツお供えしておくよ」
天然少女、されど守り人
底知れない深淵を持つ少女なのでした。
女王の庇護を得た!
アンブロシアが田んぼの小屋にいる限り害虫の害を被らない