米の女神と風の竜   作:春谷

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米の女神と高貴な血

「ふ~ふふ~ん……ふ~ふふ~ふ~ふ~ん♪」

 

夏の暑さもほんの少し緩みを見せ始めた時期

いつもの午前の農業ルーティンをこなしたサクナヒメの今日の午後は完全に余暇

 

ポコリーヌの食堂でご飯とガールズトークに興じた後、さてなにしようかと考えたときに、ディラスがおにぎりをもってキッチンから出てきました。

聞くにアーサーへご飯を届けにいくところとのこと。

少し遅いご飯なのはアーサーの都合かそれともポコリーヌとの激闘のせいか。

自発的過労気味のアーサーの好みが手軽に食べられるもの、すなわちつまみ食いが捗るものであると言うことを鑑みるにおそらく後者なのでしょう。

 

そのディラスの持つおにぎりをみてサクナヒメの午後の予定は決まりました。

アーサーの書斎で本を読もっと、と。

 

わしが運んでやろう、と尊大に言うサクナヒメ

つまみ食い目的か?と胡乱な眼を向けるディラス

 

そこまで食意地張っとらんわい!いやお前は信用ならん!とやりあってるうちにアーサーの書斎に着きました。

なにせすぐ隣ですので

 

そんなやり取りを経て、本棚をちょいちょいと見やり、ぱらぱらと少しめくって冒頭の鼻歌に繋がります。

隣の部屋でマーガレットが奏でる田植え歌

すっかり彼女が自分の物にして、今日は明るめの曲調にアレンジしているみたいです。

 

かりかりと響くペンの音

ぱらぱらと本をめくる音

少し遠くからのハープに合わせる

ささやかな鼻歌

緩やかな時が流れます。

 

アーサーにとっては仕事の集中力が乱れてもおかしくないような状況ですが不思議とそんなことはありません。

サクナヒメとアーサーの成すこの空間は不思議な調和がありました。

 

「む?どうやら一段落したようじゃの?」

「えぇ、おにぎりのお陰でずいぶん捗りました。」

「ならわしらの米でのおにぎりならもっと捗るの」

「ふふっ。楽しみにしています

ところで今回の本はどうでした?」

 

ペンの音が止まるを聞くに

本に栞をはさみパタンと一段落。

ちょっとの休憩の間にアーサーとサクナヒメは感想交換です。

 

王子アーサーの交易人としてのモットーは、いうなれば「感動を多くの人に」

それは「素敵な恋物語を」「異世界の女神に」だろうが例外ではありません。

 

サクナヒメに届く文体で

(異世界の女神が読み書きが出来ることは不思議の極みでしたが)

かつ、かの神が喜ぶ物語を

アーサーの腕の振るい時でした。

 

教養や知性、品を持ちながら、その一方で愛嬌や可愛げ、素直な感性をもつ彼女と意見を交わすのはとても楽しいと言うのもあります。

 

「それにしても神様も恋物語をたしなむのですね」

「そうじゃの。少なくともわしは大好物じゃのぉ」

「神様の恋ですが……私のような人間には想像のつかない世界ですね」

「そんなことないじゃろう。何回か話したがわしにも両親がいるわけだしの

向こうの夕餉では儂の両親のなれそめ話はよい肴じゃったぞ?」

『ミルテもゆいも楽しんでおりましたな』

「なるほど……」

 

アーサーは少し考えこんでいる様子です。とはいえかの王子が思考に没頭することは比較的よくあること。さてさて続きを読みにかかるかの?とサクナヒメが思った折、意を決した様子でアーサーは語り掛けます。

それは少しの油断、そして幾ばくかの信頼で、

張り詰めた糸の切れた、感情の堰の決壊でした。

 

「サクナヒメ様は……寂しくはなかったですか?」

「ん?なんじゃ藪から棒に。どこかの誰かさんみたいなことを言うの」

「はは……どなたでしょうね?

実はですね、私も両親はいないようなものだと思っているのです。母は俗にいう妾でして。

……姫としての立場を譲る王子なんていかがなものかと思いませんでした?

私はね、自分のことを王族だなんて思うべきじゃないとも思っているんです」

「……」

『アーサー殿……』

「もしかしたら父と母の間に愛はあったのかもしれません。ですが母から私への愛を感じたことはありません。。

幸いにしてみな、腹違いの兄弟たちも含めひとたちですが、私は政治的には非常に面倒な立ち位置にいる自覚もあります。この立場を疎ましいとも思っています。私は……

……突然すみません。忘れてください。」

 

そうぎこちない笑みを浮かべるアーサーにサクナヒメは少しうろたえます。

こんなシリアスな展開に巻き込まれるとは思っていなかったものですから。

こんなのココロワに胸の内を聞かされて以来……

そうじゃの、と、タマ爺に伝えたいことを耳打ちします。

なぜなら怪談話と違って上手い事まとめられる自信がなかったものですから。

 

『おひいさま……直接言いませんか?』

「いやじゃ!」

「?」

『やれやれ……アーサー殿。おひいさまは格好悪いといってこちらへ来てから誰にも伝えていない話がありましてな』

 

曰く

“向こう”の世界でコメ作りが軌道に乗ったころサクナヒメは親友に裏切られた経験があるとのこと

その原因はなんとも“らしい”

血に驕ったことで知らず知らずのうちに親友に劣等感を植え付けてしまい

それがひょんなきっかけで爆発した。と

そんなことをさっぱりわかっていなかったサクナヒメも大喧嘩を経たことで彼女の気持ちがわかり

晴れて仲直りの暁にはぐじゃぐじゃに泣き腫らしたのもいい思い出です。

 

『アーサー殿。神といえど万能ではないのです。いわんや人の子なら、でしょう。

伝えていない思いの丈など伝わりませぬ。

……アーサー殿、おひいさまと違い貴方には時間も機会もある。

せっかく話してくださったのです。じっくり考えるとよいでしょう

おひいさまはかつてご自身を”神にして民”といいました。

ならば王も人であって良いのではないでしょうか?』

「……そう……なのでしょうか」

「ま、少し考えてみるとよかろうよ、この本は借りていくの」

 

神妙な面持ちをするアーサーをそっとしていくために本を借りてそそくさと去っていくサクナヒメ。

決して逃げたわけじゃありませんよ?えぇ

その夜は風の竜と反省会飲みをする女神なのでした

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